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夢幻都市
予感
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ウェスタのお店にやって来て扉を開けると、ウェスタがグラスを丁寧に拭き取り棚に戻している。彼女は、三時間おきにこの作業をする。「埃のついたグラスで飲みたないやろ。面倒やけど他でもないウチがやらんな誰がやるんや」とは、以前に聞いた彼女の言だ。
「おはよう。美麗は起きてるかしら」
「あの子なら、そろそろ降りてくると思うけど、急かしたらんときや。心の準備は必要やさかいに」
「分かってるわよ。別に私、急いでなんかないし」
「まあ、あの子次第やな」
「そうね。・・・大丈夫かな美麗」
両親に会うとは言ってもガイアによって記憶を消されているわけで、実際には様子を見に行くが正しい言い方になる。
忘れる方より、忘れられる方が哀しいものだ。だから美麗にはあまりお勧めしないが「やっぱり、自分の目で見て会っておきたいんです。私の家族だった人たちだから・・・」と美麗に言われてしまったのを、私は止めることはできない。押し切られてしまったということになるのだろう。
待つこと数分。店の奥の扉から「お待たせしました」と美麗が制服姿でやって来た。そういう私も制服なのだが。
「ちゃんとした服って、制服くらいしか思い浮かばなくてと思ったけど。ヒルデも一緒なんですね」
「普段の私たちって感じでいいんじゃない」
「ウェスタさん、行ってきます」
「はいな。行っておいで」
店を出て私たちはその足で、駅へと向かった。空を行こうという提案もしたが、緊張して上手く飛べないかもということで、普通に鉄道を利用することにした。
「今更なんだけどね。私、鉄道に乗るの初めてなの」
「ええ、と。そうですよね。そういうこともありますよね。私が切符を買ってきますね」
私の一言に戸惑いつつも美麗は、事もなげに切符を買ってきて私に手渡してくれた。
美麗の両親は現在、この街から離れここよりもさらに都会な場所で暮らしているのだとか。世話焼きなプルトによると美麗のいなくなった後、子宝に恵まれ三人で静かに暮らしているそうだ。
この時間だとお父さんの方は仕事に行っている頃だろう。
「次の駅ね」
「そうですね」
「大丈夫よ。様子を伺うだけだもの心配ないって」
「・・・・・」
相当緊張しているのか、美麗の表情は硬くなって行く一方だ。電車が止まり、私たちは駅の改札を抜けて一息つく。
連なる高層ビルが、異界のように感じられいつもとの違いが余計に意識させられる。
「もう大丈夫です。いきましょう」
美麗はスタスタと歩き出し、目的地に向かう。オフィス街を抜け、街の騒がしさも少しマシになる頃、一際目立つマンションの前で美麗は立ち止まる。
このマンションにはロビーがあり、その隣には公園がある。ロビーから碧い芝の公園の様子が窺えるようになっている。
「結構というか、かなり綺麗な建物ね」
「そう・・・ですね。一軒家に住んでいたので、まさかこいう風なマンションに引っ越していたなんて意外という他ないですが」
櫻田という表札のポストを見つけ、何階か確認する。エレベーターホールに行くには、カードキーか住人の許可が必要なようだ。
私たちは隣の公園で待つことにした。なんでも午前の終わりと午後の始まりごろに二度ほど、幼い子供とこの公園に遊びに来るのだとか。要するに美麗の弟か妹にあたる子と、ここで二回遊ぶのが日課だということらしいとプルトが言っていた。何日張り込んでいたのか気になるところだが、今は置いておくとしよう。
「そろそろ、情報通りなら降りてくる頃かしらね」
「来ました。あの人がお母さんです」
小さな男の子に手を引かれて、マンションの裏口から出てきたすらりとした女性。そういう印象を受けたがどこか・・・・・寂しそうな表情・・・というのかな。よくわからないけれど、私はそう感じてしまう。
