会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏

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第1章

彼女の話

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「茶谷さん、ついこないだまで茶谷さんについてた赤堀、青木と噂あるの知ってます?」
営業部で不意に聞かれた。万年フリーの後輩、赤堀結の浮いた話。
「へー。赤堀と青木が?」

 社内のこういった話には興味がない・・が、ちょっとこれは興味深い話だ。あの、彼氏など必要ないと言い切った赤堀と、松味食品きっての爽やかイケメンの青木。青木くらいの男が来れば揺らぐのは分かる。おめでとう、赤堀。良かったな、これで万年フリー脱出か。

 社内恋愛ってあんまり感心しないけど、学生時代ですらフリーだった赤堀がちゃんとした彼氏ができたんなら祝福したい。

 そんな世間話をしていたら、個人の携帯に通知が来た。相手は、菜帆(なほ)。

『吾郎ちゃん、今日そっち行ってもいい?』

 平日、突然家に来るのは初めてかもしれない。いつも土曜ばっかりだ。

『いいよ。どうした?』
『なんとなく、会いたいなと思って』

 ふーん・・? まあ、別に彼女だから普通っちゃ普通なのか。まあ、菜帆の狙いは大体分かってるよ・・。

***

「ほーんと、なんか今日はムカついててさあ」
「そんな事だろうと思ったけど」

 家に帰宅すると、すぐに菜帆が入口の呼び鈴を鳴らした。菜帆は外で待ち合わせをするというタイプではなく、直接家に来ることが多い。休日にしか会ったことが無かったから、黒のパンツスーツで現れた時は別人みたいで驚いた。

 菜帆が到着したのは19時半。そこそこ腹減りで、どこで何食べるかなんて考えていたけど、ドアを開いて現れた菜帆に、そのままなし崩し的に襲われて今に至る。

「仕事、ストレス多いんだっけ?」
「多いよー。だからキックボクシング通うようになったんだもん。スカッとするよねー。まあ、あたしがやってるのは、吾郎ちゃんと違ってフィットネス部門だけどね」
「引き締まって来たよなあ、菜帆。やっぱキック、効果あるわ」
「体重全然減ってないんだけどね」

 程よく引き締まった菜帆の腰回りを撫でながら、満たされたそっちの欲は完全に食欲に支配されている。
 すっかり、夕飯の時間を逃した。できればこういうことをする前に、食事は先に済ませたい。深夜になるって時間に、菜帆は到着した時よりも元気になっている。

「あのさあ、さすがに腹減って眠れねえよ」
「えーじゃあ、ピザでも頼む?」

 重い・・。寝る前にピザか・・。正直、うどんとか蕎麦とか、そういうやつが食いたい。出汁が取りたい。

「うどん食いたい・・」
「えー? じゃ、コンビニ行こ、コンビニ」

 そんな感じで、菜帆は俺のTシャツにスウェットを着て一緒にコンビニまで歩いた。菜帆とは、こうやって一緒に歩くことも珍しい。大抵、菜帆が家に来るか、家に呼ばれるかの2択だ。
 つくづく俺・・身体目当てで付き合われてる?・・と、時々疑う。

 隣に歩く菜帆は、明らかに機嫌がいい。さっき家に来た時は、この世の終わりのような顔をしていた。

「菜帆って、なんの仕事してんの?」
「営業だよ」
「マジで? 一緒なんだ?」
「え? 吾郎ちゃんて営業だったっけ? まあ、営業って吐いて捨てる程いるもんねー」

 なんだろう、若干イラっとしたぞ。確かに営業職って人数多いし、吐いて捨てる程いるけどさ・・。

「俺は、営業向いてると思う、自分で」
「へえ? 意外。吾郎ちゃんて、人嫌いな感じなのに」
「そうか?」

「あたしのことも、そんなに好きじゃないじゃん?」

 菜帆はそう言って、ご機嫌に笑っていた。
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