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第2章
厳しくて悪いな
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2019年8月29日――
オフィスで歩いていると、赤堀に呼び止められた。先日、碧井経由で提出してきた売上分析のフィードバックがされていない、というクレームだった。
俺の中では、赤堀の指導をしている碧井に評価を戻しているから終わった案件だったのに、どうやら赤堀にはそれが伝わっていなかったらしい。まあ、酷評した自覚があったから、碧井は赤堀に伝えるのをやめたんだろう。
仕方がないから改めて赤堀に評価を伝える。俺が酷評したことや、碧井があえて赤堀に伝えなかった事実が分かった途端、赤堀は急にしょげ始めた。
「各メーカーや、営業1部のやっていることと比較くらいしろ。そういうレポートが読みたい」
「すいませんでした・・。そこまで、頭が回りませんでした」
「まあ、営業1部の売上分析は碧井から貰ってるから、それである程度把握できた。あれは、良くできていたと思う・・営業2部の分はまだまだだな」
「はい」
我ながら、毎回求めるレベルが厳し過ぎるんだろうなと思う。
「営業2部はさ、結構難しいだろ。業界全体の流れを見るのも大事だし、世間のことも抑えなきゃいけないし、店舗ごとの特徴もある・・各メーカーの施策とか、キャンペーンのことなんかもある程度知っておかなきゃいけない。だから、単純に売上高だけ見たって分からないことが多いんだよ」
「私・・営業2部出身なのに、抜けてましたね」
「まあ、初めての仕事なんだから、仕方ないとは思ってるけどな」
率直な評価すぎて、後輩に対する態度としてなっていない気がしたが、赤堀が評価を欲しがっている以上、そのまま伝えるしかない。
「私・・10月9日の予約が欲しくて頑張ったのに・・」
おい、この流れで落ち込むとこそこか!?
「お前・・しつこいな・・」
赤堀のモチベーションが相変わらずおかしい。
「茶谷さんには、私くらい・・諦めの悪い女がお似合いじゃないですか・・」
「お似合いの意味を理解してから言えよ」
「相応しいという意味ですね」
相応しいって、どの辺がだ?! と具体的に聞いてみようと思った時だった。
「赤堀ちゃん!」
急に、赤堀を呼ぶ声がした。声のする方を見ると、青木が急いでこっちに向かって来ている。
「青木くん」
赤堀が青木を見た途端、青木は嫌味なくらい爽やかな笑顔を繰り出していた。俺が20代の女なら、危うくちょっと惚れたかもしれない。そして、気付いてしまった。なるほどな、これ、青木が赤堀に惚れてんだな・・。
「すいません、茶谷さん。今、お話し中ですか?」
「いや、終わった」
あとは若い者同士、というやつだろう。俺は赤堀に対するフィードバックも終わったことだし、これ以上話すこともない。それに、さっきの赤堀の言葉を借りるなら、青木は赤堀に相応しい相手だ。
「赤堀ちゃん、今いい?」
「ああ、うん」
明らかに戸惑っていた赤堀をさっさと残し、俺は席に戻ることにした。
若者特有なのか、青木の真っ直ぐさは俺には眩しすぎる。背中で感じる視線は、赤堀のものなんだろう。なんだか妙に痛い視線を浴びている気がした。
オフィスで歩いていると、赤堀に呼び止められた。先日、碧井経由で提出してきた売上分析のフィードバックがされていない、というクレームだった。
俺の中では、赤堀の指導をしている碧井に評価を戻しているから終わった案件だったのに、どうやら赤堀にはそれが伝わっていなかったらしい。まあ、酷評した自覚があったから、碧井は赤堀に伝えるのをやめたんだろう。
仕方がないから改めて赤堀に評価を伝える。俺が酷評したことや、碧井があえて赤堀に伝えなかった事実が分かった途端、赤堀は急にしょげ始めた。
「各メーカーや、営業1部のやっていることと比較くらいしろ。そういうレポートが読みたい」
「すいませんでした・・。そこまで、頭が回りませんでした」
「まあ、営業1部の売上分析は碧井から貰ってるから、それである程度把握できた。あれは、良くできていたと思う・・営業2部の分はまだまだだな」
「はい」
我ながら、毎回求めるレベルが厳し過ぎるんだろうなと思う。
「営業2部はさ、結構難しいだろ。業界全体の流れを見るのも大事だし、世間のことも抑えなきゃいけないし、店舗ごとの特徴もある・・各メーカーの施策とか、キャンペーンのことなんかもある程度知っておかなきゃいけない。だから、単純に売上高だけ見たって分からないことが多いんだよ」
「私・・営業2部出身なのに、抜けてましたね」
「まあ、初めての仕事なんだから、仕方ないとは思ってるけどな」
率直な評価すぎて、後輩に対する態度としてなっていない気がしたが、赤堀が評価を欲しがっている以上、そのまま伝えるしかない。
「私・・10月9日の予約が欲しくて頑張ったのに・・」
おい、この流れで落ち込むとこそこか!?
「お前・・しつこいな・・」
赤堀のモチベーションが相変わらずおかしい。
「茶谷さんには、私くらい・・諦めの悪い女がお似合いじゃないですか・・」
「お似合いの意味を理解してから言えよ」
「相応しいという意味ですね」
相応しいって、どの辺がだ?! と具体的に聞いてみようと思った時だった。
「赤堀ちゃん!」
急に、赤堀を呼ぶ声がした。声のする方を見ると、青木が急いでこっちに向かって来ている。
「青木くん」
赤堀が青木を見た途端、青木は嫌味なくらい爽やかな笑顔を繰り出していた。俺が20代の女なら、危うくちょっと惚れたかもしれない。そして、気付いてしまった。なるほどな、これ、青木が赤堀に惚れてんだな・・。
「すいません、茶谷さん。今、お話し中ですか?」
「いや、終わった」
あとは若い者同士、というやつだろう。俺は赤堀に対するフィードバックも終わったことだし、これ以上話すこともない。それに、さっきの赤堀の言葉を借りるなら、青木は赤堀に相応しい相手だ。
「赤堀ちゃん、今いい?」
「ああ、うん」
明らかに戸惑っていた赤堀をさっさと残し、俺は席に戻ることにした。
若者特有なのか、青木の真っ直ぐさは俺には眩しすぎる。背中で感じる視線は、赤堀のものなんだろう。なんだか妙に痛い視線を浴びている気がした。
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