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春
神格
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私は、なんとか生きてはいるらしい。相変わらず、目隠しはされていて視界は真っ暗ではあるが。そして、なぜか妙に冷たいお尻の感覚。動かすことのできない四肢。捕まって拘束されていることは明らかだった。しかし、口は自由である。
「誰かいるの?」
反応はない。存在を問うて反応がないとは、困った。質問を変えてもこれでは何も返ってこないだろう。一度暴れてみるか。と思ったやさき、
「ここの代表をしている者だ」
と中年過ぎの男の声が室内に響いた。ということは、マイクか何かを通して話しているに違いない。
「外しなさい」
「それはできない。私たちの研究には、君なしでは行えないのでね」
「研究?」
「そうだ。だが君は知る必要はない。ことが済めば用済みだからな」
言っていることが分からない。この男は何を言っているんだ。『研究』とはなんだ?
「私、研究なんてできないわよ」
「はっはっははは。何を言っているんだ。研究をするのは私だ。君は、その被験体」
やめて。そう私の心の隅で叫んだ。私は次の言葉がなんであるか想像ができたからだ。
「モルモットだ」
「そんな」
なんとかしなければ、聖剣で足枷を切り落とせないだろうか。いや、無理だ。なら何か良い方法は・・・。私は焦りが徐々に広がって、思考回路の機能が悪くなっているように感じた。「落ち着け」自分に言い聞かせて脱出方法を思案する。
「悪いが、時間もないのでね」
「代表」
女の声が聞こえた。ちょっと待て、この声さっきどこかで。そうどこかで、今来た女が誰かわかるのに、思い出せない。
「さらばだ。神よ」
男の声が聞こえたのを最後に、体に電気が走る。いたるところが痺れて、痛いのか、熱いのか、焼かれているのか、切られているのか、正直よく分からない。体の痙攣は、電気によるもので、声にならない悲鳴だけが、室内に響く。
「ーーーーー」
嫌だ。痛い、痛い、痛い。熱い、熱い、熱い。助けて、助けて誰か。助けて若。
「イヤーーーーー」
「私は神の力を手に入れたぞ」
目を開ける。すると目隠しはズレ落ちていて、趣味の悪い四方が、鏡張りの部屋にいた。いや、ずっとここにいたのだろう。服は布きれみたいなのを一枚着ていただけで下着も全て剥ぎ取られていたようだ。この格好はなんてことはない。エデンではみんなこんな格好だし。それよりも、体からシューと湯気が出て焦げ臭い。そのとき、爆発音とともに、前方の鏡が割れる。そして中から人間を型取った。何かが出てきた。
「いやぁ、おかげで研究はうまくいった。手始めに世界を支配して来るよ。君のおかげだよ」
「化・・・け・・物」
口がうまく動かせない。まだ麻痺しているようだ。目の前のこれは、人間なの?ダメだ、痛みと疲労が私を襲う。体のいたるところが焦げ付いているに違いない。
「誰か・・・」
そこで私の意識は途絶えた。
目を覚ますと、懐かしい所にいた。『アーバンデクライン』今では、全てが平等に崩れ、壊れ、潰れた世界。新人も旧人、この荒廃した世界では生き延びることはできない。いずれ私の世界も文明が淘汰され、最後の審判によって神が人類史を白紙にするという。
オフィスビルの屋上から街を眺める。やはりここからの景色は、全く変わり映えしない。あちこち崩れていて、道路に砂がかかっていつ砂漠となるか時間次第である。そんな危うさを孕む街並みに、なぜか安心すら覚え始めた頃、隣に1人の人物、いや神が立っていた。彼は目を細めて遠くを見据えている。きっと私とは違う感情が彼の心を満たしているのだろう。
「間違えればいい。思う存分間違いを楽しんでこそ人生だ」
彼は静かにそう言った。
「それは、父としての教訓?それとも神としての導きなのかしら?」
「どちらでもあり、どちらでもない。私という存在からの皮肉だ」
彼はクロノス。実の父を手にかけ。ティタン一族の長となった者。そして今は子供姿をしたただの神。今の一族の長は、オケアノスが請け負っている。「長男だからな」と彼は言っていたな。
「ここがどこだかは、察しがついているようだが、お前はまだ目覚められない。私はエデンから間接的にお前の心象に侵入しているに過ぎない。つまり以前見た光景と多少の差異がある。目覚めるには、その差異をお前自身が受け止め、乗り越えなくてはならない」
「はぁ・・・?」
