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第2章
帰り道は
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ファミレスから出て、銀座の大きな通りに立った。驚くほど車がいない。これが年末ってやつなんだろうか。
赤堀が何かを言いたそうにこっちを見ている。
「茶谷さん、年末年始は・・」
「会わねえよ?」
「誰と?」
「赤堀と」
「そんな念押し、わざわざしなくてもいいじゃないですか」
いや、赤堀のことだ、一緒に初詣どうですかとか言いかねない。
そうやってじわじわと接近してくるような作戦には乗らねえ。
「年末年始ってどんな風に過ごしてるんですか?」
「実家には2日間だけ帰るかな。あとは、適当」
「茶谷さん、実家どこですか?」
「神奈川」
「近っ」
ああ、案外実家がどうとかって話をしたことが無かったのか。
赤堀は、関東ではなかったような・・一人暮らしも学生時代からしているようなことを言ってたな。
それにしても、タクシーがいない。
「流し拾うのは結構時間かかりそうだな・・。アプリで呼ぶしかねえか」
「アプリで呼ぶ・・?」
「ああ、知らねえの? タクシーアプリ」
「知りません。アプリでタクシー呼べちゃうんですね」
営業という仕事をしていると、タクシーに頼ってしまいがちだ。移動時間も電話が出来るし、なんならPCも見れる。そんなわけで、最近はタクシー迎車アプリもいくつか使い分けたりしている。便利だ。
「あと8分くらいで着くらしい。寒空の下で待つんなら、もう少し店内にいりゃよかったな」
「まあ、車通りが少ないとかイメージないですもんね。手でも繋いで待ちます?」
「意味不明すぎんだろ」
付き合ってもいないし、さっき告白を断ったはずなのに、何故こうもしぶとく手を繋ぐとか言ってくるんだろうか。呆れて睨みつけてやりたいのに、今日の赤堀の格好が別人みたいで出来ない。
と、思ったら、横から体重掛けて寄りかかって来やがった・・。
「おい」
「はい」
「なんでくっついてんだよ」
「寒いからです」
「重いっつーの」
「でしょうね」
相変わらず調子に乗りすぎだろう、と思ったので赤堀を剥がそうとしたら、しがみつかれる。
「お前・・」
「なんで離れようとするんですか」
「いや、逆になんでくっついても良いと思ったんだよ?」
赤堀は、首を傾げた。
「どういうボケだよ。マジかよ」
「いや、本当に分かりません。なんでくっついたらいけないんでしたっけ?」
「絞めるぞ鶴」
「動物虐待ですよ!」
動物虐待?!
思わず吹き出してしまった。パワハラでもセクハラでもなく、動物虐待。まさかそう来るとは思わなかった。動物虐待なら、灰原の管轄外だ。
「茶谷さん、楽しかったですね。松味の営業最終日だから、終わり良ければ総て良しってやつですね」
「もう足元は大丈夫か? 酔っ払い」
「なんか急にダメかもしれない気がしてきました・・あ、これ支えてくれる人が居ないと・・」
「大丈夫だな」
コントみたいじゃねえか。お前何なんだ、と思いつつも、さっきの動物虐待からの下りで笑ってしまう。バカみたいなことを言っていたら、タクシーが早々に到着した。
「なんでこんな早く来ちゃうんですか?」
「道が混んでねーからだろ、多分」
寒いんだから、なるべく早くタクシーが来た方がいいだろうが。なんで赤堀が残念そうなのか、理解に苦しむ。
「茶谷です」
タクシーはアプリで呼ぶと、名前を聞かれる。運転手さんが名前を照会すると、ドアが開いて乗れる仕組みだ。まあ、決済も全部アプリに登録しているクレジットカードの引き落としだし、誰かに乗られるとタダ乗りされるからな。
「目的地2か所回ってください。最初の場所は住所言うのでカーナビで探してもらって、そこから次は口頭で案内します。おい赤堀、自宅住所」
「えーと・・東京都杉並区・・」
赤堀の住所が、割と都心寄りの西東京だ。俺の家より断然近い。首都高に乗ればすぐに着く。
