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番外編
【番外編】ギャルゲ版ツミビトライク
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番外編なので本編とあまり関係ありませんが、
ツミビトライク世界の設定等は準拠しています。
また、書き方をノベルゲーム風に変更しています。
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【周回特典】
[メッセージ]
『サヤ・ラルネ』の全クリア実績が開放されました。
[メッセージ]
このままニューゲームを始めますか?
➡ はい
いいえ
[メッセージ]
ステータスの引継ぎを行いますか?
はい
➡ いいえ
[メッセージ]
引継ぎなしボーナス『男主人公』が追加されました。
[メッセージ]
主人公を選択してください。
サヤ・ラルネ(女主人公)
➡ ログ・ルシト(男主人公)
[メッセージ]
主人公はログ・ルシト(男主人公)で間違いありませんか?
➡ はい
いいえ
[メッセージ]
ツミビトライクの世界にようこそ!
あなたの帰還を心よりお待ちしておりました。
[メッセージ]
これより新たに追加されたシナリオを、
主人公ログ・ルシトと共にお楽しみください。
【第一話『ニューゲーム』】
剣と魔法の王国マイソディエル。
英雄カムイと賢人アケノが国家統一を果たしてから
節目の五百年を迎える。
マイソディエルは歴史の転換点において科学を捨て、
魔法の拡充を選んだ世界である。
科学技術の発展は細々としたもので、生活風景は
中世の西欧諸国を思わせた。
反面、魔法技術の発展は目を見張り、存在する
人工物のほとんどは高度な魔法で作成されている。
総じて文化レベルは高く、科学の世なら月面旅行も
可能にしていた段階だろう。
現在、この世界の人類は安定の時代を迎えている。
社会に貴族と平民の階級意識は根強いが、棲み分けは
明白であったため、それぞれの生活圏は自立して独自の
文化が作られていた。
首都レ・マイソディエルも同様の文化を背景に持つ。
魔質レンガと石畳みの建物ひしめく光景は、魔法の国の
大都会に相応しい堅牢な造りをしている。
王族が住まう都市ゆえに、八割が貴族で人口構成されており、
"貴族の街"の別称でも世に知れ渡っていた。
ただ、この地で物珍しがられるのは人口二割に当たる
平民ではなく、平民から貴族に階級を上げた、俗に言う
成り上がりの貴族と呼ばれる者たち。
その成り上がりの貴族の中でも更に新参に分類される家が、
ルシト家である。
──ログ・ルシトはそう言った経緯の家系に生まれおちた。
好奇と差別の目にさらされ続け、曖昧な身分で生きてきた
彼も今年で十七を迎える。
貴族だけが通える国内一の学び舎マイソディエル学院に、
ログは通っていた。
荒れやすい環境であっても真っすぐ成長し、素行も成績も
優秀であった彼が学院に入るのは自然な流れだったのだろう。
しかし、貴族の巣窟とも言える学院は鈍感の気がある彼でも
流石に肩身の狭い思いを強いられることになった。
新参貴族の彼はそういった理由で、学内最奥に位置する
小さな広場にその身を寄せていることが多い。
野花程度しか咲いていない、言い方を変えればただの空き地は、
代々平民上がりの貴族に受け継がれてきた安息の場所だった。
整備がろくにされていないのは悪目立ちしないためと、
純粋に人手が足りていないため。
景観は良くなかったが、二年目の学院生活を送るログには
すっかりお気に入りの場所となっていた。
急遽の休講で生まれてしまった空き時間の今、ログはこの広場で
空を見ながら過ごしていた。
教室に居ると向けられる蔑みの視線の重さを、空の青さは、
忘れさせてくれる。
学院最奥の広場の更に端のほう、決して広くない芝生の上に
彼は寝転がり青に癒されている。
ルシト家の立場向上を夢見るログの、重苦しい学院生活の中で、
数少ない心休まる時間だった。
ふと、空に黒い点が見える。
点は次第に大きくなっていく。
その全容が分かる直前、彼は飛び跳ねていた。
無駄に無拍子を使い、三歩くらいの距離に片膝立ちをする。
すぐに地を叩きつける固い音が響いた。
空から降ってきたのは一人の少女。
一目で緻密と分かる制服を着ていたので、貴族の令嬢と判断する。
そして、間を置かずログの感想が口から洩れる。
「貴族が空から降ってくるとは、珍しいこともあるものだな」
呑気にログは述べる。
彼の独り言が少女にも聞こえたのか、彼女は慌てた声で、
「貴族様がいらっしゃるのですか!? ごめんなさいごめんなさい!」
器用に両足着地を果たした少女は頭を何度も下げて宙に謝っていた。
点に見える距離からの落下を考えれば凄まじい身体能力と断じれる。
ログは特異に気付いていながらも驚くことなく、疑問を投げかける。
「君は貴族ではないのかい?」
「あ、私貴族でした。忘れてました」
変な貴族である。
ログの中での少女の第一印象はそれで決定した。
加えて、貴族であるなら空から降ってくる理由も見つかるもので、
「空から降ってくるくらいだ、魔法の練習をしていたのだろうか?
