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the last judgment
楽園(エデン)
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人間界での1件以来私は、ここで生活をする日々を過ごしている。「エデン」と呼ばれる神々の世界。
「もう何年になるかな」
澄み切った空気、どこまでも広がる。虹色の空、手に繋がれた小さな手、
「我が娘よムネモシュネの元へ」
「はいはい、わかってますよ父上」
今日は、ムネモシュネが転生される日だった。神の根源は、カオスという名の虚無的空間。そこに人間の欲(善性の欲、願いと呼ぶもの)が干渉することで、神はこの世に生を受ける。人間より優れていることは明白であるが、人間により生み出されるのだ。
「父上、少しお聞きしても良いですか?」
「何だ」
「ムネモシュネは転生しこの地に戻ってきますが、父上は・・・」
「レアのことか?案ずるな、私が愛した女だ。あやつのしたことを受け入れてやれんで、夫が務まるものか」
父、クロノスは最愛の妻レアを失ったことを受け入れて乗り越えようとしていた。私にはほとんど記憶がないが、クロノスの話によると、今の私の姿に似ているのだという。
「しかしまあ、お前が転生していたとはな。それにしても」
クロノスは、立ち止まってじっと私の体を眺めたあげく、
「レアほど育ってないな」
「うるさい。チイサイ父上」
「ははは、ムキになるところは、本当によく似ておるわ」
ふうっと、息を吐いて幼児化した。クロノスを抱き上げてやる。自分で毒を吐いておいて、自分が悲しくなるんだから、言い返せないじゃない。するとぽそっと、「すまぬ」と父の震えた声が聞こえた。
「気にしないで、父上のせいじゃないわ」
そう、母を失ったのは、父のせいではない。だが私はまだその黒幕の正体をつかめずにいた。誰が父を狂わせ、母を死に追いやったのか。疑問がたくさんあるのだが、今は、ムネモシュネの帰りを喜ぶとしよう。
ムネモシュネが、転生する場所は、混沌の沼で、身体が損傷していたので、時間がかかった。父の場合は、再生過程を中断したため、幼児の体型のまま転生した。コリオスの場合と違うことといえば、幼児のまま転生するか、大人の姿で転生し、後から分裂したかの差である。
「みなさん揃いましたね」
テテュスは、杖をひと振りして沼から出ている。頭かな。とにかく沼から出ているムネモシュネの一部の上に陣を貼って、引っ張り上げる。
「ちょっと、強引なんじゃ」
「大丈夫ですよ。これぐらいがちょうどいいのですよ」
ズボッと、ムネモシュネが引き上げられた。姿形はどこも変わらないようだ。
「コイオス、服を」
コイオスが岸に上がった。ムネモシュネのからだに服を着せてやる。
「あれは、聖骸布なんですよ。あれを着ると、知能系の発達が促進されて、より早く成人の神に育ちます」
「へぇ」
クリオスは、クロノスの目を塞いで言った。
「おい、早くこの手をどけろ。見えんだろうが」
「男の子は見ちゃいけないのです」
うん。確かに今の父上には刺激が強いかもしれないな。私はクリオスの対応に心の中で賛同した。
「大丈夫、しっかり回復しています。あとは、記憶を取り戻し目を覚ますのを待つだけですね」
「そうか、よかった」
「私からも改めて、詫びに参ると目が覚めたら伝えてくれ」
クロノスはそう言うと、どこかへ行こうと歩き出した。一体どうしたというのだろか。
「ちょっと、どこ行くの?」
「何、湿気っぽいんで、晴れた場所へ行くだけだ」
私は、テテュスに後を任せて、父を追った。
