会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
48 / 59
第3章

ただいま

しおりを挟む
 青木に対するイライラがまだ収まり切らないものの、ようやくマンションが見えると、今日はあそこで赤堀が待ってんだなあと感慨深い。
 急ぎ足で歩いて自宅の鍵を開けると、慌てて玄関に駆け付けた赤堀がいた。

「茶谷さん!!」
「おう、ただいま」
「あ、あの、手を洗ってきたら・・ですよ?」

 飛びついてこないなと思ったら、そうか、と気付いて洗面所に向かう。ついでに服もスーツから着替えてTシャツとジャージにした。

「茶谷さーん! お帰りなさい!」
「ぐっ・・」

 か、肩が・・赤堀の肩が・・みぞおちに入った・・。俺としたことが・・不覚。
 ・・そんな茶番みたいなことが起きたが、まあ、いいだろう。

「今日のご飯、どうしましょっか?」
「あるものでなんか作ろうぜー」
「茶谷シェフ、よろしくお願いします!」

 今日も、昨日と同じようにキッチンに2人で立って食事を作る。結局材料も大して残っていなくて、豚肉の薄切りを包丁でたたいて挽肉を作り、マーボー茄子にした。調味料だけは揃っている。

「茶谷さん、美味しいです、マーボー茄子! すごい。挽肉から作るとか、天才じゃないですか!」
「いや・・別に・・簡単だぞ?」

 赤堀は、何でもうまそうに食うなあと感心する。ああ、だから食事連れてってやろうとか思ったのかなあと前の自分を思い出したりして・・。

「今日さ、青木と話したんだけど・・。あいつ、すげえ感じ悪いんだよな」
「ええ? そうなんですか? あ、そういえば・・加南もそんなこと言ってました。怒ると結構感じの悪い言い方するんだよ、って」
「そうか、藍木が言うなら間違いないな。青木、ちょっと問題あるんだな」

 俺が頷いていたら赤堀の眉間に皺が寄る。

「なんで、茶谷さんてそんな加南を贔屓するんですか?」
「言っとくけど、俺は藍木を正当に評価しているからこうなってるんだ。ちなみに、あいつの目は確かだ」

 俺がそう言うと、赤堀は何だか納得していない顔をした。

「なんだか茶谷さんって、私のことより加南を評価してますよね・・」
「ええ? うーん、まあ・・藍木の方が・・現状は優秀かもな・・」
「・・そうですか・・」

 落ち込んだ・・。赤堀、お前、さすがに藍木には敵わねえんじゃねえかな・・。ちょっとお前も考えてみろよ、あの藍木は・・キャリアが短い割に、仕事の出来は既に社内のトップクラスだぞ。

「あのさあ、俺の彼女は藍木ではなく赤堀結なんですが・・」
「・・あ、そうですね?」

 うん、こうやってすぐに明るくなるのは、お前のいいところだな。

「なあ、夕飯食ったら一緒に風呂はいろーぜ」
「・・ごめんなさい、それはハードル高いのでお断りします」
「何でだよ。別に風呂ぐらい良いだろうよ」
「あの、私、ちょっとプライベートな空間はあんまり侵されたくない派で・・」

 断られた・・。きっぱりと断られた・・。しかもなんか冷たい感じで断られた・・。

 俺は寂しいなあと思いながら一人で風呂に入り、次に風呂に入った赤堀が出てくるまで寝室でスマホをいじりながら待つことになる。一緒に風呂でも入って慣れて緊張がほぐれればいいなと思ったのに、全然そういう問題じゃなかったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...