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第3章
ブランチ
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「さて。いつもだったら走りに行くとこなんだけど・・」
「え? これからですか?」
「いや、ジョギングより運動した気がするからいいや」
赤堀が真っ赤になったな。面白い。これは癖になりそうだ。
「なんか食い行こうか。ブランチ? かな。時間的に・・」
「も、もうそんな時間ですか?」
いや、11時前って、昼だよな・・。なんつーか、まあ、あれだよ。付き合いたての男女にありがちなやつだよ。
「俺がよく行く近くの喫茶店か、ちょっと遠出してランチ行くか、どっちがいい?」
「じゃあ・・茶谷さんのよく行くところに行きたいです」
・・いちいち言い方がかわいいじゃねえか。お前、何でいつもそうなんだろうな?
顔を洗って着替えを済ませる。赤堀は軽く化粧をして髪を巻いた。外出には相変わらずマスクをしなきゃならないけど、その前に、と思って赤堀の前で身体を屈めると、ちゃんと理解をした赤堀がキスをくれる。
「や、やだもう、茶谷さん・・髭剃って顔を洗っただけで、かっこいい」
「へえ?」
ああ、ちくしょう。なんだよこれは。いちいち褒められて調子に乗ってしまう。
バカだな、俺・・。いいよ、もう、バカで・・。この世はバカでいることが案外幸せなんだよ。
このご時世にも関わらず、なんとか生き残ってくれている近所の喫茶店に着く。店内には人もまばらだけど、もともと席同士が広くて間隔が開いていたからか、ソーシャルディスタンス対応もしていない。いつも通りってだけでなんだか落ち着くなと、普段よく座る窓側の席に着いた。
昼の光が差して眩しい。いつも朝しか来ていなかったから、昼はこんなに直射日光がきついんだなと思い知る。
「茶谷さんのお薦めは、何ですか?」
メニューを見ながら楽しそうにする赤堀が目の前に座っていて、この店に誰かと来たのは初めてだなと気付く。無意識に、自分のテリトリーに赤堀を入れるようになっていた。
「いつもモーニングばっかりだったんだけど、もうそんな時間じゃないからなあ。好きなの頼んでみろよ。なんかこの店、妙に食事のレベル高くて謎なんだよ」
「わっ、隠れた名店ですか?」
「なんてことない喫茶店なんだけどな」
赤堀はカニドリアのドリンクセット、俺は生姜焼き定食に食後のコーヒーを付ける。なんだか2人共がっつりしたものを頼んだな。
「今日、どうする?」
折角の土曜日でも、緊急事態宣言下でデートに行くってわけにもいかない。どうも行動が制限されててつまんねえなあと思う。まあ、もともとあんまり積極的にデートに行くタイプではないとしても。
「どうって・・?」
何故か困っている赤堀。別にセクハラしてんじゃねえよ。普通に聞いてんだよ。俺を何だと思ってんだ。
「こんなご時世だからできることも限られてっけど・・なんかあるか?」
「え? ああ、そうですよね・・」
歯切れ悪いなあ。まあ、思い浮かばねえよな、そりゃ。
「家で、映画とか見ます? あ、お勧めのミュージックビデオとかもありますよ?」
「ああ、確かに。最近映画観てなかったから良いかも」
「茶谷さんってどんなの観るんですか?」
「・・ほぼアクションばっかだな」
「わかるー」
なんでわかるー、なんだよ・・。悪かったな、頭の悪い何も考えずに観られるアクション映画ばっかり観るような男ですよ、俺は。
「赤堀は、どんなのが好きなんだ?」
「私は・・割と雑食ですかね。グロいやつはあんまり観ませんけど」
「雑食か」
「ええ、アニメもドラマも洋画も邦画も、ハリウッド映画からインディペンデント映画まで何でもいけます」
「赤堀って、エンタメに理解あるよな」
「んー・・そう思いますか?」
「そうとしか言いようがねえよ」
赤堀の好きな音楽の話を聞いてもまるでピンと来ない俺は、エンターテインメントに関する知識や理解は赤堀に遠く及ばない。初めて聴く音楽にも興味を持って常にアンテナを立てている赤堀結という女は、割と初めて出会う新種のような存在だったりする。
料理が来てからは、2人して飯が異様にうめえと騒がしい客になり果てて食事に熱中し、ゆっくり食後のドリンクを堪能した。特に時間に追われずに過ごすのはいいなと、満たされた腹を連れ、赤堀の手を繋いで歩く。途中にあるコンビニに寄り、やっぱり映画にはポップコーンだろと形だけを整えて帰った。
「え? これからですか?」
「いや、ジョギングより運動した気がするからいいや」
赤堀が真っ赤になったな。面白い。これは癖になりそうだ。
「なんか食い行こうか。ブランチ? かな。時間的に・・」
「も、もうそんな時間ですか?」
いや、11時前って、昼だよな・・。なんつーか、まあ、あれだよ。付き合いたての男女にありがちなやつだよ。
「俺がよく行く近くの喫茶店か、ちょっと遠出してランチ行くか、どっちがいい?」
「じゃあ・・茶谷さんのよく行くところに行きたいです」
・・いちいち言い方がかわいいじゃねえか。お前、何でいつもそうなんだろうな?
