angel observerⅡ 六神の加護

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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攻防

喜は楽となり、楽は喜となる

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 一方、コイオスとクリオスそれからネプトゥヌスの三人は最後の天使と対峙していた。
 三人が来た時には街はもぬけの殻で、建物の損壊状況も想像以上に悪くどうしようもなく天使をただ睨みつけることしかできなかった。
「どうしたの掛かって来なよ。でないともっともっと遊んじゃうからね」
「チッ、ガキが調子に乗ってんじゃねぇ。叩き落としやラァ」
 ネプトゥヌスがトリアイナ(三叉槍)を投擲する。しかしそれは受け止められ投げ返される。
「お兄さんから僕を楽しませてくれるんだね。じゃあ行っくよお」
 天使は腰を低くし反動をつけ上昇するかのような体勢から姿を消した。
「消えた」
「クリオス警戒を」
「コイオス後ろをお願いします」
 宅地は静まり返っている。人っ子一人いない。
「うおっ」
 声をあげたのはネプトゥヌスだった。
「このクソガキ、チョロチョロと」
「ダメだよお兄さん。よそ見してちゃすぐに終わっちゃうよ。その武器カッコイイね。真似っこして遊ぼうかなぁ。それ」
 天使はそういうとトリアイナを手に持ち振り回し始めた。すると小首を傾げてぶつぶつと呟く。
「ありゃりゃ、これあの子のと一緒のやつじゃん。ふーんお兄さんが元なんだね。ますます面白くなりそうだ」
「わけワカンねぇことぶつぶつ言ってんじゃねぇぞ。今度はこっちから行くぜ」
 瞬足の詰めでネプトゥヌスが天使の懐に入り込んで薙ぎの攻撃を繰り出す。それを彼女はひらりふわりと難なく避けてみせる。
 ネプトゥヌスの槍捌きもなかなかのものだが、あと一歩が届かない。それだけでなく、彼女はコイオスとクリオスにもときたま攻撃を仕掛ける余裕があった。
「おい。ありゃどうなってんだ」
「わかりません。ただ一人なはずなのに複数と相手しているようです」
 早くも打つ手なしの三人に天使は笑いかける。
「あははは、だらしなーい。これからもっと楽しくなるのに。神なんてただの創造物だもの私はこんなことだってできるんだから」
 えいっと彼女が右手を高々と掲げると雷柱が彼女に落ちる。軒並み激しく電気の猛獣が唸り声が辺りに響き渡り、収まる頃に先ほどまでの天使の姿はなく代わりにヒルデの姿があった。
「「姉様」」
 コイオスもクリオスも目を見開き彼女を見つめる。
「戦いは終わったわ。さっ帰りましょ」
 戸惑う二人をよそに、ネプトゥヌスは殺気立った声で問いかけた。
「テメェ舐めた真似しやがって、神を愚弄したその意味わかってんだろうなあ」
「ふふふ、やっぱダメかつまらないなあ。戸惑いながら僕にやられる姿を想像してたのに残念だ。真似できるのは外見だけじゃないのにさ」
「ナニ?」
「Candenti Salutem Gratia」
 光の激流は三人を飲み込んで行く。しかし天使は本当の意味でのこの技の使い方を知らなかった。
 光に包まれた三人の体に光が満ちて、それぞれを包み込む鎧となった。
「ぬうう。?」
「これは」
「死ぬかと思ったぜ」
 この中で一番驚いたのは天使だった。
「なぜだ。なぜ、倒せていないんだ。楽しくない。楽しくない。そんなの僕は認めないぞ」
 声を荒だてて彼女は叫ぶ。その一瞬を逃さずコイオスとクリオスは、一つとなりコリオスとなった。
「いつもの3倍増しいえ、四倍マジであなたを打倒して差し上げます。幻想よここに全て夢は誠に誠はやさしき夢に」
 二人の飛行速度は通常時をはるかに凌ぐ速さであった。
 先ほどまで優勢だった天使は今では肩で息をするほど消耗しだした。しかしまだ余力があるのか、未だコリオスの攻撃を間一髪のところで避けている。
「足元がお留守だぜ」
「ぐっ、雑魚どもが調子に乗って。生きているうちは負けじゃないんだからな」
「へっ、笑わせるぜ。大人しく観念しな。こっちの目的はテメェを殺すことじゃあねえんだよ」
 ネプトゥヌスの言葉を聞いた天使は、何かに気づいたのか表情を硬くする。
「まさか、喜楽の僕を捕まえようってわけ。怒と哀よりも力のあるこの僕を」
 辺りは街の風景からいっぺんしただ何もない白い空間に切り替わる。
「ここは、そうか夢幻結界か。『怒』が持つ力のオリジナル」
「そう。これこそ我が秘技夢幻結界。ここでは私以外の者の命運は全て私のもの。本来は子供達の夢を育むものですが、今はあなたのその行いに私の寛容な心も火を噴き荒ぶっていますので、お覚悟を」
 コリオスは憤っていた。それは誰もが一目見れば分かることであるが、彼女はいつも以上に冷静かつ激しい怒りを覚えた。
