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第2章
クリスマスイブ 1
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今年のクリスマスは、見事に何の予定もない。菜帆と別れて以来、全然浮いた話もなかった。案外それはそれで気軽なもので、暫くは独り身が良いなとつくづく思う。誰かと過ごすってことは、やっぱりそれなりにプレッシャーみたいなものが付きまとうから、自分に余裕がないときつい。
浮いた話といえば、鶴女、赤堀結から毎日執拗なメッセージが送られてくるが、あれが話として浮いているかは疑わしい。
『茶谷さんってクリスマスに予定を入れたりするんですか?』
例の鶴女、赤堀は俺のクリスマスが気になるらしい。
『ああ、クリスマスねえ』
別に予定はないけど、暇だと言うのもなんか違う気がした。お前と過ごす選択肢はねえ。
『クリスマスに独り身だからって、私、哀れまれました』
『言わせておけよ、そんなもん。いちいち浮かれる方が痛々しいだろ』
『そうですよね、クリスマスといえば仕事ですよね』
『極端だな』
あいつ、やっぱり面白えな。極端だけど、俺たちのようなクリスマスが多忙な業界の人間は、クリスマスと言えば仕事なのかもしれない。
『ちなみに、茶谷さんのクリスマスは・・きよしこの夜な感じですか・・』
は・・? これはそういうことを聞かれているのか? この文脈で下ネタぶっこんで来た??
『セクハラですか? 赤堀さん』
『違います、そっちの意味じゃありませんー!! イベントとか無縁なんですか? って聞きたかったんですー!』
『どっちにしろセクハラだろ』
これを人事の灰原に告げ口したら赤堀はこっぴどく叱られるんだろうか。それとも、また喧嘩を売られるんだろうか。まあ、灰原に告げ口するなんて趣味の悪い真似はしないつもりだから安心しろ。
『セクハラしちゃってすいませんでした・・茶谷さんのことが気になって聞いてしまいました』
なんか素直なメッセージが来た。赤堀も、コンプライアンスを気にするタイプらしい。人を脅して携帯番号を聞き出す割に、コンプライアンスを気にするなんて何かがズレている気がする。
脅迫ってのは割と有罪になりやすいんだぞ。
『いいえー。若い女性から声を掛けられるのは光栄ですね。まだまだいける気がしてきました』
『調子に乗らないで下さいよ! 茶谷さんのことが好きなのは、せいぜい私くらいですからね!』
残念だったな、赤堀。ハッキリ言って俺は・・女性には受けがいいんだ。
クリスマスが他人のイベントになってみると、仕事の繁忙期のことが妙に気になる。トラブルも頻発するし、やたら忙しい。この時期に時間作って彼女に会ってたんだなと思うと、我ながらよくやってたなと感心する。
でも、男がクリスマスというタイミングに彼女に何かしらの誠意を見せなかった場合、この日本においては振られるの一択だ。世間の空気ってやつは恐ろしい。
もうすぐ仕事納めの最後の一週間が始まった。クリスマスは、そんな最後の力を振り絞る週の火曜日にイブ、水曜日に当日を迎える。鬼のスケジュールだ。
クリスマスイブの日、疲れた身体で会社を出ると、新宿駅に向かう途中で駅からこっちに向かってくる赤堀に会った。
「茶谷さん!」
「ああ。どこか外出?」
「はい、店頭調査に」
「感心感心」
久しぶりに赤堀とリアルで話したな、と不思議な感覚がする。普段メッセージでしかやり取りしてなかったから、そういや赤堀って実在してたんだったな、なんて思ったりする。
「あの・・。これから帰りなら・・一緒に新宿駅まで行っても良いですか?」
「ん? 会社戻んじゃねーの?」
「今日は直帰にします」
やっぱり懐かれている。鳥類だから刷り込みか。同じ目的地なんだから、勝手にすればいいけど。
「あのー・・西口から南口に抜けて、イルミネーション見てから帰りません?」
「お前、そういうの興味あんの?」
「たった今、興味が沸きました」
「あっそ」
確かに、新宿のイルミネーションとかどうなってんのか知らねえかも、と思い出して、赤堀の誘いに乗ることにした。
「南口のイルミネーションってなんつったっけ?」
「ミナミルミじゃないですか?」
「ああ、そうかも」
どこもイルミネーションやらクリスマスツリーやら、毎年毎年大変だな。
西口から南口に抜ける道も、普段よりもカップルが多い。やっぱりクリスマスってのは、カップルのためのイベントなんだな。
「イルミネーションとか、マトモに見たの初めてかもしれねえ」
こうやって趣向を凝らしたイルミネーションを見てみると、案外悪くねえな、と感心した。まあ、そりゃそうか。
「ええ? あんまり好きじゃないからですか?」
「いや、人混みにわざわざ突っ込んでいく意味がわかんねーなと思って。避けてたっていうか」
「でも、好きな人に行きたいって言われたら行ってましたよね、きっと。ということは、彼女さんも、あんまりそういうの好きじゃない人なんですか」
赤堀、割と鋭いんだな。でも、別にそういうわけではない。単純に、クリスマスってイベントは部屋で過ごすもんじゃないのかと思ってただけだ。
浮いた話といえば、鶴女、赤堀結から毎日執拗なメッセージが送られてくるが、あれが話として浮いているかは疑わしい。
『茶谷さんってクリスマスに予定を入れたりするんですか?』
例の鶴女、赤堀は俺のクリスマスが気になるらしい。
『ああ、クリスマスねえ』
別に予定はないけど、暇だと言うのもなんか違う気がした。お前と過ごす選択肢はねえ。
『クリスマスに独り身だからって、私、哀れまれました』
『言わせておけよ、そんなもん。いちいち浮かれる方が痛々しいだろ』
『そうですよね、クリスマスといえば仕事ですよね』
『極端だな』
あいつ、やっぱり面白えな。極端だけど、俺たちのようなクリスマスが多忙な業界の人間は、クリスマスと言えば仕事なのかもしれない。
『ちなみに、茶谷さんのクリスマスは・・きよしこの夜な感じですか・・』
は・・? これはそういうことを聞かれているのか? この文脈で下ネタぶっこんで来た??
