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第3章
予想外だった
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2020年4月9日――。
朝の8時半に家を出て、カーシェアのある駐車場に向かう。これから、赤堀を迎えに・・。とうとうか。あいつどんな感じなんだろう。
20分程度で赤堀のアパート前に着いたので、赤堀の電話を鳴らす。
「着いてるから、準備できたら適当に来て」
「あ、はい、準備は出来てます・・」
そう言うと、2階の部屋から赤堀が出て来た。デニムパンツにジャケットスタイル。好きな男の家に来るのに、そういう格好をするのは赤堀らしいなと思う。ああいうスリムタイプのデニムは・・男にとって都合が悪いって知ってんだろうか。いやまあ別にそんな都合とかどうでもいいけど。いや、ほんとに。
それにしても・・荷物少なくねえか? あれで足りるのか? え? あいつ家に来るってことを誤解してる?
いやいや、20代の女なんだし、彼氏も過去にいたわけだし、家に誘われることの意味くらい分かってるよな?
助手席に乗り込んだ赤堀に聞いてみた。同時にエンジンをかけて車を動かす。
「あのさあ、ちょっと気になってんだけど・・」
「はい?」
「荷物少なくね?」
「・・? PCはちゃんと持ってきましたよ」
「お前・・一応聞くんだけどさ・・」
「はい」
「俺のこと好きって言ったよな?」
「はい、好きですよ、とっても」
呆れて大きな溜息が出た。運転しながら脱力した。
こいつ、まさか本当に家に誘われることの意味を分かっていないのか。
「お前、意味わかってねえの?」
「はい?」
「何しにくんの? うちに」
「お仕事ですけど」
「アホだろ」
うちで仕事すれば良いとは確かに言ったけど、仕事のために家に来いと言った覚えはない。こいつ、決定的に何かが欠けている。これが万年フリーか。
「アホとか言わないでくださいよ。好きな人の家に行くと思って、これでも緊張してるんですから」
「分かったよ、あーはいはい、そうですか」
万年フリーという生き物の実態を知って、不覚にも自分の失態に気付いた。
俺は・・これからしっかり赤堀と暮らすつもりで家に呼んだはずだったのに、赤堀にとってはそんなことは想像もできなかったらしい。
完全に、俺の作戦ミスであり、敗北を認めざるを得ない。
もしかして、ほんとに仕事だけして帰るつもりか? そんなことをされたら、流石の俺でも立ち直れない。
車内が、すっかり静かになってしまった。家には20分くらいで到着したけど、なんだか赤堀は落ち込んでいる。
マンションの鍵を開けて赤堀を中に入れる。部屋を見てキョロキョロとしている赤堀を見ながら、いや、焦るな俺、と自分を落ち着かせた。
「適当に座れよ。なんか淹れるわ。紅茶か?」
「あ、はい。ありがとうございます」
ダイニングの椅子に座った赤堀がこっちをじっと見ている。ポットの湯で淹れた簡易的なティーバックの紅茶を赤堀の席に置いた。
「ありがとうございます。いただきます」
「あのさあ・・一応聞いておくんだけど・・今日、泊まんねえの?」
「・・・えっ・・・・?」
案の定固まってんじゃねえか。想定してなかったのかよ。
「いやだからさ、俺は・・この先ずっとここで仕事すればって言ってんだけど」
「え? な、何言ってんですか。だって茶谷さんって私のこと全然好きじゃないですよね」
「・・・・」
全然気付かれてねえ――。
分かりやすくしてたつもりが、全く伝わってなかった――。
ダメだ、無言になってたら肯定の意味になる。否定しねえと。
「察しろ、赤堀。俺は、お前の賭けに負けた」
「賭け・・え?」
「赤堀のこと好きだから呼んだんだけど」
「・・・は???」
「お前、やっぱアホだろ!」
「アホって言わないでください!! 現実が想像の斜め上で、戸惑ってるんです!!」
力強く主張してるくせに、赤堀は今にも泣きそうになって目に涙が溜まっている。それ、悪い意味の涙じゃないんだよな?