 それを見ていたネプトゥヌスはおっかないと言わんばかりに隅の方の木陰に隠れていた。
 コリオスの作り出した世界は一言で例えるなら楽園エデン
そのものだが、なぜか木にお菓子が成っていたり時折ぬいぐるみの動物たちが駆けて行ったりする。
「メルヘンってやつか。ここまでくると、ちと寒気がするぜ」
 ネプトゥヌスは木陰から出る気はなさそうだ。
 先ほどとは打って変わって防戦一方な天使に苛烈な攻撃を次々出し続けるコリオス。
「僕が負けるはずがないんだ。なのにどうして僕が押し負けてるんだ」
「おしゃべりできるほどまだ余裕があるみたいですね。潰します」
 逃げようと背を向けた喜楽の天使の一瞬をついて、コリオスは天使の背中で何かを爆発させた。
 天使は煙を出して街中へ墜落していった。カフェテリアのテントがクッションとなり致命傷には至らない。
 しかしコリオスは天使に歩み寄り手をかざす。その手には眼球ににた法陣が刻まれている。コリオスはこの法陣から攻撃していたようだ。
「詰みですね。私としてはあなたをここで消しておくのも一興なのですが・・・」
「うっがあああああ」
「・・・いけない」
 コリオスは身を守る姿勢をとり次に目を開けた時にはその姿はなかった。
「おいおい、どうしちまったんだ」
「わかりません。ですがおそらく姉様のところかと」
「根拠は」
「ありません。正直なところ『勘』です。あと隠れてないであなたも戦ってくださいよ」
 ネプトゥヌスは槍を持っていない方の手で頬を掻く。
「いやあ、すまねえ。あんまりにもあんたが強いんで足手まといになると思ってよお」
「もう、まったく次はないですからね」
「恩にきるぜ」
 ネプトゥヌスはおっかなくて前に出られなかったとは言えないと思った。
「ですがなぜ消えたのでしょう。転移でもなさそうですし、何かしらの魔術の類いでしょうか」
 コリオスは既にコイオスとクリオスに別れていた。
「姉様のところへ行ったことはなぜかわかりますが」
「見た感じだとなんか引っ張られて行ったって感じだったぜ」
「ならば姉様の元へ戻らねば」
 コイオスはいそいそ飛び立とうとするふが、ネプトゥヌスがコイオスの肩を掴んで言う。
「いや、待ちな。街がおかしいと思わねぇのか」
 そう言われてあたりを見回すコイオス。なんのことだかわからず同じようにクリオスもキョロキョロしだす。
「ふあ」
 感嘆の叫びをクリオスはあげて手を叩いた。
「街が治っているのです」
「ああ、さっきまでこの世の終わりみたいな風景してやがったのに綺麗さっぱり傷一つありゃしねえ」
 三人が駆けつけた時には倒壊していた塔も、今ではカランコロンと美しい鐘が鳴り響いていた。
 そういえばと、クリオスは足元を見る。やはり石畳みの道も天使の攻撃の爪痕すらない。
「ということは私たちはまんまと嵌められたということでしょうか」
「だろうな。あの天使も本物かどうか」
「ところで若様たちはどこに行ったのでしょう。このクリオス携帯電話を落としてしまったのです」
 クリオスはしょんぼりとポンチョの内ポケットを探ってみせる。するとコイオスが「ああそれなら」と自分のポンチョの内ポケットから携帯電話を取り出して渡した。
「コイオスが持ってたですか。どうして?」
「融合した際の身体的優位は私ですから。精神的優位はクリオスの方が高かったはずですよ」
「そんなのあるんだあ。知らなかった」
 ネプトゥヌスは無言のままその場を離れようとした。しかしコイオスに止められる。
「あのどちらに行かれるのですか」
「ああ、例えば性能のわからないロボットがあるとするだろ。そんでそいつの電源を入れる覚悟があるかって話なんだが、俺は正直おっかなくてスイッチにさえ触れねえと思うんだ」
「はい、ですがあなたは整備士ではありません。戦士という立派な戦力です。その話でいうならあなたはスイッチを押されるロボットの方では」
 引きつった笑顔で、ネプトゥヌスはコイオスを見る。コイオスははあーとため息をこぼしクリオスの頬を両手で挟み込んで言う。
「たしかにこの子の精神性では心配するのもわかります。ですが時としてこの子はとにかく凄いことをやらかすのです」
「ふぃーふぃーふぉふぉ」
 クリオスは何か話しているようだが、全くわからない。またコイオスとネプトゥヌスの話は噛み合っているようでいて、噛み合ってはいない。
 そういう意味ではないといわんばかりに、今度は苦笑するネプトゥヌス。
 この双子は根本的に少しズレていた。しかし、このズレが良くも悪くも彼女の性格故に変えようもないものであった。
「あー、帰りてえ」
 クリオスのホッペで遊んでいるコイオスの眼を盗み、ネプトゥヌスは悲嘆の声を漏らすのだった。
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