牢獄から始める、ちょっぴりガメツイ宮廷呪術師生活 ~冤罪に婚約破棄。貴族は面倒くさすぎるので、慎みは投げ捨ててこれからはがっつり稼ぎます~

八朔ゆきの

文字の大きさ
上 下
43 / 68
第三幕

② リーズデール様、さすがです

しおりを挟む
 リーズデールはローランと初めて出会った部屋で優雅な雰囲気のまま、まるで獲物を狙う鷹のような目つきでローランを待ち構えていた。

「リーズデール様。お招きに応じ参上いたしました」
「よく来てくれましたね、ローラン」

 ローランに着座を促しながら、軽く目配せを送る。それだけで、まるでおとぎ話の魔法でも使ったかのようにメイドたちがどこからともなく現れた。
 
 そのまま幻のように音も無く茶菓子が自分のために供されるのを見て、目を丸くする。まさに熟練の技だった。アルマではこうはいかないだろう。

「……すごいですね。まるで魔法みたいです」
「凄腕の魔術師が魔法みたいですって。良かったわねクリスタ」
「恐縮です」

 コロコロと愉快そうに笑うリーズデールから一歩畏まった位置で、クリスタと呼ばれたメイドが優美に頭を下げて見せた。
 まさに礼儀作法の教科書のような女性だ。

「それで、リーズデール様。本日のお招きのご用件はなんでございましょう?」
「そうね。その前にまずは貴女の用件をかたづけてしまいましょうか」

 本当は一刻も早く商売の許可と助言を貰いたいのだが、さすがに呼び出された用件を放り投げて切り出すわけにもいかない。
 さっさとリーズデールの用件をかたづけてしまおう。

 そんなローランの考えなんかお見通しとばかりにリーズデールはそう切り出した。

「良いのですか?」
「ええ。アルマから聞きましたよ。慰霊祭にあわせて催される予定の夜会で一儲けを企んでいるのですって?」
「はい。お招きいただいた身で恐縮でございますが、本日はそちらの許可をいただければと」

 早速とばかり、クララと2人してしたためた企画書を取り出して傍らのメイドに手渡す。気がつけば企画書はリーズデールの手元に移動していた。

 パラパラと簡単にめくって内容を確認する。
 まるで試験でも受けているような緊張感を感じながら、ローランはリーズデールが企画書を読み終えるのを待った。

「そうね。なかなか良いと思うわ。とくに宮廷の貴族をターゲットにしているのはいいわね。これならばレオも渋りはしないでしょう」
「それでは!?」
「許可します。ただ、これだけではちょっと物足りないわね」

 やっぱりか、とローランは少し肩を落とした。
 クララと2人して考えに考えたつもりだが、出来上がりはどうも違和感を感じさせるものだったのだ。

 宮廷の貴族、とくに若い女性層に恋のまじない符を大々的に売り出す。
 もちろん、彼女たちの主戦場は夜会なのだから、それまでが勝負だ。

「これでは夜会のかなり前に商機のピークが来てしまうわよ。一番、お金が動くのは夜会の直前なのだから、そこに焦点を合わせないと」
「それは確かにそうなのですが」

 そこはローランも気にしている部分だった。

 だが、恋のまじない符という商品の特性上、どうしてもこうなってしまう。

 意中の相手にも予定があるのだから、かなり前にパシッと予定を組んでしまおうと思うと動きがどうしても前倒しになってしまうのだ。

「いい、ローラン。恋のまじない符で首尾良く意中の方に夜会でエスコートしてもらう約束は得たとしましょう。次に彼女たちが求めるものは、もちろん夜会での美しい思い出よ。けど、その思い出の中に恋のまじない符は入る隙間がないわ」

 さすがはリーズデールと唸りつつ、ローランは違和感の正体が自分の商品のアピール不足にあることを遅まきながら気がついた。

 お役に立つのはいいが、くっついてしまえばそこで終わりという商品でもあるのだ。

「なるほど……確かにそうですね。思い出、ですか」
「そうよ。そこに食い込めば彼女たちは夜会を思い出す度に貴女の商品のことも思い出すわ。その思い出の中の席を狙うべきだと思うわよ」

 ぐうの音も出ない。

「となると、アクセサリでしょうか。恋のまじない符で意中の相手とのお約束を取り付ければ、次は対のアクセサリで一体感を演出するというのがセオリーではないかと」
「アクセサリでは魔術具にならないのではなくて?」
「では、互いに同じ輝きを放つようにするとか」

 それならば難しいことはない。簡単な呪言をアクセサリに彫り込むだけで実現可能だ。
 だが、リーズデールは笑いながら、その発想を窘めた。

「1組や2組みぐらいならステキね。けど、夜会には大勢いるのよ? みんながそれでは目がチカチカして煩くなってしまうわ」
「む、むう」
「そこで、貴女を呼んだ理由に繋がるというわけなの。実はローラン、貴女にドレスを作らなくては思って今日は来て貰ったのよ。どうかしら? ちょっと広告塔になってみない?」

 思いもかけないリーズデールの言葉に、ローランはパチクリと目をしばたいた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

断罪茶番で命拾いした王子

章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。 5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

処理中です...