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第二章 これはモテ期などではない

かわいい先輩

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 会社ビルから出てきた宮垣さんは、すぐに僕に気が付いてこっちに向かってきてくれる。
 僕も宮垣さんに向かって小走りをしたので、あっという間に合流できた。

「お疲れ様です」

 僕が声をかけると、宮垣さんは「うん」とだけ言った。
 会社でずっと姿を見ていたのに、こうやって外で会うのはなんだか照れくさい。
 宮垣さんも、そうなのだろうか。

 最寄り駅は既に分かっていたから、僕と宮垣さんはすぐに黙って駅に向かう。
 歩いている時も隣り合ってはいたけれど、人が一人通れるくらいの距離があった。

「今は、どの仕事が大変なんですか?」
「ああ、今はね、新商品のホームページ。あと、プレスリリース用の商品説明文」
「そういうのも宮垣さんの仕事なんですか?」
「ついでに作れって言われるの。まあ、確かについでだけどね」

 さすがにプレスリリースは広報部の仕事じゃないのだろうか。
 でも、確かに商品説明のところは宮垣さんが書いた方がいいのかな。
 なんだか会社って難しい。

「いろんな仕事があるんですね」
「うん、仕事って、主だったところは大体地味で細かいことばっかりだよね」

 隣を歩いている宮垣さんが頷くと、耳から下がっているチェーンに付いた星のピアスが揺れる。
 なんだかよく分からないけど、この人を抱きしめたいなと衝動が湧くのは煩悩だろうか。
 背負ったリュックに鯖ッキーが付いていて、やっぱり僕にくれたものと同じだと気付く。

「まだ僕は、雑用しかしてませんけど……。宮垣さんの負担を減らせたらいいなとは思ってて」
「ふうん」
「そのために、何ができるようになったら良いですか?」
「そっかあ。そうだなあ」

 宮垣さんは前を向いたまま歩いている。僕は差し出がましかったかなと気になっていたたまれない。

「あんまりね、何がどうって言えないけど」
「はい」
「辻本くんは、本音で私の仕事を評価してくれる人であって欲しいな」
「いつも本音ですよ」
「そっか。じゃあ、そのままで」

 ようやく駅に着いて、僕たちは地下鉄に潜る階段を降りる。
 そのままで、今の僕のままで、宮垣さんの役に立てるのだろうか。

 駅の改札を通ってホームに着くと、すぐに電車がやってきた。
 僕は宮垣さんの後ろについて歩き、電車に乗り込むと席に座れないまま二人で立つことになる。

 地下鉄のドアに寄りかかって、宮垣さんが僕を見ている。
 今日は帰りに化粧を直したのか、グロスらしきものが唇を光らせていた。
 全く会話を交わしていないのに、なんだか宮垣さんが安心しているのが分かる。
 僕はそれなりに、このひとに心を許してもらっているのかな。

 電車が揺れるたび、宮垣さんの軽そうな髪とピアスが揺れた。
 時折瞬きをして、まつ毛も揺れる。
 こんなに見すぎたら悪いのかなと思っても、目が離せない。

「そういえば、ご飯。食べた?」

 ずっと見ていた顔が動いて、宮垣さんが聞いた。

「いえ、まだ……」
「じゃあ、うちの近所にある定食屋さんでも行こうか。安くておいしいの」
「はい、行きたいです」

 昨日渡部と飲みに行って、今月既に僕のお財布事情は厳しい。
 ここのところ、ランチでお金を使ったりと交際費がかさんでいる。
 社会人になったばかりの時、4月は給料前に生活をしなきゃいけないから、当たり前だけどカツカツだった。
 その後は私服を揃えたりして、やっぱり出費がかさんでいた。
 毎日スーツの方が、実はお金がかからなかったんじゃないかとすら思う……。

 宮垣さんにお金の心配をされてかっこ悪いと思うのに、正直すごく助かった。
 また無言になって、僕は宮垣さんをじっと見てしまう。
 唇は結構ボリュームがあるよなと思うと柔らかいのかなと雑念が湧く。
 小さな身体は、抱き上げても軽そうだ。

「見すぎだよ」

 僕の方を見ていなかった宮垣さんが、こっちを見て呟いた。
 ずっと視線に気づいていたんだろうか。そりゃそうだ。

「すいません、つい……」

 つい、なんだろう。目が離せなくて、つい。

「さすがにそんなガン見されたら、恥ずかしい」
「すいません」

 謝った後、宮垣さんから視線を外す。確かに、こんな近くでガン見するのは失礼だ。

「あずささんがかわいくて、つい」

 その時、例の爺さんがやりやがった。
 僕の口が、暴走している。
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