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3章
ディエスの提案
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ユリシーズは照れくさそうに鼻の頭をかいていた。妻に溺れる愚かな夫扱いをされて喜ぶのは完全に間違っているのだけれど、分かっていないのかしら。
「ローレンス様、私は妻に出会って本当の幸せを知ってしまったのです。領地のことは部下に任せることができますが、妻のことは誰にも任せられませんから、私がずっとそばにいて差し上げたいと思っております」
輪をかけて私を悪女に仕立て上げるじゃないの。その話を聞かされたローレンスが心底嫌そうな顔をしているわ。
「伯爵は、その地位に対する意識が低いのではないでしょうか?」
「意識が低い、ですか」
ローレンスがユリシーズに対して失礼な物言いをしている。これはちょっと止めた方がいいような……。
「そばにいる大切な人を幸せにできなくて、領民を幸せにできると考える方が間違っていると思うのですが」
「でも……」
「私は、妻と新しい家族を作っていきたいと思っています。領民だって同じです。大切なのは家族との毎日だと思うのです」
「ですが、その生活に責任を持っている伯爵の視野が狭くなってしまったら、領民が不幸になるのでは?」
ローレンスの正論にうなずいてしまう。ユリシーズの目を覚まして欲しいところね。
あれ? 私はどちらの味方なのかしら。
「一理ありますね。ローレンス様は領地経営に興味がおありなのですか?」
「……どこに行っても公爵家の者として敬われるのであれば、この立場を利用して世の役に立つべきです。父上や兄上のように野心はありませんが、どうせ要職に就かされるのでしょうし」
やっぱり、弟は優秀なのだわ。そして、どこかクリスティーナに似ている。
自分の生き方を分かっていて、責任を全うしつつ戦おうという覚悟があって……。
「それでは、領地を案内しましょうか? 執事を共に連れて行くので何日も家を不在には出来ませんが、ローレンス様にとってはいい機会になるかもしれません」
「本当にそんなことが可能なのですか?! いや、でも、護衛が多すぎますね……」
期待に輝かせた目が一瞬で曇った。確かにあんなに多くの男性陣を連れて旅をしたら、相当お金がかかる。宿泊だとか、食事だとか。
「ご心配なさらないでください。妻の実家から義弟(おとうと)が訪ねてくださったのですから、私がおもてなしします」
「いいのですか?」
「私は狩りと妻くらいしか趣味がございませんから、あまりお金を使う方ではないのです。たまには領地にお金を落として行かなければなりませんから」
そうか。領地で買い物をしたり宿泊をしたりすると、そこの領民は潤うのね。
今まで考えたこともなかったけれど、お金を使うことも誰かのためになるのだわ。
「そうと決まったら、妻にも宿泊の準備をしてもらいましょう。私は妻と二人きりで夜も朝も過ごしますが、よろしいでしょうか?」
「そこは好きにしてくださって構いません。姉上もその方がいいのですよね?」
「まあ、そうですね」
夜になるとユリシーズが人狼化しちゃうから、できるだけ別行動していてくれないと困るし。
「護衛の方々には高級宿ではない場所を案内しますが、問題ございませんか?」
「そこは常識的な対応をしてください。宿泊なさっている方を不快にさせるつもりはありません」
ローレンスがあっさりと了承したので、ユリシーズはゆっくりとうなずいていた。
これで、護衛の方たちが私たちの宿に乗り込んできて……という物騒なことは起こりにくくなる。
公爵家だって体裁が大事だから、護衛の方々が騒ぎを起こしたなんて評判を流されたくはないはず。
「それでは、私と妻が準備をしてまいりますので、こちらでお待ちいただけますか? 飲み物や軽食をお持ちしますので、暫くゆっくりしていてください」
そう言ってユリシーズが立ち上がったので、隣に座っていた私も立ち上がる。
当初の予定ではローレンスを人質にするはずだったけれど、一緒に領地を周ることになってしまった。
