会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第2章

微妙な世間話

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 その日、会社を出ようとエレベーターホールに向かったら、そこに灰原がいた。エレベーターが一緒になるくらいは普通だけど、灰原は多分不本意だろうと思う。何となく。

「お疲れ様です。今帰りですか?」

 いきなり話を振られてビビる。灰原は入社して6年位だと思うけど、世間話をしたことは一度も無いはずだ。

「お疲れ。そう、今帰り」
「割と早いんですね、帰宅時間」
「提案前の時期くらいしか、残業しないからな」

 灰原がどういう意図で帰りが早いと言って来たのか分からず、微妙な気分になる。こういう時に限ってエレベーターがなかなか来ない。

「なんか、人一倍売上稼いでる人って、それだけ時間も働いてるのかと思ってました。要領が良いんですか?」
「多分、業務に時間かけてるやつ程、売上は頭打ちになってると思うけど?」
「はは、さすがエースってわけですか」

 なんて答えりゃいいんだよ、これ。褒められてる気がするけど、なんとなく奥底に敵意を感じる。こいつ、本当に底が知れない。
 ようやくエレベーターが到着した。助かった。

「茶谷さんって、赤堀さんの恩人らしいじゃないですか」
「は? なんでそれ知ってんの?」

 まさかあの鶴女、灰原と仲良いのか? 意外過ぎる。

「緑川さんから聞きました。赤堀さんと話してて、そんな話になったらしいですね。赤堀さんの恩人は恐らく茶谷さんだろうと緑川さんが伝えたら、本当に茶谷さんだったって聞いたので」
「ああ、緑川だったんだ」

 なるほどな。経緯がようやく分かった。赤堀は緑川から聞いたのか。

「なんで、人助けとかするんですか? 正義感とかあるんですか?」
「別にねえけど」
「茶谷さんって不思議な人ですね」
「お前に言われたくねえよ」

 エレベーターの中で、なんでこんなことになってるんだ。やっぱり灰原には敵意を持たれてつっかかられている気がする。

「僕、不思議ですか?」

 そう言った灰原を睨んでみると、その切れ長の目がこっちを見据えていた。これは、喧嘩でも売られたか。

「不思議に決まってんだろ。お前の考えてることはホントに読めねえよ」
「じゃあ、今、僕が考えてることを当ててみてください」
「はあ?」

 めんどくせえ・・。なんだよ、急に。どうでもいいわ。
 エレベーターが1階に到着したので、何故か灰原と言い合いをしながら歩く羽目になった。

「赤堀さんは、茶谷さんには勿体ないですよ、って考えてました」
「は?!」
「赤堀さんが茶谷さんを必死に追いかけているみたいだったので、忠告してみようかなと。若くてポテンシャルの高い、赤堀さんみたいな子に手を出さないで下さいねって」
「出さねえよ。余計なお世話だろ」

 そういうお前は緑川に手を出そうとするなよ、と言いたくなったがやめた。
 こういうことは、口に出した方が行動に出される気がしたからだ。
 それにしても、随分俺に対する評価は低いらしいな、灰原。

「お前こそ、裏で何やってんだかわかったもんじゃねえよな」
「はは、会社の中で何かするわけがないじゃないですか」

 ってことは、外ではしてんだな。そんな気がしたけど。

「ご丁寧に忠告をどうも。それを言うなら、赤堀にストーカーまがいのことは止めて欲しいって人事のお前から伝えろよ。セクハラされてんのは、残念ながらこっちなんだわ」

 そう言い捨てて灰原から距離を取った。
 灰原の最後の顔は、本当に柄の悪い男の顔をしていた。
 どういうつもりか分かんねえけど、どうやら敵視されているのは間違いない。

 赤堀のことも、目とか付けてんじゃねえだろうな・・。
 赤堀、お前、こういう男には気を付けろよ・・。
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