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第3章
会いたい
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2020年4月7日——緊急事態宣言が発令された。
ここのところ、昼休みに毎日赤堀と電話をしている。
赤堀に対する自分の気持ちを認めてから、妙に吹っ切れて電話で話すようになっていた。
「やっぱ、ビデオ会議だとタイミングずれるの、なんかダメだな。電話の方がリアルタイムでいい」
「そうなんですね。私、茶谷さんの顔が見えるから、ビデオ会議の方が好きですけど」
「顔か・・」
「会いたいなあ、茶谷さん」
「だから、うんって言ってるだろ」
「だけど、会えないじゃないですか」
「会おうぜ、もう・・」
「会ってくれます?」
「会いたいよ、そろそろ」
口に出して言うと、どんどん会いたくなってくるから不思議だ。
会えなくなってから、俺は赤堀に随分と依存してきたのかもしれないとすら思い始めている。
「いつ、会えますか・・」
「ずっと休日も働いてたから、近々代休取ろうと思ってた。赤堀は?」
「平日はリモートワークで・・休みの日は何にも予定ないです。ライブも全部中止になっちゃって」
「ああ・・悔しいな」
「はい・・」
「平日のリモートワーク、うちでやれば?」
「えっ?」
「俺んち」
「・・・は???」
「何? 鶴に戻ってんのか? 日本語通じねえの?」
「通じてるから驚いてるんじゃないですか!」
「声がでけえ」
すぐに行きますとか言われるつもりでいたのに、どういうわけか電話口の赤堀は動揺しまくっている。あんな押してくる割に、家に誘うと固まるって、どういうことなんだろうか。ここ数日、電話でハッキリ俺の気持ちも伝えているつもりでいるんだけど。
赤堀に会えると思ったら、速攻で2日後の有給休暇を申請した。行動が妙に早くなってしまうことに、以前偉そうに赤堀を振ったのはどこの誰だよと心の中でツッコミを入れる。
俺を諦めてくれなくてありがとうなんて、カッコ悪すぎて言えない。
でも、あいつは家に呼んだ時点で気付いてくれてるんだろうな。
この不安定な時代を生きる毎日に、俺に必要なのは赤堀だった。
赤堀にとって自分がベストな相手かどうかなんて、もうどうでもいい。
ただ会いたい。
自分に正直になってみると、なんて単純なんだろうかと笑える。
顔を合わせて、触れ合えたら、赤堀はどんな顔をして笑うんだろう。
たった2日先のことなのに、待ち遠しくてじれったい気持ちで仕事をする羽目になる。休憩時間に赤堀に電話をする時も、ちょっと照れが入っていつも通りの皮肉や冗談が出てこなかった。
赤堀は赤堀で、戸惑っている様子もある。「本当にお家にお邪魔しても良いんですか?」と何度か聞かれた。なんでそこを確認するのか、あいつの意図がよく分からない。
「家に誘いたかったから誘ったんだよ。来たいか来たくないかで返事くれればいいんだけど」
「じゃあ、行きたいです・・」
いつもは押せ押せのくせに、誘った途端控え目な赤堀にぐっと来た。
完全に油断していた。これは、まずいかもしれない。
ここのところ、昼休みに毎日赤堀と電話をしている。
赤堀に対する自分の気持ちを認めてから、妙に吹っ切れて電話で話すようになっていた。
「やっぱ、ビデオ会議だとタイミングずれるの、なんかダメだな。電話の方がリアルタイムでいい」
「そうなんですね。私、茶谷さんの顔が見えるから、ビデオ会議の方が好きですけど」
「顔か・・」
「会いたいなあ、茶谷さん」
「だから、うんって言ってるだろ」
「だけど、会えないじゃないですか」
「会おうぜ、もう・・」
「会ってくれます?」
「会いたいよ、そろそろ」
口に出して言うと、どんどん会いたくなってくるから不思議だ。
会えなくなってから、俺は赤堀に随分と依存してきたのかもしれないとすら思い始めている。
「いつ、会えますか・・」
「ずっと休日も働いてたから、近々代休取ろうと思ってた。赤堀は?」
「平日はリモートワークで・・休みの日は何にも予定ないです。ライブも全部中止になっちゃって」
「ああ・・悔しいな」
「はい・・」
「平日のリモートワーク、うちでやれば?」
「えっ?」
「俺んち」
「・・・は???」
「何? 鶴に戻ってんのか? 日本語通じねえの?」
「通じてるから驚いてるんじゃないですか!」
「声がでけえ」
すぐに行きますとか言われるつもりでいたのに、どういうわけか電話口の赤堀は動揺しまくっている。あんな押してくる割に、家に誘うと固まるって、どういうことなんだろうか。ここ数日、電話でハッキリ俺の気持ちも伝えているつもりでいるんだけど。
赤堀に会えると思ったら、速攻で2日後の有給休暇を申請した。行動が妙に早くなってしまうことに、以前偉そうに赤堀を振ったのはどこの誰だよと心の中でツッコミを入れる。
俺を諦めてくれなくてありがとうなんて、カッコ悪すぎて言えない。
でも、あいつは家に呼んだ時点で気付いてくれてるんだろうな。
この不安定な時代を生きる毎日に、俺に必要なのは赤堀だった。
赤堀にとって自分がベストな相手かどうかなんて、もうどうでもいい。
ただ会いたい。
自分に正直になってみると、なんて単純なんだろうかと笑える。
顔を合わせて、触れ合えたら、赤堀はどんな顔をして笑うんだろう。
たった2日先のことなのに、待ち遠しくてじれったい気持ちで仕事をする羽目になる。休憩時間に赤堀に電話をする時も、ちょっと照れが入っていつも通りの皮肉や冗談が出てこなかった。
赤堀は赤堀で、戸惑っている様子もある。「本当にお家にお邪魔しても良いんですか?」と何度か聞かれた。なんでそこを確認するのか、あいつの意図がよく分からない。
「家に誘いたかったから誘ったんだよ。来たいか来たくないかで返事くれればいいんだけど」
「じゃあ、行きたいです・・」
いつもは押せ押せのくせに、誘った途端控え目な赤堀にぐっと来た。
完全に油断していた。これは、まずいかもしれない。
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