会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第2章

年末に向かって行く

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 年の瀬が近付いて来ると、営業部の仕事は本当にバタついて来る。毎年毎年、この時期ばっかりは体力が底を尽き、客先をいくつか後輩に渡そうかと思う。それで営業成績が1位から落ちるのは癪だけど、得意先を抱えすぎている俺のところでは、年末は勘弁してほしいことが連発する。

 クリスマスと年末年始がこんなに近いってのが、本当にあり得ねえ。殺す気か。

「茶谷さん、マイルスーパーさんの発注、もう一度確認してもらっていいですか?」
「なんかあった?」
「商品のいくつかに、数量がいつもより極端に少ないのがあるので」
「あーサンキュ、それ、多分あっちのミスだわ」

 営業企画部にいる藍木のナイスフォローが、良く効く。こんな気の利くスタッフ、松味食品始まって以来じゃねえか。すぐに、マイルスーパーの受発注をシステムで確認する。

「桁を間違ったのか・・? いや、桁だと数が合わないか・・」

 1社に時間を掛けるのは危険だから、すぐに担当者に電話をして詳細を確認。折り返しの連絡を貰えることになった。藍木、お前を今後は救世主と呼ぶことにする。

 営業企画部は、営業をサポートする企画を立てる部署で、比較的仕事の範囲が広い。マーケティング部から出てきたデータを見て、具体的なメニュー開発の企画なんかを考えるのもこの部署の仕事だ。
 恐らく藍木は、ここ数日の売上や受発注のデータを眺めていて、おかしいことに気付いたんだろう。そんな社員、今迄うちの会社には存在していなかった。

「藍木―さっきはサンキューな。多分あっちのミスだと思うわ。あんなの気付くやついねえよ、ほんと助かった」
「いえ、お役に立てたのであれば良かったです」
「今、依頼してる仕事内容と違うのに・・良く気付いたな?」
「まあ、私も元営業部ですからね」
「おー! かっけーな」

 俺が藍木を褒めていたら、営業企画部の部長に睨まれた。溺愛すんな、藍木はお前のもんじゃねえ。先輩として褒めてるだけだ。
 
 藍木の席から自席に戻ろうとしたら、赤堀がこっちを見ていた。怖え。あいつはやっぱり毎日執拗なメッセージを送って来る。見なかったことにして、席に着いた。

『茶谷さん、私にも何かご褒美下さい』

 赤堀! お前仕事しろ! そんなメッセージ送ってるのも、藍木のところに来た俺を見張ってるのも、無駄としか言いようがねえ。

『ちゃんと仕事をしてください』

 赤堀にまともなメッセージを送って、心を入れ替えろよと思いながら仕事に向かう。

『茶谷さんはどんな女性がタイプですか?』

 会話が成立しねえ・・。お前、なんなんだよ・・。

『人間の女です。残念ながら鳥類はストライクゾーン外ですね』
『そういうのじゃありませんー!!』

 アホくさ。さて、仕事しよ。
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