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3章

私の決意 2

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 バートレットが手配してくれた自警団の二人は、馬に乗って私の馬車の前後を進む。
 ユリシーズのピンチだと知って駆け付けてくれた若者は、こちらが深い事情を話す前に「奥様が『アイリーン妃』のいるお城に向かわれるとのこと、大事なお役目をいただき光栄です」と言って、てきぱきと動いてくれた。

 自警団というのは、戦時中でも地域の治安を守るために働いていたらしい。
 いわゆる私設軍隊で、ユリシーズは自警団に対してしっかりとお金を払って運営をお願いしているのだとか。
 だから、そこで働いている自警団員が私に対して礼儀正しいのは、ユリシーズのお陰なのだと思う。

 ひとりで馬車に乗っていると、景色を見ながら隣に話しかけそうになってしまって、ユリシーズがいない空席を見て落ち込む。
 独身時代にはひとりでいることを寂しいと思ったりしなかったのに、結婚してからはユリシーズと一緒にいることが当たり前になりすぎてしまった。

 いまごろ、毒に苦しんで私を探しているかもしれない。
 後ろ髪を引かれてすぐにでも会いたくなってしまうけれど、私がいたらユリシーズは弱くなってしまうから。

 公爵家で育ち、皇室に入ったクリスティーナはいまどうしているのかしら。
 突然行って会えるか分からないけれど、なんとかして謁見の時間を作ってもらわなくちゃ……。

 しばらく進むと、馬車が停まった。
 なにかしらと思っていると、扉が開いて「食事休憩を取りませんか?」と声をかけられる。

「何か食べないと倒れてしまうでしょうから、食べるものを手配してきて下さる? 移動しながらいただくわ。でも、あなたたちも休憩をしないと辛いわね」
「いえ、私たちは移動しながら食べられればあと2日間くらいはこうして移動をしているのは平気ですが」
「実は、アイリーン妃のところに向かうまでなるべく急ぎたいの。すぐに会えるわけではないと思うから、対策を練らなくちゃならないし、早くユリシーズのところに帰りたくて」

 そうだ。早くクリスティーナに会わないと、ユリシーズの元にも帰れない。
 ゆっくり食事をしている時間がもったいなくて、早く帝都にいるクリスティーナのところに急ぎたい。

「かしこまりました。それでは移動しながら食べられる軽食を手配しに行きましょう。領主様が大切な奥様に早く会いたいと思われるのは間違いありません」

 茶色の短髪の男性が言った。彼の名前は確かフレデリックで、もう一人の金髪の男性がオシアン。
 ユリシーズの少し年下、二十代前半くらいに見える。

「ありがとう。急げば、夕方前には帝都に着くかしら?」
「はい。そのようにいたします」

 夕方にお城を訪ねられれば、クリスティーナに会うためにどんな手配が必要かを調べる時間が取れるかもしれない。

「いざとなったら、わたくしも馬に乗って移動するわ。その方が早いでしょう??」
「……え?」
「乗馬は得意なの」

 オシアンが驚いて目を見開いていた。確かに、公爵家のお姫様は乗馬が得意などと言って馬に乗ろうとはしないでしょうけれど。

「そうですか。それでは道の状態次第で、馬車には後からついてきてもらうようにしましょう」

 フレデリックは冷静に、時間優先で臨機応変に対応してくれようとうなずいてくれる。
 じっとしていると気持ちが滅入りそうだった。私はユリシーズのために全力を尽くしたい。

  ***

 帝都に着いて、クリスティーナ妃……正式にはアイリーン妃ということだけれど……のある場所を目指してもらう。

 皇帝の住む宮廷から少し離れた場所にあるお城に、皇族の関係者が住んでいるとのことだった。

 公爵家のお城と同じくらいかそれ以上だとは聞いていたけれど、門の前まで来たところで心が折れかける。
 ずらりと並ぶ馬車の列に、護衛をたったの二人だけ連れて身分を証明するものを持たない私がすんなり中に入れるとは思えない。

 公爵家に入った時は二回とも連れ去れたも同然の扱いだったし、こういう場所への入り方を全く知らない。こんなことなら日頃からユリシーズに色々聞いておけばよかったと思うけれど、初めて帝都にきた時はクリスティーナとディエスを会わせるのが怖くてそれどころではなかったし……。

 徐々に進む列を見ながら、何の作戦も浮かばない。
 とうとう私の番になって、「どなた宛ての訪問ですか?」と門番らしい兵士に尋ねられた。
 私は馬車の窓を開けて、「アイリーン妃に会いに来ました。フリートウッド公爵家出身のクリスティーナです。いまは、オルブライト伯爵家の伯爵夫人をしています」と必死に答える。

「クリスティーナ様、アイリーン妃と会う約束はされていますか?」
「……いいえ。それをどうやって取ろうかと……」
「でしたら、妃殿下宛に書面で約束を交わしてください。それをもって通行手形の代わりといたしますので」
「彼女と手紙のやり取りをすればいいということですか?」
「はい」
「分かりました。そういたします」

 門の中に入ることは適わなかったけれど、書面でやり取りをすればいいということは分かった。どこかで手紙を書いて、ここに届けてもらわなくちゃならない。
 一日で全てが解決するとは思わなかったけれど、どこかに宿をとらなくちゃいけないわね……。


「ごめんなさい、しばらく帝都に滞在しなければならなそうなの。宿をとって手紙を書いて、それを妃殿下に届けなくちゃ……」

 気ばかりが焦りながら、馬車の窓を開けたまま側にいたオシアンとフレデリックに話す。

「それでしたら、バートレット様より以前奥様も滞在されたという宿に案内するように仰せつかっております。手紙を書かなければならない場面もやってくるはずなので、後から合流する奥様の侍女が伯爵家の印を持参されるとのことです」
「印……そうよね、それがあれば身分の証明ができる……」

 忘れていた。ユリシーズが私に手紙をくれた時、封蝋印に押されていた狼の家紋。あれがあれば、私がオルブライト伯爵家の者だと証明ができる。

「バートレットのお陰ね……。わたくしだけでは何もできない」

 苦笑すると、オシアンとフレデリックが「そんな風に落ち込むことはございません」とフォローしてくれる。

「領主様が目の前で襲われて大変な中、領主様のために行動されたのだとか」
「ここまでおひとりで来られるだけでも、どれだけの勇気が必要だったのだろうと話していました」

 そうだ、まだ終わっていない。こんなところで落ち込んでいる場合じゃない。バートレットが動いてくれたおかげで、クリスティーナに会える可能性は高くなっている。

「ありがとう。もうしばらく護衛を頼めるかしら?」

 私が声をかけると、二人は「もちろんです!」と力強く返事をしてくれた。
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