美麗のお母さんが持っていたボールを受け取ると、不意に私たちの座るベンチの方にボールを投げた。幼児の力で投げられたボールは数十cm宙を漂い力なく転がって美麗の足下で止まった。
その光景はさながらあの子が美麗にボールを渡したかのようにすら思えた。
「ごめんなさい。この子ったらいきなり投げるものだから」
ボールを拾い上げる美麗が顔を上げると、女性は固まって口を手で押さえた。
「はい、どうぞ」
「あーとー」
美麗はボールを男の子に渡してやる。それを女性は変わらず見ていた。私は気になって声をかける。
「あの、大丈夫ですか」
「あっ、えっと、ごめんなさい。あの子、なんだかとても懐かしい感じがして。どうしてだかわからないのだけど、ごめんなさいね。初対面の人を勝手に懐かしんでしまって。私ってばちょっとおかしいですね」
私は美麗と男の子を一瞥して告げた。
「おかしくないと思いますよ。少なくとも私は。そう感じたならそれが正しいあなたの気持ちなんだと思うから」
「・・・・・」
「美麗、そろそろ行かないと」
わざとらしく私は美麗の名前を呼ぶ。
「はい、もうちょっとだけいいですか」
私は美麗の代わりに男の子と遊んび、数分後美麗が戻ってくると、私と美麗は二人に別れを告げた。
美麗がお母さんと何を話したのかは、聞いても教えてはくれなかった。でも美麗の表情から察するに、嬉しさ半分寂しさ半分といった具合だろうと私は勝手に思うことにした。
その後、お昼を駅近くのレストランで過ごし日が落ちる前に電車に乗り、私たちの街へ帰ることにした。電車を降り見慣れた風景に落ち着きを感じつつうちに向かう途中、ビルがある方で火の手が上がる。
「あれって」
ブルルルと携帯電話がポケットの中で震えて少し驚き、慌てて取り出してみると若からの着信だった。
「若、今、うちの近くなんだけど、街の方が大変なことになってるわよ」
「〈ああそのことなんだけど、どうやら原因は天使の仕業みたいなんだ。僕はいま事務所なんだがこっちもすごい騒ぎで、爆発したのは一棟だけじゃないみたいだ。詳しくはわからないが、天使を探しに行くなら絶対に一人でいっちゃダメだからねお嬢さん〉」
「わかってるわよ。じゃあね」
プッ。私は通話をやめる。
「聞いての通りよ。美麗は一応ウェスタにこのことを話しておいて」
「はい、でもヒルデは」
「コイオスとクリオスがもう向かってるはずだから、先に行くわ」
「では、向こうで落ち合うのということでいいですか」
「ええ、そうしましょ」
私は戦装衣を纏い、火災により赤く染まる空へ飛び立つ。あまり高度を上げない方がいいと思い、私は地上二百メートルほどのところを進んでいく。案の定、高高度は煙で黒々と広がり、太陽を遮ってしまっている。
ふわりとビル群を縫うように確かめていると、コイオスとクリオスが人命救助している姿が見えた。
「コイオス、クリオス」
「「姉様」」
「この人たちは」
「逃げ遅れた人たちです」
「私たちのことは消防士に見えるように、能力発動中なのです」
なるほど、火災発生地点より上の階にいた人たちが、降りれず屋上に登って救助待ちだったということか。
「ちょうど煙に隠れて、ヘリが気がつかなかったのね」
残っているのは三人。一人は背負うとしても、クリオス能力を使っているし動けない。コイオスでは私が手伝っても一人しか運べない。
どうしようか。
「幻獣の召喚はできないのかしら」
「コリオスになるには、クリオスの能力を解かなくてはなりません」
「背に腹は変えられないわ。やってちょうだい」
「わかりました。行きますよクリオス」
「はい。能力解除、コイオスと同調開始」
手際がいいのは言うまでもない。瞬時にコリオスとなり、幻獣召喚に入る。「乗るならペガスス先生がいいですね」と言いながら、あっという間にペガススを召喚し、救護者をペガススの背に乗せていく。
「私は一度地上へ降ります。姉様はどうされますか」
「私も行くわ。天使が原因みたいなんだけど、一人じゃこの広さはちょっとね。美麗があとで来るからそれから捜索しようかなって」
まずはやはり、人命優先だからね。
