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第3章
知れば知るほど
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「あの・・着替え、買いに行きたいです」
前の席でPCを弄っていた赤堀が、こっちを見て言った。俺も気付いてたけど、間違いなく要るよな、着替えは。
「赤堀の仕事が一区切り着いたら付き合うよ」
「すいません、何も持ってなくて」
「ほんとだな」
こんなすれ違いがあるんだなと、初めて知った。好きな男の家に手ぶらに近い荷物で来るって、お前、全然居座る気ねえじゃねえか。
「赤堀って、もっと図々しくその辺考えてるのかと思ってた」
「なんか、誤解してますよね、私のこと」
「思った以上にピュアなんじゃ? って、ちょっと疑い始めたとこだよ」
「悪かったですね」
「いや・・」
なんて言うんだ。赤堀に対する形容詞が上手いこと浮かばない。
「思ったよりかわいい」
「は・・?」
「図々しくねえのな、本当は」
「あ、当たり前ですー!」
戸惑いながら照れて困っている赤堀がいる。
仕事が一区切りしたら買い物に行こうと誘って、夕方に電車に乗って近くの街まで出かけた。こういう外出っていつ以来だろう。
電車に隣り合って座っている時も、つい昨日まではただの後輩だった赤堀が彼女として側にいるのか、なんて、変な心地がする。
これから赤堀は、うちで一緒に暮らすために必要なものを買うわけで・・。
なんか、こういうのは良いな、としみじみ思った。
「着替え以外に、必要なもんとかねえの?」
「・・無くは無いです。細々したものとか、ヘアアイロンとか」
「じゃあ、それも買って帰ろうぜ」
「・・はい」
隣から、適度な重みが掛かった。触れている腕同士がじれったそうに見えて、つい指を絡めて手を繋ぐ。「へへ」と変な声が隣から漏れて来た。浮かれてんな、お前も、俺も。
思わず鼻で笑ってしまう。緊急事態宣言中でガラガラの車内は、前にも横にも乗客はいない。マスクしてなかったら、人目が無いと思ってキス位していたかもしれないな、なんてちょっと思った。
まずは着替えだと言って、下着は赤堀一人で買いに行った。流石に俺は女性の下着屋に一緒に入る趣味はなく、隣のコーヒーショップで適当にスマホゲームをしながらコーヒーを飲んでいる。
暫くしたら赤堀が買い物を終えたらしく店に入って来た。
「あの・・次、服を買いに行きたくて・・一緒に付き合ってもらってもいいですか?」
「ああ、いいけど、何で?」
「茶谷さんの・・好きな服にします」
「ああ」
なんだ、これは。夢か? 彼女って生き物はこんな健気なのか?
赤堀の買い物の荷物を持って手を繋ぐと、赤堀の私服とルームウェアを買いに向かった。なんだろう、浮足立つ。
「茶谷さんって、どんな格好が好きなんですか?」
「赤堀が年末着てたやつとか。あのワンピース」
「ああ・・やっぱり加南の言った通りなんですね・・」
なぜ急に藍木の名前が出るのか分からず事情を聞いたら、藍木に勧められて俺の趣味はこういう服だろうと言われて買ったものだったらしい。
ナイスだな、藍木。俺はお前に一生頭が上がらないかもしれない。
「ニットは・・ラインとか・・まあいいよな」
「ただのエロおやじじゃないですか」
「よかったな、草食系の彼氏じゃなくて」
「微妙・・」
なんでそこでドン引きしてんだよ。どんな格好が好きかと聞かれて、俺の意見に反対する男がこの世にいるのなら連れて来て欲しい。ロマンだろうが。
「あっ、かわいい」
赤堀が、厚地のなんかワサワサしたルームウェアを手に取っている。わあーお前やっぱり男心が全く分かってねえええ。
つい首を振ってそれはやめろとテレパシーを送ると、赤堀は明らかに不満気な顔をした。
「えー? 何でですか? かわいいのに!」
「女のかわいいはホントに信用ならねえな。藍木を心から尊敬するわ」
「だって、もこもこしてていいじゃないですか」
「抱き心地悪そうだろ。感触伝わってこねーやつじゃん」
「はあああ??」
それ以外に何があんだよ。ルームウェアだろ? 俺にそのワサワサを撫でさせたいのか? そういうのは望んでねえんだよ。欲しいのはもっとこう・・。
「分かりましたよ、じゃあ、これですか?」
「いや、その隣」
「え? ワンピースタイプの方が良いんですか?」
あのさあ、スウェットとかも全然ぐっと来ねえんですよ、俺。
あと、できれば色々なところから触れる方がなんかこう・・。
わっかんねえんだろうなー。そうだろうなー。万年フリーだもんなー。
結局、俺の意見はルームウェアにしか採用されず、私服は赤堀の独断による選択になった。赤堀曰く、「茶谷さんの目線はいやらしすぎます」だそうだ。言っておくが、世の男なんてそんなもんだぞ、知らねえのはお前位だ。
その後は、化粧品だの細々としたものを買いに行くのに付き合い、ヘアアイロンを買って買い物は完了した。荷物全部預かって持とうとしたら、ものすごいびっくりされた。「茶谷さんって、そういう気遣いするんですか?」って俺を何だと思ってんだよ。
