会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第2章

酔っ払いと夜の街 2

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「私なら、茶谷さんのこと絶対振らない。絶対に」
「事情があんだよ、色々と」
「大人だからですか」
「まあ・・」

 大人だから、なのかな。それとはまた違う気もする。

「元カノさんって、どんな人でした?」
「・・かっこいい人だったよ。学生時代ずっと憧れてて・・社会人になって自分に自信がついてからアタックして、ようやく付き合ってもらえた人だった。ちょっと年数分、拗らせたんだな」
「そっか・・そんないい女だったんですね」
「否定はしない」
「茶谷さんが、結婚しても良かったくらいですもんね」
「・・・」

 珠里とは、ずっと一緒にいるんだと思ってた。菜帆といた時は、その感覚が全然持てなかった。それが相手の問題なのか、俺の問題なのか、イマイチ分からない。赤堀に言っても、その辺は理解できないだろう。

「赤堀は、結婚願望ないんだろ」
「なんで急に私なんですか。茶谷さんにプロポーズされたら、すぐにでもしますよ」

 んなアホな。お前、俺と付き合ってもいねえのに何でそんなこと言い切れんだよ。

「そりゃまた軽い人生だな」
「加南が・・藍木さんが言ってたんです。ずっと一緒にいたい人を選んだら、明日結婚したって何も変わらないって」
「ああ、あいつ堅実な彼氏選んだよな。ああいう男とは結婚した方がいいよ、ほんとに」

 俺が藍木の恋人について話したら、赤堀が急にキレだした。藍木はあくまでも人としての魅力で彼氏を選んだんだ、と主張してくる。きっかけはそうだとしても、それだけじゃねえだろって何故か赤堀と言い合いになっていた。

「茶谷さんを、そんな風に傷つけたものは、何だったんですか・・」

 ああ、めんどくせえな、この酔っ払い。いいよもう、言えばいいんだろ。

「・・病気だ。付き合ってる時、女性疾患で入院した」

 初めて口に出してみると、まだきつい。

「俺は、彼女がいさえすれば、別に・・それ以上、家族が欲しいとかもなかったし、一緒に生きていきたかったから、ずっと側にいようとした。何も変わらないって思ってたんだ、浅はかだったから」
「浅はかなんかじゃないですよ、優しいですよ。それ、正解ですよ」

「違ったんだよ。彼女は・・子どもが産みたかったんじゃない。育てたい人だったんだ」
「えっ・・?」
「育てることを諦められなくて、ずっと養子縁組のことを考えてた。でも俺には・・それは無理だった」
「そ・・そりゃ、簡単に養子なんか納得できないですよ・・」

 2年以上前のことが、昨日のことのように思い出せる。
 珠里は、どうしても養子を迎えたいと言った。だから、どうしたら迎えられるかを2人で調べたんだ。既に結婚していてちゃんと夫婦仲が安定してなきゃダメだとか、貯金が幾ら以上無いとダメだとか、実親との面会や研修があったりだとか、紹介団体によっては色んな条件を課せられる。

 それを知って、「そこまでする必要あるか?」と言ってしまった。
 珠里は、一瞬で俺を憎んだ。そこまでしなくちゃ生きる希望が持てない珠里と、珠里さえいればいいと思っていた俺の、圧倒的な違いが一言に集約されてしまった。

 二度と会いたくない、と、珠里の人生から俺は消された。多分、俺たちにはそれが正解だったんだろう。そのまま流されるように養子縁組を進めていても、結果は同じだったんだと思う。

 でも、珠里を失うことは人生の一番大きなものを失うことと一緒だった。何で珠里を理解できなかったんだろうと、今でも思うことがある。

「それで、今は結婚して・・その彼女さんは養子を?」
「もう少ししたら迎えられるかもって、言ってたよ」

 さっきまで酔っ払いだった赤堀が、真剣な顔をして聞いて来る。こんな重い話、若いお前には関係ないだろうし、関係ないままの方が幸せだ。

「・・良かったです。救われてるじゃないですか」
「他人事だな」
「茶谷さんは、私がもらう予定なんだから他人事ですよ。そこで茶谷さんがその人とくっついてたら、今ここに茶谷さんと私はいないじゃないですか」

 赤堀は、清々しいくらい自分本位だ。もらう予定って何だよ。俺は物か。
 そう思ったのに、全然なんも言えなかった。
 赤堀の言葉が妙に救いに感じてしまうくらい、あの日から俺は、誰かに肯定されたかったのかもしれない。

 銀座のファミレスで、もう年末の深夜だってのに、俺たちは過去の話をしながら真剣に顔を合わせていた。
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