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第二幕
⑤ 初出仕。先輩はちょっとモチベが下がり気味の様子です
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奴隷から解放はされたものの、枷は残る。
成り行きで抱えた負債のために、カルンブンクルス公国の魔術士となったローランはさっそく帝城に出仕することとなった。
借金を返し終わるまではしばらく宮仕えの日々が待っているというわけだ。
「それにしても、ローランさんも色々と大変ですね」
そんなローランに城内を案内してくれているのは、公国から派遣されてきた魔術師たちの中でも一番年若いクララという魔術士だった。
ローランと年の頃は同じぐらいで、明るいオレンジ色の髪をお下げにしている。
かなり小柄な体格なせいか、魔術師の証の杖を引きずりながら歩く姿がちょっと可愛い。
「奴隷から解放されたと思っても、結局は借金で縛り付けられて。逆らえないっていうことでは奴隷と変わんないですよね」
「さすがに奴隷よりはマシじゃないかしら」
「けど、大金貨25枚なんて実質奴隷ですよ。返せる見込みがないじゃないですか」
「頑張れば、いつかは返せるわよ」
気の毒そうな目を向けるクララに少しばかりの罪悪感を感じながら、ローランは曖昧に笑って誤魔化した。
ローランのことはカルンブンクルス公国の内部にも全てが伝えられているわけでは無い。死人の村の事件のことは全てレオンハルトの功績ということになっていた。
クララの知るローランは罪を得て奴隷に落とされたものの、たまたま魔術具に関する助言を行った功績によって、大公の妹に救われたという表面上の経歴だけだ。
救われたと言っても、ローランを購うために費やされた大金貨は全てローランの借金になっているので、奴隷のチョーカーがついていないだけで実質奴隷みたいなものとクララは考えているようだった。
そのためか、クララは最初からローランに好意的だった。
だだっ広い帝城の道案内も面倒臭い関係部署への顔見せも、命じられてではなく自ら買って出てくれた。
「そりゃあ、給料は悪くないですけど、さすがに額が大きすぎますよ。おまけにレオンハルト殿下はともかく、大公殿下も国のみんなも急にやる気出しちゃうし。巻き込まれる身にもなって欲しいですよ、ホントに。下手すれば命が懸かっちゃうんですよ。これまでと同じでいいじゃないですか……あ、ローランさん。そこで、ちょっと止まってください」
もっとも、同情にかまけてこうして愚痴をこぼせる相手が欲しかっただけかもしれないが。
カルンブンクルス公国から派遣されている魔術師はわずかに5名。
クララ以外はみな男の魔術師で、10代なのもクララ1人だ。
気軽に話が出来る相手が職場にいない。
同年代の女の子の同僚はやはり嬉しかったのかもしれない。
色々と思うところをブツブツとこぼしながら、クララは壁の色が変わったところでピタリと足を止めた。
赤い色を基調とした廊下から、白を基調とした廊下へと切り替わっており、そこを境に結界の質も変わっているのが見て取れる。
「ここでカルンブンクルス公国の管理する場所は終わりです。ここからは中央の宮廷魔術士の管轄になるので気をつけて下さい」
「この壁の色が目印になっているのね」
「ええ。基本的に壁の色とそれぞれの公国の旗色は同じですから。紅色の壁のところはウチの管轄と覚えておけば、まず大丈夫です。たまに飛び地になってたりしますけど、そこは後日ご案内しますから」
そうローランに説明しながら、クララは無駄の無い動きで呪文を唱えると床に自身の魔力で魔法陣を描いた。
不満たらたらなので、よっぽど魔術士に向いていないのかと思ったがそうでもないらしい。
「うん。大丈夫ですね。とくに結界のほころびもなさそうです」
「手際がいいわね」
「慣れですよ。毎日のように結界の綻びを繕ってたら、イヤでも上手くなります――うげ」
敷地の境界で結界を確認していたクララはこちらに歩いてくる一団を目にすると、露骨に嫌そうな顔を見せた。
黄色いローブを纏っているところを見ると、他の公国の魔術士たちだろう。
(確か、黄色はスファレウス公国でしたっけ)
カルンブンクルス公国とは対照的に、伝統的に魔術を重要視するお国柄の公国だ。歴代の皇帝も2番目に多く輩出しており、重要な役職に就く貴族もまた多い。
「あら。クララ様ではありませんか。毎日、大変ですわね」
「ベアトリス様。ここはもうカルンブンクルス公国の管轄ですよ。何のご用ですか?」
「たまたま近くを通っただけですよ。何しろ、自分の公国の執務だけにかまけていられるほど恵まれておりませんので」
暗にさっさとどこかへ行けというクララの言葉をベアトリスと呼ばれた魔術師がフンと鼻で笑い飛ばす。
