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プロローグ
穏やかな内に
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夏が訪れ、太陽の日差しが一層眩しくなる頃、私と美麗は海上にやってきていた。
「行きます」
「ええ、思いっきりきなさい」
ハーキージィアンを下段に構える私と、相対するのはガイアの力を引き継いだ美麗。ガイアが内に入ることでプロメテウスとの契約は切れたのだとか、こう言った手合いの話はオケアノスが教えてくれるだろう。
美麗が持つのは異形な銃剣。一見しただけでは木の幹のような姿をしているが、試し撃ちをした時の威力は、凄まじいものだった。ネプトゥヌスやプルトが模擬戦をしてくれるものだと思っていたが、忙しいのなんだので結局のところ、夏休みを利用しこうして安全な沖合にやって来ているのだ。
「撃ちます」
美麗が構えると、ターゲットサイトのような紋章が私に刻まれる。ここまでは私も先日の試し撃ちの時に見物していたから知っている。
だが、実際はそれだけではない。私が回避するために飛び回ると、爆音とともに放たれた銃弾は、光の弧を描き私の後を付けて回る。鋭角に旋回しても、反転してもどこまでも付いてくるので、仕方なく私はハーキーで銃弾らを切り落として行った。
「ふぅう。凄い追尾能力ね。追ってくるというより、私が弾を引っ張って飛んでいる感じだったわ」
「お疲れ様です。私から見てもそんな感じですね。原理としては最初に放たれる紋章が刻まれた段階で目標に当たることが確定するみたいです」
「なるほど、事象の固定ね。かなり厄介だわ敵にしたくないかも」
「ですけど、相手の技量によっては先ほどのように打ち落としたり防ぐことは可能みたいです。確実に当てるには近づいて撃つのがやっぱりいいみたい」
というわけで、私たちは格闘訓練を始める。銃剣を構える美麗に私は勢いよく飛び込み、私から見て右上から斜めに斬り払う。フワリと美麗は後方に回転して跳び退き、正面を向く瞬間に数発発砲する。
ペチ、ペチとペイント弾がわたしの脚や肩を赤くした。
「やるわね、でもまだ致命傷じゃない」
「次は打ち抜きます」
そうして、私たちは時間を忘れてただ夢中に撃ち合った。お互いの全力はぶつかり合うがどこか気持ちがよく、悲しさなんてない戦いをした。
陽が傾き水平線に沈むのを浜辺の流木に腰掛けて眺めていた。
「穏やかですね。ここは」
「そうね。いつもは忘れてしまっているけど、こういった穏やかな時間や静かなときがとても大切に思える」
すくっと立ち上がり服を払って私は美麗に手を差し伸べる。
「もう暗くなるわ、今日は帰りましょ」
その手を取って美麗も立ち上がる。
「ええ、帰りましょ」
そう言った美麗の目にはどこか哀しそうで、次の言葉をかけてあげられない。
明日は美麗と一緒に彼女のご両親の様子を見に行くことになっていた。そのことと何か関係があるのだろう。もう何年もあっていないなら緊張もするだろうし、怖さもあると思う。気休めの言葉じゃ何を言っても無駄なんだろうな。
「じゃあ、ここで」
「うん、ありがとう。また明日」
「ええ、ウェスタの店まで迎えに行くわね」
商店街のアーケードの入り口で美麗と別れた。さてわたしも帰ろ。今日のご飯はなんだろ、などと思いウチに帰るが、最後の曲がり角でわたしは呼び止められる。
「君、そこの君。ちょっとだけ私の話を聞いてはくれないか」
私は振り向くと、そこには背筋伸ばした紳士が私を見下ろしていた。
「いいですけど、手短にお願いします」
「ああ、そのつもりだ。この辺りに神社というものはあるのかなぁ」
「ありますけど、こちらではなく反対の山ですよ」
「そうですか、こちらだと思っていたが勘違いだったようだ。親切なお嬢さんありがとう」
紳士は帽子を手に取り胸の辺りに押し当てて軽くお辞儀をして、杖を片手に歩き出して行った。と思ったのだが・・・・・。
「何度もすまない。最後に一言いいかな君とはまた遠からず出会いそうだ。では」
・・・・・ん。
なんだかよくわからないけど、変な人だなとこの時は思っていた。杖は突いて歩いているわけではなく、ただ持っているだけのようだ。凄く違和感を感じてしまうが、今日のところは気にせずに帰った方が良さそうだ。
その晩、若にその人物のことを話すと「まるで18世紀の欧米の紳士って感じだなぁ」などと言っていた。確かに背は高く、日本人という感じではなかった。でも私はそれだけでなく、若のいう時代感の違いを逆側に感じてた。そう、格好こそ古風に見えたがそれを着ている人物はこの世界の人間かどうかを疑いたくなる。
上手く言葉にできない。・・・・・ふう。
「お風呂に入って、早く休もうっと」
明日は、明日で美麗との約束もあることだし、夜更かしは良くない。そりゃあ、あの人のおかしな雰囲気は気にはなるけれど、街を歩いていればどこかですれ違いもするだろう。多分、あの紳士もそういう意味で言ったんだろう。
私は鏡の中の瞳を一瞥し、風呂の戸を開き、勢いよく蛇口を開け、少し暑いくらいのお湯を一番上の留め具にかけたシャワーヘッドから浴びる。
風呂から上がる頃には、すっぱりと気にしないことにした。だから、ぐだぐだとしたくないと思い、髪を乾かし自分の布団に一目散に飛び込みに向かった。