クロノスは、何言ってるのだろう。私には、よく分からないわね。なんて思っていると、彼は、私の顔を覗き込んで、私の額を指で弾いた。(つまりデコピンされた)間抜けヅラをするしかない私に、父は哀れみの視線を送ってきた。
「全く、状況に置いて行かれるとはこのことか。いや、楽観主義があえて良い結果を招いたと思うことにしよう」
ここでの空は、茜色。しかし太陽は登りもしなければ、沈みもしない。永遠と続く朝焼けもしくは夕焼け。まさしく私の心を写し出すにはうってつけの空模様なのであった。
「私、もうここにずっといてもいいかなって思うんだ。でも、また起きたらみんなといろんなことしたいなって思ったりもするんだ」
「そうか」
「うん、そう」
「お前が目覚めたいと思う気持ちがあるのなら大丈夫だな。ここからは、お前だけの1人旅だ」
「もう行くの?」
「ああ、私も暇ではないからな。お前が無事なのを見て安心した。最後に言っておくが、苦しくなったら兄姉を探せ。じゃあな」
鉄筋が剥き出しのビルの上から、体の小さいクロノスが飛び降りた。下を覗き込むが既に父の姿はなく、また1人となった。心象の世界は静寂に包まれている。風が心地よく吹くが、それでいて暖かい。なんなら本当にひと眠りしたいところだ。しかしそうもいかない。私は、早く目覚めなければならない。大きく息を吸って目を閉じる。
パッと再び目を開いた時には、四方が鏡張りの部屋に1人椅子に座っていた。目隠しのアイマスクが、足元に落ちている。目の前の鏡は粉々で、奥の部屋ではまだ誰か倒れている。そういえば、最後に見たあの怪物は、なんだったんだろう。禍々しさは、夕方に見た蛇程ではないが、明らかにあれは、魔神の域に達していた。世界を支配するとか言っていたな。とにかく、いつまでも繋がれていては何もできない。速く拘束具を外さなくては。
「くッ、手さへ・・・外せれば」
手を窄めたり力ずくで引き抜こうとしても、椅子と一体化した手錠から、なかなか抜けないのだった。
「そうだ。天使を呼び出せばいいのよ」
いつも本が提げてあるホルダーがある腰に目を移すが、私は大事なことを忘れていた。
「あっ私、布きれ一枚だったの忘れてた」
袖もなく首を通して前と後ろが太腿くらいまで隠れているだけで、横からは体が丸見えで、今になって恥ずかしくなってきた。加えて、1人でいることが、なんとも心細くてしょうがない。
「うっ、グスッううう。誰も、ひてふれなひ~」
どうしていいか分からず、とにかく泣いた。情けなさと寂しさと痛みと恥ずかしさで、今の私には、泣くことぐらいしかできない。すると奥の部屋から、肩を抑えて、1人の女性がこちらにやってきた。ワイシャツにタイトスカートというシンプルな格好をしていたが、ところどころ、破けていてタイツからは、白い肌が露わになっていた。きょとんと近づいてきた女性を見上げると、彼女は鍵を取り出して、手錠も足枷も外してくれた。すると彼女は、私を抱きしめ。何度も何度も、「ごめんなさい。ごめんなさい」と繰り返して言った。その横顔を覗き見ると、彼女もまた傷だらけの顔で泣いていた。私はそっと彼女の震える体を抱き返して2人して泣いていた。
2人が落ち着いたのは、今まで気づかなかった後方の鏡も割れ、ぽっかりと穴の空いたところから外の冷たい夜風が吹き込んだときだった。
「ごめんなさい。ありがとう」
この女性は、私が捕まっていたとき一度だけ声を聞いた女性だと確信した。それとともに、どこかで聞いたような感覚がしていたことを思い出し、それが誰だったのか、今気づいた。
「あなた、電話の受付嬢の人ですか?」
「ええ、そうよ。正確には、受付嬢ではなくて、代表取締役の秘書なの。あのときは、嘘ついてごめんなさいね」
「もしかして、若はいたの?」
彼女は、申し訳なさそうに俯いて、
「ええ」
とか細く答えた。
「こんな、こんなことになるなんて思わなかったの」
彼女は、顔を手で覆ってまた泣き出した。そして、ぽつり、ぽつりと話し出す。
「代表は、あなたと会談するだけだと言っていたわ。眠っているのはなぜか聞いたら、間違って酒を飲ませてしまった酔いが覚めるまで、そっとしておこう。と私を部屋から出て行くように言いつけられたわ。そして私が、代表に用事があるから会いに行ったら、検証室にいるからと置き手紙があったから来てみたのそしたら、あなたが拘束されているのが見えて、何をしているのか聞いたら、「世紀の実験だ。よく見ていたまえ」と言ってそれからは、あなたが1番よく知っていると思うわ。代表の体がみるみるうちに変わって、奥の監察室の他の研究員達を次々に襲っていなくなってしまったのよ」
