牢獄から始める、ちょっぴりガメツイ宮廷呪術師生活 ~冤罪に婚約破棄。貴族は面倒くさすぎるので、慎みは投げ捨ててこれからはがっつり稼ぎます~

八朔ゆきの

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第一幕

㉑ 収支決算の時間でございます!

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「殿下、それでは赤字でございます!」
「何が、赤字だ! エンチャントを施した鎧も剣も、魔術具に必要な素材も全て騎士団持ちだろうが!」
「心の赤字です!」

 唸りを上げて火花を散らしながら睨み合う2人を横目にアルマはノンビリとお茶の準備をしていた。

「ルドルフ様。どうぞ」
「うむ」

 断罪の塔の最上階で、アルマの煎れた紅茶の湯気を顎髭に当てて香りを堪能する。窓の外から聞こえる人面鳥の声も気にならないのは、すっかりあの娘に毒されたせいだろうかとルドルフは少し笑った。

「あの地で何があったかはわからんが、それにしても仲の良いことだ」
「ローラン様が楽しそうなのは良いことなのですよう」

 たしかに、古戦場跡を浄化出来るかもしれない。
 そういう話ではあったが、ローランが加わったことによって判明した真実と得られた武勲は遙かに想像を超えていた。

 その分、後始末も大変でしばらくは騎士団は開店休業状態だろう。騎士団の部隊長であるバルドルもコンラートも降ってわいた任務に大わらわだ。
 コンラートは帝都に残り、宮廷で中央と7公国からそれぞれ派遣されている貴族の官僚達と調整に追われている。
 バルドルはバルドルで、それぞれの公国の領地を駆け巡って、遺品の還るべき場所を特定するという任務に謀殺されていた。

 なにしろ、ことは帝国建国以前にまで遡る話だ。
 記録に残っていないことも多いし、時の流れに抗しきれずに消えてしまった家系も少なくは無い。
 しばらくは帝国を上げての大騒ぎになるだろう。
 近く、皇帝主催による慰霊会が開かれるとの話も聞こえてくる。

(殿下が帝冠継承候補としての遅れを取り戻すには十分すぎる武勲だ)

 他の帝冠継承候補と比べ、ほとんどまともに実績を積んでいなかったレオンハルトは率直に言って、帝位を継承するのは不可能だろうと目されていた。
 しかし、これでその流れも大きく変わる。

「これでローラン様もご自分をお買い上げになれますね」
「うむ。よもやの大殊勲だ。そなたもよくやったぞ、アルマ。褒美は期待しておくが良い。テオもそろそろ正騎士への叙任を考えねばな。あいつもよくやった」
「本当ですか! ふっふっふ。これでテオ兄よりもずっとずっとお金持ちなのです!」

 両腕を胸に当てて陶酔しているメイドを見て、思わず苦笑する。
 この娘も随分と図太くなったものだ。
 最初は塔の囚人を世話する役目を与えられて、泣きそうになっていたというが。
 今では平気な顔で塔に出入りしている。

(それもこれも、あの娘か)

 ほんのわずかな期間になんと多くのものを変えてしまったのだろう。

「だから、殿下! この明細をちゃんとご覧下さいまし!」
「やかましい。こんな明細、認められるか。討伐に参加した人数は正騎士54名だ。なんだ、この正騎士72名、見習い28名というのは!」
「騎士団の定数でございます! 騎士団で採用していただけるという契約でございます。当然です!」
「かもしれんが、今回は関係ないだろう。別契約だ別契約」
「ダメです。たまたま討伐の任務が間に挟まっただけでございます。そうに決まっているのです。殿下、小さいのは背だけにしてくださいまし。懐まで小さくなっては困ります」
「お前も細くて固いのは体つきだけにしろ。編んだ針金みたいな頑丈な神経しおって」

 むきーっと再び睨み合う2人は喧々諤々とじつに賑やかだ。これでは塔の死霊達も出る幕などどこにも無いだろう。

「レオンハルト殿下も粘るのです」
「なに。すぐに折れる。いいか、アルマ。よく覚えておけ」

 そういうと、くいっとルドルフは一息に紅茶を飲み干した。

「男はな。年上の女には絶対に勝てんのだ。お前も少し年下の男との出会いを模索した方が良いぞ」
「ほうほう。それは良いことを教えていただいたのです」

 レオンハルト15歳。
 ローランはたしか16だったか。

 外見はもちろん、実年齢でもレオンハルトは実はローランに負けている。

「ルドルフ! のんびり茶など啜っていないで、こっちに来い!」

 レオンハルトの悲鳴が塔にこだまする。

 結局、商談の行方はルドルフの想像通りに落ち着いた。


 第1幕 おわり
 幕間に続く
 

 
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