会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第3章

つまりは愛だろ

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 赤堀の身体は緊張で余計な力が入っている。過去、相当嫌な思いをしたのかもしれない。こいつを傷付けた元カレってやつは、とんだ勘違い野郎に違いない。

「赤堀、大丈夫だから。今、背中と肩にすげえ力入ってる。息吐いて」
「は、はい・・」

 背中をゆっくりさすると、怯えているのかびくびくしていた。

「好きだよ、赤堀」
「わ、私も・・好き」

 やっぱりすぐにガチガチになるのを見て、慣れるまでは暫くこんな感じかもしれないなと思った。無理に慣らすのは逆効果になりそうで、力の入っている腕や足をそっと撫でながらほぐすことに徹する。

 それにしても、いざ服の下から現れた全貌を目の前にすると、本当にスタイルいいなあとじっと観察してしまう。そのうち、「私ばっかり恥ずかしいです」とねだるように言うので、ああそうかと思って服を脱いだ。

「ちゃ・・茶谷さん?!」
「ん?」
「な、なんですか・・それ・・」
「それ?」

 赤堀が目を見開いてガン見してる。男の身体がそんなに珍しいのか?

「な、なんか別の生き物みたい・・」
「何の話だよ」
「ふ、腹筋・・」

 腹筋かよ。別の生き物って何だよ。ちょっと吹き出したじゃねえか。

「触るか?」
「は、はい・・」

 触んのかよ。お前さっきまでガチガチだったくせに、急に積極的だな?
 赤堀に腹を触らせてみたら、目がキラキラした。おい、なんなんだ。

「腹筋以外にも触ってくれていいけど?」
「・・はい。触りたいです」

 触んのかよ。お前、筋肉フェチなのか? いや、考えようによっては、これ、リハビリ的に使えるかもしれない。
 赤堀が興味津々で筋肉の形を確認するようになぞる。変な趣味見せつけられてる気分なんだけど、まあ、そんなに悪い気はしない。その間、緊張がほぐれる瞬間を見つけては赤堀を攻めてみるけど、案の定すぐにガチガチになった。

 すぐに硬くなる赤堀は、それはそれでかわいい。その度に、なるべく口に出して言った。
 恥ずかしそうにしながら、緊張しながら、少しだけ身体がほぐれる瞬間がある。

 慣れればそのうち、変な力も入らなくなるだろう。本音としては残念だけど、こういう時はあっさり引くのも大事だ。

「今日は、ここまでな」
「茶谷さん、あ、あの・・やめないでください・・」

 反則のやつが急に来た。待て、意志を折るな。

「いや、でも、足にすげえ力入ってるし・・」
「それじゃあ、茶谷さんに我慢させてるだけじゃないですか」
「いいって。我慢じゃない。これだけでも幸せだし」
「そんなの、やです・・」

 どうしろと? お前、自分がどんだけガチガチか分かってねえだろ? いやこれ物理的に無理だと思うんだけど。

「ダメだ。まだ赤堀の準備が整ってない。少しずつ慣れてこうぜ、こういうことはさ」
「でも・・情けないです」
「明日も、うちにいるんだろ?」
「え・・? はい・・」
「今日より明日は、きっともうちょっとうまく行く。明後日は、恥ずかしさもなくなるかもしれないし。実は俺も、今日はそれなりに緊張してんだわ」

 赤堀は泣きそうな顔をしながら、仕方ないとでも言いたそうに頷いた。
 分かってねえなあと思ったら、呆れるよりも嬉しかった。
 
 一生分かんなくていい。
 ここまでガチガチで触れられるのさえ苦手に違いない赤堀が、そうやって必死に応えようとしてくれた。随分愛されてんだなって感動しているのを悟られるのは、何かと気まずいんだよ。
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