私は、その話を聞いて奥の部屋を改めて窺う。倒れているのは1人だけではなかった。2、3人が倒れている。
「あの人たち・・・・もしかして」
「そうよ。私が気を取り戻してから見てみたけど、みんな死んでいるわ」
私は、スッと立って奥の部屋へ行こうとしたら。秘書の女性は、私の足首を掴んで、
「だ・・・ダメよ。あなたは見ちゃいけないわ。もう辛い思いはしなくていいのよ」
懇願するように私を引き止める彼女の顔は、とても青白く顔が引きつっていた。それでも、帰るにはあそこしか出口がない。なら通るしかないのではないだろうか。
「お願い。落ち着くまでは一緒にいて欲しいの」
私には、透視能力などは使えないから彼女が今なにを考えているかは、分からないが、想像はできる。人は誰しも死体と一緒にはいたくないものだ。また、そういった状態に陥ると、生を感じるもののそばにいたいと思うのだそだ。
彼女は、泣き疲れたのか眠ってしまった。大人に違いないのだが、その顔は、疲れ切っていた。目元は赤く腫れ上がり、もう化粧などは崩れ放題である。しかし私は、彼女のお願いを聞くことはできない。死体ならちゃんとしてあげないと。
「ごめんなさい。あなたのお願いは聞けないの。死んだ人がこのままだとかわいそうだから」
奥の部屋に入ると、異臭が鼻腔を刺激する。
「うっ酷い」
臭いが、ではなくその死体の状態がである。人の所業ではありえない。ある者は、腹部を貫通させられ、ある者は、首を刎ねられ、ある者は、壁にねじ込まれている。確かにこれでは、平静を保てなくなるのも無理はない。実際私の頭もどうにかなってしまいそうだ。私は鏡の部屋に戻った。そして秘書の女性のタブレット端末をポケットから引き抜いて、緊急ボタンを押し、救急車を呼んで、部屋を後にした。こんな格好の私がいては、彼女が疑われてしまう。殺された研究員はともかく、話を聞いた限り彼女にはなんら被はないのだ。なら私さへいなければ、何かの爆発事故として処理されるだろう。
私は1人暗くなったオフィスビルの廊下を進み、階段を降りて行く。
「はあ、はあ。体が思うように動かない」
膝は震え立っていることもままならない。何度も躓き、その度手すりに掴まるが、何度目か躓いたとき手が滑って、階段を転げ落ちそうになった。
「ああっ」
落ちる。と思った瞬間に、柔らかい感触が、体を包む。ふと見上げると、コリオスが私を受け止めてくれた。
「良かった。姉様。本当に良かった」
コリオスは、コイオスとクリオスに分かれ、階段の踊り場に座る私に抱きついて来た。
「「姉さまー」」
「うん。大丈夫。私は大丈夫だ」
「申し訳ございません。力及ばずです」
コイオスは上目使いで、潤んだ瞳で見上げ、謝罪する。そんな顔をされては怒れないじゃない。もとい私は、初めから怒る気なんてなかったのだが。クリオスはクリオスで、「心配してまひたー」と言って泣いていた。2人の涙が着ている布に染み込むが、その涙は温かかった。
「ありがとう2人とも」
だが感動してばかりはいられない。私の体はもう悲鳴を上げている。予想以上の疲労が肉体的に顕著に表れているのだ。
「ごめんね。私もう動けないわ」
「「お任せください」」
2人は、ギュッとそれぞれ私の手を握る。そして、私の腕を引き、立つのを手伝ってもらい2人に支えてもらいながら、なんとかビルの外に出ることができた。今は、住民たちに見られないように、コイオスが視覚ジャミングの幻術で姿を隠している。
「姉様、飛翔します」
「飛べますか?」
「ごめん、飛ぶのも無理っぽい」
私は翼を出そうと、力を入れるが全く広がらないどころか、羽根の一枚も出やしない。加えて、左手の痣も今では、ただの日焼け跡程に薄くなっていた。
「これは、大変なことになりました」
痣のところを撫でて、コイオスは言う。
「落ち着いて聞いてください。姉様の神格が抜き取られています」
「神格?」
「はい、これは私たちでは、対処しかねます。テテュス姉様に頼む他ないですね」
「コイオス、神格が無いんじゃ姉様は扉を開けないと、クリオスは進言します」
クリオスの言葉は的を射ていた。確かに普通は、そう考えるのが妥当である。
「ちょっと扉を出せるか、試してみるわ」
「お願いします」
「ゲートオープン、ポイントエデン」
扉は出てきたといえば、出てきた。しかしそれは、極小だった。
「なんと」
声を上げたのは、以外なことにコイオスだった。確かに私も驚きのサイズである。
「通れないわね」
苦笑いしながら、後ろにいた2人を見ると2人とも、微妙な表情を浮かべていた。