屋上から出発して数分。救護者は皆眠ってしまった。安堵と疲れからだろう、いづれにしても急いで医療機関に届けなくては。
そう思った矢先、閃光が私たちの目の前を横切る。
「コレは」
コリオスは驚嘆の声を上げながら手綱を操作し、回避行動に入る。
私は先行し攻撃の発された方の様子を見る。と今度は正確に私を狙っての射撃を仕掛けてくる。
「くっ、この。コリオスは退避、早く救護者を届けなさい」
「ですが姉様」
「大丈夫、少しの間時間を稼ぐだけよ」
なるほど、この攻撃で焼かれれば火事にでもなるし、爆発もするだろう。
「危なっ・・・いっと」
後方からの狙撃、敵は一人じゃない最低でも二人以上。そこで私はふと思う。コイツら私を見つけるなり私を狙って、目的は私を誘き出すことだったの・・・。
「まんまと罠に嵌ったってことかしら。・・・・・いいえ、むしろ罠に嵌ってやったのよっ」
強気で私は自身を鼓舞する。しかし敵の当たりをつけたいのに、次々と発砲場所が変化する敵に私は回避するしかなく、未だ有効な一手を打てていない。
弾丸の一つが私を捉えて、吸い込まれるように飛んでくるが、間一髪それは撃ち落とされる。
「ヒルデ、大丈夫ですか」
「美麗、ありがとう助かったわ」
二人でなら、敵も手数が減るだろうと思われたが、実際には手段を変えさせただけであった。彼らはあろうことか位置的有利を捨て近接戦闘を仕掛けてくる。
おそらく、美麗の狙撃スキルを予測してのことなのか、感がいいにも程があると思う。
最早、乱戦状態になり連携も何もない。ここにやってきた敵は二人の天使・・・なのだが、ちょっと違和感を感じる。天使なのは翼などから分かるのだけれど、変なスーツを着てかなり現代的な武器を扱っている。
「ちょっと、あんたたちどこの誰だか知らないけど、街をめちゃくちゃにするわ、いきなり襲ってくるわ、一体何者なの。本当に天使」
「・・・・・」
もちろんのこと、答えは返ってこない。今までなら何かしらの反応はあったのだが、これはますます疑わしい。
「きゃあああ」
突然の美麗の悲鳴にそちらを見ると、美麗が物凄い勢いでビルに突っ込み、外壁を貫いていて、どこかのオフィスで停止する。よろよろ、立ち上がるところを敵が見逃すはずもなく私は、目前の敵を放って、すかさず美麗の元に駆けつけんとする。
敵が剣を高く振りかぶり一閃。その束の間スローモーションのように思われるが、それでも私は何とか間に合ってその強靭な刃を背中で受けた。
「うぐっ、ああっ」
私は背中を斬られただけだと思っていたけど、どうやら違ったようだ。よく見ると私の腹部から剣先が突き出ているでわないか。
「・・・・・え」
ズブリと嫌な音がしたような気がする。訳がわからず変な声が出てしまう。そして体がグイッ持ち上げられて、私は天を仰ぎ見たかと思うと、美麗の元にゴロゴロと丸太のように転がって止まる時には、我慢できずに口から大量の血を吐き出してしまった。
遠目に見える天使はふわりと消えた。しかしその表情は冷たくつまらなさそうにもみえる。
「ヒルデ、ああっああ」
「ゴフッ・・・・・み・れ・・・い」
美麗が銃剣を投げ捨ててこちらへ駆け寄ってくる。体から力が抜けていく。キラキラと光の粒が沢山見える。美麗に抱かれた温かさとは別の温もりを感じる。
「いやっ、ヒルデ・・・嫌、行かないで」
美麗、何言ってるの私はどこにも・・・。
ああ、そうか。この感じどこかで見たことあると思ったらガイアが地球に溶けたときと同じ、私も幕引きなのかもしれない。でもおかしいな、こんな時だって言うのに私、嬉しいや。
「今度は・・・助け・・・れた、生きてて・・・・・良かった」
「ヒルデ、ヒルデ」
私は救えた今度は取りこぼさずに済んだ。美麗からしたらはた迷惑な話だろうけど、自己満足だとしても私は今とても嬉しい。もう何も感じないし、何も見えない。あとは私の意識を外界から切断しゆっくりとその時を待つだけだ。
「ヒルデ、答えてヒルデ。消えないでヒルデ」
「ありがとう、美麗」
私は不思議な感覚とともに空気に溶けていく?
