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第一章『世界に生まれた最後の子』
【4】戸籍
しおりを挟む「赤柱良司だ。とりあえずよろしくな」
「須藤未奈と申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
鏡子を挟んでカウンター席に三人かける。
店主さんの「今日は閉店にして、ゆっくり話そうかね」という鶴の一声から、入り口扉にクローズド看板が掛けられ、四人、腰を据えて言葉を交わすことになっていた。
赤柱良司と名乗ってくれた常連の男性客は、店主さんのコーヒーを一口含んでから、真正面の店主さんへと向き直る。
「で、オッサンよ。戸籍がどうとか不穏なことを言っていたようだが、まさかこの子の戸籍を用意して欲しいとか、そんなことを言い出したりはしないよな?」
赤柱さんのサムズアップポーズからの左親指で差される私こと『この子』。
「お? よく分かったな。その通りだ」
「くそ! 空耳じゃなかった! ……オッサンの無茶ぶりは今に始まったことじゃないから諦めるが、そもそもの話、何でこの子に戸籍が必要なんだ? 見たところ日本人だろ? 赤子じゃない日本人で戸籍が必要だとか余程のことだぞ?」
母の知識を引用すると、二十年前の日本の治安は世界トップクラスに良かったらしい。
それ故、戸籍登録のされていない日本人は公表数字上ほぼ皆無で、後々戸籍が必要となる国内人となると、犯罪関係者か不法入国者の二択になってしまうとのこと。
私の居た世界の『かつて』の記録と、この相対世界の現状はぴったり重なっているようだった。
「そりゃあ余程のことだからな。嬢ちゃん、悪いようにはしないつもりだが、嫌ならはっきりと拒絶してもらって構わねえ。よく考えた上で、良司に話しても良いと判断したなら、嬢ちゃんの現状を教えてやってもらえないか?」
「……おじいちゃん、その言い方は少し卑怯ですよ? あたしは認めていませんけど、もし、仮に、もしもですけど、さっきの話が本当だとするなら、この人に拒否権はありません」
「いや、本当に拒否してもらっても構わないのさ。なにしろ、嬢ちゃんとの約束は必ず守る、とオレがもう決めたからな」
店主さんの瞳には、衣食住の提案をされたあの時点から決意が宿っていた。
揺るがない意志を目の当たりにしていたので、約束を破られる心配なんて最初から抱いていなかったし、破られても構わないという心構えで私も居た。
それでも、再度明言された意味合いは大きく、彼の本気の気持ちが伝わってくる。これほどの傑物だからこそ、私程度の人間に義理を掛けてくれたのだろう。
「ありがとうございます店主さん。それに、ご心配いただき、感謝しています鏡子」
「……お礼をいわれることなんてしていませんよ」
鏡子はプイと顔を背けてしまったけれど、その仕草がかえって微笑ましく思えてしまう。
自分の中で元の世界の鏡子と完全に区別がついてきたおかげだろう。
若い鏡子は子供っぽくて可愛いのだ! 子供という存在は記録の中でしか知らないのだけれど。
閑話休題。
店主さんに明言してもらったのだから、私も再度心の内を明かしておこう。
「私は店主さんに案じてもらったあの瞬間から、あなたの心を信頼しております。ですから、私に異論なんてあるはずがありません。義を受けたなら誠実で返す、それが私の生き方ですから」
店主さんはフッと口元を緩めて小さく笑い、鏡子は「須藤さんと同じことを言っています……」とポツリと呟いていた。
やはりこの世界には須藤紅も存在し、鏡子との関係は少なくとも知り合い以上であるらしい。親しくなければ他人の座右の銘など知らないだろう。
次いで、肘立てた拳に右あごを乗せ、傍観に徹していた赤柱さんに、私は自身のことを告げる。
「赤柱良司さん、私は二十年後の未来からやって来ました」
「なるほどな。タイムトラベラーってやつか。確かに、余程のことだな」
やけにすんなりと頷かれる。
拍子抜けしそうになったが、続ける。
「そして、私の居た世界は未来であり、この世界とは並行世界の関係にありました」
赤柱さんは眼鏡越しの瞳をわずかに細めた。
我ながら複雑な状況に置かれていることは理解している。
けれども、端的な真実であり、これ以上の説明をするとなると相対世界の単語を使わざるをえない。
相対世界という考え方が戸羽さん発祥であるため、安易に口走れば余計な混乱しか生まないだろう。