どうやらクララとベアトリスは旧知の仲らしい。
ただし、かなり関係は悪そうだった。
成り行きで抱えた負債のために、カルンブンクルス公国の魔術士となったローランはさっそく帝城に出仕することとなった。
借金を返し終わるまではしばらく宮仕えの日々が待っているというわけだ。
「それにしても、ローランさんも色々と大変ですね」
そんなローランに城内を案内してくれているのは、公国から派遣されてきた魔術師たちの中でも一番年若いクララという魔術士だった。
ローランと年の頃は同じぐらいで、明るいオレンジ色の髪をお下げにしている。
かなり小柄な体格なせいか、魔術師の証の杖を引きずりながら歩く姿がちょっと可愛い。
「奴隷から解放されたと思っても、結局は借金で縛り付けられて。逆らえないっていうことでは奴隷と変わんないですよね」
「さすがに奴隷よりはマシじゃないかしら」
「けど、大金貨25枚なんて実質奴隷ですよ。返せる見込みがないじゃないですか」
「頑張れば、いつかは返せるわよ」
気の毒そうな目を向けるクララに少しばかりの罪悪感を感じながら、ローランは曖昧に笑って誤魔化した。
ローランのことはカルンブンクルス公国の内部にも全てが伝えられているわけでは無い。死人の村の事件のことは全てレオンハルトの功績ということになっていた。
クララの知るローランは罪を得て奴隷に落とされたものの、たまたま魔術具に関する助言を行った功績によって、大公の妹に救われたという表面上の経歴だけだ。
救われたと言っても、ローランを購うために費やされた大金貨は全てローランの借金になっているので、奴隷のチョーカーがついていないだけで実質奴隷みたいなものとクララは考えているようだった。
そのためか、クララは最初からローランに好意的だった。
だだっ広い帝城の道案内も面倒臭い関係部署への顔見せも、命じられてではなく自ら買って出てくれた。
「そりゃあ、給料は悪くないですけど、さすがに額が大きすぎますよ。おまけにレオンハルト殿下はともかく、大公殿下も国のみんなも急にやる気出しちゃうし。巻き込まれる身にもなって欲しいですよ、ホントに。下手すれば命が懸かっちゃうんですよ。これまでと同じでいいじゃないですか……あ、ローランさん。そこで、ちょっと止まってください」
もっとも、同情にかまけてこうして愚痴をこぼせる相手が欲しかっただけかもしれないが。
カルンブンクルス公国から派遣されている魔術師はわずかに5名。
クララ以外はみな男の魔術師で、10代なのもクララ1人だ。
気軽に話が出来る相手が職場にいない。
同年代の女の子の同僚はやはり嬉しかったのかもしれない。
色々と思うところをブツブツとこぼしながら、クララは壁の色が変わったところでピタリと足を止めた。
赤い色を基調とした廊下から、白を基調とした廊下へと切り替わっており、そこを境に結界の質も変わっているのが見て取れる。
「ここでカルンブンクルス公国の管理する場所は終わりです。ここからは中央の宮廷魔術士の管轄になるので気をつけて下さい」
「この壁の色が目印になっているのね」
「ええ。基本的に壁の色とそれぞれの公国の旗色は同じですから。紅色の壁のところはウチの管轄と覚えておけば、まず大丈夫です。たまに飛び地になってたりしますけど、そこは後日ご案内しますから」
そうローランに説明しながら、クララは無駄の無い動きで呪文を唱えると床に自身の魔力で魔法陣を描いた。
不満たらたらなので、よっぽど魔術士に向いていないのかと思ったがそうでもないらしい。
「うん。大丈夫ですね。とくに結界のほころびもなさそうです」
「手際がいいわね」
「慣れですよ。毎日のように結界の綻びを繕ってたら、イヤでも上手くなります――うげ」
敷地の境界で結界を確認していたクララはこちらに歩いてくる一団を目にすると、露骨に嫌そうな顔を見せた。
黄色いローブを纏っているところを見ると、他の公国の魔術士たちだろう。
(確か、黄色はスファレウス公国でしたっけ)
カルンブンクルス公国とは対照的に、伝統的に魔術を重要視するお国柄の公国だ。歴代の皇帝も2番目に多く輩出しており、重要な役職に就く貴族もまた多い。
「あら。クララ様ではありませんか。毎日、大変ですわね」
「ベアトリス様。ここはもうカルンブンクルス公国の管轄ですよ。何のご用ですか?」
「たまたま近くを通っただけですよ。何しろ、自分の公国の執務だけにかまけていられるほど恵まれておりませんので」
暗にさっさとどこかへ行けというクララの言葉をベアトリスと呼ばれた魔術師がフンと鼻で笑い飛ばす。
どうやらクララとベアトリスは旧知の仲らしい。
ただし、かなり関係は悪そうだった。
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