空間がねじ曲がり頭が痛い。頭がまだある?
けれども暗がりは果てしなく何も見えない。見えないと言う現状は把握できている。そこまでを考えた時いきなり、無理やりコードを引き抜かれたテレビ画面のように視界がプツリと途絶え、もう本当に何も感じなくなるのだった。
「おはよう。美麗は起きてるかしら」
「あの子なら、そろそろ降りてくると思うけど、急かしたらんときや。心の準備は必要やさかいに」
「分かってるわよ。別に私、急いでなんかないし」
「まあ、あの子次第やな」
「そうね。・・・大丈夫かな美麗」
両親に会うとは言ってもガイアによって記憶を消されているわけで、実際には様子を見に行くが正しい言い方になる。
忘れる方より、忘れられる方が哀しいものだ。だから美麗にはあまりお勧めしないが「やっぱり、自分の目で見て会っておきたいんです。私の家族だった人たちだから・・・」と美麗に言われてしまったのを、私は止めることはできない。押し切られてしまったということになるのだろう。
待つこと数分。店の奥の扉から「お待たせしました」と美麗が制服姿でやって来た。そういう私も制服なのだが。
「ちゃんとした服って、制服くらいしか思い浮かばなくてと思ったけど。ヒルデも一緒なんですね」
「普段の私たちって感じでいいんじゃない」
「ウェスタさん、行ってきます」
「はいな。行っておいで」
店を出て私たちはその足で、駅へと向かった。空を行こうという提案もしたが、緊張して上手く飛べないかもということで、普通に鉄道を利用することにした。
「今更なんだけどね。私、鉄道に乗るの初めてなの」
「ええ、と。そうですよね。そういうこともありますよね。私が切符を買ってきますね」
私の一言に戸惑いつつも美麗は、事もなげに切符を買ってきて私に手渡してくれた。
美麗の両親は現在、この街から離れここよりもさらに都会な場所で暮らしているのだとか。世話焼きなプルトによると美麗のいなくなった後、子宝に恵まれ三人で静かに暮らしているそうだ。
この時間だとお父さんの方は仕事に行っている頃だろう。
「次の駅ね」
「そうですね」
「大丈夫よ。様子を伺うだけだもの心配ないって」
「・・・・・」
相当緊張しているのか、美麗の表情は硬くなって行く一方だ。電車が止まり、私たちは駅の改札を抜けて一息つく。
連なる高層ビルが、異界のように感じられいつもとの違いが余計に意識させられる。
「もう大丈夫です。いきましょう」
美麗はスタスタと歩き出し、目的地に向かう。オフィス街を抜け、街の騒がしさも少しマシになる頃、一際目立つマンションの前で美麗は立ち止まる。
このマンションにはロビーがあり、その隣には公園がある。ロビーから碧い芝の公園の様子が窺えるようになっている。
「結構というか、かなり綺麗な建物ね」
「そう・・・ですね。一軒家に住んでいたので、まさかこいう風なマンションに引っ越していたなんて意外という他ないですが」
櫻田という表札のポストを見つけ、何階か確認する。エレベーターホールに行くには、カードキーか住人の許可が必要なようだ。
私たちは隣の公園で待つことにした。なんでも午前の終わりと午後の始まりごろに二度ほど、幼い子供とこの公園に遊びに来るのだとか。要するに美麗の弟か妹にあたる子と、ここで二回遊ぶのが日課だということらしいとプルトが言っていた。何日張り込んでいたのか気になるところだが、今は置いておくとしよう。
「そろそろ、情報通りなら降りてくる頃かしらね」
「来ました。あの人がお母さんです」
小さな男の子に手を引かれて、マンションの裏口から出てきたすらりとした女性。そういう印象を受けたがどこか・・・・・寂しそうな表情・・・というのかな。よくわからないけれど、私はそう感じてしまう。
美麗のお母さんが持っていたボールを受け取ると、不意に私たちの座るベンチの方にボールを投げた。幼児の力で投げられたボールは数十cm宙を漂い力なく転がって美麗の足下で止まった。