顔を洗って着替えを済ませる。赤堀は軽く化粧をして髪を巻いた。外出には相変わらずマスクをしなきゃならないけど、その前に、と思って赤堀の前で身体を屈めると、ちゃんと理解をした赤堀がキスをくれる。
「や、やだもう、茶谷さん・・髭剃って顔を洗っただけで、かっこいい」
「へえ?」
ああ、ちくしょう。なんだよこれは。いちいち褒められて調子に乗ってしまう。
バカだな、俺・・。いいよ、もう、バカで・・。この世はバカでいることが案外幸せなんだよ。
このご時世にも関わらず、なんとか生き残ってくれている近所の喫茶店に着く。店内には人もまばらだけど、もともと席同士が広くて間隔が開いていたからか、ソーシャルディスタンス対応もしていない。いつも通りってだけでなんだか落ち着くなと、普段よく座る窓側の席に着いた。
昼の光が差して眩しい。いつも朝しか来ていなかったから、昼はこんなに直射日光がきついんだなと思い知る。
「茶谷さんのお薦めは、何ですか?」
メニューを見ながら楽しそうにする赤堀が目の前に座っていて、この店に誰かと来たのは初めてだなと気付く。無意識に、自分のテリトリーに赤堀を入れるようになっていた。
「いつもモーニングばっかりだったんだけど、もうそんな時間じゃないからなあ。好きなの頼んでみろよ。なんかこの店、妙に食事のレベル高くて謎なんだよ」
「わっ、隠れた名店ですか?」
「なんてことない喫茶店なんだけどな」
赤堀はカニドリアのドリンクセット、俺は生姜焼き定食に食後のコーヒーを付ける。なんだか2人共がっつりしたものを頼んだな。
「今日、どうする?」
折角の土曜日でも、緊急事態宣言下でデートに行くってわけにもいかない。どうも行動が制限されててつまんねえなあと思う。まあ、もともとあんまり積極的にデートに行くタイプではないとしても。
「どうって・・?」
何故か困っている赤堀。別にセクハラしてんじゃねえよ。普通に聞いてんだよ。俺を何だと思ってんだ。
「こんなご時世だからできることも限られてっけど・・なんかあるか?」
「え? ああ、そうですよね・・」
歯切れ悪いなあ。まあ、思い浮かばねえよな、そりゃ。
「家で、映画とか見ます? あ、お勧めのミュージックビデオとかもありますよ?」
「ああ、確かに。最近映画観てなかったから良いかも」
「茶谷さんってどんなの観るんですか?」
「・・ほぼアクションばっかだな」
「わかるー」
なんでわかるー、なんだよ・・。悪かったな、頭の悪い何も考えずに観られるアクション映画ばっかり観るような男ですよ、俺は。
「赤堀は、どんなのが好きなんだ?」
「私は・・割と雑食ですかね。グロいやつはあんまり観ませんけど」
「雑食か」
「ええ、アニメもドラマも洋画も邦画も、ハリウッド映画からインディペンデント映画まで何でもいけます」
「赤堀って、エンタメに理解あるよな」
「んー・・そう思いますか?」
「そうとしか言いようがねえよ」
赤堀の好きな音楽の話を聞いてもまるでピンと来ない俺は、エンターテインメントに関する知識や理解は赤堀に遠く及ばない。初めて聴く音楽にも興味を持って常にアンテナを立てている赤堀結という女は、割と初めて出会う新種のような存在だったりする。
料理が来てからは、2人して飯が異様にうめえと騒がしい客になり果てて食事に熱中し、ゆっくり食後のドリンクを堪能した。特に時間に追われずに過ごすのはいいなと、満たされた腹を連れ、赤堀の手を繋いで歩く。途中にあるコンビニに寄り、やっぱり映画にはポップコーンだろと形だけを整えて帰った。
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