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第1章
後輩の格好がかわいい
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ようやく、盆前の仕事が終わった。先に店に着いて、席に座って赤堀を待つ。辞めたいと言われた時に何て言うかのシミュレーションを、今朝からずっとしていた。
「お疲れ様です。本日は・・お時間いただきましてありがとうございます」
「おーお疲れ」
到着した赤堀を一瞥して、「ん?」と自分の目を疑った。こいつ、こんな女っぽいシャツワンピースとか着るタイプだったか? それに、髪型がアップになっていて、これは俗にいう『お団子ヘア』というやつではないだろうか。首のあたりが妙に色っぽいぞ?
「今日、暑かったなー・・」
「いや、まだ外は暑いですよ、多分、熱帯夜です」
思わず、天気の話に逃げてしまった。営業あるある。あまりに驚いたので、動揺していたらしい。
「赤堀、なんか今日違くない?」
「なんかっていうのは・・」
「雰囲気」
「あ、ああ・・」
微妙に照れて斜め下を向いている赤堀が、かわいい。えーお前、普段隠しすぎだろ、素材。なんだろう、これは青木も惚れるかもしれないなと思った。
「もっと頻繁にそういう格好してたら、彼氏できそうなのに」
赤堀から青木の話を出しやすいように、彼氏いない設定を活かしてみた。なんか暴露してくれるんだろうか。
「そ、そうですか・・」
「まあ、必要ないんだろうけど」
「・・・ですかね」
まあ、社内恋愛は気まずいんだろうな。誤魔化して気まずそうだから無理に聞こうとするのは野暮かもしれない。
「で、相談と報告ってなんだよ?」
「はい・・。実は私は、以前茶谷さんに助けられた鶴なんです」
は? 今なんつった?
とりあえず、赤堀の話を要約すると・・2年前に六本木駅に着く前の地下鉄で助けた就活生が、赤堀だった、らしい。どうやら赤堀は第一志望の面接に行く前に車内トラブルに巻き込まれてしまったようで、偶然客先に行く途中に乗り合わせていた俺が助けたというわけだ。
そーいや、あの時、むしゃくしゃして車内トラブル起こしてた乗客2人を捕まえたんだよな・・。巻き込まれてた就活生がいて、すげー不憫だったのは覚えてる。あれが、赤堀か。で、勝手に恩を感じて松味食品に入社までしたのか。
途中から行動が猪突猛進すぎねえか? で、自分のこと鶴って言って恩返しをしようとしてくれてんだけどさ・・まあ、助けたのが亀じゃなくてよかったけど・・竜宮城に連れ去られるのかホラーだし・・。
「本当にありがとうございました。私・・茶谷さんのお陰で、この世も捨てたもんじゃないなっていうか、前向きになれたというか。松味食品に入社できて良かったなっていうか」
「うん」
別に、わざわざ入社してこなくても良くねえか? こいつの人生設計ってどうなってんだ?
そんなことを考えて、赤堀の人生が心配になって来た。確かに地下鉄で赤堀を助けたことに間違いはないが、そんなに大したことはしていない。
「茶谷さん、彼女さんとはどうなったんですか?」
「ああ、それね」
「真剣になったんですか?」
「正直、分かんないんだわ」
菜帆とは、あれから会っていないし連絡も来ない。これで自然消滅かもな、と何度も思った。今の状況をどうしたらいいのか分からない。これって、まだ付き合ってるってことなんだろうか。
「別れる程でもないけど、付き合ってて良いのか分からない距離感だな」
「別れてください、すぐに」
「簡単に言うなよ。フリーのくせに」
「私、フリーですよ」
「知ってるよ」
「私じゃダメですか」
「・・は?」
この流れ、どう考えてもおかしいだろ。お前、青木と付き合ってんじゃねえのか?
「私、茶谷さんのこと・・好きなんだと思います」
ちょっと待て。
「いや、お前さ・・」
「鶴の恩返しには、若い男性が主人公で、鶴が奥さんになるバージョンもあります」
「もう鶴から離れろ」
「あの日・・助けてくれたのが茶谷さんで、本当に良かったです。仕事している時は、茶谷さんがいてくれて本当に良かったって思うし、今は・・隣にいてくれて、嬉しいです」
まじかよ、赤堀。お前、青木じゃねえの? 俺なの? 一体何が起きてんだ?
「社内はさ・・何かとダメだろ」
「どうしてですか?」
「仕事がしづらい」
「仕事に支障が出なかったら、どうなんですか?」
「出るよ。出るに決まってるだろ」
「でも、諦めません。私・・」
「いや、ちょっと待て」
諦めませんって何だよ。そういう選択肢知らねえよ。どういう根性してんだよ。
「メッセージとかいっぱい送りたいんで個人の連絡先教えてください」
「話聞いてるか?」
「じゃあ会社携帯宛に個人的なメッセージ送りますよ?」
「勘弁してください」
日本昔話の編集をしたことがある出版社に聞きたい。こんな鶴がいていいのか。恩を返すと言いながら、ほぼ脅迫のようなことを口走っている。会社携帯宛に粘着質なメッセージが送られてくるのだけは勘弁してほしいので、個人の携帯電話番号を教える羽目になった。
店の会計を終わらせて、赤堀が食事代を払いたいというのを絶対に嫌だと拒絶する。告白されたのは置いておいて、赤堀が会社辞めたいと言わなかったことが、案外俺は嬉しかった。
「お疲れ様です。本日は・・お時間いただきましてありがとうございます」
「おーお疲れ」
到着した赤堀を一瞥して、「ん?」と自分の目を疑った。こいつ、こんな女っぽいシャツワンピースとか着るタイプだったか? それに、髪型がアップになっていて、これは俗にいう『お団子ヘア』というやつではないだろうか。首のあたりが妙に色っぽいぞ?