その光景はさながらあの子が美麗にボールを渡したかのようにすら思えた。
「ごめんなさい。この子ったらいきなり投げるものだから」
ボールを拾い上げる美麗が顔を上げると、女性は固まって口を手で押さえた。
「はい、どうぞ」
「あーとー」
美麗はボールを男の子に渡してやる。それを女性は変わらず見ていた。私は気になって声をかける。
「あの、大丈夫ですか」
「あっ、えっと、ごめんなさい。あの子、なんだかとても懐かしい感じがして。どうしてだかわからないのだけど、ごめんなさいね。初対面の人を勝手に懐かしんでしまって。私ってばちょっとおかしいですね」
私は美麗と男の子を一瞥して告げた。
「おかしくないと思いますよ。少なくとも私は。そう感じたならそれが正しいあなたの気持ちなんだと思うから」
「・・・・・」
「美麗、そろそろ行かないと」
わざとらしく私は美麗の名前を呼ぶ。
「はい、もうちょっとだけいいですか」
私は美麗の代わりに男の子と遊んび、数分後美麗が戻ってくると、私と美麗は二人に別れを告げた。
美麗がお母さんと何を話したのかは、聞いても教えてはくれなかった。でも美麗の表情から察するに、嬉しさ半分寂しさ半分といった具合だろうと私は勝手に思うことにした。
その後、お昼を駅近くのレストランで過ごし日が落ちる前に電車に乗り、私たちの街へ帰ることにした。電車を降り見慣れた風景に落ち着きを感じつつうちに向かう途中、ビルがある方で火の手が上がる。
「あれって」
ブルルルと携帯電話がポケットの中で震えて少し驚き、慌てて取り出してみると若からの着信だった。
「若、今、うちの近くなんだけど、街の方が大変なことになってるわよ」
「〈ああそのことなんだけど、どうやら原因は天使の仕業みたいなんだ。僕はいま事務所なんだがこっちもすごい騒ぎで、爆発したのは一棟だけじゃないみたいだ。詳しくはわからないが、天使を探しに行くなら絶対に一人でいっちゃダメだからねお嬢さん〉」
「わかってるわよ。じゃあね」
プッ。私は通話をやめる。
「聞いての通りよ。美麗は一応ウェスタにこのことを話しておいて」
「はい、でもヒルデは」
「コイオスとクリオスがもう向かってるはずだから、先に行くわ」
「では、向こうで落ち合うのということでいいですか」
「ええ、そうしましょ」
私は戦装衣を纏い、火災により赤く染まる空へ飛び立つ。あまり高度を上げない方がいいと思い、私は地上二百メートルほどのところを進んでいく。案の定、高高度は煙で黒々と広がり、太陽を遮ってしまっている。
ふわりとビル群を縫うように確かめていると、コイオスとクリオスが人命救助している姿が見えた。
「コイオス、クリオス」
「「姉様」」
「この人たちは」
「逃げ遅れた人たちです」
「私たちのことは消防士に見えるように、能力発動中なのです」
なるほど、火災発生地点より上の階にいた人たちが、降りれず屋上に登って救助待ちだったということか。
「ちょうど煙に隠れて、ヘリが気がつかなかったのね」
残っているのは三人。一人は背負うとしても、クリオス能力を使っているし動けない。コイオスでは私が手伝っても一人しか運べない。
どうしようか。
「幻獣の召喚はできないのかしら」
「コリオスになるには、クリオスの能力を解かなくてはなりません」
「背に腹は変えられないわ。やってちょうだい」
「わかりました。行きますよクリオス」
「はい。能力解除、コイオスと同調開始」
手際がいいのは言うまでもない。瞬時にコリオスとなり、幻獣召喚に入る。「乗るならペガスス先生がいいですね」と言いながら、あっという間にペガススを召喚し、救護者をペガススの背に乗せていく。
「私は一度地上へ降ります。姉様はどうされますか」
「私も行くわ。天使が原因みたいなんだけど、一人じゃこの広さはちょっとね。美麗があとで来るからそれから捜索しようかなって」
まずはやはり、人命優先だからね。
屋上から出発して数分。救護者は皆眠ってしまった。安堵と疲れからだろう、いづれにしても急いで医療機関に届けなくては。
