会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第3章

土曜日

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 夜と朝の境界線みたいなものが無くなって、色んな感情ととびきり幸せな感覚と一緒に、安心感に全身を委ねた。そうして迎える土曜日の朝は、普段の朝とは性質が違う。
 
 適度な肉体疲労も加わったからか、いつもとは比べ物にならない位の深い眠りを得られてしまった。実はここのところ、寝ても疲れが取れず、割と悩んでいたんだけど。

 まさかこんな効果もあるなんてな、なんて思いながら、まだ寝ている顔を眺めている。
 こいつは、本当に何事も諦めない。そのお陰でこうしていると思えば、なんという執念なんだと、畏れすら抱くような気もしつつ・・実際は、こうなったことに心から感謝している。

 結局、最後は諦めない人間が残るんだな、と何となく思う。
 いや、青木にはとっとと赤堀を諦めてもらいたいところだが・・。

「ごろーくん・・」

 赤堀がいつの間にか目を覚まして猫撫で声を上げていた。なんだか熱っぽい視線で、物欲しそうな顔をする。昨日の夜から、赤堀はやたら甘えてくるようになった。身体に触れながらキスを浴びせると、息を上げながらしがみついて来る。

「・・欲求不満ですか?」

 いきなり赤堀の口から出た言葉に、びっくりして反応に困る。キャラが違う。俺の知ってる赤堀は、少なくとも男を誘うような芸当は身に着けていなかったはずだ。一晩で進化でもしたのか? 鶴は変態する動物ではないのに・・?

「さあ、どうかな・・?」

 ちょっと突き放してみる。もう少し、この赤堀を見てみたくなった。

「誰かの要求が高かったから大変だったなあ・・」
「そんなこと・・え? どういう意味ですか?」
「いやあ、年甲斐もなく頑張ったなあ」
「そ、そうなんです・・?」

 この、戸惑っている感じがたまらない。なんか変なスイッチが入る。

「苦手なことにわざわざ付き合わせたから、それなりに気も遣ったなあ」
「・・それは・・」

 困り始める赤堀の、くすぐったがる場所を触る。時折身体が波打つのを見て笑いたい衝動をこらえる俺。自覚はしている。なんて意地が悪いんだ。
 でも、この赤堀の誘惑にそのまま乗るのはなんだか癪で、無理にでも言わせたい。ちゃんと赤堀の気持ちを聞きたい。

「なんか、言い方が意地悪です」
「ああ、そうだな・・俺、相当意地が悪いらしくて」
「ど・・土曜日だから・・」
「うん?」
「いっぱいイチャイチャするって、昨日言ったじゃないですか・・」

 掛け布団で顔を隠し、かろうじて目だけをこちらに向けてすごく恥ずかしそうに言う赤堀がかわいい。これはかわいい。

「それは、そういうことが苦手な赤堀が、したいと思うようになればの話だよ。俺はいつでもしたいけど」
「そうなんですか?」
「うん」
「あの・・ごろーくん・・わ、私・・ずっと苦手だったけど・・」
「うん」
「克服したかもしれません・・」

 まともにこっちを見られなくなっている赤堀に、「じゃあ、確かめてみるか?」と意地悪く聞くと、小さな「はい」が返ってくる。

 とっくに昨日気付いてたよ。でも、それが聞きたかった。どうしても、その口からちゃんと言わせて、認めさせたかっただけなんだけどさ。
 ようやく、本当の意味で求められた実感に酔っている。俺は満足して、いつもと違う朝を過ごすことにした。
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