会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第3章

そわそわしている

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 明日、朝9時に赤堀を迎えに行くことになっている。既に近所のカーシェアは予約してあるから大丈夫だ。
 その前に部屋を綺麗にしておこうと、夜に帰宅してから掃除を始めた。普段からそこまで部屋を汚すタイプじゃないが、妙に寝室の掃除に気合が入る。ここに赤堀が来るのかと思うと変な感じだ。

 あいつ、彼氏にだけ見せる顔とかあるんだろうか。
 そういうのを、明日は見ることが出来るんだろうか。

 楽しみで仕方がないのに、それを知るのがちょっと怖くもある。
 既にちゃんと好きで、向こうの気持ちが俺にあることも分かっているのに、傷を付けずに一緒にいられるのか、なんて、未だにマイナス思考に陥りそうだ。

 こういう不安に駆られた時こそ、鶴へメッセージを送るに限る。

『今、何の仕事してんの?』
『飲食店が抱えている問題の整理と、市場分析です』

 ああ、結構重たい事やってんだなあと赤堀に同情もする。あいつもあいつで、気が滅入りそうな仕事に向き合ってんだな。

『なんか、プラスの材料はあったか?』
『難しいですけど・・テイクアウト業態がどんどん伸びているくらいですかね』

 そうだな、時代はどんどん飲食店という『場』が消えている。それは、すごく残念なことでもあった。

『飲食店のテイクアウトニーズに、うまく対応してやれるといいな。うちの1部もさ』
『そうですね』

 メッセージのやり取りをして、やっぱりこういうことを直接会って話していたいなと実感する。

 なあ、赤堀、お前は知らないと思うけど、俺はずっと年上派だったんだ。
 だから、9つも下のお前とか、本当は全然タイプと外れるはずだったんだよ。

 それに、就活生だった赤堀を助けたのも、ただの気まぐれだった。
 全然、親切心でも何でもない。
 むしゃくしゃして、どうにでもなれよと思っているところに、たまたま車内トラブルがあっただけなんだ。
 それを知っても、それでも、俺のことを好きでいてくれるだろうか。

 あいつはどうして、俺なんだろうな。
 明日は、そんな話もするかもしれない。

 どんな日になるか全然想像もつかないけど、とりあえず俺はそわそわしている。9つも自分が年を取っていることが、ちゃんとプラスになるんだろうか。
 キックボクシングは、やってて良かった。とりあえず身体はたるんでないし、腹も出ていない。あいつの同年代の男に負けている気もしない。

 青木を振って俺を選んだくらいなんだから、応えてくれんだよな、あいつ。
 明日には、赤堀がこの部屋にいるなんて、変な感じだ。

 ああ、結局、日本昔話の鶴が奥さんになるバージョンの二の舞になってんじゃねえか。
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