追った先には、小さな小川が浮島の上から、下の浮島に流れ行きため池を作る。そんな景色が一望できる丘の木陰にクロノスはいた。
「いきなりどうしたの?」
「いやなに、妹を傷つけたのは私だ。たとへ私の憎しみの心が勝手にやったことでも、記憶に残っているのだよ」
「でも謝るつもりなんでしょ」
「謝罪はしよう。だが、私には会う資格がない」
やはり、何処と無く悩みやすいところは、私と似ていると思う。
「資格があるとかないとか。ムネモシュネが決めることよ。兄妹なんだから父上の方が、よく分かるじゃない」
「うむ、資格の所有権は与える者によるということか」
そして、私に向き直ると、
「わかった。確かめに行こう」
と言ってまた、スタスタと混沌の沼へ歩き出した。ふうっと、息を吐いて私も後に続く。世話のかかる親だ。今は子どもの姿だが。
沼に着くとムネモシュネは、目を覚ましていた。
「あっテテュス姉様、姉様が帰ってきましたよ」
「あらあら、クロノスは、何かに気づいた様子ですね」
肩を震わせて、テテュスがクスクス笑っているのが、遠くからでも見て取れた。クロノスが、ムネモシュネに近づくと彼女は、一瞬顔を強張らせたが、すぐに、涙を流してクロノスを抱いた。
「どうやら仲直りが出来たようですね」
すると、テテュスは、
「貴女も、ヒルデも素直になれない性格ですし、フフフッ。本当は戻りたいのでしょう」
「えっ」
私は驚きを隠せなかった。まさしく図星であり、返す言葉もない。まぎれもなく、間違いなく、私は人間界に戻ろうと思っていた。しかし、その方法は未だ見つからなかった。あの扉をいくら探しても、見つからないし八方ふさがりの状態であった。
「そうね、私は帰りたいと思うわ。あの街へ、あの家へ。彼の元へ」
「そうですか。時が来ればきっとまた会えますよ」
時が来れば、か。それはいつのことだろうか。神でさへ計れない、時の流れ。それに逆らうことは決して出来ない。時は、一方通行に進んで行くだけだ。
そして二週間程経ったある日、その時は突然やって来た。林檎をコイオスとクリオスとで収穫していた時、扉は現れた。私を誘うようにそこに佇む扉は、威厳すら感じさせる。気づいた時には、ドアノブに手を掛けていた。
「姉様?」
クリオスが私を呼び止める。コイオスはクリオスの肩に手を置いて、次の言葉を遮った。
「行かれるのですか?」
「そのつもり」
「では、お気をつけて」
以外なことに、あさっさりと見送られた。
「止めないのね」
コイオスにどうしてか聞いた。
「だって、姉様ですから」
そう言って、コイオスは扉を勢いよく開け放った。私はその扉を潜った。水に溶けるように、沈むで行く。エデンの光は遠くに映え、淡い光が私の行き先を照らしている。だが両足に違和感が、と足元を確認すると、
「エェッ、あんたたち何やってんの」
そこには、コイオスとクリオスが右足と左足にそれぞれしがみついていた。
「だって、姉様ですから」
いや、さっきその言葉で送り出して来れたのでは。まさかあの言葉は、「行くのはいいがついて行く」という意味だったとは思わなかった。
「この扉が開くということは」
「誰かが姉様の」
「「助けを必要としているのです」」
2人は自信たっぷりに言った。
「誰かが私を必要としている」
ならば一層やる気が出てくる。テテュスにも、ムネモシュネにも、そして父上にも、別れを告げずにやって来てしまったが、後悔はしていない。なぜならば神の一生は長いからだ。それに対して、人間の一生は刹那である。とすると、私の選ぶべき道は最初から1つしかない。もう一度会いたい彼に。水の中にいるような息苦しさは消え、光に包まれ進んで行く。もうすぐだ。