「変な締めくくりになっちゃったな。何やってんだろ私」
そして、私はゆるりとまぶたを閉じるのだった。
「行きます」
「ええ、思いっきりきなさい」
ハーキージィアンを下段に構える私と、相対するのはガイアの力を引き継いだ美麗。ガイアが内に入ることでプロメテウスとの契約は切れたのだとか、こう言った手合いの話はオケアノスが教えてくれるだろう。
美麗が持つのは異形な銃剣。一見しただけでは木の幹のような姿をしているが、試し撃ちをした時の威力は、凄まじいものだった。ネプトゥヌスやプルトが模擬戦をしてくれるものだと思っていたが、忙しいのなんだので結局のところ、夏休みを利用しこうして安全な沖合にやって来ているのだ。
「撃ちます」
美麗が構えると、ターゲットサイトのような紋章が私に刻まれる。ここまでは私も先日の試し撃ちの時に見物していたから知っている。
だが、実際はそれだけではない。私が回避するために飛び回ると、爆音とともに放たれた銃弾は、光の弧を描き私の後を付けて回る。鋭角に旋回しても、反転してもどこまでも付いてくるので、仕方なく私はハーキーで銃弾らを切り落として行った。
「ふぅう。凄い追尾能力ね。追ってくるというより、私が弾を引っ張って飛んでいる感じだったわ」
「お疲れ様です。私から見てもそんな感じですね。原理としては最初に放たれる紋章が刻まれた段階で目標に当たることが確定するみたいです」
「なるほど、事象の固定ね。かなり厄介だわ敵にしたくないかも」
「ですけど、相手の技量によっては先ほどのように打ち落としたり防ぐことは可能みたいです。確実に当てるには近づいて撃つのがやっぱりいいみたい」
というわけで、私たちは格闘訓練を始める。銃剣を構える美麗に私は勢いよく飛び込み、私から見て右上から斜めに斬り払う。フワリと美麗は後方に回転して跳び退き、正面を向く瞬間に数発発砲する。
ペチ、ペチとペイント弾がわたしの脚や肩を赤くした。
「やるわね、でもまだ致命傷じゃない」
「次は打ち抜きます」
そうして、私たちは時間を忘れてただ夢中に撃ち合った。お互いの全力はぶつかり合うがどこか気持ちがよく、悲しさなんてない戦いをした。
陽が傾き水平線に沈むのを浜辺の流木に腰掛けて眺めていた。
「穏やかですね。ここは」
「そうね。いつもは忘れてしまっているけど、こういった穏やかな時間や静かなときがとても大切に思える」
すくっと立ち上がり服を払って私は美麗に手を差し伸べる。
「もう暗くなるわ、今日は帰りましょ」
その手を取って美麗も立ち上がる。
「ええ、帰りましょ」
そう言った美麗の目にはどこか哀しそうで、次の言葉をかけてあげられない。
明日は美麗と一緒に彼女のご両親の様子を見に行くことになっていた。そのことと何か関係があるのだろう。もう何年もあっていないなら緊張もするだろうし、怖さもあると思う。気休めの言葉じゃ何を言っても無駄なんだろうな。
「じゃあ、ここで」
「うん、ありがとう。また明日」
「ええ、ウェスタの店まで迎えに行くわね」
商店街のアーケードの入り口で美麗と別れた。さてわたしも帰ろ。今日のご飯はなんだろ、などと思いウチに帰るが、最後の曲がり角でわたしは呼び止められる。
「君、そこの君。ちょっとだけ私の話を聞いてはくれないか」
私は振り向くと、そこには背筋伸ばした紳士が私を見下ろしていた。
「いいですけど、手短にお願いします」
「ああ、そのつもりだ。この辺りに神社というものはあるのかなぁ」
「ありますけど、こちらではなく反対の山ですよ」
「そうですか、こちらだと思っていたが勘違いだったようだ。親切なお嬢さんありがとう」
紳士は帽子を手に取り胸の辺りに押し当てて軽くお辞儀をして、杖を片手に歩き出して行った。と思ったのだが・・・・・。
「何度もすまない。最後に一言いいかな君とはまた遠からず出会いそうだ。では」
・・・・・ん。
なんだかよくわからないけど、変な人だなとこの時は思っていた。杖は突いて歩いているわけではなく、ただ持っているだけのようだ。凄く違和感を感じてしまうが、今日のところは気にせずに帰った方が良さそうだ。
その晩、若にその人物のことを話すと「まるで18世紀の欧米の紳士って感じだなぁ」などと言っていた。確かに背は高く、日本人という感じではなかった。でも私はそれだけでなく、若のいう時代感の違いを逆側に感じてた。そう、格好こそ古風に見えたがそれを着ている人物はこの世界の人間かどうかを疑いたくなる。
上手く言葉にできない。・・・・・ふう。
「お風呂に入って、早く休もうっと」
明日は、明日で美麗との約束もあることだし、夜更かしは良くない。そりゃあ、あの人のおかしな雰囲気は気にはなるけれど、街を歩いていればどこかですれ違いもするだろう。多分、あの紳士もそういう意味で言ったんだろう。
私は鏡の中の瞳を一瞥し、風呂の戸を開き、勢いよく蛇口を開け、少し暑いくらいのお湯を一番上の留め具にかけたシャワーヘッドから浴びる。
風呂から上がる頃には、すっぱりと気にしないことにした。だから、ぐだぐだとしたくないと思い、髪を乾かし自分の布団に一目散に飛び込みに向かった。
「変な締めくくりになっちゃったな。何やってんだろ私」
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