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第三章 社内恋愛
ギャップ萌え
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僕は、ホットコーヒーとホットティーを持って宮垣さんの座っている席に向かう。
遊園地の中にあるレストランで宮垣さんが落ち着くまで座っていようとした。
幸い、席はまだ空いていて近くの席には人が座っていない。
宮垣さんは未だに涙が収まらず、さっきからずっと泣いていた。
「あずささん、ホットティー買ってきました」
そう言って目の前に飲み物が入ったカップを置き、宮垣さんの隣に座って背中をさする。
落ち武者からなかなか逃げられなかった僕たちは、結局30分近くお化け屋敷にいた。
「あんなに意気揚々と向かっていたので、てっきりお化け屋敷が得意なのかと思いましたよ」
「得意じゃないけど、行ってみたかったんだもんん――……」
「はい。結果、怖かったんですね」
背中をさすっているうちに、宮垣さんがちょっとだけ落ち着いてきていた。
普段は勝気な印象だけど、実はビビりだとか……ほんとうもうさ、かわいいかよ。
「追いかけられたら怖いじゃん……」
「まあ、追いかけられるってあんまりいいもんじゃないですよね」
「歩くん、冷静だったよね」
いや、それは……。逃げなきゃっていう意識の方が煩悩に勝ったのが良かったっていうか。
むしろ脅かされたり追いかけられたりして、本来の自分を取り戻せたというか。
「歩くん、やっぱり私、めんどくさいでしょ?」
「いや、どうしてですか?」
「だって私自身が、めんどくさいもん……」
そう言って、宮垣さんは落ち込んだのか完全に俯いた。
なんか、不思議なんだよなあ。
僕から見たら欠点が無い宮垣さん。
だけど、本人的には自分の性格に納得がいっていないらしい。
「さっき僕、宮垣さんにいっぱい触りました」
「お化け屋敷の中で?」
「いや、宮垣さんが抱き着いてきたので、不可抗力だったんですけど」
「……すいません」
「いえ、むしろ嬉しかったです」
宮垣さんは、これがデートらしいデートだという事に気付いてないのかな。
僕にとっては人生初めてのデートで、こんな風に彼女の背中をさすることになるなんて思わなかった。
この時間だって、あまりに尊くて愛おしい。
「やっぱり、歩くんは優しいよね」
「そうですか?」
「うん、私ね、最近優しさに飢えてるのかも」
「まあ、誰だって優しくされたいですよね。なんか世の中って、社会ってギスギスしていて」
社会人2ヵ月の僕が、偉そうに言えることではないけれど。
ビジネスの世界って、なんだか尖っているような気がする。
触れると痛いけど、そのまま進むしかない、みたいな。
傷を負いながら進まなきゃいけないようなことが、当たり前に転がっているというか。
「ありがと」
宮垣さんは、そう言って涙の溜まっている目を細めて微笑んだ。
ああ、ここが太陽光の降り注ぐ明るい遊園地内のレストランでなければ。
僕は、この宮垣さんの唇をっ……。
「いえ、彼氏なんで」
畜生! 悔しくなんかないぞ。悔しくなんか……悔しくなんか……。
……運動部がインターハイに行けるかどうかの試合で負けた時ってこんな感じなのかな。
あのゴールが決まっていれば、って泣く時のやつだ。
そこで高校生の夏が終わるんだ。
――先生、僕は悔しいです!!
