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第三幕
② リーズデール様、さすがです
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リーズデールはローランと初めて出会った部屋で優雅な雰囲気のまま、まるで獲物を狙う鷹のような目つきでローランを待ち構えていた。
「リーズデール様。お招きに応じ参上いたしました」
「よく来てくれましたね、ローラン」
ローランに着座を促しながら、軽く目配せを送る。それだけで、まるでおとぎ話の魔法でも使ったかのようにメイドたちがどこからともなく現れた。
そのまま幻のように音も無く茶菓子が自分のために供されるのを見て、目を丸くする。まさに熟練の技だった。アルマではこうはいかないだろう。
「……すごいですね。まるで魔法みたいです」
「凄腕の魔術師が魔法みたいですって。良かったわねクリスタ」
「恐縮です」
コロコロと愉快そうに笑うリーズデールから一歩畏まった位置で、クリスタと呼ばれたメイドが優美に頭を下げて見せた。
まさに礼儀作法の教科書のような女性だ。
「それで、リーズデール様。本日のお招きのご用件はなんでございましょう?」
「そうね。その前にまずは貴女の用件をかたづけてしまいましょうか」
本当は一刻も早く商売の許可と助言を貰いたいのだが、さすがに呼び出された用件を放り投げて切り出すわけにもいかない。
さっさとリーズデールの用件をかたづけてしまおう。
そんなローランの考えなんかお見通しとばかりにリーズデールはそう切り出した。
「良いのですか?」
「ええ。アルマから聞きましたよ。慰霊祭にあわせて催される予定の夜会で一儲けを企んでいるのですって?」
「はい。お招きいただいた身で恐縮でございますが、本日はそちらの許可をいただければと」
早速とばかり、クララと2人してしたためた企画書を取り出して傍らのメイドに手渡す。気がつけば企画書はリーズデールの手元に移動していた。
パラパラと簡単にめくって内容を確認する。
まるで試験でも受けているような緊張感を感じながら、ローランはリーズデールが企画書を読み終えるのを待った。
「そうね。なかなか良いと思うわ。とくに宮廷の貴族をターゲットにしているのはいいわね。これならばレオも渋りはしないでしょう」
「それでは!?」
「許可します。ただ、これだけではちょっと物足りないわね」
やっぱりか、とローランは少し肩を落とした。
クララと2人して考えに考えたつもりだが、出来上がりはどうも違和感を感じさせるものだったのだ。
宮廷の貴族、とくに若い女性層に恋のまじない符を大々的に売り出す。
もちろん、彼女たちの主戦場は夜会なのだから、それまでが勝負だ。
「これでは夜会のかなり前に商機のピークが来てしまうわよ。一番、お金が動くのは夜会の直前なのだから、そこに焦点を合わせないと」
「それは確かにそうなのですが」
そこはローランも気にしている部分だった。
だが、恋のまじない符という商品の特性上、どうしてもこうなってしまう。
意中の相手にも予定があるのだから、かなり前にパシッと予定を組んでしまおうと思うと動きがどうしても前倒しになってしまうのだ。
「いい、ローラン。恋のまじない符で首尾良く意中の方に夜会でエスコートしてもらう約束は得たとしましょう。次に彼女たちが求めるものは、もちろん夜会での美しい思い出よ。けど、その思い出の中に恋のまじない符は入る隙間がないわ」
さすがはリーズデールと唸りつつ、ローランは違和感の正体が自分の商品のアピール不足にあることを遅まきながら気がついた。
お役に立つのはいいが、くっついてしまえばそこで終わりという商品でもあるのだ。
「なるほど……確かにそうですね。思い出、ですか」
「そうよ。そこに食い込めば彼女たちは夜会を思い出す度に貴女の商品のことも思い出すわ。その思い出の中の席を狙うべきだと思うわよ」
ぐうの音も出ない。
「となると、アクセサリでしょうか。恋のまじない符で意中の相手とのお約束を取り付ければ、次は対のアクセサリで一体感を演出するというのがセオリーではないかと」
「アクセサリでは魔術具にならないのではなくて?」
「では、互いに同じ輝きを放つようにするとか」
それならば難しいことはない。簡単な呪言をアクセサリに彫り込むだけで実現可能だ。
だが、リーズデールは笑いながら、その発想を窘めた。
「1組や2組みぐらいならステキね。けど、夜会には大勢いるのよ? みんながそれでは目がチカチカして煩くなってしまうわ」
「む、むう」
「そこで、貴女を呼んだ理由に繋がるというわけなの。実はローラン、貴女にドレスを作らなくては思って今日は来て貰ったのよ。どうかしら? ちょっと広告塔になってみない?」
