上 下
183 / 187
第三章

花森家の騒動 2

しおりを挟む
  *

「だから言ったじゃないですか。我が家は大丈夫だって……。それよりなんで私のことであんな熱弁したんですか……」
「いや、沙穂の評価を低く見積もられると、もっと正当に評価してやってくれという気になるだろうが」
「八雲さんが私の評価を高く見積もりすぎなんですってば」

 帰り道、車を走らせながら二人は花森の実家で起きたことを思い出す。

「やっぱり、八雲さんの見た目に『私には勿体ない』って結論を出してくれてましたね」
「会ったばかりで過大評価されてもな……。中身が大したことないかもしれないだろう」
「イケメンは中身も良いって、あの三人は思ってます」
「なんでだ。どうしてそんな顔の良い男に弱いんだ」
「イケメンであることが争いを減らすからだそうです」
「知るか」

 東御は東御で花森の評価が家で低かったのが気に入らない。
 自分を買いかぶってくれるのはともかく、花森沙穂が東御と釣り合わないはずだと言われる筋合いはない。

「前にも言ったが、沙穂は俺の人生を大きく変えたんだ。もっと自信を持て」
「まあ、八雲さんにとっては最高の女だと思うようにしていますから」
「よし」
「……あ、お姉ちゃんからメッセージだ」

 花森は携帯電話のメッセージアプリケーションを立ち上げる。

『東御さんの写真送って。お父さんとお母さんと、写真撮り忘れちゃったって後悔してるところ』
「……」
「どうした? 沙穂」
「いえ、我が家で八雲さんの写真を見たいと連絡が来ました」
「この間、二人で撮った密着したやつがあっただろ。アレを送れば良いんじゃないか?」
「……なんで家族にイチャイチャしてる写真を送らなきゃいけないんですか」
「幸せそうな写真を見せた方が安心するんじゃないのか?」
「……多分これは、ただ八雲さんを見たいだけです」
「いいから、あの写真を送れ」

 花森は渋々携帯電話をいじり、保存した写真を探す。
 旅館の部屋で、ワンピース姿の花森を着物で後ろから抱きしめている東御の写真を見つけて「あ」と声を上げる。

 改めて写真を見返してみると、東御が自分をきつめに抱きしめているのがよく分かる写真で、頬を寄せて幸せそうな二人が写っている。

「こ、これ、どう見たってイチャイチャしに行った時に撮ったんだなって感じがします」
「結婚するんだからイチャイチャだってするだろ。何をいまさら……」
「これは見せません! 私たち二人だけのものにします」
「まあ、沙穂がそう言うなら別のやつにすればいい」

 花森は携帯電話に保存した写真を探し、東御の誕生日に撮った東御の顔が無表情で固まっているものを送ることにした。

「八雲さんは、私といる時に特別な顔をするんです。それは私だけのものです」
「……ぐっとくることを言ってくれる」

 東御は先ほどまでの不機嫌を追いやり、気を取り直す。

「沙穂の家族に受け入れられたんだから、喜ぶところだな」
「そうですね、これからは、家族に自慢できる夫として堂々としてください」
「このまま、役所に向かうぞ」
「え? 日曜日ですけど」
「婚姻届は日曜でも受け付けてくれるんだよ」

 そこで信号が赤になる。
 東御はパーキングブレーキをかけると、隣の花森と軽いキスをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夢は職業婦人〜カラクリ御曹司と偽お嬢様の恋

有住葉月
恋愛
帝都華やぐ女学校で2人は出会います。 一流のお嬢様に紛れた1人の女学生と帝都大を出て気ままな絡繰(カラクリ)研究をする講師との恋模様☆ でもでも、お嬢様と御曹司には秘密があったのです、、、 大正浪漫あふれる、文化の薫りを出した作品です。自由恋愛を選んだ2人に何が待つ!?

冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。 《あらすじ》 都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。 アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。 ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。 元々ベリカに掲載していました。 昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

処理中です...