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第3章
通じ合う
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赤堀を連れて、近所のビストロに向かう。こんなことになるまではランチメニューも良い店だったのに、今やテイクアウトのみの営業になっている。
こういう光景を見ると、どこにぶつけたら良いのか分からない悔しさを感じるのは、俺が食品卸業に従事しているからなんだろうか。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、2人分のランチを買う。帰り道は赤堀の手を握って歩いた。
「飲食業も、俺らも、今はきついな」
「そうですね」
「お前の好きな音楽も、大変そうだし」
「はい・・」
寂しいよな、と思いながら、赤堀の手を握る力を少し強くすると、応えるように赤堀も力を込めて握り返してきた。
家に戻るまで特に会話もなかったけど、手を繋いでいるだけで間が持つのは何でなんだろう。
いつもの家に着いただけなのに、そこに赤堀がいることが急に信じられなくなった。手を洗い、赤堀がマスクを外した途端、その身体を抱きしめる。
「茶谷さん?」
「赤堀は、そのままでいて」
「当たり前じゃないですか、何言って」
残念ながら、余裕がない。暴走に近い行為と分かっていながら赤堀の唇を奪う。
何やってんだ、と自分でも思う止まらないその行為に、俺はとっくに手遅れなんだと気付かされた。
赤堀が応えようとして必死になっている。それが堪らなく嬉しいのは、通じ合っている感じがするからなんだろうか。とにかくそんな気持ちがぐるぐると駆け巡っては、好きってこんな感じだっただろうかと戸惑った。
自分でも意外なほど、溺れているらしい。
傍から見たら必死な行為になっていたと思う。赤堀と離れた時、信じられない位に複雑な気持ちになっていた。
こんなに心地良く感じるのに、満たされた気持ち以上に枯渇していく。赤堀が補給されたと思った途端、全然足りない。
「・・午後も、仕事入ってんの?」
「・・は、はい・・」
あぶねえ。俺は何を聞いているんだ。入っていないと言われたら、何をしようとしたんだ。こんなはずじゃなかった。仕事の時間に別のことに誘導をするような・・。
昼食を食べている間も、なんとなく無言になっていた。それは気まずいからとか話すことがないからとか、そういう類の無言ではなく・・。
会話なんて、要らないなと思った。
普段はバカなことを言い合っている相手を前に、どういうわけだろう。
黙々と食事をしていて、時折視線が絡む。ああ、赤堀だなあ、としみじみ思うと、なんでこいつこんなにかわいいのに万年フリーだったんだよとか、まるで会話にできないようなことばかりが浮かんでは消える。
そんな俺の気持ちを読んだわけじゃないだろうに、赤堀がぼそっと、「茶谷さんって、ほんとにかっこいいですね」と嬉しそうに言って照れた。
信じられねえ。ここにいる俺らは、絵にかいたようなバカップルだ。
もしかして、世間の男女っていうのはこんな風に浮かれているものなんだろうか。
知らない世界に連れてこられた気分だ。もしかして、お前鶴じゃなくて亀だったとかじゃねえよな。
こういう光景を見ると、どこにぶつけたら良いのか分からない悔しさを感じるのは、俺が食品卸業に従事しているからなんだろうか。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、2人分のランチを買う。帰り道は赤堀の手を握って歩いた。
「飲食業も、俺らも、今はきついな」
「そうですね」
「お前の好きな音楽も、大変そうだし」
「はい・・」
寂しいよな、と思いながら、赤堀の手を握る力を少し強くすると、応えるように赤堀も力を込めて握り返してきた。
家に戻るまで特に会話もなかったけど、手を繋いでいるだけで間が持つのは何でなんだろう。
いつもの家に着いただけなのに、そこに赤堀がいることが急に信じられなくなった。手を洗い、赤堀がマスクを外した途端、その身体を抱きしめる。
「茶谷さん?」
「赤堀は、そのままでいて」
「当たり前じゃないですか、何言って」
残念ながら、余裕がない。暴走に近い行為と分かっていながら赤堀の唇を奪う。
何やってんだ、と自分でも思う止まらないその行為に、俺はとっくに手遅れなんだと気付かされた。
赤堀が応えようとして必死になっている。それが堪らなく嬉しいのは、通じ合っている感じがするからなんだろうか。とにかくそんな気持ちがぐるぐると駆け巡っては、好きってこんな感じだっただろうかと戸惑った。
自分でも意外なほど、溺れているらしい。
傍から見たら必死な行為になっていたと思う。赤堀と離れた時、信じられない位に複雑な気持ちになっていた。
こんなに心地良く感じるのに、満たされた気持ち以上に枯渇していく。赤堀が補給されたと思った途端、全然足りない。
「・・午後も、仕事入ってんの?」
「・・は、はい・・」
あぶねえ。俺は何を聞いているんだ。入っていないと言われたら、何をしようとしたんだ。こんなはずじゃなかった。仕事の時間に別のことに誘導をするような・・。
昼食を食べている間も、なんとなく無言になっていた。それは気まずいからとか話すことがないからとか、そういう類の無言ではなく・・。
会話なんて、要らないなと思った。
普段はバカなことを言い合っている相手を前に、どういうわけだろう。
黙々と食事をしていて、時折視線が絡む。ああ、赤堀だなあ、としみじみ思うと、なんでこいつこんなにかわいいのに万年フリーだったんだよとか、まるで会話にできないようなことばかりが浮かんでは消える。
そんな俺の気持ちを読んだわけじゃないだろうに、赤堀がぼそっと、「茶谷さんって、ほんとにかっこいいですね」と嬉しそうに言って照れた。
信じられねえ。ここにいる俺らは、絵にかいたようなバカップルだ。
もしかして、世間の男女っていうのはこんな風に浮かれているものなんだろうか。
知らない世界に連れてこられた気分だ。もしかして、お前鶴じゃなくて亀だったとかじゃねえよな。
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