護衛の人たちは、公爵様からユリシーズを暗殺しろと命令されている可能性がある。果たしてどんな旅になるのかしら。
「ローレンス様、私は妻に出会って本当の幸せを知ってしまったのです。領地のことは部下に任せることができますが、妻のことは誰にも任せられませんから、私がずっとそばにいて差し上げたいと思っております」
輪をかけて私を悪女に仕立て上げるじゃないの。その話を聞かされたローレンスが心底嫌そうな顔をしているわ。
「伯爵は、その地位に対する意識が低いのではないでしょうか?」
「意識が低い、ですか」
ローレンスがユリシーズに対して失礼な物言いをしている。これはちょっと止めた方がいいような……。
「そばにいる大切な人を幸せにできなくて、領民を幸せにできると考える方が間違っていると思うのですが」
「でも……」
「私は、妻と新しい家族を作っていきたいと思っています。領民だって同じです。大切なのは家族との毎日だと思うのです」
「ですが、その生活に責任を持っている伯爵の視野が狭くなってしまったら、領民が不幸になるのでは?」
ローレンスの正論にうなずいてしまう。ユリシーズの目を覚まして欲しいところね。
あれ? 私はどちらの味方なのかしら。
「一理ありますね。ローレンス様は領地経営に興味がおありなのですか?」
「……どこに行っても公爵家の者として敬われるのであれば、この立場を利用して世の役に立つべきです。父上や兄上のように野心はありませんが、どうせ要職に就かされるのでしょうし」
やっぱり、弟は優秀なのだわ。そして、どこかクリスティーナに似ている。
自分の生き方を分かっていて、責任を全うしつつ戦おうという覚悟があって……。
「それでは、領地を案内しましょうか? 執事を共に連れて行くので何日も家を不在には出来ませんが、ローレンス様にとってはいい機会になるかもしれません」
「本当にそんなことが可能なのですか?! いや、でも、護衛が多すぎますね……」
期待に輝かせた目が一瞬で曇った。確かにあんなに多くの男性陣を連れて旅をしたら、相当お金がかかる。宿泊だとか、食事だとか。
「ご心配なさらないでください。妻の実家から義弟(おとうと)が訪ねてくださったのですから、私がおもてなしします」
「いいのですか?」
「私は狩りと妻くらいしか趣味がございませんから、あまりお金を使う方ではないのです。たまには領地にお金を落として行かなければなりませんから」
そうか。領地で買い物をしたり宿泊をしたりすると、そこの領民は潤うのね。
今まで考えたこともなかったけれど、お金を使うことも誰かのためになるのだわ。
「そうと決まったら、妻にも宿泊の準備をしてもらいましょう。私は妻と二人きりで夜も朝も過ごしますが、よろしいでしょうか?」
「そこは好きにしてくださって構いません。姉上もその方がいいのですよね?」
「まあ、そうですね」
夜になるとユリシーズが人狼化しちゃうから、できるだけ別行動していてくれないと困るし。
「護衛の方々には高級宿ではない場所を案内しますが、問題ございませんか?」
「そこは常識的な対応をしてください。宿泊なさっている方を不快にさせるつもりはありません」
ローレンスがあっさりと了承したので、ユリシーズはゆっくりとうなずいていた。
これで、護衛の方たちが私たちの宿に乗り込んできて……という物騒なことは起こりにくくなる。
公爵家だって体裁が大事だから、護衛の方々が騒ぎを起こしたなんて評判を流されたくはないはず。
「それでは、私と妻が準備をしてまいりますので、こちらでお待ちいただけますか? 飲み物や軽食をお持ちしますので、暫くゆっくりしていてください」
そう言ってユリシーズが立ち上がったので、隣に座っていた私も立ち上がる。
当初の予定ではローレンスを人質にするはずだったけれど、一緒に領地を周ることになってしまった。
護衛の人たちは、公爵様からユリシーズを暗殺しろと命令されている可能性がある。果たしてどんな旅になるのかしら。
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