私たちは、扉から出るとそこは懐かしいあの街の上空であった。紅く染まる夕暮れの空は、あの別れの時を思い起こさせる。しかし1つ違うことと言ったら、現在進行形に40キロメートル付近の成層圏ギリギリから落下中であることと、なぜか翼が上手く動かないことだった。それは、コイオスとクリオスも同じらしく、2人は素早く同化しコリオスとなって、幻獣を召喚した。コリオスはそれにまたがるとその獣は、身体に生やした。大翼を羽ばたかせて私の元へ来ると、コリオスが手を引っ張り幻獣の背中に乗せた。
「ありがとう。助かったわ。この生き物は?」
「この子は、グリフォンです。鷲の頭と鷹の爪、獅子の体に不死鳥の翼を授かる幻獣。あくまでも私の創造から構築された幻想という夢の一部に過ぎません」
街は、眼下に広がるが少し違和感を覚える。何かが引っかかる。崩れかけた街並み、所々残るコンクリートの溶けた瓦礫。もしかして、そして居ても立っても居られず、早く声を聞きたくて、早く彼に会いたくて、私はグリフォンの背から飛び降りた。
「わーーーーかーーーーー」
髪の毛は音を立てて瞬き、金の瞳には、1人の人間を捉えていた。すでに雲の下7キロメートルくらいだろうか。
「んっ、今お嬢さんの声がしたような、まっ気のせいか」
「わーーーーかーーーーー」
「えっ、気のせいじゃない」
若が見上げたとき、私としっかり目があった、
「受け止めーーテーー」
「ムーーリーーだーー。位置エネルギーーーが大きすぎて、力学的エネルギーがおかしなことになってるよーー」
「訳ワカンナーーーーイーー。ヒャアアアアアーーー」
500メートルもない。落ちると思った瞬間に、動かなかった翼がかろうじて動き減速すると、すっぽりと若の腕も中に収まった。
「おかえり」
「ただいま」
「姉様、無茶しないでください」
「あわわわ、プギャッ」
コイオスは、優雅に着地するもクリオスは顔面から落ちて来た。しかし「テヘヘェ」と鼻をさすっている。打たれ強いとはこのことなの。
「あれ、2人も帰って来たのかい?」
「改めて、お世話になります。若様」
「これはご丁寧に」
「それと、姉様をお姫様抱っこするのはやめて下さい」
私と若は、顔を見合わせると、2人とも顔を赤くして、若はそっと私を下ろした。
「だっ、大丈夫だよ。僕とお嬢さんとじゃ、年齢差がありすぎるさ」
「そうよ、コイオス。私は、510歳何だから年の差が・・・あれ、若どうしたの顔が急に青ざめてるわよ」
もともと具合が悪そうな顔立ちがたちまち死人のような顔つきになった。
「大丈夫さあ。ちょっと、驚いただけだから」
「ちなみに、クリオスは、104歳なんですよ」
「私、コイオスも同じく104歳です」
「みんなーお元気でいらっしゃるなぁ」
そのまま、若は夢の中へ沈んで行くのだった。
私はまたこの世界で暮らして行くことができる。しかし、
「ねぇ、何で街が復興してないの」
「それはですね」
クリオスが意気揚々と話し出す。実は、エデンでは、時間の経過が著しく早いのではなく、人間界の時間経過が遅いのだという。まあどちらにせよ、今私たちは人間界を旅立って20分くらいで帰って来たということになるらしい。実際は、エデンで何年間か過ごした。
「兎にも角にも、20分間私たちは人間界に存在していなかったにすぎないのです」
去り際の感動を返してください。私の純粋な心を返して。願っても無駄だが何かにすがりたいと今はただそう思う。叶える側なのだけれど・・・。
「それでも」
「それでも」
「「帰ってこれてよかったです」」
コイオスとクリオスは、沈んでいく夕陽を見つめて言った。私も、
「私も嬉しいわ」
「さあ、真理亜様のお食事をいただきに参りましょう」
