黒の少女と弟子の俺

まるまじろ

文字の大きさ
上 下
21 / 32

第21話・願いは突然叶う事がある

しおりを挟む
 シャルロッテさん達が経営する宿屋で開催された久しぶりの酒場は、大盛況の内に終わりを迎えた。
 それにしても、あの様に大きな酒場を展開したにしては、珍しくコレと言った大問題は起きなかった。だがそれも、当然と言えば当然と言える。
 なぜならこちらには、ティアとユキという優秀なモンスタースレイヤーが2人も揃っているのだから。
 もちろんティアとユキがモンスタースレイヤーである事は、酒場に来たお客さん達は知らなかっただろうけど、途中で起こったトラブルをティアとユキが解決してくれた事により、2人の事はすぐに話題となってモンスタースレイヤーである事も知れ渡った。
 そしてその2人がモンスタースレイヤーであると知れ渡れば、よほどの馬鹿者でない限りは問題を起こそうなどとは思わないだろう。つまり、ティアとユキがあの場に居ただけで、十分なトラブル防止効果があったわけだ。
 こうして酒場が開かれた翌日の早朝。
 部屋から出て下の階へ向かっていると、一階の受付カウンターがある場所に、なんとなく見覚えのある4人の女性達が集まっているのが見えた。

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 受付カウンターに集まっていた女性達はみんな嬉しそうな笑顔を浮かべ、シャルロッテさんに向かって頭を下げていた。

「おはようございます。シャルロッテさん」
「あっ、エリオス君。おはよう。昨日はお手伝いありがとう。とっても助かっちゃった」
「いえ。お役に立てて良かったです。ところで、この方達は?」
「この人達はね、昨日ユキちゃんに助けてもらった人達なの」
「ああ。どおりで見覚えがあるなと思いましたよ」
「それでね、みんなうちの宿屋で働きたくて、こうして来てくれたんだって」
「そうなんです! 出されたお酒や食べ物も凄く美味しかったし、店の雰囲気も良かったから。それに、ホワイトプリンセスもこの宿屋を気に入ってるって聞いたので、これは是が非でもここで働きたいと思ったんです! ねーっ!」
「「「うん!!」」」
「なるほど。そういう事だったんですか」
「うん。それでね、せっかくこうやってここを気に入って来てくれたから、全員雇わせてもらう事にしたの」
「そうですか。シャルロッテさんがそう決めたなら、それがいいと思いますよ」
「うん。それじゃあ、朝食はもうしばらくしたら部屋に持って行くから、それまで待っててね」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃあみんな、さっそくだけどお仕事を覚えてもらうね。私について来て」
「「「「はーい!」」」」

 シャルロッテさんも雇われた女性達も、みんな嬉しそうにしながらシャルロッテさん達の部屋がある方へと向かって行った。
 まだまだ大変な事はあるだろうけど、こういった事を切っ掛けにしてまた宿屋が繁盛してくれればいいと思う。
 そんな様子を見て俺達の役目は終わったなと感じつつ、俺は軽く外を散歩してから部屋へと戻って用意された朝食を摂った。

× × × ×

「ひろーいっ! これが海なんだ……凄いねっ! お兄ちゃん!」
「確かに凄いな……噂で聞いていた以上だよ」

 朝食を食べ終わった俺達は、そのまま街を出て4時間ほどの修行を行い、その足で初めて海へと訪れた。
 海は小さくもはっきりと聞こえる波音を立て、太陽の光が当たっている部分は満遍なくキラキラとした美しいきらめきを見せている。そして海に一番近い街まで届いていた微かな潮の匂いは強烈になり、その匂いはどこか懐かしさの様なものを感じさせた。
 そして初めて見る海の光景は、まさに驚嘆きょうたんの一言に尽きた。