危ないのでもっと安全な場所で励んでもらいたいと
私は恐れ多くも進言しよう」
「……あの、これは夢なんですよね?」
ログの奇妙な言い回しに気付く素振りすらない少女。
彼女は辺りを見渡してからログに訊ねていた。
「夢かと聞かれて夢だと答える夢に、私は未だ逢ったことはないな」
「そう言えば、そうですね……」
「少なくとも自分の中で今は、現実で間違いないだろう。そして、
先ほどの進言への返答を貰っていないのが多少気になるところだ。
だが、一平民の意見なのだから発言力に乏しいことは理解している」
特殊な環境で生きてきたログの言い回しは多少独特である。
当然他意はなく、大抵が彼の好意と自然な気持ちから発生した言動と
まとめられる。
「ご、ごめんなさい。あなたのことを無下に扱ったわけじゃなくて、
その、戸惑ってしまって。えと、魔法の練習はしていませんでした。
でも、安全な場所で魔法の練習をするのは私も賛成です」
少女──整った容姿のややくすんだ金の髪を持つ女性は、
再び頭を下げてからログへの返答を発した。
やたらとお辞儀するのはどうやら彼女の癖らしい。
「なるほど。つまりは一平民に明かせない秘密の魔法練習をしていた、
と言うことか。……くっ、気が利かなくて済まない!」
「全然違いますよ!?」
本当に気を聞かせて彼は言ったのだが、少女の驚きが表すように
事実誤認である。ログの誤解は解けることなく、
「人の機微に疎いと友人からも言われているのでね……こういう時は、
そうだな、その誤魔化しに納得したフリをしておこう」
「言葉にしちゃいけない部分まで声に出していますよ!?
本当に私は誤魔化していないですし、何と言うかその……
納得したフリも出来ればやめていただけると……」
ログの頭にひらめきがはしる。
これはおそらく、自身の想像を遙かに超えた機密の魔法訓練なのだ。
その一部を自分は目撃してしまったのだろうと、ログは慄きながら
結論とした。
「……理解した。全面的にそちらの意見を受け入れよう」
「ほっ……良かったです」
ログの曲解に気付いていない辺り、彼女の性格の素直さが窺える。
素朴な性格の彼女は改めて辺りを見まわし、目の前の少年に質問する。
「ところで、ここはマイソディエル学院の学内ですよね?」
ログは堅物の顔に若干の驚きの色を混ぜる。
「三等地領までご存知とはやはり奇特な貴族様だ。確かにここは、
マイソディエル学院の中にある奥広場で間違いない」
発言してから、機密の魔法訓練だったら実験場所を把握しているのは
当たり前だなと彼は思い直す。
「やはりそうでしたか。……でも、あれ? 学院に居るということは
あなたも貴族のご子息に当たる方ですよね?」
そう言えば名乗っていなかったことに気付く。
「ログ・ルシトと言う。貴族様は知っているか分からないが、
最近平民から貴族になった家の出身だ。ゆえに身分としては
平民と何ら変わらない立場で違いない」
ログはそう言ったが、ルシト家を知らない者は居ないと目されるため、
自虐的な謙遜混じりの自己紹介であった。
「あなたがルシト家の方だったんですね!? ……申し遅れました。
私はサヤ・ラルネと言います。ログ様と同じく平民上がりの
ラルネ家の娘になります」
育ちの良さを窺わせる所作で、少女は自身のことをサヤと名乗った。
「噂のラルネ嬢か。やはり身分は天と地の差だな……。
ん? どうかしたか?」
「あ、いえ。私って貴族扱いされたことがほとんどなかったので、
どう反応すれば良いのか困っていまして。ただ……
一つだけ言えることがあるとすれば、身分の扱いに関しては