「だからクリオスは無理だと言ったのです」
「クリオス、姉様は一応出すには出せました。ですので、まだ完全に神格が失われたと考えるには、早慶すぎますよ」
コイオスとクリオスは、言い合っているが、それはそうと、他に私は何ができるのだろうか。聖剣は出せるのだろうか。目を閉じ聖剣をイメージする。右手に重みを感じると目を開けて確認する。
「うん、出せてるな。んっ」
「「どうかしましたか。姉様」」
「えっああ、なんと言うか、いつもの聖剣と違うような気がして」
コイオスは、また痣を見たときのように、ふむふむなど頷きながら聖剣を検分する。
「ダメですね。これも神格が抜けてただの剣に成り果ててしまっています」
「それってどういうことなの?剣はこうして出せているけれど」
「それについてはクリオスが」
「はい、コイオス。ここで立ち止まっているのもなんなので、歩きながら説明しますね」
私たちは、階段を下りて「1F」と書かれた札の下で一度立ち止まる。そして裏口のドアノブを回して、コイオスが外を確認すると、「大丈夫です」と言って、ビルの外に出ることができた。
「外に出れましたね。それでは、ご説明いたしますね姉様。おそらく聖剣は今、私たちや人間でいう昏睡状態だと思ってくだされば良いかと」
昏睡状態。身体の覚醒下にない状態であり、著しく身体機能の低下や機能停止の恐れがある状態。
「だから、姉様の体が思うように動かないのも、聖剣が本来の力が発揮されていないのもそのせいなのです」
クリオスの説明に、コイオスが付け足して言う。
「ですから、姉様の神格は完全には無くなっていませんが、私たちが計り知れないなんらかの方法で、抜き取られた際に姉様の神格は、危機を感じ自動的に昏睡状態に陥り、抜き取られるのを防いだのだと思われます」
そして2人は、背中合わせになりコイオスが右手で、クリオスが左手で私を指をさして、
「「今姉様は、ただの人間です」」
と強く言い放った。その言葉に、私はうろたえるしかなかった。
「なっ、なな」
戸惑いの声が漏れる。なんとも言えない感覚。人間的に言うと複雑な心境と言うやつである。そこで、ハッとクロノスの言葉が頭をよぎる。「お前はまだ目覚められない。目覚めるには、その差異をお前自身が受け止め、乗り越えなくてはならない」そうか、目覚めていないのは、私の意識ではなく、神格の方だったのだ。今頃気づくなんてなんということだ。
石畳みの公道を傍に、空を飛べない私のために、人気の無い場所へ移動していた。石造りの橋のトンネルを抜けようとした時、目の前に異様な邪気をコイオスが感じ取った。
「姉様、ここは危険です」
「お逃げください」
コイオスとクリオスは、私の前に出て私を庇う。カツカツと靴が石を踏む音が、次第に大きくなって近づいてきたことが、分かる。
「前方、敵2、目標1」
私は、2人の好意を踏みにじることはできない。一目散に、トンネルを引き返し駆け出した。
「逃がさない」
冷たく、機械的な声だった。しかし、その声は、若い女の声で力強い。歳は私と同じくらいか、少し下くらいだなと思ったが、今はそんなことを考えてい余裕はない。しかし、コイオスとクリオスの叫びが後ろに聞こえて、チラと振り返る。するとすぐ後ろに敵は迫ってきていた。予想通り、私と同じくらいの女の子であったが、天使というわけでは無いように見える。しかし、彼女は敵だ。両手で構えた三叉槍(もしくはトライデントだろうか。)の切っ先を私に向けて突貫してきた。
「クッ」
私は咄嗟に、右手に転がって攻撃を避けた。だが、これで前方を塞がれ退路が絶たれてしまった。
「やるしかない・・・・・来い聖剣」
右手に聖剣を握り、構えるが剣の刃は月の光を反射して銀色に輝く。けれども、以前ほどの輝きや力強さは感じられない。
「確実に撃滅します。主の名の下に」
「まだ私も死ねないのよ」
突貫してきた矛先を剣を立てていなすと、激しく火花が散った。
神格を失ってから初の戦いが幕を開けた。
「誰かいるの?」
反応はない。存在を問うて反応がないとは、困った。質問を変えてもこれでは何も返ってこないだろう。一度暴れてみるか。と思ったやさき、
「ここの代表をしている者だ」
と中年過ぎの男の声が室内に響いた。ということは、マイクか何かを通して話しているに違いない。
「外しなさい」
「それはできない。私たちの研究には、君なしでは行えないのでね」
「研究?」
「そうだ。だが君は知る必要はない。ことが済めば用済みだからな」
言っていることが分からない。この男は何を言っているんだ。『研究』とはなんだ?