「エオスにある水は、その多くがカラーモンスターが放つ瘴気しょうきの影響で汚染されているところが多いけど、どうして海はこんなにも綺麗なのかしら……」

 美しく透き通った波へ近付いたユキは、その波を見つめながらそんな事を呟いた。しかし、ユキがそんな疑問を口にするのはよく分かる。
 このエオスにカラーモンスターが出現し始めて以降、各地にある水を含めた自然はカラーモンスターの放つ瘴気に徐々に犯され、水は生活用水として使えないくらいにまで汚染されていた。
 そして人類は数少ない汚染されずに残っている水を大事に守り、それを利用して今も生きている。
 だが、汚染された水も流れ込んでいるはずの海は、この様に綺麗なままだ。そこにはきっと何か秘密があるのだろうけど、その謎は未だに解き明かされてはいない。
 なぜなら現在の人類が拠点としている場所からは海が遠く、カラーモンスターや魔獣などの妨害が多くてまともな調査を行えないからだ。
 もしも海が汚染されない理由が解明できれば、人類の水事情もかなり改善される事だろう。

「こんなに綺麗だと、入って遊びたくなるよね。お兄ちゃん」
「そうだな。文献では昔の人達は、水着を着て海で遊んでたって書いてたしな」
「あーあ。これなら街で可愛い水着を探して買っておけば良かったよ……そしたらお兄ちゃんと思いっきり遊べたのに……」
「まあ、今日はシャルロッテさんの計らいで海を見に来ただけだから、それは仕方ないさ」
「ぶぅ~」

 俺のそんな言葉に、ティアはもの凄く不満そうな表情を見せながら頬を膨らませた。歳で言えばまだ遊びたい盛りの年齢だから、ティアがこんな表情を見せるのも仕方ないと思える。
 しかしだからと言って、今から街へ水着を買いに戻る時間的な余裕は無い。いくら海に一番近い街と言えど、ここまではそれなりの距離があるからだ。

「ユキも海で遊びたかったかい?」
「そうね……まったく興味が無いと言えば嘘になるけど、それもティアほどではないわね。それよりも、どうして海が汚染されないのか――そっちの方が興味があるわ」

 なんともユキらしい回答に対し、俺は笑顔を浮かべた。
 見た目も歳もティアと変わらない子供だというのに、その心と精神はとても八歳とは思えない程に成熟している。

「そっか。俺は2人と遊べないのはちょっと残念かな」
「あら? エリオスは私の水着姿を見たかったの?」
「えっ? いや、まあ、見たくないかと言えば嘘になるかな」
「へえー。エリオスも何だかんだで男なのね。私の水着姿が見たいなんて」
「お・に・い・ちゃん? そんなにユキの水着姿が見たかったの? 私のじゃなくて……」

 いつもの様にユキの質問に答えると、その横に居たティアが冷たい笑顔を浮かべながら俺に迫って来た。

「い、いや、別にそう言う訳じゃ……」
「それじゃあどう言う訳なの? 今のやり取りを聞く限り、そういう意味にしか取れないんだけど? ちゃんと説明して? お兄ちゃん」

 言い知れないほどの冷たさを帯びた笑顔を見せながら、ティアは俺に迫る。
 そしてそんなティアを前に、俺は自然とその足を後退させていた。

「どうして後ろに下がるの? お兄ちゃん。やましい事があるから?」
「ち、違う! 俺が言いたかったのは、水着を着た2人と遊びたかったって意味だよっ! 俺は水着を着たティアも見たいんだ!」
「……本当にそう思ってる? お兄ちゃん」
「当たり前だろ? だってティアはこんなに可愛いんだから」
「…………」

 それは紛れも無く俺の本心で、そこに一切の嘘は無い。
 そして俺のそんな本音を聞いたティアは、少し顔を俯かせて身体をプルプルと震わせ始めたかと思うと、突然顔と両手を上げて口を開いた。