「理解は難しいかもしれませんが、これが店主さんと鏡子にも説明した私の事情です。……信じていただけますでしょうか?」
「まぁ、オッサンが悪質な冗談を言わないことは知っているからな。いいぜ、須藤さんの話も信じよう。詳しい事情は現段階だと判別できないから、オッサンの信頼ありきでの信用にはなってしまうがな」
つまり、店主さんの信用を裏切ることは彼の顔に泥を塗ることに等しい、と赤柱さんは忠告したのだ。
当然、私の信条として義理を欠くような真似を行うつもりはない。
「信じていただきありがとうございます。それで十分すぎます。……正直、店主さんのお力添えがあったとしても、すぐに信じてもらえるとは思ってもいませんでした」
「オッサンからの無理難題は大体いつもこのくらいの突飛さだからな。俺だっていい加減慣れるさ」
二十年も未来からやって来た不審人物と同程度のことがいつも……?
とんでもないことを言われた気がする。
肩をすくめた赤柱さんには哀愁が漂っているように見える。
冗談のつもりで言っていたわけでもないようだが……。
だとしたら、彼と店主さんの日常が如何に突飛で、非日常的なものであるのか、想像が追いつかなかった。
「それで、だ。オッサンはいったい何を隠してやがる?」
明らかに赤柱さんの瞳が先ほどの一瞬より細くなった。
店主さんが隠し事をしている?
彼の言葉は真剣だった。
「確かにあんたは律儀で親切さ。だが、初対面の人間に戸籍まで用意をしようとするのは、些か無理矢理で干渉が過ぎる。大体、こういった件だとまず俺に周辺情報を洗わせるのがいつものあんただろう? ……彼女に何がある? それとも何があった?」
ちらりと一度だけ私に視線が向けられたけれど、それ以外は店主さんを真っすぐに見ていた。
変わらない真剣な声色に、店主さんは白旗を上げることにしたのか、大きなため息を一つ。
「……良司に隠し事はできねえな。理由としては二つだ。嬢ちゃん、例の携帯電話を良司に見せてやってもらえないかい?」
ポケットに仕舞っていたケータイを、鏡子の時と同じようにデニムパンツから取り出す。そのまま、赤柱さんの前へ。座り位置の関係で鏡子の真正面で掲げるかたちとなった。
「こちらが私の居た世界の携帯電話になります」
ロック画面を解除したので、灯った画面には時計やアプリアイコンが整然と並んでいる。
アニメ動作がオンとなっているので、壁紙の緑が波の形でゆったり流れている。
「ラズベリー型の到達点みたいな携帯だな。タッチパネルに、この鮮やかさとドットの細かさ、それに特筆すべきは薄さか。俺の想像よりも二十年の発展スピードは速かったようだな」
赤柱さんも店主さんと同じ指摘をしていたので、この時代の人にとってはこの三点が特に印象的に映るようだ。
そして、再度出てきたラズベリーという単語。
「すみません。話の腰を折ってしまいますが、ラズベリー型とは携帯電話の名称か何かでしょうか?」
「ああ、今年発売予定になっている携帯電話の機種名だな。ラズベリー型携帯からボタンを失くせば、未来の携帯のご先祖様くらいには見えるはずだよ。実際、この携帯電話にはラズベリーの流れが確実に入っているからな」
良司さんからの返答と母の知識を合わせると、ラズベリー型という携帯電話がスマートフォンに至る過程の一つで間違いないだろう。
スマホとして最初に登場したケータイは一九九九年地点から数年は掛かるらしい。流石に、具体的な登場年は母の知識にも蓄積されていなかったけれど。
「で、オッサンのいう理由のもう一つはなんだ? 須藤さんにこだわる理由としては、このケータイくらいじゃまだまだ弱い。そもそも未来の技術に新しい玩具程度の関心は抱いても、オッサンはそこで生じる利益とかで動く人間じゃないだろう? あんたが覚悟を決めた、その決め手は何だったんだ?」
あっさりと、店主さんが掲げていた未来の知識利用の件が否定される。
提案された時点から誠実な店主さんの本音としては違和感が大きく、私に気を遣ってくれた発言であったことは薄々察していた。
証拠に彼はバツの悪い顔をしている。
「……悪いな嬢ちゃん。オレは二つ、嬢ちゃんに嘘を吐いていたんだよ」
「一つは未来の知識を利用する件に関してですね。店主さんは優し過ぎますよ」
だから、私はあなたに返さなければならない恩だけが無限に積み重なっていくのである。
「オレの身勝手で言った虚言さ、決して優しくなんかはねえよ」
言い訳自体を誤魔化している段階で、すでに優しさ溢れていることを彼は気付いているのだろうか?