「私、研究なんてできないわよ」
「はっはっははは。何を言っているんだ。研究をするのは私だ。君は、その被験体」
やめて。そう私の心の隅で叫んだ。私は次の言葉がなんであるか想像ができたからだ。
「モルモットだ」
「そんな」
なんとかしなければ、聖剣で足枷を切り落とせないだろうか。いや、無理だ。なら何か良い方法は・・・。私は焦りが徐々に広がって、思考回路の機能が悪くなっているように感じた。「落ち着け」自分に言い聞かせて脱出方法を思案する。
「悪いが、時間もないのでね」
「代表」
女の声が聞こえた。ちょっと待て、この声さっきどこかで。そうどこかで、今来た女が誰かわかるのに、思い出せない。
「さらばだ。神よ」
男の声が聞こえたのを最後に、体に電気が走る。いたるところが痺れて、痛いのか、熱いのか、焼かれているのか、切られているのか、正直よく分からない。体の痙攣は、電気によるもので、声にならない悲鳴だけが、室内に響く。
「ーーーーー」
嫌だ。痛い、痛い、痛い。熱い、熱い、熱い。助けて、助けて誰か。助けて若。
「イヤーーーーー」
「私は神の力を手に入れたぞ」
目を開ける。すると目隠しはズレ落ちていて、趣味の悪い四方が、鏡張りの部屋にいた。いや、ずっとここにいたのだろう。服は布きれみたいなのを一枚着ていただけで下着も全て剥ぎ取られていたようだ。この格好はなんてことはない。エデンではみんなこんな格好だし。それよりも、体からシューと湯気が出て焦げ臭い。そのとき、爆発音とともに、前方の鏡が割れる。そして中から人間を型取った。何かが出てきた。
「いやぁ、おかげで研究はうまくいった。手始めに世界を支配して来るよ。君のおかげだよ」
「化・・・け・・物」
口がうまく動かせない。まだ麻痺しているようだ。目の前のこれは、人間なの?ダメだ、痛みと疲労が私を襲う。体のいたるところが焦げ付いているに違いない。
「誰か・・・」
そこで私の意識は途絶えた。
目を覚ますと、懐かしい所にいた。『アーバンデクライン』今では、全てが平等に崩れ、壊れ、潰れた世界。新人も旧人、この荒廃した世界では生き延びることはできない。いずれ私の世界も文明が淘汰され、最後の審判によって神が人類史を白紙にするという。
オフィスビルの屋上から街を眺める。やはりここからの景色は、全く変わり映えしない。あちこち崩れていて、道路に砂がかかっていつ砂漠となるか時間次第である。そんな危うさを孕む街並みに、なぜか安心すら覚え始めた頃、隣に1人の人物、いや神が立っていた。彼は目を細めて遠くを見据えている。きっと私とは違う感情が彼の心を満たしているのだろう。
「間違えればいい。思う存分間違いを楽しんでこそ人生だ」
彼は静かにそう言った。
「それは、父としての教訓?それとも神としての導きなのかしら?」
「どちらでもあり、どちらでもない。私という存在からの皮肉だ」
彼はクロノス。実の父を手にかけ。ティタン一族の長となった者。そして今は子供姿をしたただの神。今の一族の長は、オケアノスが請け負っている。「長男だからな」と彼は言っていたな。
「ここがどこだかは、察しがついているようだが、お前はまだ目覚められない。私はエデンから間接的にお前の心象に侵入しているに過ぎない。つまり以前見た光景と多少の差異がある。目覚めるには、その差異をお前自身が受け止め、乗り越えなくてはならない」
「はぁ・・・?」
クロノスは、何言ってるのだろう。私には、よく分からないわね。なんて思っていると、彼は、私の顔を覗き込んで、私の額を指で弾いた。(つまりデコピンされた)間抜けヅラをするしかない私に、父は哀れみの視線を送ってきた。
「全く、状況に置いて行かれるとはこのことか。いや、楽観主義があえて良い結果を招いたと思うことにしよう」
ここでの空は、茜色。しかし太陽は登りもしなければ、沈みもしない。永遠と続く朝焼けもしくは夕焼け。まさしく私の心を写し出すにはうってつけの空模様なのであった。
「私、もうここにずっといてもいいかなって思うんだ。でも、また起きたらみんなといろんなことしたいなって思ったりもするんだ」
「そうか」
「うん、そう」
