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第二章
プレゼント 2
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東御は静かに涙を流している。
「なっ、どうしたんですか?」
花森が尋ねても、東御は答えない。花森は男性が泣いているのをあまり見たことがないが、静かに伝う涙が美しく見惚れそうになった。
「沙穂は、嘘がないから好きだ」
「そうですね。嘘がつけないんです」
「どうかそのままで……ずっと側にいてくれないか?」
「ずっとっていうのは、その……」
「この先の人生、ずっと」
東御の涙の理由が分からない。悲しそうには見えないが、嬉し泣きとも違うようだった。
「分かりましたから、普段通りにしてください。なんだか……別人みたい」
「誕生日を迎える瞬間に、沙穂といられて嬉しい」
花森はうなずく。これまで誕生日を迎える瞬間にどんな思いをしてきたのだろうか。
大袈裟だなと感じることも、東御にとってはそうではないのかもしれない。
東御が後ろから抱きしめる力を加えたので、花森は振り返ることもままならなかった。
「幸せですか?」
「幸せだ」
「ふふ、おめでたいですね」
「ああ、おめでたいな。我ながら」
花森は自分を抱きしめている東御の腕にそっと触れてみる。
この腕が好きだなと訳もなく思った。
「あの、八雲さん……。私……」
「急に遠慮がちだな。どうした?」
「今日は……あの、今晩なんですけど」
「食事は出前にしよう」
「日付が変わるまで抱いていてくれませんか」
「……ん?」
東御の腕が一瞬緩んだ。花森は恥ずかしくて逃げたいが一番逃げてはいけない場面だと耳まで赤くしながら耐える。
「その、『抱く』の意味を一応確認してもいいだろうか」
「……そっちの意味です」
「……なるほど」
「わ、私をもらってもらおうかなと思って……」
東御は後ろから花森の赤い耳に唇で触れた。顔は見えないが、同じように紅潮しているのだろうと微笑む。
「一生懸命考えた結論が腹上祝いか。いやらしいやつだな」
「ちが、ちがいます、や、やだ、やっぱりやめます」
「嫌だ。もうもらうと決めた。無粋なことを言うな」
「そうじゃなくてっ……ただ私は二人で日付を越えたいなって……」
花森は恥ずかしくて泣きそうだ。ニュアンスとしては同じだったが、いやらしいと言われて堂々とできるほど慣れの段階には入っていない。
「そうか。日付が変わる時に大好きな沙穂と繋がっていたというのは、誕生日の記憶として強烈に残っていい」
「もおおおおおなんか違うううううう」
「沙穂は最中になるとやたらとかわいいことを言い始めるからな」
「それは……」
花森も自分で分かっていた。普段は素直になれず、愛を囁くのは決まって東御を受け入れている時だけだ。
「セクハラでは?」
課長が部下に使う言葉としては完全にアウトだが、ここはオフィスでも仕事中でもない。
「なっ、どうしたんですか?」
花森が尋ねても、東御は答えない。花森は男性が泣いているのをあまり見たことがないが、静かに伝う涙が美しく見惚れそうになった。
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「そうですね。嘘がつけないんです」
「どうかそのままで……ずっと側にいてくれないか?」
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東御の涙の理由が分からない。悲しそうには見えないが、嬉し泣きとも違うようだった。
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花森はうなずく。これまで誕生日を迎える瞬間にどんな思いをしてきたのだろうか。
大袈裟だなと感じることも、東御にとってはそうではないのかもしれない。
東御が後ろから抱きしめる力を加えたので、花森は振り返ることもままならなかった。
「幸せですか?」
「幸せだ」
「ふふ、おめでたいですね」
「ああ、おめでたいな。我ながら」
花森は自分を抱きしめている東御の腕にそっと触れてみる。
この腕が好きだなと訳もなく思った。
「あの、八雲さん……。私……」
「急に遠慮がちだな。どうした?」
「今日は……あの、今晩なんですけど」
「食事は出前にしよう」
「日付が変わるまで抱いていてくれませんか」
「……ん?」
東御の腕が一瞬緩んだ。花森は恥ずかしくて逃げたいが一番逃げてはいけない場面だと耳まで赤くしながら耐える。
「その、『抱く』の意味を一応確認してもいいだろうか」
「……そっちの意味です」
「……なるほど」
「わ、私をもらってもらおうかなと思って……」
東御は後ろから花森の赤い耳に唇で触れた。顔は見えないが、同じように紅潮しているのだろうと微笑む。
「一生懸命考えた結論が腹上祝いか。いやらしいやつだな」
「ちが、ちがいます、や、やだ、やっぱりやめます」
「嫌だ。もうもらうと決めた。無粋なことを言うな」
「そうじゃなくてっ……ただ私は二人で日付を越えたいなって……」
花森は恥ずかしくて泣きそうだ。ニュアンスとしては同じだったが、いやらしいと言われて堂々とできるほど慣れの段階には入っていない。
「そうか。日付が変わる時に大好きな沙穂と繋がっていたというのは、誕生日の記憶として強烈に残っていい」
「もおおおおおなんか違うううううう」
「沙穂は最中になるとやたらとかわいいことを言い始めるからな」
「それは……」
花森も自分で分かっていた。普段は素直になれず、愛を囁くのは決まって東御を受け入れている時だけだ。
「セクハラでは?」
課長が部下に使う言葉としては完全にアウトだが、ここはオフィスでも仕事中でもない。
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