赤堀に気付かれていないのは想定外だったけど、ちゃんと俺のことは好きだと言ってたんだし、別にこれはどうにでもなる状況だ。
そう思って、席に座る赤堀の横まで歩いてみる。こっちを見ている赤堀を見たら、丁寧に伝えなきゃダメだと分かった。横から抱きしめて、もう一度やり直す。
「好きだよ」
「はい・・」
「あんなに積極的に来るくせに」
「はい・・」
「ほら、濃厚接触」
「言い方・・」
その辺で買った紅茶の味だな、と思いながら、明らかに戸惑っている赤堀の口を探るように深めのキスを続ける。
まさか、こんなことになるとは思わなかった。今日、ここから帰さないようにするのに俺がどれだけ必死か、お前は知らないんだろうな。
朝の8時半に家を出て、カーシェアのある駐車場に向かう。これから、赤堀を迎えに・・。とうとうか。あいつどんな感じなんだろう。
20分程度で赤堀のアパート前に着いたので、赤堀の電話を鳴らす。
「着いてるから、準備できたら適当に来て」
「あ、はい、準備は出来てます・・」
そう言うと、2階の部屋から赤堀が出て来た。デニムパンツにジャケットスタイル。好きな男の家に来るのに、そういう格好をするのは赤堀らしいなと思う。ああいうスリムタイプのデニムは・・男にとって都合が悪いって知ってんだろうか。いやまあ別にそんな都合とかどうでもいいけど。いや、ほんとに。
それにしても・・荷物少なくねえか? あれで足りるのか? え? あいつ家に来るってことを誤解してる?
いやいや、20代の女なんだし、彼氏も過去にいたわけだし、家に誘われることの意味くらい分かってるよな?
助手席に乗り込んだ赤堀に聞いてみた。同時にエンジンをかけて車を動かす。
「あのさあ、ちょっと気になってんだけど・・」
「はい?」
「荷物少なくね?」
「・・? PCはちゃんと持ってきましたよ」
「お前・・一応聞くんだけどさ・・」
「はい」
「俺のこと好きって言ったよな?」
「はい、好きですよ、とっても」
呆れて大きな溜息が出た。運転しながら脱力した。
こいつ、まさか本当に家に誘われることの意味を分かっていないのか。
「お前、意味わかってねえの?」
「はい?」
「何しにくんの? うちに」
「お仕事ですけど」
「アホだろ」
うちで仕事すれば良いとは確かに言ったけど、仕事のために家に来いと言った覚えはない。こいつ、決定的に何かが欠けている。これが万年フリーか。
「アホとか言わないでくださいよ。好きな人の家に行くと思って、これでも緊張してるんですから」
「分かったよ、あーはいはい、そうですか」
万年フリーという生き物の実態を知って、不覚にも自分の失態に気付いた。
俺は・・これからしっかり赤堀と暮らすつもりで家に呼んだはずだったのに、赤堀にとってはそんなことは想像もできなかったらしい。
完全に、俺の作戦ミスであり、敗北を認めざるを得ない。
もしかして、ほんとに仕事だけして帰るつもりか? そんなことをされたら、流石の俺でも立ち直れない。
車内が、すっかり静かになってしまった。家には20分くらいで到着したけど、なんだか赤堀は落ち込んでいる。
マンションの鍵を開けて赤堀を中に入れる。部屋を見てキョロキョロとしている赤堀を見ながら、いや、焦るな俺、と自分を落ち着かせた。
「適当に座れよ。なんか淹れるわ。紅茶か?」
「あ、はい。ありがとうございます」
ダイニングの椅子に座った赤堀がこっちをじっと見ている。ポットの湯で淹れた簡易的なティーバックの紅茶を赤堀の席に置いた。
「ありがとうございます。いただきます」
「あのさあ・・一応聞いておくんだけど・・今日、泊まんねえの?」
「・・・えっ・・・・?」
案の定固まってんじゃねえか。想定してなかったのかよ。
「いやだからさ、俺は・・この先ずっとここで仕事すればって言ってんだけど」
「え? な、何言ってんですか。だって茶谷さんって私のこと全然好きじゃないですよね」
「・・・・」
全然気付かれてねえ――。
分かりやすくしてたつもりが、全く伝わってなかった――。
ダメだ、無言になってたら肯定の意味になる。否定しねえと。
「察しろ、赤堀。俺は、お前の賭けに負けた」
「賭け・・え?」
「赤堀のこと好きだから呼んだんだけど」
「・・・は???」
「お前、やっぱアホだろ!」
「アホって言わないでください!! 現実が想像の斜め上で、戸惑ってるんです!!」
力強く主張してるくせに、赤堀は今にも泣きそうになって目に涙が溜まっている。それ、悪い意味の涙じゃないんだよな?
赤堀に気付かれていないのは想定外だったけど、ちゃんと俺のことは好きだと言ってたんだし、別にこれはどうにでもなる状況だ。
そう思って、席に座る赤堀の横まで歩いてみる。こっちを見ている赤堀を見たら、丁寧に伝えなきゃダメだと分かった。横から抱きしめて、もう一度やり直す。
「好きだよ」
「はい・・」
「あんなに積極的に来るくせに」
「はい・・」
「ほら、濃厚接触」
「言い方・・」
その辺で買った紅茶の味だな、と思いながら、明らかに戸惑っている赤堀の口を探るように深めのキスを続ける。
まさか、こんなことになるとは思わなかった。今日、ここから帰さないようにするのに俺がどれだけ必死か、お前は知らないんだろうな。
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