「今日、暑かったなー・・」
「いや、まだ外は暑いですよ、多分、熱帯夜です」
思わず、天気の話に逃げてしまった。営業あるある。あまりに驚いたので、動揺していたらしい。
「赤堀、なんか今日違くない?」
「なんかっていうのは・・」
「雰囲気」
「あ、ああ・・」
微妙に照れて斜め下を向いている赤堀が、かわいい。えーお前、普段隠しすぎだろ、素材。なんだろう、これは青木も惚れるかもしれないなと思った。
「もっと頻繁にそういう格好してたら、彼氏できそうなのに」
赤堀から青木の話を出しやすいように、彼氏いない設定を活かしてみた。なんか暴露してくれるんだろうか。
「そ、そうですか・・」
「まあ、必要ないんだろうけど」
「・・・ですかね」
まあ、社内恋愛は気まずいんだろうな。誤魔化して気まずそうだから無理に聞こうとするのは野暮かもしれない。
「で、相談と報告ってなんだよ?」
「はい・・。実は私は、以前茶谷さんに助けられた鶴なんです」
は? 今なんつった?
とりあえず、赤堀の話を要約すると・・2年前に六本木駅に着く前の地下鉄で助けた就活生が、赤堀だった、らしい。どうやら赤堀は第一志望の面接に行く前に車内トラブルに巻き込まれてしまったようで、偶然客先に行く途中に乗り合わせていた俺が助けたというわけだ。
そーいや、あの時、むしゃくしゃして車内トラブル起こしてた乗客2人を捕まえたんだよな・・。巻き込まれてた就活生がいて、すげー不憫だったのは覚えてる。あれが、赤堀か。で、勝手に恩を感じて松味食品に入社までしたのか。
途中から行動が猪突猛進すぎねえか? で、自分のこと鶴って言って恩返しをしようとしてくれてんだけどさ・・まあ、助けたのが亀じゃなくてよかったけど・・竜宮城に連れ去られるのかホラーだし・・。
「本当にありがとうございました。私・・茶谷さんのお陰で、この世も捨てたもんじゃないなっていうか、前向きになれたというか。松味食品に入社できて良かったなっていうか」
「うん」
別に、わざわざ入社してこなくても良くねえか? こいつの人生設計ってどうなってんだ?
そんなことを考えて、赤堀の人生が心配になって来た。確かに地下鉄で赤堀を助けたことに間違いはないが、そんなに大したことはしていない。
「茶谷さん、彼女さんとはどうなったんですか?」
「ああ、それね」
「真剣になったんですか?」
「正直、分かんないんだわ」
菜帆とは、あれから会っていないし連絡も来ない。これで自然消滅かもな、と何度も思った。今の状況をどうしたらいいのか分からない。これって、まだ付き合ってるってことなんだろうか。
「別れる程でもないけど、付き合ってて良いのか分からない距離感だな」
「別れてください、すぐに」
「簡単に言うなよ。フリーのくせに」
「私、フリーですよ」
「知ってるよ」
「私じゃダメですか」
「・・は?」
この流れ、どう考えてもおかしいだろ。お前、青木と付き合ってんじゃねえのか?
「私、茶谷さんのこと・・好きなんだと思います」
ちょっと待て。
「いや、お前さ・・」
「鶴の恩返しには、若い男性が主人公で、鶴が奥さんになるバージョンもあります」
「もう鶴から離れろ」
「あの日・・助けてくれたのが茶谷さんで、本当に良かったです。仕事している時は、茶谷さんがいてくれて本当に良かったって思うし、今は・・隣にいてくれて、嬉しいです」
まじかよ、赤堀。お前、青木じゃねえの? 俺なの? 一体何が起きてんだ?
「社内はさ・・何かとダメだろ」
「どうしてですか?」
「仕事がしづらい」
「仕事に支障が出なかったら、どうなんですか?」
「出るよ。出るに決まってるだろ」
「でも、諦めません。私・・」
「いや、ちょっと待て」
諦めませんって何だよ。そういう選択肢知らねえよ。どういう根性してんだよ。
「メッセージとかいっぱい送りたいんで個人の連絡先教えてください」
「話聞いてるか?」
「じゃあ会社携帯宛に個人的なメッセージ送りますよ?」
「勘弁してください」
日本昔話の編集をしたことがある出版社に聞きたい。こんな鶴がいていいのか。恩を返すと言いながら、ほぼ脅迫のようなことを口走っている。会社携帯宛に粘着質なメッセージが送られてくるのだけは勘弁してほしいので、個人の携帯電話番号を教える羽目になった。
店の会計を終わらせて、赤堀が食事代を払いたいというのを絶対に嫌だと拒絶する。告白されたのは置いておいて、赤堀が会社辞めたいと言わなかったことが、案外俺は嬉しかった。
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