思いもかけないリーズデールの言葉に、ローランはパチクリと目をしばたいた。
「リーズデール様。お招きに応じ参上いたしました」
「よく来てくれましたね、ローラン」
ローランに着座を促しながら、軽く目配せを送る。それだけで、まるでおとぎ話の魔法でも使ったかのようにメイドたちがどこからともなく現れた。
そのまま幻のように音も無く茶菓子が自分のために供されるのを見て、目を丸くする。まさに熟練の技だった。アルマではこうはいかないだろう。
「……すごいですね。まるで魔法みたいです」
「凄腕の魔術師が魔法みたいですって。良かったわねクリスタ」
「恐縮です」
コロコロと愉快そうに笑うリーズデールから一歩畏まった位置で、クリスタと呼ばれたメイドが優美に頭を下げて見せた。
まさに礼儀作法の教科書のような女性だ。
「それで、リーズデール様。本日のお招きのご用件はなんでございましょう?」
「そうね。その前にまずは貴女の用件をかたづけてしまいましょうか」
本当は一刻も早く商売の許可と助言を貰いたいのだが、さすがに呼び出された用件を放り投げて切り出すわけにもいかない。
さっさとリーズデールの用件をかたづけてしまおう。
そんなローランの考えなんかお見通しとばかりにリーズデールはそう切り出した。
「良いのですか?」
「ええ。アルマから聞きましたよ。慰霊祭にあわせて催される予定の夜会で一儲けを企んでいるのですって?」
「はい。お招きいただいた身で恐縮でございますが、本日はそちらの許可をいただければと」
早速とばかり、クララと2人してしたためた企画書を取り出して傍らのメイドに手渡す。気がつけば企画書はリーズデールの手元に移動していた。
パラパラと簡単にめくって内容を確認する。
まるで試験でも受けているような緊張感を感じながら、ローランはリーズデールが企画書を読み終えるのを待った。
「そうね。なかなか良いと思うわ。とくに宮廷の貴族をターゲットにしているのはいいわね。これならばレオも渋りはしないでしょう」
「それでは!?」
「許可します。ただ、これだけではちょっと物足りないわね」
やっぱりか、とローランは少し肩を落とした。
クララと2人して考えに考えたつもりだが、出来上がりはどうも違和感を感じさせるものだったのだ。
宮廷の貴族、とくに若い女性層に恋のまじない符を大々的に売り出す。
もちろん、彼女たちの主戦場は夜会なのだから、それまでが勝負だ。
「これでは夜会のかなり前に商機のピークが来てしまうわよ。一番、お金が動くのは夜会の直前なのだから、そこに焦点を合わせないと」
「それは確かにそうなのですが」
そこはローランも気にしている部分だった。
だが、恋のまじない符という商品の特性上、どうしてもこうなってしまう。
意中の相手にも予定があるのだから、かなり前にパシッと予定を組んでしまおうと思うと動きがどうしても前倒しになってしまうのだ。
「いい、ローラン。恋のまじない符で首尾良く意中の方に夜会でエスコートしてもらう約束は得たとしましょう。次に彼女たちが求めるものは、もちろん夜会での美しい思い出よ。けど、その思い出の中に恋のまじない符は入る隙間がないわ」
さすがはリーズデールと唸りつつ、ローランは違和感の正体が自分の商品のアピール不足にあることを遅まきながら気がついた。
お役に立つのはいいが、くっついてしまえばそこで終わりという商品でもあるのだ。
「なるほど……確かにそうですね。思い出、ですか」
「そうよ。そこに食い込めば彼女たちは夜会を思い出す度に貴女の商品のことも思い出すわ。その思い出の中の席を狙うべきだと思うわよ」
ぐうの音も出ない。
「となると、アクセサリでしょうか。恋のまじない符で意中の相手とのお約束を取り付ければ、次は対のアクセサリで一体感を演出するというのがセオリーではないかと」
「アクセサリでは魔術具にならないのではなくて?」
「では、互いに同じ輝きを放つようにするとか」
それならば難しいことはない。簡単な呪言をアクセサリに彫り込むだけで実現可能だ。
だが、リーズデールは笑いながら、その発想を窘めた。
「1組や2組みぐらいならステキね。けど、夜会には大勢いるのよ? みんながそれでは目がチカチカして煩くなってしまうわ」
「む、むう」
「そこで、貴女を呼んだ理由に繋がるというわけなの。実はローラン、貴女にドレスを作らなくては思って今日は来て貰ったのよ。どうかしら? ちょっと広告塔になってみない?」
思いもかけないリーズデールの言葉に、ローランはパチクリと目をしばたいた。
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