悪役令嬢の姉は異世界転移しない~ツミビトライク・ループ~

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チュートリアル編(過去)

第二十一話『刻まれていた想い』

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「カムイ、様……?」

 予想外の告白に今度は私が戸惑う番だった。
 反面、絶望を浮かべていたミナの表情は明らかに変わり、ハイライトの薄い無表情がカムイ様を睨む。
 立ち絵でよく見る悪役令嬢の顔だった。
 その視線を平気で受け止めるカムイ様は改めて常人と違っていて、冷静に言葉をつむぎ続けていく。

「……ですが、目の前に居るあなたからはそう言った印象を一切受けません。嘘偽りなく述べるとすれば、一目見た時からあなたがライラでないと、僕は気付いていました」

 え……?

 心臓がドクンと脈打つのが分かった。
 この人に限ってはありえない話ではないけど……そうだとすればあの時もその時も──!?

「待て待て! 兄さまが言うとマジもんに聞こえちまうだろうが──って、マジなわけかよ……。つーことはだ……まぁ、ややこしい話だが、兄さまがそう判断しているなら間違ってはいないんだろうさ」

 ため息をつき、オヤジさんも私の話に理解を示してくれる。
 彼は私の目を見て、

「だがな、そもそもの話だ。ライラ、いや嬢ちゃんは、それをオレたちに伝えてどうしたいんだ? 黙っておいたほうが色々と都合が良かったんじゃねぇのか?」

 あまりにもストレートと言えばとストレートな質問。
 ミナもハイライトのない瞳でこちらを見ている。
 ミナへの説明が中途半端になっていたが、その無表情がこれ以上の説明を拒絶しているようにうかがえた。一方で今の話題には興味を示しているようにも感じ取られる。
 視線が私のみに集中し、緊張が再び襲ってくるが……妄想でよく出てくるシチュエーションでもあった。

 過去の想像を模倣することで私の口は何とか動いてくれる。

「そう、ですね……。"今まで"はそうでした。ライラ自身が破天荒な性格だったようなので疑われることはありませんでしたが、本当にただ幸いだっただけなのだと思います。"今回"はそれに甘えるわけにはいきません。前回と前々回の失敗を今回に活かします、活かさなければならないのです。次がある保証などどこにもないのですから」

 ヒントは今の発言にしかなかっただろうに、すぐさまカムイ様は反応して、

「まさか……! 時間のズレがそこまで大きな影響をあなたに与えていたのですか!?」

 これすらも察してくださるのですね、カムイ様……。
 喜ぶべき場面なのだろうが、少しだけ悲しくもある。私はもしかしたら彼に知って欲しくなかったのかもしれない。
 原作の数週間でこの世界の常識と知識を吸収しきった彼の頭脳を考えれば、そんなことはありえないと分かっていた。

 そして、察してくれる人はカムイ様だけではなくて──

「……それってつまりアレか? SFでよく見る、バタフライなんちゃらを起こすような事態が嬢ちゃんの身に起こっているんだよな?」

 兄弟共に同じ結論に行きついたようである。
 皮肉なのか幸いなのか、これで私が説明しづらいと思っていた部分がクリアされてしまう。

「流石はお二人方です。……お察しのように、私は同じ時間を少なくとも三度繰り返しています……繰り返しているようなんです」

 私の発言に思案する様子で、オヤジさんが返答してくれる。

「同じ時間の繰り返し……ループってやつだな。しかも三度か。……にわかには信じられねぇが、今は置いておくとしてだ、何で曖昧あいまいな言い方だったんだ? もしかして嬢ちゃん、はっきりとは覚えていないのかい?」

 オヤジさんの質問はまさに現状の私の問題点を突いていた。

「……はい。今のこの時間とか今日の深夜辺りの記憶は、ある程度まで覚えています。ですが、明日辺りの記憶になると、買い物に行ったくらいしか、覚えていないんです……。それでいて、明日に該当する日を確実に過ごしたという実感も何故か私の中にあります。……自分でも本当によく分からないのですが、そう言った記憶の存在から、私が同じ時間を繰り返している、そんな判断です。だから、断言は出来ませんでした」

