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兄弟か、恋人か⑤

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「まだ……間に合うでしょうか」
「大丈夫です! だって二人は、『運命』なんですから」

 友達、というのは、あの電話を掛けてきた男に違いない。
 確か名前は、名倉緋佐と言ったか。
 悠衣の事を恋愛的な意味で好きだと豪語していた男、そしてその男と一緒にいるという悠衣。
 愛想を尽かされていてもおかしくない、だって自分は、それほどの事をした。
 悠衣の覚悟を確かめるがために、楽をも利用して。

「では……行ってきます」

 それでも未来の道を決めるために、柊は歩き出す。

『兄弟』か、『恋人』か。
 残された道は二つのみ。
 決めるのは、悠衣。
 その答えを聞くために、柊は玄関へと向かった。






「ここ……ですね」

 地図を頼りに歩いた先にあったのは、一般的な一軒家だった。
 白を基調に水色を敷かれている様は見ていて心を落ち着かせ、そのまま柊は玄関のインターンフォンを押す。

『はい』
「悠衣……ですか? 話をしたいのですが、出てきていただけませんか?」
『……ちょっと待って』

 柊が訪ねてきた事に一瞬動揺の色を見せたがそれも一瞬で、すぐに悠衣は背後にいるらしき名倉緋佐に向かい何やら確かめ、やがて再びインターフォンに声を通した。

『今行くね』

 離れていたのは、たったの一日。
 五年の月日に比べたらちっぽけなもの、だというのに悠衣に会えると思うだけで心躍るのはどうしてなのだろう。
 そんな妙にドキドキと忙しなく動く心臓を抑え込みながら、柊は悠衣がドアを開けるのを待った。
 そしてドタドタと走ってくる音と共に、その扉は開かれる。

「柊兄……入って」
「え……良いのですか?」
「うん。緋佐が、柊兄と話したいんだって」

 いつもと変わらぬ様子の悠衣が、柊の腕を掴もうとし、けれどもそれを止めて手で促す。
 最近悪かった顔色は柊と離れたことでぐっすり眠れたのか、元に戻っていて。
 嬉しいはずなのに、寂しいような、抱く資格などないけれど嫉妬心のような。
 複雑な感情を胸に抱きながら、靴を脱ぎ「失礼します」と柊はその家に入っていった。
 そこで感じるこの家を充満するものに、柊は足を止めた。
 その正体を確かめるべく、悠衣を引き止める。

「これ、は……」
「今、発情期なんだ、緋佐。だから僕は反対したんだけど……緋佐が、良いからって。……でもやっぱり、柊兄には辛いよね。外、出よっか?」
「いいえ、良いです。名倉くんの部屋はどこですか?」
「……付いてきて」

 柊の様子を頭のてっぺんからつま先までを行ったり来たりさせ探った悠衣は、本当に大丈夫そうだと判断したらしい。
 そのまま背中を向け、階段を上った。
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