会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第2章

かわし方が分からない

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 実は、毎日赤堀から誕生日を祝えというメッセージが来る。もはや迷惑行為になりつつある。何度言わせるんだと思いながら返信してるのに、全く響いていない。
 大抵は、一度断られたら納得するものだと思うんだが、あいつ、何でこんなしぶといんだろうか。粘れば覆るとでも思ってるんだろうか。
 
 ここまで毎日誕生日を祝って欲しいと言われると、誕生日を祝う気のない俺が心の無い人間のように思えて来る。第三者に話そうものなら、そこまで言うんだから誕生日くらい祝ってやれよ、と言われる気がする。だけど、そこじゃない。

『茶谷さん、10月9日って、何の日か覚えてます?』

 うぜええええ。忘れてええええ。

『目の愛護デーですよね』
『ブブー不正解! 正解は赤堀結の誕生日でーす』

 返しづれえわ。毎日懲りもせずに誕生日を送られてきたら、さすがに覚える。実は、10月9日が散歩の日だというのを調べてしまい、うっかり散歩の日ですねと送りたくなった。が、散歩の日なんて普通に生きていると知らないから、さては調べたなと思われそうでやめた。

『はいはい、めでてえな、頭が』
『減らないですね、口が』

 お前・・。俺も大概だけど、赤堀も相当だ。尊敬する先輩に対して、口が減らないとか言うか、ふつー。しかもお前俺のこと好きって言った割に、そんな態度か・・?

 赤堀結あかほりゆいという女にとって、男女の駆け引きというものは存在しないらしい。とりあえず押されてんのだけは間違いないとしても、こんな感じでアプローチされて心が動く男がいるんだろうか。

 だから万年フリーなんだろうが、と狙われていることを棚に上げて思う。

 でも、この下らないやり取りは案外楽しい。こんな生産性の欠片もないキャッチボールは大人になるとできなくなっていくもので、社会に出てから割と切り捨てて来た。学生時代は当たり前だったことを当然のようにやってのける赤堀は、もしかすると貴重な存在なのかもしれない。

 かといって、赤堀とどうにかなろうなどと思うことは無く、連絡を取らなくなった菜帆のことを思い出していた。
 なんであの時、別れようってハッキリ言わなかったんだろう。

 目の前に菜帆が居て、気持ちがないと告げる度胸が無かったのかもしれない。菜帆を好きになりきれなかったのはこっちの問題で、傷付ける勇気が持てなかったのかもしれない。

『先輩に対してひでえ言い方だな』

 思い付いたように、赤堀に返信した。

『同じテンションで返しただけです。そんな茶谷さんも、好きですよ』

 相変わらず赤堀のメッセージはどこかおかしくて、あいつもしかすると相当歪んでんじゃねえかと疑った。
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