あなたと私は一切変わりないのだと思いますよ?」
噂は色々聞いているが、ログは実際目にした事実を最重要と考える。
だから、少女の意見についての返答は、
「そんなものか」
「そんなものです」
平民上がりの貴族二人は同時に頷いた。
互いに苦労してきたものは多いのである。
「……あの、しつこいかもしれませんが、これって夢……ですよね?」
「私は相変わらず現実だと捉えているが、参考になるだろうか?」
「……参考に、その、なっては、います……」
サヤはその端正な顔を少しだけ歪めた。
青ざめているように見える。
「もし本当にこれが夢でなかったら……ライラ様たちは……?」
「ライラ? ライラとは貴族の友人の名前だろうか?」
少女は独り言のつもりだったのだが、ログは質問だと捉えてしまう。
彼の面識にライラという名は存在していなかった。
「ええっ!? リルレイラート家のご息女様なのですよ!?
ミナ様のお姉様でとてもお優しいあのライラ様です!」
「……ミナ殿に姉が居たのか。新事実発覚ってやつだな」
「え?」
「ん?」
「……あれ? ライラ様ってかなりの有名人のはずだよね……?」
「ああ、私は世間に疎いからな。知らないことも多いと自覚はしている」
「……ごめんなさい聞こえていましたか。でも、私の常識で語るのは
良くなかったですね」
認識の違いに気づかず、少年と少女の会話は成り立ってしまう。
世間ずれしている少年と素直な少女の組み合わせゆえの妙だった。
会話の途切れ目のタイミング、どこからかポンと音がした。
同時に二人は緊急のバックステップを踏む。
危険察知がどちらも早かった。
「何か……いえ! 誰かが落ちてきます!?」
「また貴族でも降ってくるのか?」
正反対の反応をしているうちにも、影は大きくなり、再び空から
人が降ってくる。
背が高めの金髪少女と比較すると随分と小柄の姿をしていた。
「リーフ様!?」
彼女はふわりと着地した落下人を見て、高い驚きの声を上げる。
「……魔法普通に使える……? ……サヤも居る……?
……ここ、元の世界……?」
一拍遅いテンポの話し方をする幼子だった。
着地の瞬間、浮遊魔法を高度にコントロールしていた様子からも
見た目通りの年齢ではないのだが、ログには幼子にしか見えなかった。
「ええと、夢の中ではありますが、多分元の世界ではあると思います」
言いづらそうに少女は答えるが、幼子は不思議な顔をして首を振る。
「……夢……? ……意識はっきりしてる……夢じゃないよ……?」
「え……え?」
否定を受け止めきれない様子の少女。
「……ラルネ嬢に続いて、まさかルウレテイアーの魔女殿まで空から
降ってくるとはな。これはやはり国家機密レベルだったのか──
おおっと! 私は納得したフリをしていたのだった」
幼子の姿に今度はログも見覚えがあった。
落下人は今気付いたように彼へ視線を向けると、
「……誰……? ……お前……?」
「ログ・ルシト。平民のような貴族のような、まぁ平民だ」
「……知らない……。……ここどこ……?」
魔幼女の発言にログの心は新鮮な驚きを覚える。
成り上がり貴族のある種雄として知られたルシト姓を、
知らない者が居るとは想像すらしていなかった。
彼と同じように世間ずれしているだけなのだが、ログは好意的に
リーフ・ルウレテイアーを解釈する。
要するに蔑視をしてこない彼女たちが彼にとっては極めて貴重で、
好ましい人物であったのだ。
だから、質問には出来る限り答えようと口を開くのだが、
「マイソディエ──」
「どど、ど、どうしましょう! リーフ様!