クリオスが、私の手とコイオスの手を引いて走り出して言った。んっあー誰か忘れてるような。あっ若を置いて来てしまった。でも大丈夫よね。みんなと会うのが楽しみである。私たちは避難所となっている学校に向かって走り出していくのだった。
「もう何年になるかな」
澄み切った空気、どこまでも広がる。虹色の空、手に繋がれた小さな手、
「我が娘よムネモシュネの元へ」
「はいはい、わかってますよ父上」
今日は、ムネモシュネが転生される日だった。神の根源は、カオスという名の虚無的空間。そこに人間の欲(善性の欲、願いと呼ぶもの)が干渉することで、神はこの世に生を受ける。人間より優れていることは明白であるが、人間により生み出されるのだ。
「父上、少しお聞きしても良いですか?」
「何だ」
「ムネモシュネは転生しこの地に戻ってきますが、父上は・・・」
「レアのことか?案ずるな、私が愛した女だ。あやつのしたことを受け入れてやれんで、夫が務まるものか」
父、クロノスは最愛の妻レアを失ったことを受け入れて乗り越えようとしていた。私にはほとんど記憶がないが、クロノスの話によると、今の私の姿に似ているのだという。
「しかしまあ、お前が転生していたとはな。それにしても」
クロノスは、立ち止まってじっと私の体を眺めたあげく、
「レアほど育ってないな」
「うるさい。チイサイ父上」
「ははは、ムキになるところは、本当によく似ておるわ」
ふうっと、息を吐いて幼児化した。クロノスを抱き上げてやる。自分で毒を吐いておいて、自分が悲しくなるんだから、言い返せないじゃない。するとぽそっと、「すまぬ」と父の震えた声が聞こえた。
「気にしないで、父上のせいじゃないわ」
そう、母を失ったのは、父のせいではない。だが私はまだその黒幕の正体をつかめずにいた。誰が父を狂わせ、母を死に追いやったのか。疑問がたくさんあるのだが、今は、ムネモシュネの帰りを喜ぶとしよう。
ムネモシュネが、転生する場所は、混沌の沼で、身体が損傷していたので、時間がかかった。父の場合は、再生過程を中断したため、幼児の体型のまま転生した。コリオスの場合と違うことといえば、幼児のまま転生するか、大人の姿で転生し、後から分裂したかの差である。
「みなさん揃いましたね」
テテュスは、杖をひと振りして沼から出ている。頭かな。とにかく沼から出ているムネモシュネの一部の上に陣を貼って、引っ張り上げる。
「ちょっと、強引なんじゃ」
「大丈夫ですよ。これぐらいがちょうどいいのですよ」
ズボッと、ムネモシュネが引き上げられた。姿形はどこも変わらないようだ。
「コイオス、服を」
コイオスが岸に上がった。ムネモシュネのからだに服を着せてやる。
「あれは、聖骸布なんですよ。あれを着ると、知能系の発達が促進されて、より早く成人の神に育ちます」
「へぇ」
クリオスは、クロノスの目を塞いで言った。
「おい、早くこの手をどけろ。見えんだろうが」
「男の子は見ちゃいけないのです」
うん。確かに今の父上には刺激が強いかもしれないな。私はクリオスの対応に心の中で賛同した。
「大丈夫、しっかり回復しています。あとは、記憶を取り戻し目を覚ますのを待つだけですね」
「そうか、よかった」
「私からも改めて、詫びに参ると目が覚めたら伝えてくれ」
クロノスはそう言うと、どこかへ行こうと歩き出した。一体どうしたというのだろか。
「ちょっと、どこ行くの?」
「何、湿気っぽいんで、晴れた場所へ行くだけだ」
私は、テテュスに後を任せて、父を追った。
追った先には、小さな小川が浮島の上から、下の浮島に流れ行きため池を作る。そんな景色が一望できる丘の木陰にクロノスはいた。
「いきなりどうしたの?」
「いやなに、妹を傷つけたのは私だ。たとへ私の憎しみの心が勝手にやったことでも、記憶に残っているのだよ」
「でも謝るつもりなんでしょ」
