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第三章
旅行 1
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「ふふふふーん♪ ふふふふふふーん♪」
花森はボストンバッグに着替えを詰めながら、東御の家でずっと鼻歌を歌っている。
東御は華道の教授をしに行っているが、その間に花森は旅行の支度をしていた。
東御が帰ってきたら一緒に温泉宿に向かうことになっている。
「温泉……いちゃいちゃ旅行……ふ、ふふふ……」
準備をしながら妄想が止まらない。
着物の東御と温泉付きの宿に泊まる自分を想像して、ひたすらにやけてしまう。
「八雲さんたら……きゃ」
後ろから抱き着いてくる東御を妄想しながら、花森は幸せに浸っていた。
いつも一緒にいるというのに、旅行は特別なイベントのようで気持ちが上がる。
「この間も一緒にお風呂に入りましたけどお……やっぱり、お部屋にある温泉っていうのは、またちょっと違うと思うんですよお」
着替えにどの下着を持って行くかを考えるため、クローゼットにある収納ボックスに入った色とりどりのランジェリー類を睨んだ。
「お家だと下着を見せる機会があまりないというか、一瞬だけだったりするので、やっぱり今回は特別気合が要るのです……」
などと口にしながら、少し大人びたワインレッドの上下セットや明らかに意識をした胸元が開くベビードールのようなキャミソール、サイドが紐になっているショーツなどを取り出して一人で舞い上がる。
花森は、旅行が決まってから下着だけは買い込んでいた。
「『沙穂、どうしたんだ?』って聞かれちゃうかなあ。八雲さんがお着物を着てくださるんですから、私だってこの位はしますうー……」
そう言いながら下着を抱えて一人で照れていた。
花森は東御から今回の旅行の話をされて以来、ずっと妄想が止まらない。
*
「ただいま。行けるか?」
東御が帰って来た。そのまま花森を連れて出掛けるつもりで、東御は玄関を開けて声をかける。
花森の声がしない。
不審に思って家に入り寝室の扉を開けると、私服を床に散乱させてへたり込んでいる花森がいた。
「どうした?」
「……着ていく服が決まりません」
「温泉旅行なんだから、いつも通りで大丈夫だぞ」
「で、でも……かわいいやつがいいんです」
「どれを着ていてもかわいいから大丈夫だ」
半泣きの花森を見ながら、東御は花森と目線を合わせようとしゃがみ込む。
「考えすぎて、こうなったんだな?」
「……はい」
想像通りだったので、東御はよしよしと花森の頭を撫でて床にばら撒かれた私服からプリーツの入った黒いワンピースを選ぶ。
「今日はこれで行こう」
「八雲さんの好みですか?」
「大人の宿だから、落ち着いた雰囲気の服が良いだろう」
「はい!」
途端に機嫌のよくなった花森は部屋着からその服に着替えようとしてハッとする。
ここで下着に気合が入っているのを見られてしまうのは何かが違う。
「じゃ、じゃあ広げた服を片付けますね」
「ああ、片付けは俺がやるから沙穂は着替えていろ」
東御は何も気にせずに床に撒かれた数々の服をクローゼットに収納していく。
花森は黒いワンピースを持ったまま固まっていた。
花森はボストンバッグに着替えを詰めながら、東御の家でずっと鼻歌を歌っている。
東御は華道の教授をしに行っているが、その間に花森は旅行の支度をしていた。
東御が帰ってきたら一緒に温泉宿に向かうことになっている。
「温泉……いちゃいちゃ旅行……ふ、ふふふ……」
準備をしながら妄想が止まらない。
着物の東御と温泉付きの宿に泊まる自分を想像して、ひたすらにやけてしまう。
「八雲さんたら……きゃ」
後ろから抱き着いてくる東御を妄想しながら、花森は幸せに浸っていた。
いつも一緒にいるというのに、旅行は特別なイベントのようで気持ちが上がる。
「この間も一緒にお風呂に入りましたけどお……やっぱり、お部屋にある温泉っていうのは、またちょっと違うと思うんですよお」
着替えにどの下着を持って行くかを考えるため、クローゼットにある収納ボックスに入った色とりどりのランジェリー類を睨んだ。
「お家だと下着を見せる機会があまりないというか、一瞬だけだったりするので、やっぱり今回は特別気合が要るのです……」
などと口にしながら、少し大人びたワインレッドの上下セットや明らかに意識をした胸元が開くベビードールのようなキャミソール、サイドが紐になっているショーツなどを取り出して一人で舞い上がる。
花森は、旅行が決まってから下着だけは買い込んでいた。
「『沙穂、どうしたんだ?』って聞かれちゃうかなあ。八雲さんがお着物を着てくださるんですから、私だってこの位はしますうー……」
そう言いながら下着を抱えて一人で照れていた。
花森は東御から今回の旅行の話をされて以来、ずっと妄想が止まらない。
*
「ただいま。行けるか?」
東御が帰って来た。そのまま花森を連れて出掛けるつもりで、東御は玄関を開けて声をかける。
花森の声がしない。
不審に思って家に入り寝室の扉を開けると、私服を床に散乱させてへたり込んでいる花森がいた。
「どうした?」
「……着ていく服が決まりません」
「温泉旅行なんだから、いつも通りで大丈夫だぞ」
「で、でも……かわいいやつがいいんです」
「どれを着ていてもかわいいから大丈夫だ」
半泣きの花森を見ながら、東御は花森と目線を合わせようとしゃがみ込む。
「考えすぎて、こうなったんだな?」
「……はい」
想像通りだったので、東御はよしよしと花森の頭を撫でて床にばら撒かれた私服からプリーツの入った黒いワンピースを選ぶ。
「今日はこれで行こう」
「八雲さんの好みですか?」
「大人の宿だから、落ち着いた雰囲気の服が良いだろう」
「はい!」
途端に機嫌のよくなった花森は部屋着からその服に着替えようとしてハッとする。
ここで下着に気合が入っているのを見られてしまうのは何かが違う。
「じゃ、じゃあ広げた服を片付けますね」
「ああ、片付けは俺がやるから沙穂は着替えていろ」
東御は何も気にせずに床に撒かれた数々の服をクローゼットに収納していく。
花森は黒いワンピースを持ったまま固まっていた。
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