普段、手とか繋ぐタイプじゃないのは黙っておいて、当たり前のように赤堀と手を繋いで歩く。その度に照れながら目尻が下がる赤堀を見て、俺はなんだか得した気分になっていた。
前の席でPCを弄っていた赤堀が、こっちを見て言った。俺も気付いてたけど、間違いなく要るよな、着替えは。
「赤堀の仕事が一区切り着いたら付き合うよ」
「すいません、何も持ってなくて」
「ほんとだな」
こんなすれ違いがあるんだなと、初めて知った。好きな男の家に手ぶらに近い荷物で来るって、お前、全然居座る気ねえじゃねえか。
「赤堀って、もっと図々しくその辺考えてるのかと思ってた」
「なんか、誤解してますよね、私のこと」
「思った以上にピュアなんじゃ? って、ちょっと疑い始めたとこだよ」
「悪かったですね」
「いや・・」
なんて言うんだ。赤堀に対する形容詞が上手いこと浮かばない。
「思ったよりかわいい」
「は・・?」
「図々しくねえのな、本当は」
「あ、当たり前ですー!」
戸惑いながら照れて困っている赤堀がいる。
仕事が一区切りしたら買い物に行こうと誘って、夕方に電車に乗って近くの街まで出かけた。こういう外出っていつ以来だろう。
電車に隣り合って座っている時も、つい昨日まではただの後輩だった赤堀が彼女として側にいるのか、なんて、変な心地がする。
これから赤堀は、うちで一緒に暮らすために必要なものを買うわけで・・。
なんか、こういうのは良いな、としみじみ思った。
「着替え以外に、必要なもんとかねえの?」
「・・無くは無いです。細々したものとか、ヘアアイロンとか」
「じゃあ、それも買って帰ろうぜ」
「・・はい」
隣から、適度な重みが掛かった。触れている腕同士がじれったそうに見えて、つい指を絡めて手を繋ぐ。「へへ」と変な声が隣から漏れて来た。浮かれてんな、お前も、俺も。
思わず鼻で笑ってしまう。緊急事態宣言中でガラガラの車内は、前にも横にも乗客はいない。マスクしてなかったら、人目が無いと思ってキス位していたかもしれないな、なんてちょっと思った。
まずは着替えだと言って、下着は赤堀一人で買いに行った。流石に俺は女性の下着屋に一緒に入る趣味はなく、隣のコーヒーショップで適当にスマホゲームをしながらコーヒーを飲んでいる。
暫くしたら赤堀が買い物を終えたらしく店に入って来た。
「あの・・次、服を買いに行きたくて・・一緒に付き合ってもらってもいいですか?」
「ああ、いいけど、何で?」
「茶谷さんの・・好きな服にします」
「ああ」
なんだ、これは。夢か? 彼女って生き物はこんな健気なのか?
赤堀の買い物の荷物を持って手を繋ぐと、赤堀の私服とルームウェアを買いに向かった。なんだろう、浮足立つ。
「茶谷さんって、どんな格好が好きなんですか?」
「赤堀が年末着てたやつとか。あのワンピース」
「ああ・・やっぱり加南の言った通りなんですね・・」
なぜ急に藍木の名前が出るのか分からず事情を聞いたら、藍木に勧められて俺の趣味はこういう服だろうと言われて買ったものだったらしい。
ナイスだな、藍木。俺はお前に一生頭が上がらないかもしれない。
「ニットは・・ラインとか・・まあいいよな」
「ただのエロおやじじゃないですか」
「よかったな、草食系の彼氏じゃなくて」
「微妙・・」
なんでそこでドン引きしてんだよ。どんな格好が好きかと聞かれて、俺の意見に反対する男がこの世にいるのなら連れて来て欲しい。ロマンだろうが。
「あっ、かわいい」
赤堀が、厚地のなんかワサワサしたルームウェアを手に取っている。わあーお前やっぱり男心が全く分かってねえええ。
つい首を振ってそれはやめろとテレパシーを送ると、赤堀は明らかに不満気な顔をした。
「えー? 何でですか? かわいいのに!」
「女のかわいいはホントに信用ならねえな。藍木を心から尊敬するわ」
「だって、もこもこしてていいじゃないですか」
「抱き心地悪そうだろ。感触伝わってこねーやつじゃん」
「はあああ??」
それ以外に何があんだよ。ルームウェアだろ? 俺にそのワサワサを撫でさせたいのか? そういうのは望んでねえんだよ。欲しいのはもっとこう・・。
「分かりましたよ、じゃあ、これですか?」
「いや、その隣」
「え? ワンピースタイプの方が良いんですか?」
あのさあ、スウェットとかも全然ぐっと来ねえんですよ、俺。
あと、できれば色々なところから触れる方がなんかこう・・。
わっかんねえんだろうなー。そうだろうなー。万年フリーだもんなー。
結局、俺の意見はルームウェアにしか採用されず、私服は赤堀の独断による選択になった。赤堀曰く、「茶谷さんの目線はいやらしすぎます」だそうだ。言っておくが、世の男なんてそんなもんだぞ、知らねえのはお前位だ。
その後は、化粧品だの細々としたものを買いに行くのに付き合い、ヘアアイロンを買って買い物は完了した。荷物全部預かって持とうとしたら、ものすごいびっくりされた。「茶谷さんって、そういう気遣いするんですか?」って俺を何だと思ってんだよ。
普段、手とか繋ぐタイプじゃないのは黙っておいて、当たり前のように赤堀と手を繋いで歩く。その度に照れながら目尻が下がる赤堀を見て、俺はなんだか得した気分になっていた。
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