彼のお孫さんが、気落ちしている祖父を優し気な苦笑で見ていた。
年若くても彼女は鏡子で、彼は鏡子の祖父なのだ。とても似ていますよ、二人とも。
「それで、もう一つの理由だが──『戸羽』だ」
とば……戸羽さん!?
「はぁ……戸羽ときたか」
店主さんも赤柱さんも、明白に『戸羽』という誰かを共通認識として指している。
はやる気持ちは湧いてくるが、隣の鏡子の冷静な横顔を見て、何とか自分を抑えた。
今は店主さんの説明を待つのが正解である、と直感が告げる。
予想通り、彼は詳細を続けた。
「最初訊ねられた時は、本当に思い当たる名前はなかったんだよ。けどな、記憶を探っていくうちに、戸羽の名前に一つだけ心当たりがあることに気が付いた。客商売をしているし、それなりの人生も歩んできている。だから、他にもトバっていう苗字の奴と会ったことがあるかもしれねえ、が、だ……未来から来た嬢ちゃん自身が仄めかしやがった。実際さっき並行世界って言っていたしな。その嬢ちゃんの知り合いである戸羽だぜ? 一人しか居ねえだろうよ、そんな奴は」
「ああ──戸羽良司、だな」
店主さんから赤柱さんへと会話は引き継がれ、一つの名前が発せられた。
「戸羽、リョウジ?」
私は戸羽さんの下の名前を知らなかった。
何故ならば戸羽さんが明かしてくれなかったから。
たった一人のチャット相手であり、大恩人の彼が隠している事柄を、私が聞き出せるはずもない。
歪な関係であることは自覚していたし、清濁呑み込んで戸羽さんの提案に乗っかったのが私である。
そして、リョウジ……良司とは少し前に聞いた名前で──。
「戸羽良治っていうのは、俺の偽名の一つだな」
サラリと爆弾が投下されつ。
「あ……赤柱さんが……戸羽さんだったのですかぁ!?」
声が裏返ってしまった。
戸羽さんが赤柱さんだと誰が予想できるだろうか?
確かに同じ下の名前ではあるけれど、それ以前に偽名の一つとはどういう意味なのか?
疑問が一気に湧き上がる。
「いや、残念ながら須藤さんの知っている戸羽と俺は同一人物ではないよ。俺自身に心当たりがないからな。一方で、二十年後の俺なら並行世界に関わっていても不思議じゃないと思う。本腰は入れていないが、並行世界についても多少調べていたからな。……だが、そうか、未来の俺は並行世界にすら関わるのか……」
赤柱さんとは……戸羽さんとは、一体何者なのだろうか?
戸羽さんが相対世界への移動手段を確立した凄い人であることは理解していた。
けれど、それ以上の枠組みの中に彼は存在しているのではないだろうか?