「ああーっ! やっぱり海に入ってお兄ちゃんと遊びた――――いっ!! 水着を着てお兄ちゃんに『世界一可愛い!』って言ってもらいたーいっ!!」

 どうやら俺に対する誤解は晴れたらしく、先ほどまでの冷たい笑顔はさっぱりと消えていた。

「あははっ。そうは言っても、水着が無いから仕方ないだろう?」
「ぶぅー。シャルロッテさんが持たせてくれた荷物の中に、水着が入ってたらいいのになあ~」
「ははっ。シャルロッテさんはお昼のお弁当が入ってるって言ってたから、残念だけどそれはないだろうね。とりあえずせっかく用意してもらったんだから、お昼ご飯にしよう」
「そうね。時間的にはちょうどお昼だし、ここで海を見ながら食べるのもいいかもしれないわ。でもエリオス、カラーモンスターや魔獣の接近には十分に気を付けなさいね?」
「分かってるよ、ユキ」

 俺は笑顔でそう答えたあと、シャルロッテさんから持たされていた大きな包みを開けた。するとその中にはとても大きな箱が五段ほど積み重ねられていて、更にその上には、白い布に包まれた何かがあった。

「うわー! シャルロッテさん、こんなに沢山お弁当を用意してくれたんだ。凄いなあ♪」
「ホント。凄い量だなこれは」
「3人で食べるには多過ぎるかもしれないけど、美味しくいただきましょう」
「そうだね」

 俺は自分の道具袋からシートを取り出し、それを砂浜の部分へと敷いた。
 そして積み重ねられたお弁当を上から順に取り、それをシートの上へ次々と並べていった。

「この包みには何が入ってるのかな?」
「さあ? でも、大きさを見る限りは食べ物じゃないと思うけどな」
「開けてみてもいいかな? お兄ちゃん」
「うん。いいよ」

 正直俺も中身が気になっていたから、ティアの言葉にすぐに頷いた。
 こうして俺がみんなの食事の用意を進める中、ティアは中身を覆っている白い布を外していく。そしてその布が全て取り外された時、現れた中身を見たティアは大きな歓喜の声を上げた。

「み、水着だっ! コレ水着だよっ! お兄ちゃん!」

 取り出した中身の一枚を両手に持ち、それをさっと上げて俺に見せるティア。
 それは可愛らしいフリルの付いた、黒に白の水玉模様が描かれたワンピース水着で、とてもティアに似合いそうなものだった。

「あっ! もう一つあるよっ!」

 そう言うとティアは持っていた水着を下に置き、もう一つの水着を両手に持った。

「わあっ! これも可愛いっ!」

 次にティアが両手で持ち上げた水着は、可愛らしいフリル付きのビキニ水着で、上下共に綺麗な空色をしていた。
 そしてティアが持ち上げたその水着の下に男物の水着があるのが見えると、その上に一枚の手紙が置かれていた。俺はユキに水着を見せるティアを見ながらその手紙に手を伸ばし、手に取ったその手紙の内容を読んだ。
 その手紙にはシャルロッテさんから、『この水着は今まで色々と手助けをしてくれたエリオス君達へのささやかなお礼です。私達には戦う力が無いから無理だけど、エリオス君達ならモンスターに襲われても平気だろうから、危なくない様にして海を楽しんで来てほしいです』――と書かれていた。
 普段から海で遊ぶ事を切望していたティアの事をシャルロッテも知っていたから、この機会に海で遊べるようにと準備をしてくれたのだろう。

「お兄ちゃん! さっそく海で遊ぼうよっ!」
「待ちなさいティア。まずは昼食を摂るのが先よ。海で遊ぶのはそのあと」
「ええっ!? だったら早く食べて着替えようよ! ほらっ! お兄ちゃんも急いで食べて!」
「あ、ああ。分かったよ」
「むぐむぐ……コレ美味し――――い!!」

 さっそくお弁当に手を付けたティアが、満面の笑顔を浮かべながら絶賛の声を上げる。
 そんなはしゃぐティアを見ながらお弁当を食べ進めつつ、俺達はこのあと初めての海遊びを体験する事になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...