『セクハラですか? 赤堀さん』
『違います、そっちの意味じゃありませんー!! イベントとか無縁なんですか? って聞きたかったんですー!』
『どっちにしろセクハラだろ』
これを人事の灰原に告げ口したら赤堀はこっぴどく叱られるんだろうか。それとも、また喧嘩を売られるんだろうか。まあ、灰原に告げ口するなんて趣味の悪い真似はしないつもりだから安心しろ。
『セクハラしちゃってすいませんでした・・茶谷さんのことが気になって聞いてしまいました』
なんか素直なメッセージが来た。赤堀も、コンプライアンスを気にするタイプらしい。人を脅して携帯番号を聞き出す割に、コンプライアンスを気にするなんて何かがズレている気がする。
脅迫ってのは割と有罪になりやすいんだぞ。
『いいえー。若い女性から声を掛けられるのは光栄ですね。まだまだいける気がしてきました』
『調子に乗らないで下さいよ! 茶谷さんのことが好きなのは、せいぜい私くらいですからね!』
残念だったな、赤堀。ハッキリ言って俺は・・女性には受けがいいんだ。
クリスマスが他人のイベントになってみると、仕事の繁忙期のことが妙に気になる。トラブルも頻発するし、やたら忙しい。この時期に時間作って彼女に会ってたんだなと思うと、我ながらよくやってたなと感心する。
でも、男がクリスマスというタイミングに彼女に何かしらの誠意を見せなかった場合、この日本においては振られるの一択だ。世間の空気ってやつは恐ろしい。
もうすぐ仕事納めの最後の一週間が始まった。クリスマスは、そんな最後の力を振り絞る週の火曜日にイブ、水曜日に当日を迎える。鬼のスケジュールだ。
クリスマスイブの日、疲れた身体で会社を出ると、新宿駅に向かう途中で駅からこっちに向かってくる赤堀に会った。
「茶谷さん!」
「ああ。どこか外出?」
「はい、店頭調査に」
「感心感心」
久しぶりに赤堀とリアルで話したな、と不思議な感覚がする。普段メッセージでしかやり取りしてなかったから、そういや赤堀って実在してたんだったな、なんて思ったりする。
「あの・・。これから帰りなら・・一緒に新宿駅まで行っても良いですか?」
「ん? 会社戻んじゃねーの?」
「今日は直帰にします」
やっぱり懐かれている。鳥類だから刷り込みか。同じ目的地なんだから、勝手にすればいいけど。
「あのー・・西口から南口に抜けて、イルミネーション見てから帰りません?」
「お前、そういうの興味あんの?」
「たった今、興味が沸きました」
「あっそ」
確かに、新宿のイルミネーションとかどうなってんのか知らねえかも、と思い出して、赤堀の誘いに乗ることにした。
「南口のイルミネーションってなんつったっけ?」
「ミナミルミじゃないですか?」
「ああ、そうかも」
どこもイルミネーションやらクリスマスツリーやら、毎年毎年大変だな。
西口から南口に抜ける道も、普段よりもカップルが多い。やっぱりクリスマスってのは、カップルのためのイベントなんだな。
「イルミネーションとか、マトモに見たの初めてかもしれねえ」
こうやって趣向を凝らしたイルミネーションを見てみると、案外悪くねえな、と感心した。まあ、そりゃそうか。
「ええ? あんまり好きじゃないからですか?」
「いや、人混みにわざわざ突っ込んでいく意味がわかんねーなと思って。避けてたっていうか」
「でも、好きな人に行きたいって言われたら行ってましたよね、きっと。ということは、彼女さんも、あんまりそういうの好きじゃない人なんですか」
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