会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第3章

会社にて

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 副部長に昇進してから、会社で管理職の会議に呼ばれることが増えた。副部長は厳密には管理職じゃないと思うものの、うちの部長からしたらサポート要員なんだからちゃんとしろってことなんだろう。

 この日は、人事の緑川と灰原も参加してテレワークの進捗と今後の働き方に関する会議が対面で行われた。一応席の間隔はソーシャルディスタンスになっている。

 俺みたいな、客が多くて黙ってても仕事がある人間からすれば・・テレワークだろうがそうじゃなかろうが、やること自体はあんまり変わらないんだけど・・。実は営業部でも客が少ないようなやつとか、あんまり自発的に動かないやつなんかはテレワークになってから色々と戸惑うことが多いらしい。

「やっぱり、週に1回は集まって顔合わせた会議があった方がいいんじゃないでしょうか・・?」

 営業1部の部長が言った。古い人間が言いそうなことだけど、営業1部はとにかく大変で、何しろみんなの精神状態が心配な部でもある。営業1部に関しては、一概に否定はできないというのが俺の意見だ。
 この状況下で飲食店に向き合ってるんだから、どこかで気持ちを発散させてやった方がいい、というのも一理ある。

「営業1部は、それでも良いんじゃないですか? うちの部は、週1は多い気がするんで・・部署によると思います」

 俺が発言すると、灰原が睨んでくる。人事のクセに仕事に私情を持ち込むのは止めて欲しい。

「茶谷さんが、2部の場合は週1だと多いと思う理由は何ですか?」

 緑川が人事としてまっとうな質問をしてきた。まあ、そりゃそうか。

「うちの部に関しては、オンラインと電話でフォローすればコミュニケーションは足りるという考えでいます。営業1部に比べれば影響をあんまり受けていないのもあって、そこまで頻繁なやり取りが必要だとは思えないんですよ」
「足りている、とお考えなんですね、茶谷副部長は。2部のコミュニケーションが」

 灰原が横槍を入れる。これはまた・・喧嘩を売って来ているな。

「はい。あくまでも個人の考えですが・・。うちの人間にはそこまで細かいフォローは要らないですね」
「ちなみに、2部の青木が人事に色々言って来ているのはご存じですか?」

 あいつ・・。よりにもよって、灰原になんか言ってんのか・・。赤堀に対する未練だけで俺を蹴落とそうなんて考えているとしたら、割と最悪な根性してんだな。

「いえ・・青木に関してだけ言えば、まだ円滑なコミュニケーションは取れていない実感がありますが、それは青木と自分の間の個人的な問題なので」
「個人的、ですか・・」

 俺と灰原の間に見えない火花が散りだしたのを、緑川が苦い顔で見ている。

「2部の細かい問題は、会議をすれば解決するってことでもないので、ここではやめましょう。論点がずれますよ」

 おお、部長・・! こういう時だけは頼りになんだな! 伊達に長いこと部長職をやって来ていない。灰原の悔しそうな顔が心地いい。

 それにしても・・こういう会議に出るようになって初めて気が付いたことがある。俺は、目の前の仕事に追われ過ぎていて、仕事で関わっていない社内の人間と全くコミュニケーションを取らずに来ていた。それが、仇になることがある。案外、社内政治が足りていなかった。これじゃ部署を跨いで何かをしようと思った時、動きづらいなと思い知る。

 その点、青木は目の前の仕事以上に社内のコミュニケーションが上手い。社内で青木の悪口を聞いたことがないから、俺とあいつがバチバチしていたら真っ先に俺のせいになるだろう。これは分が悪い。

 まさか、赤堀とのことがこんな形で足を引っ張り始めるとは、想像も付かなかった。そろそろ、緑川に話をしておいた方が良さそうだ。
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