私たちだけが元の世界に戻ってきてしまったようです!」
ログの言葉は遮られ、少女は今日一番の慌てた声を上げた。
未だこの場で認識している者は居ないが、
空から降ってきた彼女たちは異世界転移を果たした人である。
同時に、乙女ゲーム『ツミビトライク』のシナリオは
本来の物語からすでに大きく外れてしまっていた。
──こうしてログの運命は、
この劇的な出会いから急変動していくことになる。
番外編なので本編とあまり関係ありませんが、
ツミビトライク世界の設定等は準拠しています。
また、書き方をノベルゲーム風に変更しています。
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これより新たに追加されたシナリオを、
主人公ログ・ルシトと共にお楽しみください。
【第一話『ニューゲーム』】
剣と魔法の王国マイソディエル。
英雄カムイと賢人アケノが国家統一を果たしてから
節目の五百年を迎える。
マイソディエルは歴史の転換点において科学を捨て、
魔法の拡充を選んだ世界である。
科学技術の発展は細々としたもので、生活風景は
中世の西欧諸国を思わせた。
反面、魔法技術の発展は目を見張り、存在する
人工物のほとんどは高度な魔法で作成されている。
総じて文化レベルは高く、科学の世なら月面旅行も
可能にしていた段階だろう。
現在、この世界の人類は安定の時代を迎えている。
社会に貴族と平民の階級意識は根強いが、棲み分けは
明白であったため、それぞれの生活圏は自立して独自の
文化が作られていた。
首都レ・マイソディエルも同様の文化を背景に持つ。
魔質レンガと石畳みの建物ひしめく光景は、魔法の国の
大都会に相応しい堅牢な造りをしている。
王族が住まう都市ゆえに、八割が貴族で人口構成されており、
"貴族の街"の別称でも世に知れ渡っていた。
ただ、この地で物珍しがられるのは人口二割に当たる
平民ではなく、平民から貴族に階級を上げた、俗に言う
成り上がりの貴族と呼ばれる者たち。
その成り上がりの貴族の中でも更に新参に分類される家が、
ルシト家である。
──ログ・ルシトはそう言った経緯の家系に生まれおちた。
好奇と差別の目にさらされ続け、曖昧な身分で生きてきた
彼も今年で十七を迎える。
貴族だけが通える国内一の学び舎マイソディエル学院に、
ログは通っていた。
荒れやすい環境であっても真っすぐ成長し、素行も成績も
優秀であった彼が学院に入るのは自然な流れだったのだろう。
しかし、貴族の巣窟とも言える学院は鈍感の気がある彼でも
流石に肩身の狭い思いを強いられることになった。
新参貴族の彼はそういった理由で、学内最奥に位置する
小さな広場にその身を寄せていることが多い。
野花程度しか咲いていない、言い方を変えればただの空き地は、
代々平民上がりの貴族に受け継がれてきた安息の場所だった。
整備がろくにされていないのは悪目立ちしないためと、
純粋に人手が足りていないため。
景観は良くなかったが、二年目の学院生活を送るログには
すっかりお気に入りの場所となっていた。
急遽の休講で生まれてしまった空き時間の今、ログはこの広場で
空を見ながら過ごしていた。
教室に居ると向けられる蔑みの視線の重さを、空の青さは、
忘れさせてくれる。
学院最奥の広場の更に端のほう、決して広くない芝生の上に
彼は寝転がり青に癒されている。
ルシト家の立場向上を夢見るログの、重苦しい学院生活の中で、
数少ない心休まる時間だった。
ふと、空に黒い点が見える。
点は次第に大きくなっていく。
その全容が分かる直前、彼は飛び跳ねていた。
無駄に無拍子を使い、三歩くらいの距離に片膝立ちをする。
すぐに地を叩きつける固い音が響いた。
空から降ってきたのは一人の少女。
一目で緻密と分かる制服を着ていたので、貴族の令嬢と判断する。
そして、間を置かずログの感想が口から洩れる。
「貴族が空から降ってくるとは、珍しいこともあるものだな」
呑気にログは述べる。
彼の独り言が少女にも聞こえたのか、彼女は慌てた声で、
「貴族様がいらっしゃるのですか!? ごめんなさいごめんなさい!」
器用に両足着地を果たした少女は頭を何度も下げて宙に謝っていた。
点に見える距離からの落下を考えれば凄まじい身体能力と断じれる。
ログは特異に気付いていながらも驚くことなく、疑問を投げかける。
「君は貴族ではないのかい?」
「あ、私貴族でした。忘れてました」
変な貴族である。
ログの中での少女の第一印象はそれで決定した。
加えて、貴族であるなら空から降ってくる理由も見つかるもので、
「空から降ってくるくらいだ、魔法の練習をしていたのだろうか?