「お前が目覚めたいと思う気持ちがあるのなら大丈夫だな。ここからは、お前だけの1人旅だ」
「もう行くの?」
「ああ、私も暇ではないからな。お前が無事なのを見て安心した。最後に言っておくが、苦しくなったら兄姉を探せ。じゃあな」
鉄筋が剥き出しのビルの上から、体の小さいクロノスが飛び降りた。下を覗き込むが既に父の姿はなく、また1人となった。心象の世界は静寂に包まれている。風が心地よく吹くが、それでいて暖かい。なんなら本当にひと眠りしたいところだ。しかしそうもいかない。私は、早く目覚めなければならない。大きく息を吸って目を閉じる。
パッと再び目を開いた時には、四方が鏡張りの部屋に1人椅子に座っていた。目隠しのアイマスクが、足元に落ちている。目の前の鏡は粉々で、奥の部屋ではまだ誰か倒れている。そういえば、最後に見たあの怪物は、なんだったんだろう。禍々しさは、夕方に見た蛇程ではないが、明らかにあれは、魔神の域に達していた。世界を支配するとか言っていたな。とにかく、いつまでも繋がれていては何もできない。速く拘束具を外さなくては。
「くッ、手さへ・・・外せれば」
手を窄めたり力ずくで引き抜こうとしても、椅子と一体化した手錠から、なかなか抜けないのだった。
「そうだ。天使を呼び出せばいいのよ」
いつも本が提げてあるホルダーがある腰に目を移すが、私は大事なことを忘れていた。
「あっ私、布きれ一枚だったの忘れてた」
袖もなく首を通して前と後ろが太腿くらいまで隠れているだけで、横からは体が丸見えで、今になって恥ずかしくなってきた。加えて、1人でいることが、なんとも心細くてしょうがない。
「うっ、グスッううう。誰も、ひてふれなひ~」
どうしていいか分からず、とにかく泣いた。情けなさと寂しさと痛みと恥ずかしさで、今の私には、泣くことぐらいしかできない。すると奥の部屋から、肩を抑えて、1人の女性がこちらにやってきた。ワイシャツにタイトスカートというシンプルな格好をしていたが、ところどころ、破けていてタイツからは、白い肌が露わになっていた。きょとんと近づいてきた女性を見上げると、彼女は鍵を取り出して、手錠も足枷も外してくれた。すると彼女は、私を抱きしめ。何度も何度も、「ごめんなさい。ごめんなさい」と繰り返して言った。その横顔を覗き見ると、彼女もまた傷だらけの顔で泣いていた。私はそっと彼女の震える体を抱き返して2人して泣いていた。
2人が落ち着いたのは、今まで気づかなかった後方の鏡も割れ、ぽっかりと穴の空いたところから外の冷たい夜風が吹き込んだときだった。
「ごめんなさい。ありがとう」
この女性は、私が捕まっていたとき一度だけ声を聞いた女性だと確信した。それとともに、どこかで聞いたような感覚がしていたことを思い出し、それが誰だったのか、今気づいた。
「あなた、電話の受付嬢の人ですか?」
「ええ、そうよ。正確には、受付嬢ではなくて、代表取締役の秘書なの。あのときは、嘘ついてごめんなさいね」
「もしかして、若はいたの?」
彼女は、申し訳なさそうに俯いて、
「ええ」
とか細く答えた。
「こんな、こんなことになるなんて思わなかったの」
彼女は、顔を手で覆ってまた泣き出した。そして、ぽつり、ぽつりと話し出す。
「代表は、あなたと会談するだけだと言っていたわ。眠っているのはなぜか聞いたら、間違って酒を飲ませてしまった酔いが覚めるまで、そっとしておこう。と私を部屋から出て行くように言いつけられたわ。そして私が、代表に用事があるから会いに行ったら、検証室にいるからと置き手紙があったから来てみたのそしたら、あなたが拘束されているのが見えて、何をしているのか聞いたら、「世紀の実験だ。よく見ていたまえ」と言ってそれからは、あなたが1番よく知っていると思うわ。代表の体がみるみるうちに変わって、奥の監察室の他の研究員達を次々に襲っていなくなってしまったのよ」
私は、その話を聞いて奥の部屋を改めて窺う。倒れているのは1人だけではなかった。2、3人が倒れている。
「あの人たち・・・・もしかして」
「そうよ。私が気を取り戻してから見てみたけど、みんな死んでいるわ」
私は、スッと立って奥の部屋へ行こうとしたら。秘書の女性は、私の足首を掴んで、
