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第2章
後輩の誕生日
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結局、8月末から毎日、赤堀の誕生日祝えメッセージは続いた。計50日間程度、同じ趣旨のメッセージを受け取る経験を初めてしたけど、新しい発見があった。毎日、今日は何て断るか、と考えて生活をするようになる。
いや、あたりめーだわ。
『茶谷さん、10月9日、お茶だけでもいかがでしょう?』
『こえーよ、お前のその感覚』
最終的には、少しだけでも時間を取ればいい、みたいな方向に持って来ていたけど、そういう問題じゃない。こうなると、どうしても誕生日に赤堀のために時間を作りたくない。祝いたくないんじゃなくて、半ば意地になっていた。
営業って仕事をやってると、基本的に交渉事が多い。社内で交渉して、社外で交渉して・・の繰り返しだ。だから、交渉が下手な奴は大抵行き詰る。赤堀のようなケースは最悪だ。あいつ、営業に配属にならなくて本当に良かった。
明日は、赤堀の誕生日というか、散歩の日だ。折角だから、夜に散歩でもしようと思う。ここまで50日間も懲りずにメッセージを送り続けて来た、鶴に敬意を表して。
10月9日、仕事が終わってから家の近くの遊歩道を歩いた。まだそこそこ気温が高くて、過ごしやすい夜だ。散歩の日だから、鶴にメッセージを送る。
『誕生日おめでとう。そのまま、赤堀らしく行け。祝うのは控えるけど、いつも助かってる。』
気持ちに応えることはできなくても、赤堀の仕事を応援したい。マーケというなかなか大変な部署で踏ん張ってる後輩に、心からエールを送りたいのは間違いない。
さて、家に帰るか・・と帰路に戻ると、携帯が鳴った。ああ、赤堀から電話か。
「なんだよ、暇人か」
電話を取って最初に、赤堀に嫌味を言う。
「ずるいじゃないですか・・こんなの」
どうやら外に居るらしい。赤堀の外野がザワザワしてる。当の赤堀は、どうも泣いているみたいだった。
「なんで、こういうことするんですか? 私、調子に乗りますよ?」
「大袈裟だな、誘いには乗ってないだろ」
「私の気持ち、知ってるくせに」
それを言われると困る。期待を持たせないつもりで配慮してメッセージ送ったつもりだったんだよ。
「だから、先輩後輩の範囲で祝っただけだろ。それに、大した祝いもしてない」
「じゃあ、今度また飲みに連れてってくださいよ」
「図々しいっつーの。赤堀お前さ・・」
「先輩後輩としてでいいから、行きましょうよ」
「誤解させるつもりはないんだよ」
「大丈夫ですよ、私のこと好きじゃないんですよね」
先輩後輩として、か。赤堀がマーケに移ってから、仕事で助かってるのも確かなんだよな。
「うーん・・まあ、これから年末にかけてまた忙しくなるからな。仕事納めの日なら食事くらい連れてってやるよ」
「ホントですか?! 男に二言はありませんよ!?」
「いや、今年、赤堀がマーケに入ってから提案できる範囲が拡がったから・・感謝してる」
赤堀に仕事を辞めないで欲しいのは間違いない。年末もきっと苦労をかけるだろうから、1年の最後に旨い物奢るくらいならいいかもしれないと思った。
「分かりました、絶対ですからね。年末が近づいたら、メッセージ送り続けますからね?」
「うぜえええ」
「あと2ヶ月ちょっと、生きる希望にします」
「はいはい」
電話を切って、一息つく。赤堀と話して踏ん切りがついた。もう一人、話をしなきゃいけない相手がいることに。
「ああ、菜帆?」
電話で済ませて良いのか分からなかったけど、その懐かしい声に、最後の話をした。
いや、あたりめーだわ。
『茶谷さん、10月9日、お茶だけでもいかがでしょう?』
『こえーよ、お前のその感覚』
最終的には、少しだけでも時間を取ればいい、みたいな方向に持って来ていたけど、そういう問題じゃない。こうなると、どうしても誕生日に赤堀のために時間を作りたくない。祝いたくないんじゃなくて、半ば意地になっていた。
営業って仕事をやってると、基本的に交渉事が多い。社内で交渉して、社外で交渉して・・の繰り返しだ。だから、交渉が下手な奴は大抵行き詰る。赤堀のようなケースは最悪だ。あいつ、営業に配属にならなくて本当に良かった。
明日は、赤堀の誕生日というか、散歩の日だ。折角だから、夜に散歩でもしようと思う。ここまで50日間も懲りずにメッセージを送り続けて来た、鶴に敬意を表して。
10月9日、仕事が終わってから家の近くの遊歩道を歩いた。まだそこそこ気温が高くて、過ごしやすい夜だ。散歩の日だから、鶴にメッセージを送る。
『誕生日おめでとう。そのまま、赤堀らしく行け。祝うのは控えるけど、いつも助かってる。』
気持ちに応えることはできなくても、赤堀の仕事を応援したい。マーケというなかなか大変な部署で踏ん張ってる後輩に、心からエールを送りたいのは間違いない。
さて、家に帰るか・・と帰路に戻ると、携帯が鳴った。ああ、赤堀から電話か。
「なんだよ、暇人か」
電話を取って最初に、赤堀に嫌味を言う。
「ずるいじゃないですか・・こんなの」
どうやら外に居るらしい。赤堀の外野がザワザワしてる。当の赤堀は、どうも泣いているみたいだった。
「なんで、こういうことするんですか? 私、調子に乗りますよ?」
「大袈裟だな、誘いには乗ってないだろ」
「私の気持ち、知ってるくせに」
それを言われると困る。期待を持たせないつもりで配慮してメッセージ送ったつもりだったんだよ。
「だから、先輩後輩の範囲で祝っただけだろ。それに、大した祝いもしてない」
「じゃあ、今度また飲みに連れてってくださいよ」
「図々しいっつーの。赤堀お前さ・・」
「先輩後輩としてでいいから、行きましょうよ」
「誤解させるつもりはないんだよ」
「大丈夫ですよ、私のこと好きじゃないんですよね」
先輩後輩として、か。赤堀がマーケに移ってから、仕事で助かってるのも確かなんだよな。
「うーん・・まあ、これから年末にかけてまた忙しくなるからな。仕事納めの日なら食事くらい連れてってやるよ」
「ホントですか?! 男に二言はありませんよ!?」
「いや、今年、赤堀がマーケに入ってから提案できる範囲が拡がったから・・感謝してる」
赤堀に仕事を辞めないで欲しいのは間違いない。年末もきっと苦労をかけるだろうから、1年の最後に旨い物奢るくらいならいいかもしれないと思った。
「分かりました、絶対ですからね。年末が近づいたら、メッセージ送り続けますからね?」
「うぜえええ」
「あと2ヶ月ちょっと、生きる希望にします」
「はいはい」
電話を切って、一息つく。赤堀と話して踏ん切りがついた。もう一人、話をしなきゃいけない相手がいることに。
「ああ、菜帆?」
電話で済ませて良いのか分からなかったけど、その懐かしい声に、最後の話をした。
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