危ないのでもっと安全な場所で励んでもらいたいと
私は恐れ多くも進言しよう」
「……あの、これは夢なんですよね?」
ログの奇妙な言い回しに気付く素振りすらない少女。
彼女は辺りを見渡してからログに訊ねていた。
「夢かと聞かれて夢だと答える夢に、私は未だ逢ったことはないな」
「そう言えば、そうですね……」
「少なくとも自分の中で今は、現実で間違いないだろう。そして、
先ほどの進言への返答を貰っていないのが多少気になるところだ。
だが、一平民の意見なのだから発言力に乏しいことは理解している」
特殊な環境で生きてきたログの言い回しは多少独特である。
当然他意はなく、大抵が彼の好意と自然な気持ちから発生した言動と
まとめられる。
「ご、ごめんなさい。あなたのことを無下に扱ったわけじゃなくて、
その、戸惑ってしまって。えと、魔法の練習はしていませんでした。
でも、安全な場所で魔法の練習をするのは私も賛成です」
少女──整った容姿のややくすんだ金の髪を持つ女性は、
再び頭を下げてからログへの返答を発した。
やたらとお辞儀するのはどうやら彼女の癖らしい。
「なるほど。つまりは一平民に明かせない秘密の魔法練習をしていた、
と言うことか。……くっ、気が利かなくて済まない!」
「全然違いますよ!?」
本当に気を聞かせて彼は言ったのだが、少女の驚きが表すように
事実誤認である。ログの誤解は解けることなく、
「人の機微に疎いと友人からも言われているのでね……こういう時は、
そうだな、その誤魔化しに納得したフリをしておこう」
「言葉にしちゃいけない部分まで声に出していますよ!?
本当に私は誤魔化していないですし、何と言うかその……
納得したフリも出来ればやめていただけると……」
ログの頭にひらめきがはしる。
これはおそらく、自身の想像を遙かに超えた機密の魔法訓練なのだ。
その一部を自分は目撃してしまったのだろうと、ログは慄きながら
結論とした。
「……理解した。全面的にそちらの意見を受け入れよう」
「ほっ……良かったです」
ログの曲解に気付いていない辺り、彼女の性格の素直さが窺える。
素朴な性格の彼女は改めて辺りを見まわし、目の前の少年に質問する。
「ところで、ここはマイソディエル学院の学内ですよね?」
ログは堅物の顔に若干の驚きの色を混ぜる。
「三等地領までご存知とはやはり奇特な貴族様だ。確かにここは、
マイソディエル学院の中にある奥広場で間違いない」
発言してから、機密の魔法訓練だったら実験場所を把握しているのは
当たり前だなと彼は思い直す。
「やはりそうでしたか。……でも、あれ? 学院に居るということは
あなたも貴族のご子息に当たる方ですよね?」
そう言えば名乗っていなかったことに気付く。
「ログ・ルシトと言う。貴族様は知っているか分からないが、
最近平民から貴族になった家の出身だ。ゆえに身分としては
平民と何ら変わらない立場で違いない」
ログはそう言ったが、ルシト家を知らない者は居ないと目されるため、
自虐的な謙遜混じりの自己紹介であった。
「あなたがルシト家の方だったんですね!? ……申し遅れました。
私はサヤ・ラルネと言います。ログ様と同じく平民上がりの
ラルネ家の娘になります」
育ちの良さを窺わせる所作で、少女は自身のことをサヤと名乗った。
「噂のラルネ嬢か。やはり身分は天と地の差だな……。
ん? どうかしたか?」
「あ、いえ。私って貴族扱いされたことがほとんどなかったので、
どう反応すれば良いのか困っていまして。ただ……
一つだけ言えることがあるとすれば、身分の扱いに関しては
あなたと私は一切変わりないのだと思いますよ?」
噂は色々聞いているが、ログは実際目にした事実を最重要と考える。
だから、少女の意見についての返答は、
「そんなものか」
「そんなものです」
平民上がりの貴族二人は同時に頷いた。
互いに苦労してきたものは多いのである。
「……あの、しつこいかもしれませんが、これって夢……ですよね?」
「私は相変わらず現実だと捉えているが、参考になるだろうか?」
「……参考に、その、なっては、います……」
サヤはその端正な顔を少しだけ歪めた。
青ざめているように見える。
「もし本当にこれが夢でなかったら……ライラ様たちは……?」
「ライラ? ライラとは貴族の友人の名前だろうか?」
少女は独り言のつもりだったのだが、ログは質問だと捉えてしまう。
彼の面識にライラという名は存在していなかった。
「ええっ!? リルレイラート家のご息女様なのですよ!?