「だ・・・ダメよ。あなたは見ちゃいけないわ。もう辛い思いはしなくていいのよ」
懇願するように私を引き止める彼女の顔は、とても青白く顔が引きつっていた。それでも、帰るにはあそこしか出口がない。なら通るしかないのではないだろうか。
「お願い。落ち着くまでは一緒にいて欲しいの」
私には、透視能力などは使えないから彼女が今なにを考えているかは、分からないが、想像はできる。人は誰しも死体と一緒にはいたくないものだ。また、そういった状態に陥ると、生を感じるもののそばにいたいと思うのだそだ。
彼女は、泣き疲れたのか眠ってしまった。大人に違いないのだが、その顔は、疲れ切っていた。目元は赤く腫れ上がり、もう化粧などは崩れ放題である。しかし私は、彼女のお願いを聞くことはできない。死体ならちゃんとしてあげないと。
「ごめんなさい。あなたのお願いは聞けないの。死んだ人がこのままだとかわいそうだから」
奥の部屋に入ると、異臭が鼻腔を刺激する。
「うっ酷い」
臭いが、ではなくその死体の状態がである。人の所業ではありえない。ある者は、腹部を貫通させられ、ある者は、首を刎ねられ、ある者は、壁にねじ込まれている。確かにこれでは、平静を保てなくなるのも無理はない。実際私の頭もどうにかなってしまいそうだ。私は鏡の部屋に戻った。そして秘書の女性のタブレット端末をポケットから引き抜いて、緊急ボタンを押し、救急車を呼んで、部屋を後にした。こんな格好の私がいては、彼女が疑われてしまう。殺された研究員はともかく、話を聞いた限り彼女にはなんら被はないのだ。なら私さへいなければ、何かの爆発事故として処理されるだろう。
私は1人暗くなったオフィスビルの廊下を進み、階段を降りて行く。
「はあ、はあ。体が思うように動かない」
膝は震え立っていることもままならない。何度も躓き、その度手すりに掴まるが、何度目か躓いたとき手が滑って、階段を転げ落ちそうになった。
「ああっ」
落ちる。と思った瞬間に、柔らかい感触が、体を包む。ふと見上げると、コリオスが私を受け止めてくれた。
「良かった。姉様。本当に良かった」
コリオスは、コイオスとクリオスに分かれ、階段の踊り場に座る私に抱きついて来た。
「「姉さまー」」
「うん。大丈夫。私は大丈夫だ」
「申し訳ございません。力及ばずです」
コイオスは上目使いで、潤んだ瞳で見上げ、謝罪する。そんな顔をされては怒れないじゃない。もとい私は、初めから怒る気なんてなかったのだが。クリオスはクリオスで、「心配してまひたー」と言って泣いていた。2人の涙が着ている布に染み込むが、その涙は温かかった。
「ありがとう2人とも」
だが感動してばかりはいられない。私の体はもう悲鳴を上げている。予想以上の疲労が肉体的に顕著に表れているのだ。
「ごめんね。私もう動けないわ」
「「お任せください」」
2人は、ギュッとそれぞれ私の手を握る。そして、私の腕を引き、立つのを手伝ってもらい2人に支えてもらいながら、なんとかビルの外に出ることができた。今は、住民たちに見られないように、コイオスが視覚ジャミングの幻術で姿を隠している。
「姉様、飛翔します」
「飛べますか?」
「ごめん、飛ぶのも無理っぽい」
私は翼を出そうと、力を入れるが全く広がらないどころか、羽根の一枚も出やしない。加えて、左手の痣も今では、ただの日焼け跡程に薄くなっていた。
「これは、大変なことになりました」
痣のところを撫でて、コイオスは言う。
「落ち着いて聞いてください。姉様の神格が抜き取られています」
「神格?」
「はい、これは私たちでは、対処しかねます。テテュス姉様に頼む他ないですね」
「コイオス、神格が無いんじゃ姉様は扉を開けないと、クリオスは進言します」
クリオスの言葉は的を射ていた。確かに普通は、そう考えるのが妥当である。
「ちょっと扉を出せるか、試してみるわ」
「お願いします」
「ゲートオープン、ポイントエデン」
扉は出てきたといえば、出てきた。しかしそれは、極小だった。
「なんと」
声を上げたのは、以外なことにコイオスだった。確かに私も驚きのサイズである。
「通れないわね」