「杉並だし道混んで無さそうだから、首都高使う方が早いな」
「早いの嫌です」
酔っ払いは早く帰れ・・。と呆れつつ、微妙に可愛く見える・・ような。
「運転手さん、首都高乗ってください」
赤堀が何故か不満気だったが、酔っ払いなんだろと気遣ったら嬉しそうな顔をした。本当に単純だな。
タクシーは車の少ない首都高を飛ばしている。深夜の東京を首都高で走っていると、まるで違う街みたいだな、と思う。何度かこういう場面はあったけど、人が居ない東京の風景は近未来的な独特の無機質さがあって好きだ。
「茶谷さん・・すいません、ちょっと頭がフラフラしてきました・・」
「やっぱりか・・横になってろよ」
「横に・・それは、茶谷さんの膝枕ですか?」
「はあ? 寝心地よくねえよ?」
「お邪魔します!」
絶対に寝心地悪いだろうに、赤堀が膝の上に乗っている。確かに横になれと言っておいて、この狭い車内じゃ膝枕でもしないと無理かもしれない。
気分が悪い人間に起き上がれと言うのも違う気がして、まあ仕方ねえなと膝を貸す。すぐそこにある、耳あたりの生え際がちょっとエロいような・・。
「道、空いてるから20分も掛からないんじゃないか・・。まあ、寝ててもいいぞ、たたき起こすから」
「茶谷さん・・優しい。好き」
気軽に好きとか言うな。お前、この状況分かってんのか。持ち帰られてもおかしくないんだぞ。
持ち帰んねえけどな。鶴なんか。
案の定、赤堀の家は近かった。首都高に乗ったらすぐに到着して、アパートの前に停まる。フラフラの赤堀が無事に家の中に入るまでは、タクシーを停めてアパートの前に停車させていた。
アパートの2階までちゃんと歩いて辿り着いた赤堀は、家の扉を開けて視界から消える。まあ、あの感じだと、大丈夫だろう。そんなわけで、タクシーは赤堀の家から離れ、俺はその日深夜2時に帰宅した。
赤堀が何かを言いたそうにこっちを見ている。
「茶谷さん、年末年始は・・」
「会わねえよ?」
「誰と?」
「赤堀と」
「そんな念押し、わざわざしなくてもいいじゃないですか」
いや、赤堀のことだ、一緒に初詣どうですかとか言いかねない。
そうやってじわじわと接近してくるような作戦には乗らねえ。
「年末年始ってどんな風に過ごしてるんですか?」
「実家には2日間だけ帰るかな。あとは、適当」
「茶谷さん、実家どこですか?」
「神奈川」
「近っ」
ああ、案外実家がどうとかって話をしたことが無かったのか。
赤堀は、関東ではなかったような・・一人暮らしも学生時代からしているようなことを言ってたな。
それにしても、タクシーがいない。
「流し拾うのは結構時間かかりそうだな・・。アプリで呼ぶしかねえか」
「アプリで呼ぶ・・?」
「ああ、知らねえの? タクシーアプリ」
「知りません。アプリでタクシー呼べちゃうんですね」
営業という仕事をしていると、タクシーに頼ってしまいがちだ。移動時間も電話が出来るし、なんならPCも見れる。そんなわけで、最近はタクシー迎車アプリもいくつか使い分けたりしている。便利だ。
「あと8分くらいで着くらしい。寒空の下で待つんなら、もう少し店内にいりゃよかったな」
「まあ、車通りが少ないとかイメージないですもんね。手でも繋いで待ちます?」
「意味不明すぎんだろ」
付き合ってもいないし、さっき告白を断ったはずなのに、何故こうもしぶとく手を繋ぐとか言ってくるんだろうか。呆れて睨みつけてやりたいのに、今日の赤堀の格好が別人みたいで出来ない。
と、思ったら、横から体重掛けて寄りかかって来やがった・・。
「おい」
「はい」
「なんでくっついてんだよ」
「寒いからです」
「重いっつーの」
「でしょうね」
相変わらず調子に乗りすぎだろう、と思ったので赤堀を剥がそうとしたら、しがみつかれる。
「お前・・」
「なんで離れようとするんですか」
「いや、逆になんでくっついても良いと思ったんだよ?」
赤堀は、首を傾げた。
「どういうボケだよ。マジかよ」
「いや、本当に分かりません。なんでくっついたらいけないんでしたっけ?」
「絞めるぞ鶴」
「動物虐待ですよ!」
動物虐待?!
