その宝石の名前はフレラルート

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個性的な生徒会役員たち

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「うん? 日加賀会長? 今なんて言ったのかな?」

 生徒会室に集った七名の役員たち。
 長テーブル四卓をロの形にくっつけ、俺以外は卓に二名ずつ着席している。

 先ほどの発言は、正面席に座る内の一名、白衣を羽織った理系才女の佐久山さくやま咲理さくり先輩のもの。
 先の校長室での一件を伝え終えたばかりの場面である。

「佐久山。会長、生徒会の案件通したって言った。凄い。ぱちぱちぱち」

 右手側の一年生席、その一翼、向井むかい明名あけな君が佐久山先輩に話の概要を、無表情ながらに説明する。

 ──ありがとう向井君、助かるよ。

「なんと!? フォロー感謝する、向井少女。私は少々難聴の気があってね──などと言う私の不甲斐ない耳の話はどうでも良い! それよりもだ! よくやってくれたね日加賀会長!」

 内容が伝わったことで先輩の表情が一気に喜色笑むが、俺としては逆に微苦笑を返すしかない。

「いえ、あれは教頭が妙に乗り気だったからこそ通った案件です。決して、俺の手柄ではありませんよ」

 いくら女神様から自信を授かった俺だと言っても、校長室での結果はどう考えても教頭の暴走、もとい、快諾かいだくによるもの。
 言ってしまえば、生徒会会議での決定事項をただ伝達しただけに過ぎない。
 それに胸を張れるほど厚顔無恥にはなれないさ。

「ククク……謙遜けんそんするなが友よ。結果は結果だ。国家権力のおさに確約を取り付けてきたことに違いはあるまい。われらはその結果を評価しておるのだぞ?」

 正面席、佐久山先輩の右手隣、F世界出身で友人でもある金髪美男、アラン・トインが尊大に言い放つ。
 頷くのは五名の生徒会役員たち。
 どうやら皆、死霊しりょう世界の王と同意見のようだった。

「……正直、過ぎた評価だと思うけど、皆からの気持ちはありがたく頂戴しておくよ」

「うむ。我が褒め称えることは実に稀な事態であるからな、光栄に思うが良い」

 全員の瞳が真っすぐ自分に向いていることに気恥ずかしさを覚えるが、同時にそれは信頼の証だった。今日まで築き上げてきた絆でもある。これからも大切にしていきたいと心から思う。

「って言うか、副会長は? 会長さんが立派に仕事こなしたのに、この場に居ないとかありえなくない?」

 右側席、一年生女子のもう一翼、シアノ・バラミン君がポツリと洩らす。

 名前から分かるように彼女もアラン同様F世界の住人──F生徒である。
 比較的現代日本に近い文化背景を持つ出自のためか、制服は鷹泉高校のもので、多少ギャル系統混じりの今時の女子高生といった風貌ふうぼうだ。それでいてどこかはかなさも併せ持っている。

「バラミン君、それは誤解だよ。副会長、日乃ひのには今別件で動いてもらっているところだからね」

 察しの良い彼女は、俺の一言ですぐに得心した表情を見せる。

「あ、そういうこと。誤解してごめんね副会長。……あと、会長さん。バラミン呼びはできればやめて欲しいかな? アタシのことはシアノでお願いします──って、前にも言ったような言わなかったような?」

「ああ、すまない。失念していたよ。ばら……シアノ君だね」

「なんか一瞬怪しかったけど、その呼び方でお願いします。……何と言うか、マジでお願いしますからね?」

 念押しに懇願こんがんが込められていたので『バラミン』姓に何らかのコンプレックスがあるのだろう。
 以前言われた時には冗談めかしていたので誤ってしまったが、今後は十二分に気を付けていくことにしよう。

「ひ、日加賀会長! それでっ! こ、今後の生徒会の方針とかって、その、どうなるのでしょうか?」

 左サイドの男性陣の内、一年生のほう、黒縁眼鏡の素朴な少年が緊張しながらも意を決したように発言をした。

 彼は先ほどの二人とは違い正真正銘の日本人家系。
 しかし、その叔父は鷹泉高校伝説の生徒会長として名高い橋本いつき氏。叔父にも憧れて生徒会に入会してくれた彼は将来有望な人財である。

