ある満月の日、俺はあいつに抱かれた

ミルクルミ

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5 史上最悪の劣等生

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 天使は神の御使い、だがその天使にも階級というものが存在する。
 上級、中級、下級に分かれるそれらは、血筋による影響が大きい。
 先祖代々受け継がれてきた役目、だからこそその階級ごとの役目を担う立派な天使に育て上げるため、階級ごとに学校は設けられていた。
 サディたちが通うのは下級の天使の子らが通う学園。
 人と密接に関わり、時には人を守護し、時には運命を導き、時には悪魔と闘う。
 その力を養うために、学園に通っている、のだが――。

「おい、羽なし。お前、よくのこのこと学園に通ってられるよな」

 羽なし、と呼ばれ振り返ったサディは、振り返らず廊下を進んでいく。
 学園の廊下は長い。壁を神の力の宿った石、ティフィの石で固められた学園は、そこにいるだけで力をみなぎらせる。
 学園には当然だが、未熟な者が通っている。天使の起こす奇跡、その力を司る地力を蓄え、生命の回復を早めるため、学園全体にティフィの石が使われていた。

「おい、待てって」

 声を無視しそんな廊下を進んでいたサディは、肩に置かれた手で無理やり振り向かせられ、睨みつけるような六つの目と正面から対峙した。
 その内のオレンジ色の双眼が、一歩前に出てサディの前でふんぞり返る。

「恥ずかしくないのか? 血筋が重要とされる天界で、血筋不明のまま学園に通い続ける。それがどんなに異様な事か、分かってるだろ?」
「ああ、分かってる」
「なら、さっさとやめろよ」
「それは出来ない」
「何で」
「……目標があるから」
「ハっ」

 リーダー的存在のレックの瞳を真っ直ぐと見返しながらそう言うと、レックはサディの言葉を鼻で笑った。

「地力も使えない、羽もない、親もいない、そんなんで目標が叶えられるわけがないだろ」

 そう言うやいなや、見せつけのように前に手を出すとレックの手が光を発した。続いてサディが持っていた教科書類もレックの手と同様の光を放ち、レックの手に誘われるようにサディの手から離れ、彼の手に落ちる。

「お前、この学園の誰もがお前の事、どんな目で見てるか知らないのか?」

 呆れ果てたように手の中の教科書類をいじるレックは、にやりと笑いその手を大きく振りかぶった。

「『サディは本当に天使なのか』」

 そしてサディにゆったりとした歩調で近づき、耳に顔を寄せ囁くと、強引にアーチ窓の前に立たせた。左右対称の窓の右を開け、三階の高さから落とされた教科書類を指さす。

「お前が本当に天使なら、あれを取ってこられるはずだ。羽を出しここから下りる、もしくは地力を使って浮かび上がらせる。誰もが当然のように、子供でも出来ることだ。でも、お前はどうだ? 三歳児でも出来ることを、何でお前は出来ない?」

 サディの髪を鷲掴み、窓から上半身を出させる。
 天使は誰もが羽を持ち、白く猛々しい羽にて広大な空を駆け抜ける。
 上級は神の側に常にいるため羽は仕舞っている事が多いが、下級はそうもいかない。
 人と関わる下級天使は、その羽を用いて人間界と天界を行き来する。
 羽を自在に使いこなす事は絶対条件、羽を操れない、ましてや出せない者なんて存在しない、そんな者がいれば天使ではない。
 そう言われる時世に、羽も出せない者がいた。それがサディだ。
 おまけに血筋により階級が決まる中、両親の分からないサディは親がどんな天使だったのかも知らない。階級が何だったのかも、顔も、何もかも。
 地力も使えないので、奇跡も起こせない。
 天使としての要素がまるでない、欠陥品。
 学園史上最悪の劣等生。
 それが、サディだ。
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