実のところ私は、あまりにも戸羽さんのことを知らな過ぎた。
築かれた信頼だけで、生まれた世界を私は飛び出してきたのだ。
「オレの察した感じだが、嬢ちゃんは本来なら戸羽って奴と待ち合わせをしていたんだよな?」
「はい、約束していたことは事実です。結局こうして過去の世界にやって来ましたので、待ち合わせは叶いませんでしたが……いえ、過去の戸羽さん、赤柱さんと会えましたので、約束は半分叶えられていたのかもしれません」
私の知る戸羽さんでないと赤柱さんは言っていたが、それでも過去の戸羽さんであるのなら、聞きたいことは色々ある。しかしながら、現状私の考えはまとまっていないし、赤柱さんとも出会って間もない。今、矢次に質問しては場を混沌とさせてしまうだけだろう。
「もしその戸羽が俺だとするなら、そんなヘマはしないだろうが……いや、待てよ。だとしたらだ──」
赤柱さんはハッとした表情で、ジーンズから何やら取り出す。
表面にボタンの付いた折り畳み式ではないフィーチャーフォンだ。この世界の標準的な携帯電話なのだろうか?
大分厚い端末で、アンテナらしき突起が端についている。
ボタンを何度か押して、彼はそれを耳に当てた。
「ああ、俺だ。ちょっと調べてもらいたい戸籍があってな……ああそうだ、悪いが至急で頼む。氏名は須藤未奈。住所は……三和家周辺から調べてくれ。生年月日、いや年齢か──須藤さん、申し訳ないけど歳を教えてもらえるか?」
通話口を押さえて、赤柱さんが私に年齢を訊ねた。
彼が気付いた何かに期待を込めて、私は口を開く。
「ちょうど十三歳になったばかりです」
『は?』
告げた途端、鏡子と店主さんの声が重なる。──そういう反応には慣れていますよ……。
「……マジかよ。いや、こっちの話だ、気にしないでくれ。年齢は十三歳になる。ああ、そうしてくれ。須藤未奈の戸籍に関して何か分かったら折り返しを頼めるか? ……おう、ほんとすまん。今度肉でも食いに行こうぜ」
ピッと僅かに音がして、通話は終了したようだった。
赤柱さんは戸籍に関して誰かに調べてもらっている?
二十年前の世界であれば、存在するはずのない私の戸籍を?
彼の気付きに関係しているのだろうか?
「嬢ちゃん、あんたは中学生だったのかい?」
「……そうですね、義務教育から考えると今年が中学校への入学となるはずでした」
「え? あたしと同い年? え? え……!? それ! おかしくないですか!?」
割と沈黙を保っていたはずの鏡子が、私を三度見くらいしていた。
……そう、私の容姿は少しばかり老けているのである。
大人たちからもいつもそんなことを言われていたので、自覚もあった。
それでも……しょぼんです。
「確かに中学生の雰囲気ではないよな。大学生、違っても高校生くらいだと思っていたよ」
赤柱さんが肩をすくめていたので、世界と時間が変わっても、私は老けているらしい。
「うぅ……元の世界でもよく同じことを言われていましたよ。ですが、私の仕様なのであまり気にしないでもらえると幸いです……」
大学生に見える赤柱さんから大学生と思われていたということはつまり──。
……大丈夫。私は慣れているので傷つかない。大丈夫である。大丈夫なのだ。大丈未奈なのだ。
酷く面白くない冗談はともかく、私は先天異常の影響で、精神肉体共に実年齢よりも大分老いてしまっていた。
童顔気味なのと、母より低身長であることだけが救いだった。
おそらく、身長のおかげで、中学生と言われてもギリギリ通用する容姿……だと思う。
断じて私は高校生でも大学生でもないのだ。増してや、元の世界の鏡子が冗談でいった二十代でも通用するなんてことは絶対にありえない!
「了解だ。……一応補足しておくと、大人びている中学生も今時は珍しくない。社会人に見える学生も居るのだから、須藤さんが中学生でもおかしくはないさ」
──ほら! 元の世界の鏡子聞いてください! 赤柱さんはこう仰っているのですよ!
