会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第2章

女性社員の会話

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 客先から会社に戻って来ると、前の席に座る新卒社員、浅黄の席を囲んで緑川と赤堀がいた。浅黄と赤堀は仲が良いらしく、たまに話したりしているのを見かける。

「KazaKamiBoyz、今度大きめの音楽フェスに参戦しますよねー。アイドルのライブって殆ど見たこと無いんですけど、結構興味あるんですよ、私」
「えーっ? ほんとに? 一緒に行く?」

 緑川が赤堀を誘っている。小学生のライブに。

「私、知らないアーティストのライブも見たい派ですけど、良いですか?」
「えっ、フェスですか?! 私も行きたいです!」

 浅黄まで加わってやがる。よく分かんねんだけど、大の大人が小学生見てキャーキャー言うのって異様じゃねえのか?

「あっ、お帰りなさい、茶谷さん!」
「おーお疲れー」

 微妙に間違ってるぞ、赤堀。お帰りなさいって言わねえだろ、オフィスで。灰原に聞かれたら虫でも見るような顔されるぞ。

「ゴロー、フェスって行ったことある?」
「あると思うか?」
「茶谷さんも一緒に行きます?」
「行かねえよ。どうせなら好きな曲だけ聞いてたいから、フェスとか理解超える」

 人を巻き込むな、と思いながらPCの電源を入れて手帳を出す。得意先の打ち合わせでメモした内容に目を通していたら、やたら視線を感じた。

「お祭りっぽくて楽しいですよ?」
「だから、行かねえっつってんだろ」
「女の子が水着着て参加するようなのもありますよ?」
「へえー・・いや、プールとか海で良くねえ?」

 っていうか、赤堀も水着とか着て音楽聴いてんのか? 普段の格好から想像が付かない。意外だ。

「私、フェスって行ったこと無いからちょっと怖いなあ・・。あ、でもね、KazaKamiBoyzのライブは結構本格的なダンスとボーカルだから音楽好きな人たちに嫌がられるようなライブはしないと思うんだけど・・」

 緑川が、アイドルに対して保護者根性を発揮している。もはや親だ。ファンってそんな母性で向き合わなきゃならないもんなのだろうか。

「フェスにアイドルが出ることはよくありますよー。音楽ファンの方は特別何とも思っていないというか、どんな音楽やパフォーマンスが来ようが全然大丈夫なんですけど、アイドルファンの子たちが勝手が違い過ぎて怯えてることはありますね」
「勝手が違い過ぎる・・?」
「今度KazaKamiBoyzが出るような屋内のフェスだったらカルチャーショックはないんじゃないですかね。屋外だと、過酷ですから」
「過酷・・なんだ・・」
「音楽聴きに行くのに雨対策とか気温対策を徹底しなきゃいけないのとか、アイドルのファンにとっては理解を超えるみたいで。たまに寒さに凍えてる子がいて、アイドルファンだったりします」
「こわい」

 緑川が赤堀にフェスの心構えを請っているらしい。俺にとってはアイドルを追いかけて身体を張るのも、音楽のために身体を張るのも、どちらも理解を超える。どうせ身体を張るなら格闘技で張りたい。

「茶谷さん、何のライブなら行きたいですか?」
「はあ? 何で俺?」
「たまにはこういう会話にも付き合ってください」

 赤堀、懐くな懐くな。浅黄が微妙に嫌そうな顔をしているのは何でだ。

「いや別に・・ライブ行きてえと思ったこと無いわ。ブルーノートとかなら行きたいかな。食事しながらジャズ」
「かっこつけんなよオヤジ」
「言い方に気を付けろよガキ」
 
 こいつは相変わらず・・と白けた顔で赤堀を見ると、こっちを見て嬉しそうに笑ってやがる。

「ほんと、茶谷さんって赤堀さんと話してると面白いですね」

 浅黄に笑いながら言われた。いや、別に赤堀限定ではない。

「え? ホント? 茶谷さん、私たち相性バッチリみたいですよ!」
「お前の発想がおかしすぎて浅黄に笑われてんだ、気付け」
「でも、ゴローって赤堀と喋ってる時テンポ良いよね」

 緑川まで応戦しやがる。なんなんだ。みんなして赤堀の味方なのか?
 浅黄そっち側なのか? 日頃世話になっている俺の肩とか持たないのか?

「茶谷さん、なんか興味あるライブがあったら言って下さいね! 私、チケット取るんで! ついでに同行するんで! あ、私なんでも聴きます! ブルーノートで大人デートしちゃいます?」
「いや、大丈夫です、間に合ってます」
「茶谷さん、赤堀さんとライブ一緒に行けるのとか最高じゃないですか!」
「いや、全く最高じゃねえけど」

 なんだかよく分からねえが、赤堀が浅黄と緑川に好かれてんのは分かった。分かったから静かにしていて欲しい。

「茶谷さーん、何だったら一緒に行ってくれます?」
「仕事。営業先」
「そういうことを聞いてるんじゃありませんー!」

 やかましいわ。ここ会社だぞ。仕事をしてくれ。
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