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第二幕
⑥ さっそく絡まれてしまいましたの
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黄色いローブの魔術師たちの人数は3人。
みな、ローランやクララと同じか少し上の年齢のようだ。
(みなさん、意外とお若いのですね。それとも、たまたま若い方と行き会っただけかしら?)
帝冠継承候補者の試練を支える魔術師たちは手練れ揃いに違いない。
そう思い込んでいたローランだが、すぐに5名きりという弱小魔術師団はカルンブンクルス公国ぐらいのものだということを思い出す。
お使いのようなことは若年者に割り振られているだけなのだろう。
ただ、年若いためか感情にブレーキが効いていないようなのは少し問題な気もするが。
(まあ、お互いの公子が帝冠を争う間柄ですものね。その部下と部下の仲が良いというのはさすがにムシが良すぎますか)
ともあれ、新参者のローランがしゃしゃり出るのもおかしな話だ。ここは先輩にまかせて静観を決め込むことにする。
「なら、早くお仕事に戻れば良いのでは?」
「あら、ご機嫌斜めですわね。レオンハルト公子殿下が本格的に帝冠継承候補として活動されると言うのに。クララ様の活躍を楽しみにしておりましてよ」
絵に描いたような貴族令嬢のイヤミに、腹が立つより感心が先に来る。
まるで淀みなく、高慢な口上が湧き出る様は泉のごとし。ただし、その水はかなり濁っていそうだが。
「私の活躍の場はありませんよ。新しい魔術師がいますから」
「尚武が気風のカルンブンクルス公国に、あなた方以上の魔術師が?」
「カルンブンクルス公国に恩義を感じておられる方は多いですから」
脳筋公国にろくな魔術士がいないだろうというイヤミに、あっさりとウチには居ませんが居るところにはいますからと返すクララ。
貴族落第生として、こういう口上がさっぱりだったローランにしてみればなかなか見応えのあるやり取りだった。
こうして外野から見ている分にはとっても楽しい。
まるで歌劇の一場面のようだとさえ思える。
「もしかして、そちらの黒い方がその魔術師でして?」
自分に矛先がむかなければ、だが。
「異国の方ですわね。黒い髪なんて、帝国のどこにもおりませんもの。そういえば、確かハーデン伯爵を弑しようとして奴隷に落とされた女がたしか黒い髪の異国の女でしたわね……」
何かを思い出したらしく、クララに楽しげに絡んでいたベアトリスの表情が険しく変化した。
ベアトリスに従っていた2人の魔術師も厳しい顔つきでローランを睨みつける。
「初対面の方に、そう気色ばまれる覚えはないのですけど」
「何を白々しい。ハーデン伯爵は我らがアマーリア・スファレウス公女殿下の側近中の側近。そのお方を殺そうとした女を黙って見過ごすほど、呆けてはおりません」
いつの間にか、そんなことになっていたらしい。
一応は婚約者だったというのに、何も知らされていなかったことに軽いショックを受けつつ、ローランは杖を構えていきなり呪文を唱えだしたベアトリス達を白らけた気分で見つめた。
「城の中ですよ! 何を考えているのです!」
「噂に聞く奴隷魔術師にご挨拶するだけです。貴女は黙ってみていなさい。三流魔術師に怪我をさせては私も寝覚めが悪いですからね!」
叫びながらベアトリスが杖で描く魔法陣に魔力が籠もる。背後の2人はベアトリスの魔法を増幅するための支援魔法を唱えていた。
(木性ということは雷の魔法か。ヤル気満々ね)
どこからどうみても、脅しではすまない攻撃魔法だ。
(さて。金貨はもったい無いわね。銀貨、ももったい無い。銅貨。銅貨なら……百歩譲って銅貨なら。クララさんを巻き込むのも申し訳無いですし、銅貨なら……)
葛藤しつつ、銅貨を手の平に乗せて雷の魔術が完成するのを待つ。
「身の程をわきまえなさい! 雷よ形をなして敵を焼くがいい!」
「金克木」
ベアトリスの絶叫と共に放たれた雷が、ローランのつぶやきと共にシュルシュルと手の平の銅貨に吸い込まれる。
あまりにもあっけない結末にクララが呆けたようにローランの手の平を見つめた。
「な、何をしました!」
「ただ、雷を禁じただけですよ。ああ、やっぱり少し溶けてしまいましたね……。まだ使えるかしら。いえ、混ぜて使えば気がつかれないかも」
銅貨が傷ついたことを嘆くローランを気味悪そうな目で見つめながら、ベアトリスが杖を降ろす。ようやく、この場所が城内の公的な場所だと思い出したらしい。
「気味の悪い奴隷ですこと。クララ様。そのような薄気味悪い奴隷魔術師など、さっさと追い出すのがカルンブンクルス公国のためですよ」
テンプレ直球の捨て台詞と共に立ち去るスファレウス公国の魔術師たちからさっさと視線を逸らしたクララは銅貨を片手に難しい顔で唸っているローランに目を移した。
借金まみれで銅貨1枚にモッタイナイと嘆く金銭感覚。
それでいて、見たことも聞いたことも無い不思議な魔術を操る才能。
なんとなく、こう放っておけない気分になってくる。
クララは不幸で強い女の子に弱かった。
みな、ローランやクララと同じか少し上の年齢のようだ。
(みなさん、意外とお若いのですね。それとも、たまたま若い方と行き会っただけかしら?)