 カムイ様は私の言葉をかみ砕いてくださっているのか、完全に聴きに回ってくださっている。
 同様にミナも無表情だけど黙って聞いてくれているようだった。
 ミナとは先ほどの続きをしないといけないとは思いながらも、オヤジさんとの会話は続く。

「……嘘は言っていねぇ目だな。ってことは要するにだ、オレたちがその乙女ゲームって言うものの登場人物で、嬢ちゃんはそれを画面から見ている側の人間、そんで何故かこの世界に飛ばされちまったと。その上、SFやミステリー小説でよく見るループする世界に巻き込まれちまっている。そんな感じで良いのかい?」

 そんな感じと言うか……

「完全にその通りですよ……。……うぅ……私の頭の悪さが、身に染みてしまいます……」

 ぐすっ……と心の中で泣く。

 どう説明しようか悩んでいた部分を要点を捉えてことごとく代弁してもらったのだ。自分の頭のつくりを憎みもしてしまう。
 ツミビの登場人物たちとのスペック差を嫌でも実感してしまった瞬間だった。



「わたくし理解しましたわ!」



 唐突にミナが声を上げる。
 ハイライトさんが途端に戻ってきていたからビックリしてしまった。

「つまりお姉様は、わたくしの私生活のいたるところを常に見守ってくださっていましたのでしょう?」

 え?

 何をどう理解してそんな考え方に至ったのだろう?
 というか発言にストーカー的な思考の痕跡を感じてちょっと怖い……。
 そうは思ったが、折角元のミナに戻ってくれた好機を逃すほど私も馬鹿ではない。
 加えて、謝罪の言葉をミナに届けるためには彼女が聞いてくれる状況をまず作る必要があった。

 今はとりあえず話を合わせることにしよう。

「あ、うん。間違ってはいない、かな?」

 嘘ではない。
 ノベルゲームは極論他人の私生活を覗き見るゲームなのだから。
 完全な本音でもないから詭弁きべんになっているけど。

「やはりですの! だったら、お姉様はお姉様に違いはありませんわね! あ
ぁもう! わたくしの杞憂でしたわ!」

 致命的に誤解が生じている気がする。
 適当なこと言うとやっぱり駄目なんだね……。

「えっと……私、本物のライラじゃないんだよ?」

「愛を持ってわたくしを見守ってくださっていた方がお姉様なのですわ! お姉様に偽物も本物もありませんのよ!」

 お、おう……。
 理屈がよく分からないよ、ミナ……。

「まったく、お姉様はわたくしの心をいつも揺さぶるのですから本当に意地悪ですわ。……ですが、それがとても心地よくて、わたくし幸せですの!」

 マゾッ気あり宣言された!?

 流石は原作で悪役令嬢をやっていただけはある、思考が少々ぶっ飛んでいる……よね?
 それすらも判断しきれないけど、私とミナの間に漂っていた気まずい空気と、張り詰めた雰囲気が緩んだので状況的には良かったのかもしれない。

 結果としてお茶を濁す形にはなったものの、目の前でミナが明るい表情をしていた。
 私と目が合うとニコッとしてくれる。

 ……この笑顔に私は温もりを感じていた。

 姉妹というものを私は知らないけど、これが姉妹の絆と呼べるものなのかもしれないと私は思う。
 この優しい気持ちと、悪役令嬢……かどうかはもう分からなくなっている妹の笑顔を、明日以降も絶やさないように、私はこれから起きる未来を変えることを決意したのだ。

 前提は全て揃った。
 私一人の力では途方にくれてしまっていたことだろう。
 世界の繰り返しから脱出するために求めたのは、ツミビの三人の知恵ちから
 だから、なりふり構わず私は相談をしよう。



 ──明日のミナを救うために。



 ──記憶では覚えていないが、その誓いは心のどこかに刻まれていた。







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