そう思った矢先、閃光が私たちの目の前を横切る。
「コレは」
コリオスは驚嘆の声を上げながら手綱を操作し、回避行動に入る。
私は先行し攻撃の発された方の様子を見る。と今度は正確に私を狙っての射撃を仕掛けてくる。
「くっ、この。コリオスは退避、早く救護者を届けなさい」
「ですが姉様」
「大丈夫、少しの間時間を稼ぐだけよ」
なるほど、この攻撃で焼かれれば火事にでもなるし、爆発もするだろう。
「危なっ・・・いっと」
後方からの狙撃、敵は一人じゃない最低でも二人以上。そこで私はふと思う。コイツら私を見つけるなり私を狙って、目的は私を誘き出すことだったの・・・。
「まんまと罠に嵌ったってことかしら。・・・・・いいえ、むしろ罠に嵌ってやったのよっ」
強気で私は自身を鼓舞する。しかし敵の当たりをつけたいのに、次々と発砲場所が変化する敵に私は回避するしかなく、未だ有効な一手を打てていない。
弾丸の一つが私を捉えて、吸い込まれるように飛んでくるが、間一髪それは撃ち落とされる。
「ヒルデ、大丈夫ですか」
「美麗、ありがとう助かったわ」
二人でなら、敵も手数が減るだろうと思われたが、実際には手段を変えさせただけであった。彼らはあろうことか位置的有利を捨て近接戦闘を仕掛けてくる。
おそらく、美麗の狙撃スキルを予測してのことなのか、感がいいにも程があると思う。
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「・・・・・」
もちろんのこと、答えは返ってこない。今までなら何かしらの反応はあったのだが、これはますます疑わしい。
「きゃあああ」
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敵が剣を高く振りかぶり一閃。その束の間スローモーションのように思われるが、それでも私は何とか間に合ってその強靭な刃を背中で受けた。
「うぐっ、ああっ」
私は背中を斬られただけだと思っていたけど、どうやら違ったようだ。よく見ると私の腹部から剣先が突き出ているでわないか。
「・・・・・え」
ズブリと嫌な音がしたような気がする。訳がわからず変な声が出てしまう。そして体がグイッ持ち上げられて、私は天を仰ぎ見たかと思うと、美麗の元にゴロゴロと丸太のように転がって止まる時には、我慢できずに口から大量の血を吐き出してしまった。
遠目に見える天使はふわりと消えた。しかしその表情は冷たくつまらなさそうにもみえる。
「ヒルデ、ああっああ」
「ゴフッ・・・・・み・れ・・・い」
美麗が銃剣を投げ捨ててこちらへ駆け寄ってくる。体から力が抜けていく。キラキラと光の粒が沢山見える。美麗に抱かれた温かさとは別の温もりを感じる。
「いやっ、ヒルデ・・・嫌、行かないで」
美麗、何言ってるの私はどこにも・・・。
ああ、そうか。この感じどこかで見たことあると思ったらガイアが地球に溶けたときと同じ、私も幕引きなのかもしれない。でもおかしいな、こんな時だって言うのに私、嬉しいや。
「今度は・・・助け・・・れた、生きてて・・・・・良かった」
「ヒルデ、ヒルデ」
私は救えた今度は取りこぼさずに済んだ。美麗からしたらはた迷惑な話だろうけど、自己満足だとしても私は今とても嬉しい。もう何も感じないし、何も見えない。あとは私の意識を外界から切断しゆっくりとその時を待つだけだ。
「ヒルデ、答えてヒルデ。消えないでヒルデ」
「ありがとう、美麗」
私は不思議な感覚とともに空気に溶けていく?
空間がねじ曲がり頭が痛い。頭がまだある?
けれども暗がりは果てしなく何も見えない。見えないと言う現状は把握できている。そこまでを考えた時いきなり、無理やりコードを引き抜かれたテレビ画面のように視界がプツリと途絶え、もう本当に何も感じなくなるのだった。
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