帝冠継承候補者の試練を支える魔術師たちは手練れ揃いに違いない。
そう思い込んでいたローランだが、すぐに5名きりという弱小魔術師団はカルンブンクルス公国ぐらいのものだということを思い出す。
お使いのようなことは若年者に割り振られているだけなのだろう。
ただ、年若いためか感情にブレーキが効いていないようなのは少し問題な気もするが。
(まあ、お互いの公子が帝冠を争う間柄ですものね。その部下と部下の仲が良いというのはさすがにムシが良すぎますか)
ともあれ、新参者のローランがしゃしゃり出るのもおかしな話だ。ここは先輩にまかせて静観を決め込むことにする。
「なら、早くお仕事に戻れば良いのでは?」
「あら、ご機嫌斜めですわね。レオンハルト公子殿下が本格的に帝冠継承候補として活動されると言うのに。クララ様の活躍を楽しみにしておりましてよ」
絵に描いたような貴族令嬢のイヤミに、腹が立つより感心が先に来る。
まるで淀みなく、高慢な口上が湧き出る様は泉のごとし。ただし、その水はかなり濁っていそうだが。
「私の活躍の場はありませんよ。新しい魔術師がいますから」
「尚武が気風のカルンブンクルス公国に、あなた方以上の魔術師が?」
「カルンブンクルス公国に恩義を感じておられる方は多いですから」
脳筋公国にろくな魔術士がいないだろうというイヤミに、あっさりとウチには居ませんが居るところにはいますからと返すクララ。
貴族落第生として、こういう口上がさっぱりだったローランにしてみればなかなか見応えのあるやり取りだった。
こうして外野から見ている分にはとっても楽しい。
まるで歌劇の一場面のようだとさえ思える。
「もしかして、そちらの黒い方がその魔術師でして?」
自分に矛先がむかなければ、だが。
「異国の方ですわね。黒い髪なんて、帝国のどこにもおりませんもの。そういえば、確かハーデン伯爵を弑しようとして奴隷に落とされた女がたしか黒い髪の異国の女でしたわね……」
何かを思い出したらしく、クララに楽しげに絡んでいたベアトリスの表情が険しく変化した。
ベアトリスに従っていた2人の魔術師も厳しい顔つきでローランを睨みつける。
「初対面の方に、そう気色ばまれる覚えはないのですけど」
「何を白々しい。ハーデン伯爵は我らがアマーリア・スファレウス公女殿下の側近中の側近。そのお方を殺そうとした女を黙って見過ごすほど、呆けてはおりません」
いつの間にか、そんなことになっていたらしい。
一応は婚約者だったというのに、何も知らされていなかったことに軽いショックを受けつつ、ローランは杖を構えていきなり呪文を唱えだしたベアトリス達を白らけた気分で見つめた。
「城の中ですよ! 何を考えているのです!」
「噂に聞く奴隷魔術師にご挨拶するだけです。貴女は黙ってみていなさい。三流魔術師に怪我をさせては私も寝覚めが悪いですからね!」
叫びながらベアトリスが杖で描く魔法陣に魔力が籠もる。背後の2人はベアトリスの魔法を増幅するための支援魔法を唱えていた。
(木性ということは雷の魔法か。ヤル気満々ね)
どこからどうみても、脅しではすまない攻撃魔法だ。
(さて。金貨はもったい無いわね。銀貨、ももったい無い。銅貨。銅貨なら……百歩譲って銅貨なら。クララさんを巻き込むのも申し訳無いですし、銅貨なら……)
葛藤しつつ、銅貨を手の平に乗せて雷の魔術が完成するのを待つ。
「身の程をわきまえなさい! 雷よ形をなして敵を焼くがいい!」
「金克木」
ベアトリスの絶叫と共に放たれた雷が、ローランのつぶやきと共にシュルシュルと手の平の銅貨に吸い込まれる。
あまりにもあっけない結末にクララが呆けたようにローランの手の平を見つめた。
「な、何をしました!」
「ただ、雷を禁じただけですよ。ああ、やっぱり少し溶けてしまいましたね……。まだ使えるかしら。いえ、混ぜて使えば気がつかれないかも」
銅貨が傷ついたことを嘆くローランを気味悪そうな目で見つめながら、ベアトリスが杖を降ろす。ようやく、この場所が城内の公的な場所だと思い出したらしい。
「気味の悪い奴隷ですこと。クララ様。そのような薄気味悪い奴隷魔術師など、さっさと追い出すのがカルンブンクルス公国のためですよ」
テンプレ直球の捨て台詞と共に立ち去るスファレウス公国の魔術師たちからさっさと視線を逸らしたクララは銅貨を片手に難しい顔で唸っているローランに目を移した。
借金まみれで銅貨1枚にモッタイナイと嘆く金銭感覚。
それでいて、見たことも聞いたことも無い不思議な魔術を操る才能。
なんとなく、こう放っておけない気分になってくる。
クララは不幸で強い女の子に弱かった。
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