会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第2章

大晦日

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 年末は30日までダラダラと家の片づけや掃除をしながら過ごし、31日から実家に滞在した。兄貴2人は結婚しているから帰省は奥さんのところだろうと思いきや、何故か2人とも実家にいる。一番上は奥さんと子連れで、実家が一気に手狭になっていた。

「こんなに賑やかなら、俺、帰んなくて良かったな」
「独身のうちくらい、年末年始は実家に帰って来なさいよ」

 お袋が寂しそうに言うが、兄貴が2人とも実家に帰って来てんじゃねえか。
 下の兄貴は奥さんも割と実家が近いこともあって、お互い別々に実家へ帰省することになったんだとか。ドライだ。

 上の兄貴は、29歳で結婚して今は40歳。結婚11年で、奥さんは2つ下の38歳。ガキが2人いる。上は男で8歳、下は7歳の女で2人とも割と綺麗な顔をしている。まーうるさいが。

「叔父さーん、遊んで―」
「おじさん言うな。お兄さんと呼べ」
「叔父ちゃーん」
「お兄ちゃんだろ? そこは」

 甥と姪に揶揄われる。兄貴に比べて俺は若く見えるらしく、甥も姪も俺を弄ることが多い。子どもは得意じゃないが、兄貴に似た甥は面白いし、義姉ねえさんに似た姪は可愛い。家族って、不思議な感覚だ。

「吾郎は結婚しないのー?」
「さあねえ? 予定ねえよ?」

 そう聞いてきた下の兄貴は、俺の2つ上の35歳。歳が近いってのもあって、共通の知人や友人がいる。そんなわけで、下の兄貴には俺の歴代の彼女が割と知られているし、俺も兄貴の黒歴史には詳しい。

「そんくらいの歳で結婚しとかないと、そのうちモテなくなるからな」
「はあ? 既婚者だからって偉そうに言うなよ」
「ほんとほんと、35超えたら既婚者の方がモテんだって」
「自分で言う奴は大したことねえって相場が決まってんだよ」

 大抵、下の兄貴と俺がずっと言い合いをすることになる。上の兄貴は歳が離れているのもあって、気軽に言い合ったりはしない。

 うちは男所帯というか、お袋以外が全員男でむさくるしい。
 上の兄貴が空手をやっていた関係で、兄弟全員空手で育った。
 空手の才能があったのは俺で、勉強が出来たのは一番上。
 上の兄貴は、今や大企業で部長をしてるエリートだ。
 そして、のらりくらりとしているように見えた下の兄貴が、警察官。一番空手を適当にやっていたのに、今や市民を守っている。

 俺だけ中小企業の松味食品で平凡なサラリーマン。ちょっと前まではだせえなと思ってたけど・・。営業成績でトップを取るようになってからは、兄貴たちに対しても劣等感のようなものを抱かなくなった。

 そもそも、3兄弟の一番下ってのは全く期待をされない。恐らく、両親も3人目は女が欲しかったに違いない。そんなわけで、俺は親に叱られた経験というのがない。

「吾郎さんは、彼女いるの?」

 義姉さんに聞かれた。家族全員が興味津々でこっちを見てる。

「いや・・、いないです」
「あらあら、吾郎は結婚早いかと思ったのにねえ」
「あはは、母さん、吾郎は結婚できるか分からないよ?」
「選り好み過ぎなんだよなあ、吾郎は」

 みんなが好き勝手言いやがる。ウンザリしていたら、携帯が鳴った。

『茶谷さん、大晦日ですね。年越しカウントダウンしません??』

 赤堀・・本当に空気を読まねえな。なんだよカウントダウンって。

『はあ? 意味わかんねえんですけど』
『私、今日はカウントダウンライブ行くんですよ。だから、日付が変わったらメッセージ送ります』
『へえ・・俺は寝てるわ』

 赤堀と謎のやり取りをしていたら、義姉さんにうっかり画面を見られた。

「あれ、吾郎さん、女の子とメッセージやり取りしてるじゃない」
「いや、仕事関係で」
「へえ? 大晦日に? ふふ、うまく行くといいね」
「いや、ほんとに違うんです」

 赤堀のせいで、家族にあらぬ誤解をされ、今はニヤニヤとした視線を浴びている。
 家族ってのは、本当に鬱陶しい。
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