会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第3章

顔を合わせたい

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 2020年も3ヶ月目に入った。赤堀と電話で話して以来、あいつは毎日毎日メッセージを送って来る。赤堀は心配してくれているらしい。かれこれ、2月から毎日赤堀とやり取りをしていた。

『茶谷さん、おはようございます。今日もお店回りですか? 気を付けて行ってきて下さい』
『はいはい』

『茶谷さん、お疲れ様です。外食産業のことを考えていたら滅入って来ちゃいました。茶谷さんと話したいなあ』
『そのうちな』

『茶谷さん、お疲れ様です。もうお仕事終わってますか? 今日は比較的暖かい日でしたね』
『あーそうだな。もうすぐ春か』

 あっという間に3月に入ったっていうのに、仕事の状況はちっとも良くならない。会社の誰からも心配されず、みんな自分のことでいっぱいいっぱいなんだろうなと思うしかないのに、ただひとり、赤堀だけが毎日懲りもせず心配そうに連絡をくれる。
 たったそれだけのことなのに、いつの間にか赤堀の存在がありがたくなっていた。

『今日は、どちらに行くんですか?』
『郊外店だ』
『遠出、お疲れ様です。私の声が聴きたくなったらいつでもどうぞ』
『いや、間に合ってる・・と思う』

 こんなメッセージのやり取りで赤堀の声が聴きたくなるとか、どうかしている。

『みんなの売上が下がっているのは知ってましたが、茶谷さん個人の売上だけ、上がってるじゃないですか』
『単に、スーパーの売上がここのところ伸びてるだけだよ』
『でも、やっぱり茶谷さんはすごいです』
『すごくねえから。外食が世の中から減っただけだから』
『会いたいです』
『うん』

 赤堀に会いたいとメッセージをもらって、ああ、俺はこいつと会いたいのかもしれないなと気付いてしまった。3ヶ月近く会っていない。そろそろ会いたいって思うってことは、それなりに赤堀のことを気に入ってたんだろう。

 たまたま赤堀も参加するビデオ会議があった。久しぶりに赤堀の顔を見たけど、なんか不思議な感じがする。会議が終わったら、すぐにメッセージを受信した。

『茶谷さん、やっぱりビデオ会議だと会ってる気がしなくて寂しいんですけど』
『まあ、実際会ってはねえからな』
『会いたいです』
『うん』
『そのうんってやつ、前もありましたけど、どういう意味ですか? 私、茶谷さんの意図がわかんないんですけど』
『そろそろ、赤堀と顔合わせてバカみてえな話がしたいな、って意味だよ』

 メッセージを送ってつくづく思った。やっぱり顔を合わせたい。俺のことを真っ直ぐに見ながら好きだと言ったあの赤堀が、ビデオ会議じゃ目が合っている感じがしなかった。
 そんなこと本人には伝えられそうもないのに、もう一度、真正面から言われてえなあと思った。あの諦めない根性に、呆れる位の潔さで好きだと言われたら最近のモヤモヤした気持ちが晴れそうな気がする。
 
 ああ今なら、受け止められるのにな。
 そう思って、自分自身に驚いた。
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