「そっか。彼氏っていいね」
宮垣さんが僕の肩に頭を預けてくれた。
雑念だらけの自分が恥ずかしい。
すぐ側にあるその頭を軽く撫でて、自分の反省をした。
髪型が崩れてしまうといけないから、遠慮しながらそっと触れるように。
お化け屋敷で爺さんが一瞬顔を出したのだけはよく分からなかったけど、ここまでは概ねうまくいっている。
ここでゆっくりしながら昼食をとって13時に鯖ッキーのミーグリに行けば、遊園地でのミッションは完了だ。
宮垣さんは鯖ッキーに会えば元気になるだろうし、観覧車にでも乗ればカップルらしい楽しみ方としては成功だろう。
それにしても、こんな風に自然に寄りかかってくれるなんて、宮垣さん……。
僕のこと、ちゃんと彼氏だと思ってくれてるんだな。
「あの、あずささん」
「はい」
宮垣さんは頭を僕の肩に預けたままだ。
「あとで、観覧車乗りませんか?」
「うん、いいよ」
「良かった。実は僕、観覧車って乗り物に変な劣等感があったんですよね」
「カップルで乗るもの、みたいな?」
「なんていうか、あれって幸せな人じゃなきゃ乗っちゃいけない乗り物って感じがして」
「幸せな人、ねえ」
「ゆっくり景色を楽しめるような相手がいて、そんな余裕があるって幸せの象徴みたいじゃないですか」
カップル、家族、仲のいい友人。
あの密室を、ゆっくりと進む乗り物で間が持つなんて僕には考えられなかった。
だから、楽しそうにあの小さな密室から降りてくるカップルや家族が、僕には別世界の人に見えていた。
今日なら、僕もあの乗り物に乗れそうな気がする。
「歩くんが抱えている劣等感が不思議で仕方ないよ。私には世界一輝いて見えるのに」
「いや、輝いている人の脇で影を潜めているのが僕みたいなタイプですよ」
「聞き捨てならない」
「いや、だって……」
「これ以上、自分を卑下したら怒るから。怒り散らして、泣き叫んで喚いてやるから」
ええーー……勘弁してください。
そんなことされたら、流石に僕が悪者になる。
「私の好きな人を傷つけるなら、いくらそれが歩くんでも許さない」
「えっ……」
「歩くんを傷つけていいのは、あずさだけって決まってるんだから……」
「……自分のことあずさ呼びするのかわいいですね」
「ああ、しまった……」
さっきから、宮垣さんのかわいいがとどまることを知らない。
できれば、僕の前ではずっと自分のことを「あずさ」って言っててくれないかな。萌える。
遊園地の中にあるレストランで宮垣さんが落ち着くまで座っていようとした。
幸い、席はまだ空いていて近くの席には人が座っていない。
宮垣さんは未だに涙が収まらず、さっきからずっと泣いていた。
「あずささん、ホットティー買ってきました」
そう言って目の前に飲み物が入ったカップを置き、宮垣さんの隣に座って背中をさする。
落ち武者からなかなか逃げられなかった僕たちは、結局30分近くお化け屋敷にいた。
「あんなに意気揚々と向かっていたので、てっきりお化け屋敷が得意なのかと思いましたよ」
「得意じゃないけど、行ってみたかったんだもんん――……」
「はい。結果、怖かったんですね」
背中をさすっているうちに、宮垣さんがちょっとだけ落ち着いてきていた。
普段は勝気な印象だけど、実はビビりだとか……ほんとうもうさ、かわいいかよ。
「追いかけられたら怖いじゃん……」
「まあ、追いかけられるってあんまりいいもんじゃないですよね」
「歩くん、冷静だったよね」
いや、それは……。逃げなきゃっていう意識の方が煩悩に勝ったのが良かったっていうか。
むしろ脅かされたり追いかけられたりして、本来の自分を取り戻せたというか。
「歩くん、やっぱり私、めんどくさいでしょ?」
「いや、どうしてですか?」
「だって私自身が、めんどくさいもん……」
そう言って、宮垣さんは落ち込んだのか完全に俯いた。
なんか、不思議なんだよなあ。
僕から見たら欠点が無い宮垣さん。
だけど、本人的には自分の性格に納得がいっていないらしい。
「さっき僕、宮垣さんにいっぱい触りました」