「謝罪はしよう。だが、私には会う資格がない」
やはり、何処と無く悩みやすいところは、私と似ていると思う。
「資格があるとかないとか。ムネモシュネが決めることよ。兄妹なんだから父上の方が、よく分かるじゃない」
「うむ、資格の所有権は与える者によるということか」
そして、私に向き直ると、
「わかった。確かめに行こう」
と言ってまた、スタスタと混沌の沼へ歩き出した。ふうっと、息を吐いて私も後に続く。世話のかかる親だ。今は子どもの姿だが。
沼に着くとムネモシュネは、目を覚ましていた。
「あっテテュス姉様、姉様が帰ってきましたよ」
「あらあら、クロノスは、何かに気づいた様子ですね」
肩を震わせて、テテュスがクスクス笑っているのが、遠くからでも見て取れた。クロノスが、ムネモシュネに近づくと彼女は、一瞬顔を強張らせたが、すぐに、涙を流してクロノスを抱いた。
「どうやら仲直りが出来たようですね」
すると、テテュスは、
「貴女も、ヒルデも素直になれない性格ですし、フフフッ。本当は戻りたいのでしょう」
「えっ」
私は驚きを隠せなかった。まさしく図星であり、返す言葉もない。まぎれもなく、間違いなく、私は人間界に戻ろうと思っていた。しかし、その方法は未だ見つからなかった。あの扉をいくら探しても、見つからないし八方ふさがりの状態であった。
「そうね、私は帰りたいと思うわ。あの街へ、あの家へ。彼の元へ」
「そうですか。時が来ればきっとまた会えますよ」
時が来れば、か。それはいつのことだろうか。神でさへ計れない、時の流れ。それに逆らうことは決して出来ない。時は、一方通行に進んで行くだけだ。
そして二週間程経ったある日、その時は突然やって来た。林檎をコイオスとクリオスとで収穫していた時、扉は現れた。私を誘うようにそこに佇む扉は、威厳すら感じさせる。気づいた時には、ドアノブに手を掛けていた。
「姉様?」
クリオスが私を呼び止める。コイオスはクリオスの肩に手を置いて、次の言葉を遮った。
「行かれるのですか?」
「そのつもり」
「では、お気をつけて」
以外なことに、あさっさりと見送られた。
「止めないのね」
コイオスにどうしてか聞いた。
「だって、姉様ですから」
そう言って、コイオスは扉を勢いよく開け放った。私はその扉を潜った。水に溶けるように、沈むで行く。エデンの光は遠くに映え、淡い光が私の行き先を照らしている。だが両足に違和感が、と足元を確認すると、
「エェッ、あんたたち何やってんの」
そこには、コイオスとクリオスが右足と左足にそれぞれしがみついていた。
「だって、姉様ですから」
いや、さっきその言葉で送り出して来れたのでは。まさかあの言葉は、「行くのはいいがついて行く」という意味だったとは思わなかった。
「この扉が開くということは」
「誰かが姉様の」
「「助けを必要としているのです」」
2人は自信たっぷりに言った。
「誰かが私を必要としている」
ならば一層やる気が出てくる。テテュスにも、ムネモシュネにも、そして父上にも、別れを告げずにやって来てしまったが、後悔はしていない。なぜならば神の一生は長いからだ。それに対して、人間の一生は刹那である。とすると、私の選ぶべき道は最初から1つしかない。もう一度会いたい彼に。水の中にいるような息苦しさは消え、光に包まれ進んで行く。もうすぐだ。
私たちは、扉から出るとそこは懐かしいあの街の上空であった。紅く染まる夕暮れの空は、あの別れの時を思い起こさせる。しかし1つ違うことと言ったら、現在進行形に40キロメートル付近の成層圏ギリギリから落下中であることと、なぜか翼が上手く動かないことだった。それは、コイオスとクリオスも同じらしく、2人は素早く同化しコリオスとなって、幻獣を召喚した。コリオスはそれにまたがるとその獣は、身体に生やした。大翼を羽ばたかせて私の元へ来ると、コリオスが手を引っ張り幻獣の背中に乗せた。