「橋本君、方針自体は今までと何ら変わらないよ。鷹泉の実質責任者である教頭先生に確約を取り付けることはできたけど、職員会議が行われるのは早くとも明後日の木曜日。校則の解釈変更ともなると、更にそこから相応の時間は必要となることが予想されるからね。一応今月、五月末の生徒会選挙前までにお願いしたいと伝えはしたが、後ろにズレ込むことを考えておいたほうが賢明だろう。つまり、大掛かりな方針変更は来期の生徒会での想定となる。生徒会室での作業は、今後も引き継ぎ資料の作成を主体に考えているよ」

「さっ、流石は日加賀会長っ! そこまですでに考えられているなんて……!」

 大袈裟に驚きを表現してくれる橋本三郎太さぶろうた君。
 羨望の瞳が眩しくありがたいけど、大したことは言っていないからね?

 次いで、彼とは正反対の反応を示したのがその隣席の長躯ちょうくだった。

「ケッ! そこまで決まっているなら会議はもう終わりでいいだろうがよ。オレ様は忙しいんだ、無駄話になんかに構っていられるか! ……まぁ、オレ様に助力をうんだったら考えてやらないこともないがな」

「なっ……大画月おおがつき先輩! 日加賀会長になんて口の利き方を!? いくら三年生でも言って良いことと悪い──」

 左手をかざし、感情的になってしまった後輩を制する。

「橋本君。大画月先輩は『皆疲れているのだから早めに話を切り上げたらどうだろうか?』と提案してくれたんだよ。受験生として多忙にも関わらず今後もお力を貸して下さる、と暗に加えてね。大画月先輩、常のご配慮心より感謝しております。もちろん同じ三年生である佐久山先輩のご尽力にも感謝申し上げます」

 この場に居る生徒会役員最後の一人、三年生の大画月王我おうが先輩は言い方こそ荒いが、その心根はここまでの反応に現れている。態度は横柄おうへいだが人の話には頷き等で必ず相づちを打ってくれるし、物言いにも本心が隠しきれない。シアノ君はつの言葉を借りるなら大画月先輩はツンデレなのである。

 ただ、誤解を招きかねない発言が多いことも事実で、橋本君のような素直な人柄とは水と油の関係にある。もう少し時間を共にすれば橋本君の誤解も氷解するだろうが、一ヶ月未満の現状ではまだまだ難しい様子だった。

「ふふ、日加賀会長にそう言ってもらえると悪い気はしないね。キミもそうだろう大画月?」

「……ケッ! 佐久山てめえのそういうところが気にくわねえんだよ! ……で、イチ、オレ様は何をすれば良い?」

「三年生のお二方には、同学年のF生徒との親交を深めることを最優先でお願いできますか? 三名とは言え、三年生のF生徒全員が生徒会に好意的であってもらえるなら、それほど心強いことはありません。そして、日本の常識を把握してもらい、いずれはF生徒たちの模範となってもらいたいとも考えています」

 生徒会の方針はひとまず従来通りの予定であるが、三年生組と日乃には下準備に取り掛かってもらう前提で計画を立てていた。
 下準備について話を伝えると、佐久山先輩は納得したように長いまつ毛を一度だけしばたかせる。
 憮然ぶぜんとした表情ではあるが、大画月先輩も鼻息を一つ洩らして快諾かいだくしてくれた。

「なるほど、了解したよ。幸いその内の一人はすでに私の友人でね、明日からは残り二人を大画月と共に攻略することにしよう」

「佐久山! てめえ勝手に決めてんじゃねえよ! オレ様のついででてめえが手を貸すんだよ!」

「はいはい、相変わらずツンデレだね」

「あぁッ!?」

 仲良しのお二方なら確実に成果を出してくれることだろう。

 確信し、ちらりと振り返る。
 窓の外は薄暗かった。大画月先輩の先ほどの提案もなるほどな景色である。

「さて、そろそろいい時間だね。他に質問のある人はいるかな?」

 念のため訊ねたが、沈黙が六名からの答えだった。

「では、本日の臨時生徒会会議はこれにて終了です。俺たちの任期は残り一ヶ月もありませんが、F生徒の受け入れを成功させ、鷹泉高校の未来に必ず繋げていきましょう」

 生徒会役員たちは一様に頷き、会議は終わりとなる。

 見えてきた希望に明日への意欲を燃やし、それぞれ帰宅の途へと就くのだった。





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