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第三章
婚前 5
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花森は東御の態度が急変したのが分かっていた。
覚悟ができたわけでも、明確に気持ちが変わったわけでもない。
花森はただ、東御との将来が今と地続きにあると実感したのだ。
「沙穂は育児に興味がないんじゃないか?」
東御は身体ごと花森の方を向く。
尋ねられた花森は、複雑な顔を浮かべた後で口をへの字にした。
「……ないかもしれないです」
「やっぱりな」
「八雲さんは、あるんですか?」
「ある」
「それが意外です」
もともと花森との結婚に前のめりな東御は、家族計画も充分に思い描けていた。
三十歳を目前にした年齢で、他者を育てる興味や自分の子どもに会いたい欲は強くなる一方だ。
ただし、母親になる花森を見てみたいという欲求は言わないでおこうと決めている。
本人が望んでいない以上、重荷になりたくなかった。
「部下ができて、余計に思うようになった。ペットを躾けるとか、子を持つとか、そういったことに興味がある」
「ペットを躾ける……まさか、私に対してそういう……?」
「いや、沙穂のことじゃない。犬猫の話だ」
花森は東御を見ながら薄目がちになっている。「信用してないな?」と返すと、花森は納得のいっていない顔を浮かべている。
「私と結婚したいというのも、犬猫の代わりだったり子育てのためだったりしますか?」
「いや。沙穂と結婚したいのは、一生側にいたいからだ」
「きゃうん!」
「……犬か」
東御が花森の独特の叫びにツッコミを入れていると、花森は「だって」と照れている。
「その顔とその格好で言われたら、思考が停止してしまいますよう!」
「ほう」
折角だから試してみようかと、東御はじっと花森を見詰めた。
「愛している、沙穂」
「いやあああんっ! 骨抜きにされますうう!」
「……ホントに好きなんだな、着物が」
これはもしかすると宗慈の着物姿でも同じような反応になるのではないだろうかと、東御は複雑な気持ちになる。
自分だけが特別だという確信がどうも持てない。
「その、着物がって言い方。気になります」
「沙穂は着物姿の男が好きなんだろ? この宿に着いてから和服の男に目を奪われているようだが」
「……ぎく」
分かりやすい花森の視線に、東御は和服なら誰でも良いのかと思わなかったわけではない。
夢中になられるのは嬉しいが、別に東御でなくても興奮するのではないかと疑わしくなる。
「誰が相手でも和服に弱いんだな?」
「いや、それは語弊があります。今まで見た和服男性の誰よりも八雲さんが素敵なのは間違いありません」
「……なんだか複雑だ。独占欲が満たされてこない」
「ずっとメロメロじゃないですか、私」
「まあ、それはそうなんだが……」
覚悟ができたわけでも、明確に気持ちが変わったわけでもない。
花森はただ、東御との将来が今と地続きにあると実感したのだ。
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東御は身体ごと花森の方を向く。
尋ねられた花森は、複雑な顔を浮かべた後で口をへの字にした。
「……ないかもしれないです」
「やっぱりな」
「八雲さんは、あるんですか?」
「ある」
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ただし、母親になる花森を見てみたいという欲求は言わないでおこうと決めている。
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「部下ができて、余計に思うようになった。ペットを躾けるとか、子を持つとか、そういったことに興味がある」
「ペットを躾ける……まさか、私に対してそういう……?」
「いや、沙穂のことじゃない。犬猫の話だ」
花森は東御を見ながら薄目がちになっている。「信用してないな?」と返すと、花森は納得のいっていない顔を浮かべている。
「私と結婚したいというのも、犬猫の代わりだったり子育てのためだったりしますか?」
「いや。沙穂と結婚したいのは、一生側にいたいからだ」
「きゃうん!」
「……犬か」
東御が花森の独特の叫びにツッコミを入れていると、花森は「だって」と照れている。
「その顔とその格好で言われたら、思考が停止してしまいますよう!」
「ほう」
折角だから試してみようかと、東御はじっと花森を見詰めた。
「愛している、沙穂」
「いやあああんっ! 骨抜きにされますうう!」
「……ホントに好きなんだな、着物が」
これはもしかすると宗慈の着物姿でも同じような反応になるのではないだろうかと、東御は複雑な気持ちになる。
自分だけが特別だという確信がどうも持てない。
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