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第2章
クリスマスイブ 2
しおりを挟む「お前そういう・・」
そこで初めて赤堀の方を向いたので、目に入った赤堀の姿に絶句した。こいつ・・めっちゃ泣いてるし。なんだ? イルミネーションに感動でもしたのか?
「ごめんなさい・・茶谷さんの彼女さんが、羨ましいなって、思って・・」
えっ・・? 何が・・?
俺、今なんか彼女の話した? してねえよな? 妄想?
「そんなに、良いもんじゃねえよ」
ここのところ付き合った彼女は、俺を心のない男認定をして去って行った。結局、ちゃんと付き合えているのかさえ疑わしいような関係しか築けなくなってる自覚がある。
だから、赤堀も誤解してるんだよ。電車で助けたから、恩人補正か何かで、きっと良い男に見えるマジックが掛かってるんだろう。
一向に泣き止まない赤堀を連れて、座れるところを探して歩いた。よりによって今日はクリスマスイブだ。どこもカップルだらけで全然椅子も空いてない。その間もずっと泣き続ける赤堀を見て、なんでそんな妄想で泣けるかなあと参った。
ようやく商業施設の椅子が1客空いていたのを見つけて、赤堀を座らせる。
「俺が女だったら、絶対に青木を選ぶ」
ああいう嫌味なくらい爽やかなスポーツマンの方が、歳も同じだろうし親も喜ぶだろうし、絶対に幸せになれると思う。
「茶谷ゴロ子、余計なお世話ですよ」
赤堀は、泣きながら俺を睨んでそう言った。そんな男性器ついてそうな女を呼び出すんじゃねえ。
泣くのか冗談言うのかどっちかにしろ、と思ったが、できれば冗談言うだけにしておいて欲しい。こうやって泣かれるのは、やっぱり困る。
「滅茶苦茶可愛くなさそうな女が出て来たな」
俺がツッコミを入れても、泣くばっかりで反応できていなかった。マジかよ。何がそんなに悲しいんだよ。
「赤堀、世間はクリスマスイブだ」
「そうですね」
「今日はどこもいっぱいで、予約なしで店なんか入れない」
「そうでしょうね」
「イルミネーションくらいしか付き合えないからな」
「・・まだ、付き合ってくれるんですか?」
俺もお人好しが過ぎるかもしれない。年末の最終週、火曜日だっていうのに後輩を慰めようとしてる。
「彼女さんは・・?」
ああ、気になるよな、そりゃ。まあ、隠すことでもないか・・。
「別れたよ」
「別れたんですか?!」
「そうだよ」
おい、明らかに顔が明るくなったな・・。イルミネーション付き合わなくても大丈夫そうじゃねーか・・。
「ちなみに、元カノさんは吹っ切れたんですか?」
「しつこいな・・あっちはもう結婚してるよ」
「不倫はダメですよ」
「しねーわ」
赤堀はすっかり機嫌が良くなっていて、現金なことに満面の笑みを浮かべている。そんなに人の別れ話が嬉しいのもどうかと思うぞ。好きな人の幸せを願うのがイイ女なんじゃねえのか。
「茶谷さん、フリー同士ですか?私たち」
「うるせえ、一緒にすんな」
「じゃあ、お願いがあります」
じゃあって何だよ。
調子に乗った鶴女の誘いに乗り、俺はタクシーに乗って表参道を通ることになっている。赤堀が表参道のイルミネーションが見たいと言い出したので、タラタラ歩くのもだるいし年末の火曜の体力にも自信がなかったしで、タクシーで通過して適当に納得してもらうことにした。赤堀も喜んでるし、誰も不幸になってねえ。冴えてんな、俺。
表参道は、新宿からタクシーで10分程度だ。あっという間に付いたその場所は、やっぱりカップルだらけになっていた。そんなイルミネーションって見たいもんなのか。すげーな。
「キレイ・・。初めてここのイルミネーション見ました。みてみて、茶谷さん。カップルが沸いてますよ」
赤堀が、すっかり直った機嫌で楽しそうにしている。ああそうか、良かったな。
「このクソ寒いのに、わざわざ人混みに来てタラタラ歩くとか、頭も沸いてんだろ」
「相変わらず失礼だな・・言い方に気を付けてください」
「へーい」
こういうやり取りをしていると、赤堀とは気を遣わないで楽しく話せるな、と思う。いいやつなんだけどなあ、なんで万年フリーなんだろう、こいつ。
そんなことを思いながら赤堀の顔を見る。イルミネーションが反射してるのか、目がキラキラしてるみたいに見える。へえ、案外・・いや、かわいくなんかねえし。
あっという間にイルミネーションツアーは終わり、青山を抜けて渋谷に向かってもらう。よし、もう帰宅だ。
「もう帰っちゃうんですか?」
「帰る。年末で疲れてんだよ」
「はい。今日は・・ありがとうございました。途中、なんか変な感じになっちゃってすいませんでした」
「いやホントだわ。急に泣くなよ」
変な理由で泣きやがって・・と思いながら、赤堀の方を見られなかった。
タクシーが渋谷駅のロータリーに着いたので、駅に向かう。
「茶谷さん」
「ん?」
「なんで別れたんですか?」
「赤堀の言ったことが図星だったんじゃねーの」
「あんまり好きじゃなかったんですか・・」
「多分な」
まあ、好きじゃなかったのは、どっちだったんだろうな。
もう、終わったことだ。
すぐに駅に着いて、改札に入る。別々のホームに向かうことになるから、赤堀とはもう解散だ。
「今日は、ありがとうございました」
「おう」
「今週金曜、よろしくお願いします」
「ああ。そうだ、今週の金曜」
「キャンセルは無しでお願いします! 最悪リスケで!」
必死か。流石にそんな意地悪言わねえわ。
「違うって。今週の金曜、折角だから新宿エリアじゃないとこにしねえ? 今日みたいに、どっかからタクシーで向かえば割とどこでも行けると思うし」
「えっ?」
「会社近くじゃない方が息抜きになるし」
「はい! 喜んで!」
「居酒屋の店員かよ」
金曜日にメシ奢る約束してんのにクリスマスイルミネーションにも付きやってやるとか、いつからこんないい先輩になったんだろうな、と自分で自分が信じられない。赤堀と別れて駅ホームにいたら、早速あいつからメッセージが来た。
『茶谷さん、お仕事で疲れているのに、今日はありがとうございました。メリークリスマス。メリーって何なんですかね? とりあえず、茶谷さんがいてくれてラッキーでした』
意味知らねえなら使うんじゃねえよ。何なんですかね? はこっちのセリフだわ。
『メリーは浮かれたって意味だから、赤堀にピッタリだな』
『そりゃ、茶谷さんがいると、いつでも浮かれちゃいますからね』
『メリーって呼んでやろうか?』
『謹んでご遠慮申し上げます』
あいつ、鶴の属性にメリーまで加わりやがった。浮かれた鶴女、赤堀。
いやなんだよ、その女・・。随分イカれたのに好かれたな・・俺。
赤堀は、何で俺にこんなに執着するんだろうか。ただ満員電車で助けたのが理由だとしたら、あいつ今までの人生で相当騙されてそうだ。
それにしても本当に不思議なのは、さっきの赤堀が素だとしたら、なんであれで万年フリーなんだろうな。
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