思わず吹き出してしまった。パワハラでもセクハラでもなく、動物虐待。まさかそう来るとは思わなかった。動物虐待なら、灰原の管轄外だ。
「茶谷さん、楽しかったですね。松味の営業最終日だから、終わり良ければ総て良しってやつですね」
「もう足元は大丈夫か? 酔っ払い」
「なんか急にダメかもしれない気がしてきました・・あ、これ支えてくれる人が居ないと・・」
「大丈夫だな」
コントみたいじゃねえか。お前何なんだ、と思いつつも、さっきの動物虐待からの下りで笑ってしまう。バカみたいなことを言っていたら、タクシーが早々に到着した。
「なんでこんな早く来ちゃうんですか?」
「道が混んでねーからだろ、多分」
寒いんだから、なるべく早くタクシーが来た方がいいだろうが。なんで赤堀が残念そうなのか、理解に苦しむ。
「茶谷です」
タクシーはアプリで呼ぶと、名前を聞かれる。運転手さんが名前を照会すると、ドアが開いて乗れる仕組みだ。まあ、決済も全部アプリに登録しているクレジットカードの引き落としだし、誰かに乗られるとタダ乗りされるからな。
「目的地2か所回ってください。最初の場所は住所言うのでカーナビで探してもらって、そこから次は口頭で案内します。おい赤堀、自宅住所」
「えーと・・東京都杉並区・・」
赤堀の住所が、割と都心寄りの西東京だ。俺の家より断然近い。首都高に乗ればすぐに着く。
「杉並だし道混んで無さそうだから、首都高使う方が早いな」
「早いの嫌です」
酔っ払いは早く帰れ・・。と呆れつつ、微妙に可愛く見える・・ような。
「運転手さん、首都高乗ってください」
赤堀が何故か不満気だったが、酔っ払いなんだろと気遣ったら嬉しそうな顔をした。本当に単純だな。
タクシーは車の少ない首都高を飛ばしている。深夜の東京を首都高で走っていると、まるで違う街みたいだな、と思う。何度かこういう場面はあったけど、人が居ない東京の風景は近未来的な独特の無機質さがあって好きだ。
「茶谷さん・・すいません、ちょっと頭がフラフラしてきました・・」
「やっぱりか・・横になってろよ」
「横に・・それは、茶谷さんの膝枕ですか?」
「はあ? 寝心地よくねえよ?」
「お邪魔します!」
絶対に寝心地悪いだろうに、赤堀が膝の上に乗っている。確かに横になれと言っておいて、この狭い車内じゃ膝枕でもしないと無理かもしれない。
気分が悪い人間に起き上がれと言うのも違う気がして、まあ仕方ねえなと膝を貸す。すぐそこにある、耳あたりの生え際がちょっとエロいような・・。
「道、空いてるから20分も掛からないんじゃないか・・。まあ、寝ててもいいぞ、たたき起こすから」
「茶谷さん・・優しい。好き」
気軽に好きとか言うな。お前、この状況分かってんのか。持ち帰られてもおかしくないんだぞ。
持ち帰んねえけどな。鶴なんか。
案の定、赤堀の家は近かった。首都高に乗ったらすぐに到着して、アパートの前に停まる。フラフラの赤堀が無事に家の中に入るまでは、タクシーを停めてアパートの前に停車させていた。
アパートの2階までちゃんと歩いて辿り着いた赤堀は、家の扉を開けて視界から消える。まあ、あの感じだと、大丈夫だろう。そんなわけで、タクシーは赤堀の家から離れ、俺はその日深夜2時に帰宅した。
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