会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第1章

新宿を歩く

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 店を出て、俺と赤堀は新宿駅に向かって歩いていた。相変わらず新宿という街は雑多で、賑やかだ。夜遅くなっても、若者もサラリーマンも、年配者もいる。
 歩きながら、今日は赤堀に仕事を辞めたいと言われるつもりだったことを話した。

「仕事は、辞めませんよ。私が辞めたら、恩人が罪悪感を持ってしまうかもしれませんから」
「逃げたっていい。そうやって思いつめんなよ」
「だからもー・・茶谷さんは・・」
「かっこいいだろ」
「好きです」
「やめろ、本当にやめろ」
「照れても良いですよ」

 万年フリーのくせに、赤堀はやたら積極的に押してくる。さっき断ったつもりなんだけど、全く響いていない様子だ。ここまで打たれ強いと感動すらする。

「赤堀の歳なら、もっと若くて将来性のあるのが居るだろうよ、青木みたいな」
「茶谷さんが良いです」
「良くない」

 誰だよ、赤堀が青木と出来てるって言ったやつ・・。これ、絶対青木と出来てねーよ。赤堀、そんな起用じゃねーよ。

「茶谷さんが好きです」
「気のせいだ」
「茶谷さん、今の彼女さんのことそんなに好きじゃないと思いますよ」
「・・なんで・・」
「話をしている時、幸せそうじゃないです」

 そりゃ、幸せなカップルとは程遠い関係だからな。細かい事情も、こっちの話も、変に気を持たせそうだから言わねえけど。

「もう帰っちゃうのかあ・・寂しいなあ・・帰りたくないなあ。ねえ? 茶谷さん?」
「やめてくれ」
「お茶しません? お茶」
「・・ああ、そういうこと」
「もしかして、ちょっといやらしいこと考えました?」
「いえ。考えられなくて困ってましたー」
「くっそー少しは考えてくださいよ」

 俺は、万年フリーの誘いに乗るほど飢えてはいない。ちゃんと正気でいられている。本当は気を持たせないために、さっさと解散したほうがいいんだろうなと思っていた。
 それが、お茶と言われて、食後のコーヒー飲みたい、という意識が働いたのと、今日の赤堀が普段の赤堀と違うから・・つい誘いに乗ってしまった。

 何故か、赤堀のお薦めだという喫茶店に付き合うことになっている。まあ、明日からは休みだし、この位はいいか、と妥協した。
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