「お化け屋敷の中で?」
「いや、宮垣さんが抱き着いてきたので、不可抗力だったんですけど」
「……すいません」
「いえ、むしろ嬉しかったです」
宮垣さんは、これがデートらしいデートだという事に気付いてないのかな。
僕にとっては人生初めてのデートで、こんな風に彼女の背中をさすることになるなんて思わなかった。
この時間だって、あまりに尊くて愛おしい。
「やっぱり、歩くんは優しいよね」
「そうですか?」
「うん、私ね、最近優しさに飢えてるのかも」
「まあ、誰だって優しくされたいですよね。なんか世の中って、社会ってギスギスしていて」
社会人2ヵ月の僕が、偉そうに言えることではないけれど。
ビジネスの世界って、なんだか尖っているような気がする。
触れると痛いけど、そのまま進むしかない、みたいな。
傷を負いながら進まなきゃいけないようなことが、当たり前に転がっているというか。
「ありがと」
宮垣さんは、そう言って涙の溜まっている目を細めて微笑んだ。
ああ、ここが太陽光の降り注ぐ明るい遊園地内のレストランでなければ。
僕は、この宮垣さんの唇をっ……。
「いえ、彼氏なんで」
畜生! 悔しくなんかないぞ。悔しくなんか……悔しくなんか……。
……運動部がインターハイに行けるかどうかの試合で負けた時ってこんな感じなのかな。
あのゴールが決まっていれば、って泣く時のやつだ。
そこで高校生の夏が終わるんだ。
――先生、僕は悔しいです!!
「そっか。彼氏っていいね」
宮垣さんが僕の肩に頭を預けてくれた。
雑念だらけの自分が恥ずかしい。
すぐ側にあるその頭を軽く撫でて、自分の反省をした。
髪型が崩れてしまうといけないから、遠慮しながらそっと触れるように。
お化け屋敷で爺さんが一瞬顔を出したのだけはよく分からなかったけど、ここまでは概ねうまくいっている。
ここでゆっくりしながら昼食をとって13時に鯖ッキーのミーグリに行けば、遊園地でのミッションは完了だ。
宮垣さんは鯖ッキーに会えば元気になるだろうし、観覧車にでも乗ればカップルらしい楽しみ方としては成功だろう。
それにしても、こんな風に自然に寄りかかってくれるなんて、宮垣さん……。
僕のこと、ちゃんと彼氏だと思ってくれてるんだな。
「あの、あずささん」
「はい」
宮垣さんは頭を僕の肩に預けたままだ。
「あとで、観覧車乗りませんか?」
「うん、いいよ」
「良かった。実は僕、観覧車って乗り物に変な劣等感があったんですよね」
「カップルで乗るもの、みたいな?」
「なんていうか、あれって幸せな人じゃなきゃ乗っちゃいけない乗り物って感じがして」
「幸せな人、ねえ」
「ゆっくり景色を楽しめるような相手がいて、そんな余裕があるって幸せの象徴みたいじゃないですか」
カップル、家族、仲のいい友人。
あの密室を、ゆっくりと進む乗り物で間が持つなんて僕には考えられなかった。
だから、楽しそうにあの小さな密室から降りてくるカップルや家族が、僕には別世界の人に見えていた。
今日なら、僕もあの乗り物に乗れそうな気がする。
「歩くんが抱えている劣等感が不思議で仕方ないよ。私には世界一輝いて見えるのに」
「いや、輝いている人の脇で影を潜めているのが僕みたいなタイプですよ」
「聞き捨てならない」
「いや、だって……」
「これ以上、自分を卑下したら怒るから。怒り散らして、泣き叫んで喚いてやるから」
ええーー……勘弁してください。
そんなことされたら、流石に僕が悪者になる。
「私の好きな人を傷つけるなら、いくらそれが歩くんでも許さない」
「えっ……」
「歩くんを傷つけていいのは、あずさだけって決まってるんだから……」
「……自分のことあずさ呼びするのかわいいですね」
「ああ、しまった……」
さっきから、宮垣さんのかわいいがとどまることを知らない。
できれば、僕の前ではずっと自分のことを「あずさ」って言っててくれないかな。萌える。
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