上 下
147 / 187
第三章

旅行 1

しおりを挟む
「ふふふふーん♪ ふふふふふふーん♪」

 花森はボストンバッグに着替えを詰めながら、東御の家でずっと鼻歌を歌っている。
 東御は華道の教授をしに行っているが、その間に花森は旅行の支度をしていた。

 東御が帰ってきたら一緒に温泉宿に向かうことになっている。

「温泉……いちゃいちゃ旅行……ふ、ふふふ……」

 準備をしながら妄想が止まらない。
 着物の東御と温泉付きの宿に泊まる自分を想像して、ひたすらにやけてしまう。

「八雲さんたら……きゃ」

 後ろから抱き着いてくる東御を妄想しながら、花森は幸せに浸っていた。
 いつも一緒にいるというのに、旅行は特別なイベントのようで気持ちが上がる。

「この間も一緒にお風呂に入りましたけどお……やっぱり、お部屋にある温泉っていうのは、またちょっと違うと思うんですよお」

 着替えにどの下着を持って行くかを考えるため、クローゼットにある収納ボックスに入った色とりどりのランジェリー類を睨んだ。

「お家だと下着を見せる機会があまりないというか、一瞬だけだったりするので、やっぱり今回は特別気合が要るのです……」

 などと口にしながら、少し大人びたワインレッドの上下セットや明らかに意識をした胸元が開くベビードールのようなキャミソール、サイドが紐になっているショーツなどを取り出して一人で舞い上がる。
 花森は、旅行が決まってから下着だけは買い込んでいた。

「『沙穂、どうしたんだ?』って聞かれちゃうかなあ。八雲さんがお着物を着てくださるんですから、私だってこの位はしますうー……」

 そう言いながら下着を抱えて一人で照れていた。
 花森は東御から今回の旅行の話をされて以来、ずっと妄想が止まらない。

  *

「ただいま。行けるか?」

 東御が帰って来た。そのまま花森を連れて出掛けるつもりで、東御は玄関を開けて声をかける。
 花森の声がしない。

 不審に思って家に入り寝室の扉を開けると、私服を床に散乱させてへたり込んでいる花森がいた。

「どうした?」
「……着ていく服が決まりません」
「温泉旅行なんだから、いつも通りで大丈夫だぞ」
「で、でも……かわいいやつがいいんです」
「どれを着ていてもかわいいから大丈夫だ」

 半泣きの花森を見ながら、東御は花森と目線を合わせようとしゃがみ込む。

「考えすぎて、こうなったんだな?」
「……はい」

 想像通りだったので、東御はよしよしと花森の頭を撫でて床にばら撒かれた私服からプリーツの入った黒いワンピースを選ぶ。

「今日はこれで行こう」
「八雲さんの好みですか?」
「大人の宿だから、落ち着いた雰囲気の服が良いだろう」
「はい!」

 途端に機嫌のよくなった花森は部屋着からその服に着替えようとしてハッとする。
 ここで下着に気合が入っているのを見られてしまうのは何かが違う。

「じゃ、じゃあ広げた服を片付けますね」
「ああ、片付けは俺がやるから沙穂は着替えていろ」

 東御は何も気にせずに床に撒かれた数々の服をクローゼットに収納していく。
 花森は黒いワンピースを持ったまま固まっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。 《あらすじ》 都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。 アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。 ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。 元々ベリカに掲載していました。 昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。

純真~こじらせ初恋の攻略法~

伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。 未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。 この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。 いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。 それなのに。 どうして今さら再会してしまったのだろう。 どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。 幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...