ミナ様のお姉様でとてもお優しいあのライラ様です!」
「……ミナ殿に姉が居たのか。新事実発覚ってやつだな」
「え?」
「ん?」
「……あれ? ライラ様ってかなりの有名人のはずだよね……?」
「ああ、私は世間に疎いからな。知らないことも多いと自覚はしている」
「……ごめんなさい聞こえていましたか。でも、私の常識で語るのは
良くなかったですね」
認識の違いに気づかず、少年と少女の会話は成り立ってしまう。
世間ずれしている少年と素直な少女の組み合わせゆえの妙だった。
会話の途切れ目のタイミング、どこからかポンと音がした。
同時に二人は緊急のバックステップを踏む。
危険察知がどちらも早かった。
「何か……いえ! 誰かが落ちてきます!?」
「また貴族でも降ってくるのか?」
正反対の反応をしているうちにも、影は大きくなり、再び空から
人が降ってくる。
背が高めの金髪少女と比較すると随分と小柄の姿をしていた。
「リーフ様!?」
彼女はふわりと着地した落下人を見て、高い驚きの声を上げる。
「……魔法普通に使える……? ……サヤも居る……?
……ここ、元の世界……?」
一拍遅いテンポの話し方をする幼子だった。
着地の瞬間、浮遊魔法を高度にコントロールしていた様子からも
見た目通りの年齢ではないのだが、ログには幼子にしか見えなかった。
「ええと、夢の中ではありますが、多分元の世界ではあると思います」
言いづらそうに少女は答えるが、幼子は不思議な顔をして首を振る。
「……夢……? ……意識はっきりしてる……夢じゃないよ……?」
「え……え?」
否定を受け止めきれない様子の少女。
「……ラルネ嬢に続いて、まさかルウレテイアーの魔女殿まで空から
降ってくるとはな。これはやはり国家機密レベルだったのか──
おおっと! 私は納得したフリをしていたのだった」
幼子の姿に今度はログも見覚えがあった。
落下人は今気付いたように彼へ視線を向けると、
「……誰……? ……お前……?」
「ログ・ルシト。平民のような貴族のような、まぁ平民だ」
「……知らない……。……ここどこ……?」
魔幼女の発言にログの心は新鮮な驚きを覚える。
成り上がり貴族のある種雄として知られたルシト姓を、
知らない者が居るとは想像すらしていなかった。
彼と同じように世間ずれしているだけなのだが、ログは好意的に
リーフ・ルウレテイアーを解釈する。
要するに蔑視をしてこない彼女たちが彼にとっては極めて貴重で、
好ましい人物であったのだ。
だから、質問には出来る限り答えようと口を開くのだが、
「マイソディエ──」
「どど、ど、どうしましょう! リーフ様!
私たちだけが元の世界に戻ってきてしまったようです!」
ログの言葉は遮られ、少女は今日一番の慌てた声を上げた。
未だこの場で認識している者は居ないが、
空から降ってきた彼女たちは異世界転移を果たした人である。
同時に、乙女ゲーム『ツミビトライク』のシナリオは
本来の物語からすでに大きく外れてしまっていた。
──こうしてログの運命は、
この劇的な出会いから急変動していくことになる。
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