安堵を与えてくれた赤柱さんは、とても良い人だった。
店主さんも、若い鏡子も良い人だった。
再度思うのは、この世界で、私が縁に恵まれたこと。
「ウチの鏡子に半分くらいわけてもらえれば、このチビ助も少しはマシに見えるはずなんだがな」
「おじいちゃん! いくら何でも酷くないですか!?」
「いえ、鏡子は可愛いのでこのままで大丈夫です! むしろもう少し小さくても問題ありません!」
直前までコンプレックスを刺激されていた私だったが、興奮冷めやまずに主張する。
小さいのも鏡子の魅力の一つなのだ。
「問題大ありですよ!」
残念ながら鏡子には受け入れてもらえなかったが、現実は非情である。
彼女の身長が、この先変化しないことを私は知っていた。
「っと、早いな、もう折り返しがきたか。……ああ、俺だ。急がせて悪かったな」
鏡子とワーワーやっているうちに、赤柱さんのケータイに着信があったようだ。
……容姿の件で興奮して、大事な本題を一時忘却してしまっていた私の愚かさよ。
「なるほど、須藤未奈での該当はゼロ、と。……ああ、やっぱりそっちにあったか。ったく……。で、親類関係は? ……あいよ。写しの用意もしておいてくれ。そうだな、そっちも頼む。……ああ、ほんと助かった。また何かあるかもしれないが、その時はよろしく。おう、お疲れさん」
サクサクした会話で二度目の通話も終わる。
通話先の音は聞こえてこなかったけれど、赤柱さんの発言を聞いた限りでは──。
「もしかして……私の戸籍が、存在しているのですか?」
普通であれば、ありえないだろう馬鹿げた発想。
なのに、赤柱さんは当然のような顔で頷き。
「ご名答。ただ、名前は少しだけ違っているようだったけどな」
名前が少し違う、その言葉の意味を訊ねる前に、彼は極大の爆弾発言を用いて答えとしてしまった。
「戸籍に登録されていた氏名は赤柱未奈。そして、戸籍上、そこに居るオッサンの養女だ」
赤柱未奈!?
店主さんの養女!?
……意味が分からない。
店主さんは三和スミスさんで、赤柱未奈で、三和未奈ではなくて、養女で、戸籍で……?
混乱極まって、頭の中がぐるぐるしてきた。
「つまり、カカアも関わっていたってことかい?」
「まず間違いないな」
「そうかい。なら、やっぱり嬢ちゃんの件はオレの責任で間違いなかったようだな」
「俺本人じゃないが、戸羽を名乗る未来の俺の暗躍は確実のようだし、俺も責任は被るさ。須藤さん……いや、これからは未奈ちゃんか、未奈ちゃんからも詳しい話を聞く必要が余計に出てきたようだな」
私が呆けている間に男性陣の会話はドンドン進んでいく。
二人の間で通じている内容を、私は理解できていない。
同じように呆けていたのは私だけでなかったようで、鏡子も遅れて再起動した。
「はっ!? つまりですよ! この人はあたしのおばさんに当たるのですか?」
「私が鏡子の叔母……ですか?」
女性陣は混乱しているので、鏡子は思ったことをそのまま口にしたのだろう。
私も似たもので、自宅の教科書にあった家系図をとりあえず思い浮かべてみる。
店主さんの養女であるならば、私と鏡子の関係は三親等。
想像してみると、気持ちが一気に明るくなってきた!
「ありですね!」
鏡子の叔母という立場はとても楽しそうだ。
正直、現状を理解できるまでの逃避に過ぎないのだが、仮初でも鏡子の血縁に加われることは至上の喜びである。
口元を緩めて、ニヤリと笑ってしまっても仕方のない状況だった。
「やっぱりこの人、なんか変です! 怖いですよ!?」
鏡子が目を丸くしながら私を見つめて、ギャーと叫んだ。
──相変わらず鏡子は可愛いです。
私の混乱はもう暫く続いた。
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