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プロローグ

わたしのかたち

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 骨に伝わる振動、感情を昂らせる旋律が何よりも好きなのだ。
 今日も今日とて、音楽スタジオを貸し切り練習に励んでいる。少女は想いを声にして空気を鼓動させ命を吹き込み歌にする。
 ラストの瞬間が訪れ、彼女はギターの弦を抑え付け音を止める。束の間の静寂、余韻もそこそこにドラムを担当する女性が「よぉし、お疲れ~」と声をかける。メンバーはそれを聞いて皆一斉に肩の力を抜き、楽器から手を離し脱力モードに入る。
 これがいつもの彼女たちである。この曲が今日最後の曲で、メンバーはそれぞれ片付けに取り掛かりながら、明日のライブに向けて期待や不安を共有している。
 溜息を大きく吐き少し困ったような憂鬱な気持ちを押さえつけようとしているのは五条奏音ごじょうかのんこのバンドのボーカル兼ギタリスト、奏音は高校のクラスメイトに告白され、それをお断りしたことを気にかけていた。
「お疲れ様、奏音」
「あっ、うん。お疲れ、明日頑張ろうね」
「そうだね。明日はきっといい日になるわよ」
「結成一周年ライブだもんね」
 奏音と肩を並べておしゃべりしているのは幼馴染みで同じ高校に通う流瀬鈴波ながせすずは。彼女たちのバンドは明日で丁度一周年を迎える。初まりこそ偶然の出会いであったが、彼女たちのバンドは月日を重ねるごとに注目を集め、著名と言っても差し支えないほどまでに登り詰めていた。
 そのため明日の一周年ライブは、所属事務所の重役やスポンサーの各関係者が列席する。大きなスタジアムで行われるライブイベントであり、今日はその最終調整。リハーサルはあるものの当日、あまり時間に余裕がないため、この通しでの練習が本格的な調整であったのだ。
 次の日、奏音がスタジアムに着いたのはメンバーの中でも最後であった。
「奏音、遅いぞ」
「ごめんなさい。ちょっと学校で呼び止められて」
「なーに、彼氏」
「違いますよ。担任の先生です」
「準備できたらリハ行きます。時間がないので大まかな段取りは打ち合わせの時に話します。皆さんは楽曲のリハに入ってください」
「「はい」」
 現場の監督らしき男性が指示を出していく。奏音たちは、言われた通りに順次リハーサルに移って行く。舞台下では慌ただしくスタッフたちが会場を走り回っている。
 ドタバタと周りが忙しないが時間はあっという間に本番直前。観客席はほぼ満席で、奏音たちメンバーは円陣を組み気合いを入れ、いよいよ舞台に立つ。
 最初の曲から順調にプログラムは進行していた。しかし、最後の曲の前奏に入るというとき事件は起きた。
 最後の曲は前奏時に舞台前方の下部から火が吹き出し、上部からは花火が出る仕掛けになっていたが、それに呼応する様に証明の一つが爆発した。
 奏音は一歩踏み出しマイクに顔を近づける直前だった。ちょうど、頭上からは照明が落下してきていたが、バーナーと花火の音で奏音には爆発音は聞こえていなかった。
 ー
 奏音がそう思った時には、彼女の視界は暗くなり自分の歌声さえ聞こえてこなかった。


 
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