苦笑いしながら、後ろにいた2人を見ると2人とも、微妙な表情を浮かべていた。
「だからクリオスは無理だと言ったのです」
「クリオス、姉様は一応出すには出せました。ですので、まだ完全に神格が失われたと考えるには、早慶すぎますよ」
コイオスとクリオスは、言い合っているが、それはそうと、他に私は何ができるのだろうか。聖剣は出せるのだろうか。目を閉じ聖剣をイメージする。右手に重みを感じると目を開けて確認する。
「うん、出せてるな。んっ」
「「どうかしましたか。姉様」」
「えっああ、なんと言うか、いつもの聖剣と違うような気がして」
コイオスは、また痣を見たときのように、ふむふむなど頷きながら聖剣を検分する。
「ダメですね。これも神格が抜けてただの剣に成り果ててしまっています」
「それってどういうことなの?剣はこうして出せているけれど」
「それについてはクリオスが」
「はい、コイオス。ここで立ち止まっているのもなんなので、歩きながら説明しますね」
私たちは、階段を下りて「1F」と書かれた札の下で一度立ち止まる。そして裏口のドアノブを回して、コイオスが外を確認すると、「大丈夫です」と言って、ビルの外に出ることができた。
「外に出れましたね。それでは、ご説明いたしますね姉様。おそらく聖剣は今、私たちや人間でいう昏睡状態だと思ってくだされば良いかと」
昏睡状態。身体の覚醒下にない状態であり、著しく身体機能の低下や機能停止の恐れがある状態。
「だから、姉様の体が思うように動かないのも、聖剣が本来の力が発揮されていないのもそのせいなのです」
クリオスの説明に、コイオスが付け足して言う。
「ですから、姉様の神格は完全には無くなっていませんが、私たちが計り知れないなんらかの方法で、抜き取られた際に姉様の神格は、危機を感じ自動的に昏睡状態に陥り、抜き取られるのを防いだのだと思われます」
そして2人は、背中合わせになりコイオスが右手で、クリオスが左手で私を指をさして、
「「今姉様は、ただの人間です」」
と強く言い放った。その言葉に、私はうろたえるしかなかった。
「なっ、なな」
戸惑いの声が漏れる。なんとも言えない感覚。人間的に言うと複雑な心境と言うやつである。そこで、ハッとクロノスの言葉が頭をよぎる。「お前はまだ目覚められない。目覚めるには、その差異をお前自身が受け止め、乗り越えなくてはならない」そうか、目覚めていないのは、私の意識ではなく、神格の方だったのだ。今頃気づくなんてなんということだ。
石畳みの公道を傍に、空を飛べない私のために、人気の無い場所へ移動していた。石造りの橋のトンネルを抜けようとした時、目の前に異様な邪気をコイオスが感じ取った。
「姉様、ここは危険です」
「お逃げください」
コイオスとクリオスは、私の前に出て私を庇う。カツカツと靴が石を踏む音が、次第に大きくなって近づいてきたことが、分かる。
「前方、敵2、目標1」
私は、2人の好意を踏みにじることはできない。一目散に、トンネルを引き返し駆け出した。
「逃がさない」
冷たく、機械的な声だった。しかし、その声は、若い女の声で力強い。歳は私と同じくらいか、少し下くらいだなと思ったが、今はそんなことを考えてい余裕はない。しかし、コイオスとクリオスの叫びが後ろに聞こえて、チラと振り返る。するとすぐ後ろに敵は迫ってきていた。予想通り、私と同じくらいの女の子であったが、天使というわけでは無いように見える。しかし、彼女は敵だ。両手で構えた三叉槍(もしくはトライデントだろうか。)の切っ先を私に向けて突貫してきた。
「クッ」
私は咄嗟に、右手に転がって攻撃を避けた。だが、これで前方を塞がれ退路が絶たれてしまった。
「やるしかない・・・・・来い聖剣」
右手に聖剣を握り、構えるが剣の刃は月の光を反射して銀色に輝く。けれども、以前ほどの輝きや力強さは感じられない。
「確実に撃滅します。主の名の下に」
「まだ私も死ねないのよ」
突貫してきた矛先を剣を立てていなすと、激しく火花が散った。
神格を失ってから初の戦いが幕を開けた。
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