「ありがとう。助かったわ。この生き物は?」
「この子は、グリフォンです。鷲の頭と鷹の爪、獅子の体に不死鳥の翼を授かる幻獣。あくまでも私の創造から構築された幻想という夢の一部に過ぎません」
街は、眼下に広がるが少し違和感を覚える。何かが引っかかる。崩れかけた街並み、所々残るコンクリートの溶けた瓦礫。もしかして、そして居ても立っても居られず、早く声を聞きたくて、早く彼に会いたくて、私はグリフォンの背から飛び降りた。
「わーーーーかーーーーー」
髪の毛は音を立てて瞬き、金の瞳には、1人の人間を捉えていた。すでに雲の下7キロメートルくらいだろうか。
「んっ、今お嬢さんの声がしたような、まっ気のせいか」
「わーーーーかーーーーー」
「えっ、気のせいじゃない」
若が見上げたとき、私としっかり目があった、
「受け止めーーテーー」
「ムーーリーーだーー。位置エネルギーーーが大きすぎて、力学的エネルギーがおかしなことになってるよーー」
「訳ワカンナーーーーイーー。ヒャアアアアアーーー」
500メートルもない。落ちると思った瞬間に、動かなかった翼がかろうじて動き減速すると、すっぽりと若の腕も中に収まった。
「おかえり」
「ただいま」
「姉様、無茶しないでください」
「あわわわ、プギャッ」
コイオスは、優雅に着地するもクリオスは顔面から落ちて来た。しかし「テヘヘェ」と鼻をさすっている。打たれ強いとはこのことなの。
「あれ、2人も帰って来たのかい?」
「改めて、お世話になります。若様」
「これはご丁寧に」
「それと、姉様をお姫様抱っこするのはやめて下さい」
私と若は、顔を見合わせると、2人とも顔を赤くして、若はそっと私を下ろした。
「だっ、大丈夫だよ。僕とお嬢さんとじゃ、年齢差がありすぎるさ」
「そうよ、コイオス。私は、510歳何だから年の差が・・・あれ、若どうしたの顔が急に青ざめてるわよ」
もともと具合が悪そうな顔立ちがたちまち死人のような顔つきになった。
「大丈夫さあ。ちょっと、驚いただけだから」
「ちなみに、クリオスは、104歳なんですよ」
「私、コイオスも同じく104歳です」
「みんなーお元気でいらっしゃるなぁ」
そのまま、若は夢の中へ沈んで行くのだった。
私はまたこの世界で暮らして行くことができる。しかし、
「ねぇ、何で街が復興してないの」
「それはですね」
クリオスが意気揚々と話し出す。実は、エデンでは、時間の経過が著しく早いのではなく、人間界の時間経過が遅いのだという。まあどちらにせよ、今私たちは人間界を旅立って20分くらいで帰って来たということになるらしい。実際は、エデンで何年間か過ごした。
「兎にも角にも、20分間私たちは人間界に存在していなかったにすぎないのです」
去り際の感動を返してください。私の純粋な心を返して。願っても無駄だが何かにすがりたいと今はただそう思う。叶える側なのだけれど・・・。
「それでも」
「それでも」
「「帰ってこれてよかったです」」
コイオスとクリオスは、沈んでいく夕陽を見つめて言った。私も、
「私も嬉しいわ」
「さあ、真理亜様のお食事をいただきに参りましょう」
クリオスが、私の手とコイオスの手を引いて走り出して言った。んっあー誰か忘れてるような。あっ若を置いて来てしまった。でも大丈夫よね。みんなと会うのが楽しみである。私たちは避難所となっている学校に向かって走り出していくのだった。
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